「マンモスを狩るぞ、野郎共!」
「「「応!!」」」
「えぇ……」
「どうした、ヤハギ」
「俺……筋肉がつかないんですよ」
「だからどうした?戦わなければ、今年の冬は乗り越えられん。行くぞ」
はぁ、憂鬱だ。
俺は今、棒にとがった石を蔓で結び付けた槍をもって、マンモスの討伐に向かっている。
これが憂鬱といわざるして、なんといおうか。
俺はどんなに頑張っても、皆みたいに屈強な体にならないし、力仕事なんてできない。
じいさんらがやってる、打製石器を奇麗に仕上げたり毛皮を奇麗に縫い上げる方が似合ってる。
なのに、男手が一人でも必要だからと言って、若衆までかき集める事ないじゃないか。
俺はまだ若いし、蛇ぐらいしか倒したことがない。
こんな若造を使ったって、戦力にならないよ。
お天道様が、ほぼ真上に来る時と天道山の少し上を通過する時代の周期。
これらの繰り返しを1周期とすると、俺は今回で7周期。
足手まといなんて、村にいさせて武器づくりとか魚を取りに行かせた方が良いって。
「足をもっとまわせ!このままだと、また山を越えられちまう!」
俺はやるせなさにため息を覚え、最後尾にて少し足を速めた。
周期を12過ぎている大人は、目がギラギラとしていて勇ましい。
そんな人になれればよかったんだけど、俺の体はそうじゃなかった。
女の子と一緒に、女の子がやっていることをやるほうが好きだ。
武力沙汰には向いてない。
最初に蛇と対峙した時に、そう思ったよ。
恐怖に腰が抜けそうになった。
でも後ろには、俺よりも幼い子供たち。
だから俺は脚や腕に絡みつけられても、必死に抵抗した。
そのおかげで、今の俺がいるんだ。
あのあと幼い子供たちから、英雄視された。
だけど現実では、マンモスとか大型の獣を相手にしないと生きていけない。
藪蛇程度じゃ、皆の腹の足しにはならないんだ。
「ブルォォオオオオオ」
「!?」
いきなりの大音響に、俺は脚をとめてしまう。
皆もすっかり止まってしまったけれど、大人組はマンモスがどこにいるのか……。
躍起になって、眼を遠方に据えている。
「あそこ、丘のふもとに単独のマンモス!」
「しかもあいつ、片目がつぶれているぞ!」
「きずものだが、優位に立てる!行くぞ!」
「え」
大人たちが向かって行って、しり込みしている俺たち子供は立ち止まっている。
「かこめかこめ!縄でとらえて制御しろ!」
「皆、行こう!」
子供たちが、恐るべきマンモスに向かっていく。
マンモスは巨大で長い鼻とその牙を振り回して、
あの屈強な大人たちを払いのける。
そしてその巨躯と強靭な肉体・大きな足で、大人や子供を吹っ飛ばしたり
体をぺしゃんこに吹き付けられたりしていた。
「む、無理だろ……あんなの……。魚とか鹿とかイノシシとか狩ればいいじゃんかよ」
「ヤハギ!俺たちで村の皆の食い扶持を稼ぐぞ!いいか、あいつの弱点は前脚と体の付け根だ。
そこにその槍でぶっ刺して、奥の方にある心臓を傷つければいい」
鼻で振り払われて、地面を転がってきた隊長のマハダ。
元気……じゃないけれど、血と草の青・泥がついた顔を拭って俺の肩を抱く。
そして俺に、討伐方法の要を教えてくる。
「お前が臆病なのは知っていたし、狩人にも向いていないのは知っている。
だが俺たちが持っていないその正確さでもって、マンモスの心臓を貫いてくれないか」
お前だけが、村の皆を救うことができると言われた。
俺が助けた子供や母さんたちを、俺のこの槍で助けられる……。
男として恥と言われた俺。
狩猟能力がないのは、男ではないって大人から蔑まれた。
なのにそんな俺が、隊長がいう要の存在になってしまった。
「……」
「できる。全員がお前を助ける。お前は、あいつの腹と前脚の付け根を狙えばいい。
任せろ、お前の背中は俺たちが守る!」
そういって隊長は、マンモス狩猟に戻っていく。
俺は逃げられなくなった。
もとより逃げられない。
逃げたかった。
こんな現実から。
男だからと言って、男がやるべきことを押し付けてきた。
もっと自由が欲しかった。
仕事の選択権が欲しかった。
何もできない奴が文句を垂れ流して、なんの貢献もできていないのに……。
そんな俺を隊長や皆は、その期待の目を向けてくる。
「オラァ、マンモス!こっちむけヤァ!」
「脚の腱を切り落としてやったぜ!」
「尻尾と牙、鼻には気を付けろ!」
「っとぉ、回避ィ!」
「早くしろオ!手が空いてるのは、お前だけだ!」
焦りと怒りと期待が混ざり合っている。
なんかもう、俺は……わからない。
だから、さっさと終わらせる!
槍を両手で固く握って、マンモスに走る!
「こっちじゃボケ!」
大人や子供たちが、気を引いてくれている。
御膳立てされて、期待されて、なんかもうよくわからない感情が胸に渦巻いている。
嬉しいのか、期待されたからというだけで酔い、舞い上がっているのか。
俺は……ただ、心の高揚感を抱きながら、奥歯を噛みしめてマンモスの前脚と腹の付け根に槍を刺す。
村で触ったことがあるマンモスの毛は、固かった。
しかしそれと同時にあったかくて、服にするにはちょうど良かった。
そうおもっていたのに、いざマンモスが着ている状態で触ってみると、
柔らかかったんだ。
その代わり皮が厚い!
そういう場合は、ねじれば穴があくってじいさんらが言っていた!
「うおおおお!!!」
「ブモオ……」
俺はマンモスから視線が注がれていることに気づかないまま、
前に踏み込んで槍をぐりぐりと回しながらかき回す。
すると何か硬いものに当たったの同時に、マンモスがビクッと痙攣して止まった。
「え」
「いよっしゃ!!」
「討伐完了!」
「これで、冬を越せるぞ!」
すぐに上がる勝鬨。
俺は勝利に酔いしれる皆の感情の昂ぶりについていけず、
槍を持ったままマンモスのそばにいた。
なんというか、あっけなかった。
皆がおぜん立てしたから、俺は無傷でマンモスを倒してしまった。
なんか、空虚だ。むなしい。
バクバクと動いていたマンモスの心臓が停止して、こんなにもむなしくなるなんて夢にも思わなかった。
俺は抜けない槍を置いて、その場から離れようとする。
そして後ろを向くと、大人や子供がいて喜色に塗れた笑みを俺に向けた。
「よくやったな、ヤハギ」
「あ……えと……うん」
俺は恐怖の対象であり、男の中の男である隊長マハギにそういわれてうれしかった。
だからなんか……助かったというか、男として役に立てたとか、いろんな感情が混ざって……。
皆の前にぽっと出になってしまったけれど、狩猟にでている大人たちはこの感動をわかりあっているんだなって。
そう、隊長の後ろで舞い上がっている子供たちや大人たちを見て、微笑んでしまった。
「お、おい……」
「ん?」
すると大人の一人が、俺の後ろの方に指さす。
彼の顔が驚愕に満ちているから、なんだろうと思ったら4つ足で立ってたマンモスが片足から崩れ落ちていた。
だからなのか、その場じゃなくて横に倒れてきたのは。
「まずいッ、ヤハギ……!」
「あ……」
俺は頭と足の裏に、強烈な痛みを覚えて―――
……
「おかえり、皆!」
「ああ……」
「どうしたんだい? そんなに暗い顔をして……」
「ちょっとな」
オレ達は圧倒的な巨躯を持つマンモスを討伐し、帰路についた。
討伐に使った蔓は、マンモスと……あいつに使って、持って帰ってきた。
帰ってきた村には、オレたち討伐隊の帰りを待っていた村の皆がいた。
やるべきことが終わって、皆が家で寝る頃合い。
だが今日はツクヨミ様もでていて、狩人の帰路は安全な物になっていた。
「これが、今周期の冬で使うマンモスかの?」
「ああ、そうだ。こいつの毛皮や肉、骨を余すことなくうまく使えば、温かくなるまで持ちこたえるだろう」
「ほほほ。さすがは狩人マハダ」
「ねぇねぇ、この葉っぱにくるまれてるの何?」
「おっと女子供はあっちいったいった。これは大事なものなんだ」
「ちぇー」
副隊長のホギマは、いつものにやけ顔でなくちゃんときりっとした面構え。
それを見た子供たちは、ちゃんと指示を聞いて興味を失った。
おばあさんたちのお伝え言は、間違いないと私は自信を持って言える。
「あの……私の子が、見つからないのですが……」
去年、傷口が化膿し、蛆にかまれそれがもとで死んだ亭主の妻。
非常に残念に思う。
「ちょっとまっててくれ。ホギマと村長、大おばあさん以外は、マンモスの保存に向かってくれ!」
「「「おおお!!」」」
オレは人払いを済ませた後、人選で呼んだ者らと共に村の裏にある滝壺付近に来る。
そこでオレは、ホギマと共に葉っぱに包んだものを持ってそこにて開封する。
「っ、そんな……そんなぁ……」
開けた瞬間の死臭が、周辺を漂う。
そう、中に入っているのは、マンモスの重みで文字通り潰れたヤハギだ。
俺たちの手で、内臓をある程度抜いて皮をつなぎ合わせたが、骨が砕けている為どうしようもなかった。
ヤハギの母は、その場に崩れ落ち悲しみに胸を痛ませている。
そう。そうだ、俺たちは常に、死に直面した生活を続けている。
食料の木の実は、中に毒虫が居たり腐っていることがある。たまに毒があるし、何より固いことがある。
草はほとんど論外。薬草の類も、多くの犠牲があってこその知恵だ。
蔓は水を多量にだすものがあるから、そいつを使っている。
問題の主食である魚や動物は、海というスサノオ様の領域や天道山という修羅場がありそこに住む動物はどうしても手強い。
だから皆には、子供を沢山作ってもらっている。
最近は女子が多く生まれてきてしまっているせいか、食料調達が難しくなってきていた。
そんな時、あのヤハギだ。
彼は男でありながら、女子と気が合い男女の仲介ができる気の良い奴だった。
彼が認めるならば、大所帯を持って多くの子をなしてもらいたかった……。
「ヤハギは我々にとって、既に神となってしまった。
だからもう、現世には戻せない。しかし、現世のものを死者に送ることで、現世に魂が戻ってくる。
その役割を是非、ヤナギ……君にやってもらいたい」
「……もちろんやるわ。もう、一人は嫌だから……」
彼女は認めた。
そこで現世のものを送る必要がある。
だがそれはすでに決まっている。
それはヤハギが持っていた槍の先に、突き刺さっていたのに傷がない血の色をした珠だ。
「あったかい……」
「これがヤハギの心臓の代わりになる。あとは、肉体が大地に帰り、魂が戻ってくるだけだ」
マンモスの数本の毛で編んだ糸で、この珠を絡めてヤハギの首にかける。
そしてホギマ・オレ・大おばあさん・村長とヤナギが、滝つぼから流れ出る川にヤハギの亡骸を流した。
数年後、ヤナギは誰とも番になっていないのに子をなし、ヤハギににた子が誕生。
性格もほぼ同じで、最後は多くの子をなし王という村長を超える存在になった。
だがオレも年だ。
この希望ある世界を、永遠に見ることはできない。
「……ふ、皆、また会おうな」
「是非、また会おうぞ」
「ああ。次こそ、共に戦いたいものだ」
ホギマの子、ホマド・ヤナギの子であり王であるヤマギ。
彼らに遺言を託して、オレも一度大地に帰ることになった。
さらば……。
0時くらいから作った2時間クオリティ。