ココから始まる英雄譚   作:メーツェル

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束の間の日常2

 北区から城までたどり着くのには馬に乗って移動しても1時間を有した。もちろん人が多いため走らせられないのもあるだろうが、城下町が入り組んでいたという原因もある。

 外敵からの侵入を遅らせるため、ひどく入り組んだ街並みをしているのは仕方ないことだが、アルフレムがいなければさらに時間がかかっただろう。

 このパリスタンは斜めに横断するように運河が通っており、その運河の浮島に城は存在する。もちろん、氾濫等の被害を想定して、城のある浮島は城下町より高地となっており、もし運河が氾濫しても城に被害は及ばぬようになっている。また、それ以外にも、この町には地下排水路というものがつくられているらしく、氾濫し、街に流れていった場合は排水溝から水は地下に流れ、街の外に排水される仕組みにもなっているらしい。

 

 城から斜めに北と南に卸されている桟橋の前にはフリューデットアーマーを着込み、手にグレイヴを持った騎士達が二人佇んでいた。

 はたから見てもその装備は様になっており、良く洗練されている兵だということはわかることだ。その騎士を見ながらアルフレムが説明するように話した。

 

「パリスタンの軍人っていうと、戦闘に特化した探究者と変わらないくらいには強いぞ、こちとら、未知を探索するのが職業だが、騎士っていえば魔物討伐や盗賊の討伐とかが主な仕事だからな」

「へぇ」興味深げにアルフレムの馬に同乗しているユメルが相槌を打つ。

 

 四人は騎士の前で立ち止まる。そして、スメラギとガイアスが前へ出ると、ガイアスが地面に降り立ち、騎士に礼をする。

 

「貿易都市ランスから参った、領主スメラギ様です。私はその護衛の騎士ガイアス。突然で申し訳ないが、領主様にお目通りを願いたい」

 

 困惑した様子を騎士達は見せながら一人を城に走らせ、もう一人がガイアスの前に歩みだし、対応をする。

 

「お足労をおかけします。すいません、突然の訪問の場合、身分が証明できるものが必要なのですが、何かお持ちでしょうか?」

 

 スメラギが困った様子で首を振ると、髪を掻きながらアルフレムが馬から降り、騎士に近づいた。

 そして、彼に向かい『その日の気分はパンシエット』のエンブレムを見せると、変わりに説明を始めた。

 

「探究者のアルフレム・ジントニスといいます。貿易都市ランスは強大な魔物に襲われ壊滅、その際身分を証明できるものも持ち出せませんでした。

 この二人の身分は自分が証明します。何か証書が必要なのでしたら、パンシエットさんにもらってきますが」

「そうですか、確かに間違いなくパンシエットさんのエンブレムですね。疑っているわけではありませんが、すいません。規則なので少々お待ちください。曹長が対応いたしますので」

 

 丁寧に騎士が説明すると、まぁ、そうだよな、と呟きながらアルフレムは頭を掻く。そんな彼に向かいスメラギは申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「何から何まで申し訳ありません。依頼もしていないのに、こんなに……」

「ん。あぁ、気にすることじゃねえよ。あんなに大変な事があったあんたらを放っておいて、はい依頼が終わりましたのでそれじゃあ、なんてただの屑だろ。それは。

 困った人が居たら手を貸す。それが当たり前だ。それにユメル嬢ちゃんにも俺は助けてもらったからお互い様ってやつだ」

 

 なんでもない、という風に彼は顔の前で手を横に振る。

 そんなことが当たり前のようにできる人間というのは意外に少ない。それがわかっているからこそ、スメラギはこういう人に甘えてばかりはいけないと、そう思う。

 

「落ち着いたら、きっとお礼をします。いつになるかわかりませんが」

「そういうはいいって、ありがとう、それだけでいいんだ。俺が勝手にやってることだしな」そう事もなげにアルフレムが返すと、ユメルがからかう様に

「なんなら、アルフレムがスメラギを嫁にもらえばいいんじゃないか?」

「ハァ!? 一体どこでそんな話になったよ!」

 

 そんな二人のやり取りにスメラギはくすくすと微笑んだ。その様子に少しふざけたかいがあったか、とユメルも微笑むと、その意図がわかっていたのか、アルフレムもユメルと目を合わせ、同じような表情を浮かべた。

 ――この先、領主に会えたとして、その交渉はスメラギが行わなければならいのだから。少しでも気を紛らわせるのは大切だと、そう思ったからだ。

 そうして談笑をしていると、一人の女騎士が門から歩んでくる。その後ろには見間違いでなければ先ほど走って去っていった騎士を伴っていた。

 女騎士は頭部(アーメット)を付けておらず、喉(ゴルケット)から下のみをプレートアーマーで固めていた。

 きれいな赤い髪が特徴的なショートカットの彼女はアルフレムを見ると、よっ、と手を挙げる。

 

「はいはい、間違いなくアルフレム・ジントニスね」

「あー、面倒かけてすまん。また今度酒奢るから勘弁してくれや。」

「あ、じゃあ『宮廷 ゴイジャス』のフルコースで勘弁してやるわ」

「おい! それ50,000ジルするやつだろ!!」

 

 二人のやり取りに既視感があるなぁ、と苦笑いをしながらスメラギが見ていると、女騎士はスメラギの前に立ち、今の会話からは想像のできないきちんとした礼式で挨拶をする。

 一瞬驚いたものの、スメラギも礼を返すと、彼女は頷き、名を名乗った。

 

「近衛兵曹長 アナスタシア・ハーメンです。御足労感謝いたします。ですが、正式な訪問でありませんので、武装を解除した上でついて来ていただくことを同意いただけますでしょうか?」

 

 ガイアスはその話に頷くと、剣を腰から外し、彼女に預ける。アナスタシアは、確かに、と頷くと後ろの騎士のその武器を手渡した。

 

「では、こちらへ。お取次ぎいたします」

 

 二人が城に入っていくのを見ながら、ユメルは手を振り見送った。そのユメルの行動に気が付いたスメラギも小さく手を振ると同時に城門の中に入ってしまい、段差で見えなくなる。

 それを見届けたアルフレムが、よし、と一息つくと、また馬に跨り踵を返す。

 そうして、治療院に向かうアルフレムが操る馬に乗りながら、ユメルは首を傾げながら彼に尋ねる。

 

「なぁ、アルフレム」

「ん。」

「今の女性とは爛れた関係というやつだろうか?」

「ぶっ!! お前、アナスタシアは只の知り合いだっての!」

「ふーん……?」

「信じてねえなお前!?」

 


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