ココから始まる英雄譚   作:メーツェル

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覚悟3

 俯向くユメルに向かいアルフレムは歩き出す。そして足が濡れる事も気にせず湖に入ると頭にポンと手を乗せた。

 呆れたような、安心したような、そんな表情だ。

 

「何で俺に相談してくれなかったんだ?」彼は優しげにユメルに語りかけるとポツリポツリと話し始める。

「私が決めたことだから。巻き込みたくはなかった。それに、出来るとそう思ったんだ」

 

 ふう、とアルフレムは鼻で息を肺から吐き出すと、こつんと頭を軽く拳で叩く。

 ユメルは頭の痛みは感じなかったが、不甲斐なさで胸が締め付けられる。

 そんなアルフレムにアナスタシアが声を掛ける。

 

「領主様が決められた事よ。それに私が護衛で付いたのに守り切れなかった方が悪いって」

「わかってる。お前は自信家過ぎる。なんで予備を数枚持たねえんだよ。どうせワイバーンくらいって思ってたんだろ」

「ははは、その節は申し訳なく」

「はぁ……」今度はアナスタシアを見たアルフレムが疲れたようにため息を吐く。実際、ただのワイバーンならば難なく倒したのだろう事を知っているためだ。

 

 そんな彼らをサインとアイシャ、そしてミーネが見守る。沈黙が辺りに満ちた。

 アルフレムは少し俯向くと頭を掻いて膝を折る。そしてユメルと視線を合わせた。

 

「急ぐ気持ちもわかる。それに、シャンナさんの力を受け継いで何でも出来るような気持ちになってしまうのもわかる。

 期待に応えようとユメルが頑張り過ぎるのも、お前が誰かに迷惑をかけないように気を遣い過ぎるのもわかってる。

 だけどな、俺はお前の『師匠』なんだろ。もっと頼ってくれよ」彼は優しげに笑うと頭を撫でた。「よく、探求者である話なんだ。遺跡からすごい武器を見つけてな、なんでも出来る気になって、身の丈以上の事をしようとしてしまうって。

 だいたい、そういう奴は死ぬ。それか、一度成功しても、いつか怪我して何も出来なくなるんだ。それで、酒場でグダを巻いて『俺も昔は高名な探求者だったんだかな……』って語り始める。

 俺はお前にそうなって欲しくないし、すごい武器を手に入れてもそれを使うのはソイツ自身、ソイツが上手く使えなきゃ駄目なんだ」

 

 アルフレムはそこで言葉を置き、ユメルを見る。ユメルは何も言えず、歯を食いしばりアルフレムを泣きそうな顔で見つめていた。

 

「ごめんなさい」そう彼女が返す言葉にアルフレムが首を横に振る。

「俺こそ、すまん。ちゃんと話すべきだった。

 周りはお前なんて関係ないんだ。お前のその力だけ見てる。だから、お前なら出来るだろって言葉で無理難題を押し付けてくる。

 ちゃんと、戦い方も、魔法の使い方も、教えてやるからさ。今度はしっかり俺を頼ってくれ」

 

 言葉も出ず、ユメルは頷きだけを返すとアルフレムは立ち上がり、ユメルを抱き上げ脇に抱えるとアイシャ達を見る。

 

「話は聞いてる、餓鬼どもの面倒見てくれてたんだってな。ありがと。

 これから俺は街に戻るが、お前らはどうすんだ? 

何処かに行くなら、寄ってくが」

 

 その言葉にサインが頭を横に振りながら近づいて返答をした。

 

「ここが私達の住処だ。

 それと、その少女には本当に世話になった。アイシャが生きていたのはその子が庇ってくれていたからだ。

 今度、何かあれば私が力を貸す。何でも言ってくれ」

 

 その言葉に面を食らったようにアルフレムは小脇に抱えたユメルをじっと見ると反対の手で頭を撫でた。

 

「凄えな、本当お前。それはお前の良さで強さだぞ。自覚しなくてもいいけど、自己否定ばっかじゃなくてしっかりと認めろ」

 

 コクンとだけユメルは頷く。そして、アルフレムのある言葉を思い出すと、無理やり、下手くそな作り笑いを浮かべて彼に話しかけた。

 

「弟子って認めてくれるんだな」

「あー、おう。だからお前がやろうとしてる事も付き合うから、しっかりと俺を頼るんだぞ」

「――すまない、師匠」

 

 礼を言うべきなのはユメルにも理解はしていた、が、心がどうしても彼に対して謝りたい気持ちが強かったのだ。

 アナスタシアはそんなアルフレムを指差すとため息混じりに告げる。

 

「これで、貸し一個。それと、アルフレムと私って剣どっちが強いっけ?」

「お前だよ、竜とタイマン張って斬り合う脳筋(バカ)と比べんな!」

「じゃ、剣での稽古なら私が見てやるわ。」

「……どうした急に?」湖から上がったアルフレムは怪訝な顔でアナスタシアを見つめる。

 

 そんな彼の視線にアナスタシアは腰を手に当てながら言葉を返す。

 

「今回しっかり守られなかったって言う負い目もあるし、それに、私もその子に他人に巻き込まれて死んで欲しくないとそう思うのよ」

 

 ユメルは驚きながら、アナスタシアを見ると戸惑いながら口を出す。

 

「有難いが、いいのだろうか?」

「私がいいって言ってんだから素直に頷きなさいよ」

 

 そんな会話をクスクスと笑いながらミーネは見ていた。そして、彼女もはいはーい、と手を挙げると言葉を発する。

 

「じゃ、魔法の師匠は私がやりまーす」

「なんだか、凄い事になってきたな……」アルフレムは眉を顰めながら頭を掻くとユメルを見た。

 

 ユメルは混乱したように三人を見ると突拍子も無い事を口にし始める。

 

「師匠と師匠と師匠……? む、誰を師匠と呼べばいいんだ……?」

 

 そんなユメルの呟きにアルフレムもミーネもアナスタシアも笑うとアルフレムが手を挙げた後にワイバーンの死体を指差す。

 

「はい、じゃあまず俺の番だな。ワイバーンの解体の仕方を教えてやる。」

「あ、わかったぞ。師匠、む、呼び方を今後考えよう……」

 

 クスッとアルフレムは笑うとまたユメルの頭を撫でる。

 ――きっと、これからこの子は大変な目にも、あれ以上の辛い目にもたくさん会う。それがコイツの選んだ道だ。

 なら、俺にできる事はコイツがちゃんと今度は自分の足で立てるよう、守りたいものをきちんと守れるよう、教えてやれる事だな。

 

 そっとアルフレムは空を見る、何も代わり映えのしない景色だ。しかし、寄る年波いつも探求者として活動できるわけでも、自分がもう引退に近いことも彼自身が理解して居た。

 だからこそ、共に居られるこの時間で、『英雄』を目指すだろう彼女にできる限りを贈りたい。

 ――きっと、側に居られる時間は短いだろうから。

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