「聞いてない! 嘘でしょ!? ユメル……」
そのモヒートの問いにユメルは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
ユメルは言葉を紡ごうとしては口を閉じ、また、開いては視線を逸らし口を閉じた。
その様子を目の前でみていたアルフレムはユメルの肩を叩き、空気を出来るだけ変えるように口を開く。
「ま、まぁ、込み入った話は帰ってからにしようや! それよりもその機械を調べてみようぜ」
一瞬、ユメルとモヒートはお互いの視線を合わせる。そして、ユメルが後で絶対に話すと告げると、モヒートが小さく頷き、機械を囲むようにして膝をついた。
そんな中、先程のアンデットの件もあり、ガイアスは剣を布で拭いたのち、しまう事なく地面に突き刺すと鋭い眼光で辺りに気を配る。
モヒートは手を顎に当てながら、アルフレムに反対側をみたいと告げる。
その言葉にアルフレムはうなづくと、ロープを二つ上下にくくりつけるとそれを木に繋いだ。
どうするのだろうと、ユメルが興味津々で見ていると、アルフレムは更にもう一本のロープをその木に繋ぎ、その両端を左右に均等の力がかかるように円柱と反対側の木にくくり付けた。
円柱にくくりつけたロープに比べ、木にくくり付けたロープは軋む音すら響かせ、緊張されている。
「ちょっと離れてろ」
ユメル達にそう告げた彼は緊張されたロープの間に立ち、不思議な言葉を唱え始める。
『地に連なる力よ。ここに穴を穿ち、汝に還元せん。―ディック!』
一瞬アルフレムが力むと、ガンッと大きい音を立て木に半径50cm程の穴を穿つ。
―メキメキメキッ! 、その途端鋭い音を立てながらアルフレムに向かって木が倒れ始めた。
彼はそれを横合いに飛びながら避けると、木はそのまま横に倒れた。
その反対側にあった円柱は木の重さにつられ、掘り起こされると、そのまま反対向きになり倒れる。
「おお! すごいすごいぞアルフレム!」ユメルが感嘆の声を上げると彼は恥ずかしそうに、そんなすごいことなんてしてないぞ、とぼやいた。
モヒートはそんなことを気にもとめず、裏返った機械を調べ始める。
ウェスを腰袋から取り出し、その機械の表面を拭き取ると、その土の下にはガラスの窓が存在した。
そしてその円柱の中には液体が満たされている。液体の中には花の種のようなものが、拳大の大きさで浮かんでいる。
「これは?」モヒートが呟きながら目を細めた。
「見たことねぇな、でもという事は新発見という事だ。回収しよう」
モヒートはうなづくと、トンカチを取り出し割ろうとするが鈍い音を立てるだけでヒビすら入る様子がない。
それを見たアルフレムがモヒートを止めると、同じ呪文を唱え、窓に穴を穿つ。
感嘆した声を今度はモヒートも上げるが、基礎中の基礎の魔術だ、とアルフレムは笑うと穴に手を入れなかからそれを取り出す。
手に取ると不気味な黒い色をした種だった。
それを見たモヒートが瓶の容器を取り出し、機械の中の液体を汲み取るとその中に種をいれ、封を閉じた。
「あの、アルフレムさん。これ私が預かってうちの機械で調べてみていいですか?」
「んーー、危険なものもあるし、正直勧められねぇが、……よし、俺もそれ同行するわ、危険なもんなら俺が止まればいいだろ」それを聞いたユメルがぼやく。
「年頃の娘の部屋に二人きりでか?」
「ばっか! すぐ対処するためには必要だろ。んーあー、部屋の扉の前で待機する、それで平気だろ。」
ご迷惑をかけます、と苦笑いをしたモヒートが頭を下げる。
その後、燃え尽きたアンデットの死体から牙を回収し、一同は何事も無く、街に戻るのだった。
✳︎✳︎
外の光も無くなった夜、ユメルとモヒートはモヒートの部屋の中で二人作業台に囲み黒い種を機械で調べていた。
主に機械を操作するのはモヒートだが、その助手を阿吽の呼吸でユメルが行なっている。
部屋の外では何かあった時のためにガイアスとアルフレムが控えている。だが、特に種は何の変化も無く、淡々と作業は進んでいった。
ランタンに照らされるモヒートの横顔を眺めながら、ユメルは言葉を掛けた。
「モヒート、明後日私は街を出るよ」
一瞬、モヒートの手が止まるが、彼女が何も言わない事をユメルは察すると、また言葉を続ける。
「探求者になりたいんだ。色んな事を知って、自分が何ができるのかを知りたい」
「……急にそんな事言わないでよ」
「ごめん」
「私さ、こうして機械弄るのが好きなのも、好きになったのも、ユメルが居たからなんだよ。
私も、付いていきたい。……でも、それじゃあ、ユメルに迷惑かけるのも分かってる。
でも、もしかしたら二度と会えないかもしれないでしょ?! 探求者って、突然死ぬ事も多いんでしょう?!」モヒートは俯きながらとうとう機械を弄る手を止める「ユメルに寄りかかってばっかりだ、私」
そんな事あるものか、そう親友に告げようと動いたユメルの口だが、目に涙を溜めながら泣かずに我慢をしているモヒートの顔がこちらを振りむき、その様子にただ、口を噤んだ。
そんな言葉をモヒートが求めていないと、ふと、悟ったからだ。
「明日は祭り、また一緒に回ろう」
「うん」努めてモヒートはユメルに微笑む「――行ってらっしゃい、頑張ってね、ユメル」
「一年に一度、は約束出来ないかもしれないがこの時期はこの街に出来るだけ戻るよ。それに手紙も送る」
「――うん」
笑っているのに、モヒートの目から涙がこぼれ落ちる。ユメルはそれに気がつかないふりをしながら、微笑み返した。
「頑張ってくるよ、モヒート」
「うん、うん、いって、らっしゃい」
――それを、部屋の外で聞いていたアルフレム達は音も立てずにただ静かに床を眺めていた。