ココから始まる英雄譚   作:メーツェル

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第六話 星降り夜2

 ――この人にも話さなきゃな。

 

 三人は椅子に座る。目の前に置かれた様々な料理はこの街で見た事がないものも多い。

 シャンナは様々な場所を渡り歩いた事があるらしく、その際郷土料理を教わったり、また、失われた時代にあった料理の本を買ったりしたこともあるらしい。

 目の前にはピッツァ、カルボナーラ、サーモンのカルパッチョ、ポテトフライ、唐揚げ、チーズケーキ等が置かれている。

 流石にユメル達もこの全てを食べることは出来ないが、この料理はここを訪れた人全員に出来る限り配る予定なのを知っているためあまり驚かない。

 

「シャンナさんは料理が上手ねぇ」スメラギがポテトフライを一つつまみながら言うと、

「そりゃ、何百年も料理作ってれば上手になるからねぇ……、よしこれで今年は最後」

 

 北京ダックが数多く盛られた皿を最後にシャンナはテーブルに並べ、自らも席に着く。

 

「さ、好きなだけ食べて食べて」

「はーい! 頂きまーす!!」

 

 一番いい勢いで、モヒートがフォークを使って唐揚げを取り口に入れる。それを見ながらユメルは楽しげに笑い、カルパッチョを口に入れた。

 程よい酸味とオリーブのオイルの味が口に広がる。サーモンもまた、よく脂が乗っており大変美味だった。

 

「うん、いつも通り美味しいな。出来れば三食シャンナさんに作ってもらいたいくらいだ」

「あ、それ私もわかるけど、多分それやったら舌が肥えて普通の料理食べれなくなるよ」スメラギが苦笑いしながらパスタを食べると、

「大げさすぎよ。二人ともいいもの食べてるじゃない。それに、ここにくれば料理くらいならいつでも作ってあげるわ」シャンナが恥ずかしそうに、はにかみながらもポテトフライを少し摘まむ。

「あ、そういえばユメル達昨日なにしてたの? 」

 

 思い出したようにスメラギが色々なものを摘みながら話す。

 その質問にユメル達は一瞬顔を見合わせる。ここは私が話した方がいいだろう、とユメルは思うと一旦食事の手を止め、腰袋を漁り出す。

 

「実は近隣の散策をしてたんだが、面白いものを拾ってね」

「近隣……どうせ樹海でしょう? 」呆れたようにスメラギは目を細める。その言及にまぁまぁ、とユメルは続けながら、

「これだ。」

 

 黒い種のビンをテーブルに置いた。スメラギは大きな種ねぇ、くらいの反応しか示さなかったがそれを見た途端シャンナは眉を顰める。

 

「ん、シャンナさん、これが何かご存知で? 」

「――禁足地まで行ったの?」聞いたことがない冷たい声でシャンナが話す。それに驚いたユメルは手を横に振りながら、

「いや、その手前のだ! 決して中には入っていない!」

「そう、信じるわ。その種については詳しくは私も知らない。けど、あそこから出てくるものっていいイメージがないから……」

「シャンナさん。禁足地ってさ、機械文明と関係あるん? それに、シュペル…ミル? って知ってる?」興味本位でモヒートがシャンナに尋ねる。

「――っ! なんでその名前を知ってるの? 本当に、本当に禁足地に入ってないのよね?」 言葉は優しいが、強い語気でシャンナが問いかける。

「は、入ってないよ。手前のでいろいろ拾ってその名前が出て来たんだ!」

「その名前は忘れなさい。禁足地の周辺には近寄ってはダメ、特に今日はだめよ。以後、あの周辺のものを調べたら口をもう効かないから」

 

 この人は禁足地について何か知ってる。昔聞いた時ははぐらかされたり、ごまかされたりしたが、今の反応を見てユメルは確信をした。

 だが、知っていて尚、この反応を示すということはきっと、あそこは良くないものなのだろう。そう、ユメル達は思うと素直に頭を下げる。

 ごめんなさい、と謝る二人にシャンナはいつまでも凛とした雰囲気を保てず、しょうがないなぁと言った様子で表情を崩す。

 

「もう、今後やらないならいいわ。許してあげる。……ユメルってば、探求者に憧れてるものね」

「ん、話したことあったか? 」

「ううん、でも、見てればわかるわ。機械文明を調べるのが好きだったり、ふふふ、本当に小さな頃私に魔法教えてくれってせがんだこともあったけ。

 あとはそうねぇ、小さな綺麗な石を古代文明の遺産だーとか……」シャンナがくすくす笑うと恥ずかしそうにユメルは目を背ける。

「昔の話だ、昔の。魔神族も知らないほど昔の! 」

「そうね、でも、ユメルここを出るんでしょう? いつ? 成人してからかしら? 」

「――本当にシャンナさんには隠し事はできないなぁ」

「ガイアス程でもないけど、私もずっと貴女達を見てたからね」

「この祭りが終わって、明日、出る予定だ」

 

 まるで自分の子供を見るようにシャンナは微笑んだ。長い銀色の髪が風に揺られて、その姿は本当に女神のようだ、とユメルは場違いな事を思う。

 じゃあ、とシャンナはぎゅっと自らの拳を握りしめるとその手から淡い光が放たれる。

 そして、次に開かれた彼女の手には淡い緑色の光を放つ宝石が握られていた。そして何処から現れたのか、そのシャンナの手からチェーンが現れ、宝石の中に通されると輪を作り、ネックレスを作り出す。

 

「わたしからの贈り物」

「なんだか、非常に高価なものに見えるが」

「そうでもないわ? これはわたしのマナを圧縮した宝石で、ちょっとしたお守りの効果があるだけだもの」

「え、魔法道具じゃないか。やっぱり高そうだ……」

「あはは、魔神族が特別な旅人に送る魔神の雫って呼ばれるもの、たしかに売れれば高いだろうけど、その人以外に効果はないの。あとその人が死んだら砕け散っちゃうし、私はそれを一つしか作れない。ユメルが死ぬまで私は次の雫を作れないから、貴女が死んだのがわかるっていうものでもあるわ」

「い、いいのか? そんな物貰っても」

「いいの。私の友達だもの。そのくらいはさせて」

 

 シャンナはネックレスをユメルの首に掛けると、似合ってると少し笑う。

 少し気恥ずかしそうに、ユメルはそのネックレスを手で弄っていた。

 その様子を見ていたモヒートとスメラギは微笑ましそうに見守っていた。

 


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