遅れてすいませんでした。
それは、魔王リムルの催した祭りが終わったあとのこと。
ふと、唐突に過去のことを思い返した。
きっかけがあったわけではなく、ただ単純に今まで記憶の奥底に仕舞っていたことが、頭に過ったのだ。
かつて出会った勇者との約束が。
……といっても、彼女は私と約束をした数年後に死んでしまった────と、思われる────ので、約束もあってないようなものなのかもしれないが。
あの勇者が死ぬなど、考えられないことではあったが────どのようなものであろうと、彼女が人間である以上、終わりというのは存在していた、ということなのだろう。
……まぁ、勇者というのは因果が巡るもの。いずれ復活でもするのかもしれない。魔王ルミナスも現存していることから、それは可能性としてありえる。
彼女は魔王ルミナスと親しかったから、てっきり彼女の因果はルミナスと関係していると考えていたが────どうやらそれは違っていたらしかった。
魔王ルミナスと因果関係にあるのは、彼女の元配下であるグランベル───彼もまた、覚醒した真の勇者だった。
それを考えると、一体誰が彼女の因果に関係するのか────少なくとも、あの時には存在していなかった。
だとすれば、あの時視えた未来のことも考えると─────彼女の因果が巡っていたのは、魔王リムルなのかもしれない。
因みにレオンは除く。あれは魔王であり勇者であるから、因果が自己完結しているのだ。
なので、残っているのは魔王リムルのみ。
……しかし、それを考えると────彼女の能力が見えてくる。彼女には『絶対切断』に『無限牢獄』という強力なスキルがあったが、それとは別の能力を持っていたのだろう。
恐らく、それは──────
「師匠?」
そこで、アッシュに声を掛けられ思考を元に戻した。
彼女のことは、あとでいいだろう。今はアッシュのことだ。
「…あぁ、すみません。少し、昔のことを思い返していました」
「いえ、それはいいんですが……師匠、戦争屋は」
「戦争屋は、召喚者を東の帝国に流しています。そういうビジネスを成立させているようですね」
「っ……」
『……気持ちはわかるが、今は抑えろ、アッシュ』
アッシュは、私の言葉を聞いて怒りの感情を現していた。仮面で表情はわからないものの、その雰囲気は読み取れる。
アッシュは、件の戦争屋を憎悪している。それこそ、この世界に来る以前から。
アッシュと戦争屋の因縁は、前の世界から続いている。アッシュにとって、復讐対象なのだから、当然だろう。
前の世界にいた時から、アッシュは戦争屋を追い続けていた。
そして、偶然なのか、必然なのか────アッシュは、その戦争屋と共にこの世界に来た。
そして────この世界に来て最初にユニークスキルに目覚めたのは、戦争屋だった。
アッシュは何の抵抗も出来ずに倒された。そして、その戦争屋に全てを奪われる─────その直前に、偶然私が現れた。
そうして、戦争屋に復讐する力を与えることを条件に、アッシュを配下に加えたのだった。
「今の貴女なら、戦争屋を倒すことは難しいことではありません。ですが、東の帝国を相手にするのは分が悪い」
「それは……はい、わかっています」
『灼熱竜ヴェルグリンドもいるからな。そうそう相手にすることはねぇと思うが……』
「その可能性に賭けるのは危険過ぎますね」
ヴェルグリンドは、東の帝国が誇る───なおルドラは隠しているのだが───最高戦力。そう簡単に出すことはない……と思いたいが……もしもアッシュと遭遇したら、間違いなく倒される。
私ならヴェルグリンドを倒すことは出来るが、私の立場上、ギィかルドラ、どちらとも敵対するのは禁じられている。
破ろうと思えば破れることではあるのだが、余程の事情がない限り、私はそれをするつもりはない。
────そう、私は。
「今すぐに出来ることはありません」
「………」
「────といっても、近頃帝国はキナ臭いですし、そろそろ攻めてくるでしょう。そこに、戦争屋が参加しないとは考えられない────私の言いたいことはわかりますね?」
「────はい、はい。勿論です」
アッシュは、なんとも言えない雰囲気を醸し出しながら、理解したと頷いている。
私自身が動くことは出来ないが、配下にその制約はない。
アッシュが望んだ復讐は───もう、すぐそばに近づいてきている。
これでもし。戦争屋を倒すことが出来たなら、アッシュの心に何らかの変化が訪れるだろう。
それが良いものであれ悪いものであれ、アッシュを成長させるものとなるだろう。
……あぁ、そういえば、勇者との約束の日も近づいているか。そろそろ、私も向かう準備をするべきだろう。
「さて、では少し予定を入れてもいいですか?」
「え?あ、はい」
『…なんか、嫌な予感が……』
「数ヶ月後にルベリオスで音楽会があるらしいので、私と一緒に来て下さい」
「え」
『はぁ?』
彼女曰く、もしものことがあった時のために来てほしい、とのことだ。
その日は魔王が三人も集まるらしいので、どうせならと、アッシュも連れていくことにした。
「あの、師匠?なぜルベリオスに……」
「それについては私もよくわかっていないので、行って確かめます。あぁ、その日は魔王が三人いるらしいので、注意しておいてくださいね」
『は!?いやいや、お前なに考えて───ぎゃぁぁぁ!』
レジーは文句があるのか、何か言おうとしていたが、鳥籠状態であるレジーを、アッシュは上下に振って黙らせた。
「わかりました。行きます」
「では、いつになるのかわからないので、暫く予定を入れないでください。もしも入れていたら、仕方ないので私一人で行きます」
そう言い終わると、私は勇者のことを考え始めた。
なぜ、この日を指定したのか。なぜ未だに存在していないルベリオスのことを知っていたのか。
そもそも、ギィやルドラなどの一部の者しか知らないはずの図書館を、どうやって特定したのか─────
それも、ルベリオスに行けばわかることだ。その日になるまで待てばいい。
─────彼女の名前も、そこでわかるかもしれない。
そう思ったのだった。
▼▲▼▲
さて、あれから数ヶ月ほどたったある日。ルベリオスに異変が見えた。正確に言えばルベリオスにある大聖堂で、だが───そこはいいだろう。
この異変が起きたということは、時が来た、ということだろう。
だが、見た限りでは戦闘こそ起こっているものの、特に問題に思えることは起きていない。道化の集団が中に侵入し、魔王たちと戦闘になったが、それだけだ。
あとは、グランベルがヒナタという異世界人と戦っていることぐらいだろう。今は、手を出す必要がないように思える。
しかし、もしものことがあるので、一応アッシュを呼んで、いつでも介入出来るように準備をしておく。
「師匠、すぐに行かないんですか?」
「ええ。必要であれば、介入する必要があるでしょうが────」
彼女はもしもの時は、と言った。つまり、上手くいけば私が介入する必要がなく、あそこにいる魔王たちだけで事態を終息できるだろう。
───上手くいけば、だが。上手くいかないかもしれないから、彼女は私にあんなことを頼んだ。
できれば、私が介入しなくてはいけない状況になるのは避けてもらいたいが……見た感じでは、問題はなさそうに見える。
彼女が一体なにを危惧していたのかは不明だが、その危惧も、杞憂に終わりそうだった。
────あるものを見なければ、そう思えた。
「あれは……」
大聖堂───その更に奥にある棺に眠っている『それ』
『それ』は───いや、彼女は────
「なぜ、彼女が……?」
「師匠?」
『おい、どうした?』
静かに眠っている『それ』───彼女は、私が過去に出会った勇者その人だった。死んだことに疑問を覚え、もしかしたら復活でもするのかもしれないとは思っていたが─────まさか、本当にそうだとは思わなかった。
だが、これで確信した。なぜ彼女は、本来知るはずのない未来を知っていたのか────
それは、時間に関係するスキルを持ち、そしてそれを使って過去に跳んでいたからだ、と。
だから、本来は知らないことを知っていたのだ。未来に会っていれば、それは知っているはずだ。
彼女の秘密を知り、答えを得たところで、棺を守っていたルミナスが道化との戦いのために、場所を移し────そして。
「───アッシュ、いきなりですが転移します。状況は行ってから説明します」
「え───」
侵入者を確認し、すぐさまアッシュを転移させた。場所はもちろん、彼女の眠る棺がある玄室だ。
人使いが荒いとは、自分でも思う。だが、事情を話すのに時間を使えば、厄介なことになる『未来』が視えた。それなら私がいけばいいのかもしれないが、侵入者のこともあって、彼女を行かせた。
侵入者の名は、
つまり、アッシュにとって敵である。上手くいけば、戦争屋が東の何処にいるのかも掴めるだろう。
────アッシュが逆撫でられて、暴走しなければいいのだが─────まぁ、そこはレジーがなんとかするだろう。
そう思いながら、アッシュに
次回は戦闘回です