あと、タグにfateを追加しておきました。嫌な方は、すみません。
アッシュと勇者の戦闘は、徐々に苛烈になってきていた。
「ぐっ、この──!」
『エネルギー量が半端じゃねぇな!竜種かよ!』
場所を移動しつつ、戦闘を続行する。それ自体は難しいことではない。
だが、その相手が勇者となると話が変わってくる。
アッシュが勇者と攻防すると、まずアッシュが防戦一方になる。勇者のエネルギーが竜種並みに大きいのもあるが、それに加え
勇者が攻撃をすれば、アッシュは避けるか防ぐかするしかないというのに、アッシュが攻撃すればいとも容易く弾き、それどころか反撃すらしてくる。
アッシュが全力を出せば、殺すことは可能かもしれない。だが、その全力を出すには、勇者と戦いながらでは到底無理な話だった。
それそも、アッシュが勇者と戦闘可能なのは、アッシュのスキルが霊子を吸収することが可能であるスキルだからだ。
だが、そのスキルを持ってしても勇者の攻撃を防ぐことが出来ない。与えてくるエネルギーが多すぎて、吸収しきれないのだ。
「っ──!」
何度目か、アッシュの槍と勇者の細剣がぶつかりあう。だが、すぐにアッシュが押され、アッシュは無理矢理に前に進み、槍を振るう。
「レジー、場所!」
『近くにいる!後ろに下がっていけ!』
「わかった!」
アッシュは、魔王たちがいることは知っていても、具体的に何処にいるのかまでは知らなかった。だから、レジーに感知させ、場所を探らせた。
霊子の相殺に手間取り、予想以上に時間が掛かったようだが、これで場所は把握した。あとは、そこに移動するだけ────
そうして、アッシュは勇者を倒すために、近くにいるであろう魔王を巻き込むのだった。
▲▼▲▼
魔王が集った大聖堂。そこには複数の強者たちがいた。
魔王ルミナスと、それと対峙する勇者グランベル。
そのグランベルの友である魔人ラズルと、それと戦う魔王リムルの配下であるシオン、ランガ。
そして、今は戦いの手を止めている魔王リムルと魔王レオン。
そして、グランベルに勇者のことを問いただそうとしたユウキと、中庸道化連のフットマンとラプラス。
強者が集い、膠着状態となっているその場所に、それは訪れた。
大爆発。大聖堂の壁が吹き飛び、そこから二人の人影が現れた。
アッシュと、勇者であった。
「ここ?」
『そうだろうな』
アッシュは、目的の場所に移動できたことを確認し、そして再び勇者とぶつかった。
勇者の剣とアッシュの槍は、数合打ち合うとアッシュが吹き飛ばされた。
地面に足をつけ、その勢いを止めることで大きく離れるのを防ぎ、勇者を見る。
『エネルギーは、減った気がしねぇな』
「……キツい」
あれだけ戦っても、ダメージが深いのはアッシュで、勇者にはダメージらしいダメージがない。キツいとしか言いようがなかった。
そして、しばらくの間、この状況を維持しなくてはならない。少なくとも、魔王たちが戦闘に加わるまでは抑え込まなくてはならないだろう。
『第六まで解放出来れば、だいぶ楽になったんだろうがなぁ』
「そこまでは、無理」
アッシュのスキルには、十三の拘束がある。それを五つまでしか、アッシュは解放できていなかった。
どうしてなのかは、アッシュが一番理解している。だが、認めるわけにはいかないのだ。
それを認めてしまえば、アッシュの根幹が崩れる。そうなってしまえば─────
「───やるよ」
『御供します、てな』
アッシュはその考えを消し、目の前の勇者に集中させた。なにせ、戦闘はまだ終わっていないのだから。
再び、槍と剣がぶつかる。槍は常に回転し、勇者のエネルギーを巻き取ろうとしている。だが、勇者はそんなこともお構いなしにアッシュを吹き飛ばす。
ある一定のレベルに達した者は、大抵化け物と言われる。目の前の勇者も、間違いなく化け物と言える力を持っている。
それは、アッシュの師であるアスティと同じ、天災級と言えるだろう。だが、分類としてはヴェルドラと似ている。
ただ自らの持つエネルギーを放出するだけで、敵は死ぬ。そもそも戦闘とは呼べないだろう。
そんな相手と、アッシュは戦っている。
(では、一体どうやって天災を倒す?)
並大抵のことでは不可能だ。抗えない存在だからこそ、天災と呼ばれるのだから────
そこで、アッシュはとある言葉を思い出す。かつて、アッシュが暴走した仲間を止めるにはどうすればいいか、と聞いたときのことだった。
(師匠は『そういう時は、考えるのをやめましょう』って言ってたな────)
とりあえず動けなくしてから、正気に戻しましょう、と。
あの時は、師匠に似合わない脳筋思考に呆然としたが、今ならなんとなく、わかった気がした。
(そうか、単純に考えればいいのか)
今はとにかく倒すこと、止めることが重要なのだ。なら、もっと力がいる。この世界における力とは、純粋な思いと、意思だ。自分を見詰めることが、重要なのだ。
だから、考える。なぜ自分は、ここで戦っているのかを。
最初は、ただ復讐対象の情報を得るために、ユウキと戦った。だが逃げられ、勇者と戦うことになった。
ではなぜ逃げないのか?目の前にいる勇者は、アッシュでは敵わない相手だ。このまま戦い続けていたら、戦争屋に復讐する前に、アッシュは殺されてしまうだろう。
なのに、逃げようとしない。むしろ、積極的に戦おうとしている。それはなぜか─────?
(守られるだけじゃないって、証明したかったから───?)
そう、守られるだけの存在でいたくなかったのだ。かつて、アッシュがこの世界に来る前、アッシュは戦争屋が起こした紛争のせいで、肉親を失った。
それも、全てアッシュを庇う形で─────兄も、母も、父も、失った。
アッシュを守って、みんな死んだのだ。
それが、アッシュのトラウマとなった。真の勇者となった今も、それは忘れられないトラウマだった。
戦争屋に全てを奪われそうになった時も、アスティに守られた。
それが、とても嫌だった。守られるだけでは、大切な人が傷つくのを見ていることしか出来ない。いざという時に、守ってあげられない。
だから────証明したかった。私は強くなったのだと。守られるだけじゃないのだと────
────そんなわけ、ない。
(本当は───)
アッシュが心の奥底で思ったのは『勇者を放っておけば、ルベリオスは災禍に呑まれるかもしれない』ということだった。
力の証明?守られるだけではないということの証明?
そんなものは『自分のため』という偽りの理由を付けるためでしかない。
本当は、見知らぬ誰かであろうとも、誰かが不幸になってほしくなかったからだ。
戦争屋を追ったのも、放っておけばまた紛争を引き起こすと思ったからだ。
戦争屋が紛争を起こせば、悲しむ人や、死んでしまう人が出る。
それを容認出来なかったのだ。だから本当は、兄を、母を、父を、自分を犠牲にしてでも守りたかった。
だが、それをさせてはくれなかった。アッシュの肉親は、アッシュと似た者同士であり、だからこそアッシュを守ったのだ。
そこでトラウマが出来て、戦争屋を止めるために追っていくうちに、アッシュは追う理由を他の理由にすり替えるようになった。それが、戦争屋への復讐心だった。
彼女は、いつからか偽りの心を持って生きるようになっていたのだ。
『ようやく思い出したみたいだな?』
(レジー……?)
そこまで思い出したアッシュに、彼女の相棒であるレジーは声を掛けた。
『お前と会ったのは、この世界に来てからだけどよ。お前よりもお前のことを把握してるのは俺ぐらいだぜ?』
レジーはそう言った。実際そうなんだろうなぁ、とアッシュは思っていた。レジーは彼女の相棒であり、半身だ。だからこそ、アッシュ自身も気づけなかった偽りにも気付いていたのだろう。
気付いていながらそれを言わなかったのは、アッシュに自力で気づかせるため。そんなのはお前らしくないだろうが、と。
『で、気付いたんだろ?なら、らしくない感情を持つのは、今日でやめだ』
(うん。ありがとう)
これで、アッシュの心に偽りの復讐心は消え────そして、それがアッシュに大きな影響を与えた。
『確認しました。ユニークスキル『
『条件を満たしました。『聖槍』の『
そうして、アッシュは新たな力を得る。天災である勇者を止めることが出来る可能性である理想の力───そして、今まで止まっていたアッシュの時間は、動き出したのだ。
(あ、究極能力に……聖槍も解放されたね)
『ようやくか。これで聖槍の解析が進められるな』
(これで、勇者を止められる、かな?)
『わかんねぇよ。なんせあれは天災だからなぁ……よし、もういいだろ。思考加速切るぞ』
え、とアッシュは思った。妙に考えられる時間があると思ったら、いつの間にかレジーは思考加速を使っていたのだ。
それには驚いたが、アッシュはすぐに思考を戻した。自分探しのおかげか、随分と気分がよく、体が軽かった。
これなら勇者も倒せるかもしれない、とアッシュは一瞬考えたが、すぐにその考えを消し去った。
天災は、倒せない、抗えない、どうにもできないの三要素が揃っているから天災なのだ、と考えを改める。師匠を倒す気で行こう、と。
『間違っちゃいないがなぁ……まぁ、いいか』
そして、スローモーションだった世界は元の状態に戻り、体も動き始める。
「───!」
勇者と再びぶつかり合い、剣と槍が交差する。先ほどとまったく同じ状況でありながらも、異なる点が二つあった。
一つは
そして、もう一つは────弾かれることなく、鍔迫り合いになっていること。
それこそが、
もう一つは、体内に異次元────自分だけの世界を作り出すこと。
アッシュは自分の身体を、勇者に対抗できるように変異させたのだ。
「これ、なら……!」
勇者が剣を振るう度に、槍で防ぎ、反撃する。今のアッシュであれば、それを行うことは簡単なことであった。
だが、だからと言ってそれだけで勝てる相手ではない。
現に、アッシュのエネルギーが確実に減ってきているのに対し、勇者のエネルギーは殆ど減っていない。
肉体面で互角に近くなっても、圧倒的なエネルギー量がアッシュに勝ちを拾わせない。
「───っ」
エネルギー量では負け、
全体で言えば、アッシュの方が不利であった。だが、それでもアッシュが互角に近いレベルで戦えているのは、勇者に意思がないからだった。
自由意思がない者が、強くなれるはずがない────それを、アッシュはよく知っていた。
だからこそ、勇者は脅威ではあっても絶対に倒せない敵ではない。
あと一手、何かが加われば────そう考えた時であった。
「クァハハハハ!我、推参!」
「え」
『はぁ!?ヴェルドラだと!?こいつどうやって───いや、召喚か?』
アッシュと勇者が戦っている最中に、"暴風竜"ヴェルドラが乱入してきた。
ヴェルドラは勇者に向かっていくと、戦闘を始め────
「ぐ、ぐぉぉぉ!?き、切られた!切られたぞー!?」
「えぇ……」
『……』
あっさりと切られた。それはもう、あっさりと。アッシュとしては、期待を裏切られた気分だった。
だが、切られた傷はすぐに再生していく。竜種の持つ規格外なエネルギーによるものだろう。
アッシュは知らないことだが、勇者はかつて、ヴェルドラを封印した強者だ。
勇者の持つ、もう一つのユニークスキルを使っていないとはいえ、その力は絶大だ。
それに加え、ヴェルドラ並のエネルギー量───前の勇者であれば、ヴェルドラに大きな傷を与えることは出来なかったであろうが、今は違う。
今の勇者は、ヴェルドラすら倒しうる存在なのだ。
『───大雑把に言うと、そういうことなんだよ』
「……つまり、油断してたの?」
『そういうこった』
そもそもの話、素手で勇者に挑もうとするのがおかしいのだ。
技量が互角か、それ以上であるならばともかく、技量で負けているのに素手で戦うのは自殺行為でしかない。
ヴェルドラだからこそ、今も死なないで済んでいるというだけで。
『まぁ、とりあえず相手には成ってるな』
レジーの言った通り、ヴェルドラは勇者と戦闘をしているが、一応相手にはなっていた。
……ただしヴェルドラの方は回避が殆どで、ワンサイドゲームとなってしまっているが。
そこにリムルの援護が加わっているから、そこまで危険な状況でもないようだった。
「…聖槍を使う」
『確かに今なら時間もあるが……制御出来るのかよ』
「大丈夫。レジーなら出来るでしょ?」
『人任せ……まぁ、それが俺の役割なんだけどよぉ』
だからこそ、アッシュは聖槍の準備を始めた。
───ガキン
音にならない音が響く。その音は、まるで施錠された鍵が開いたかのようだった。
───ガキン、ガキン
さらに二回、音が響く。その音と共に、聖槍は光り輝いている。確かな形を持っていた聖槍は、その物質を霊子へと変換していく。
───ガキン、ガキン、ガキン────
そして、拘束が解かれた。
あらゆる境界を破り貫く、王の聖槍。その一撃は、万物を崩壊させる槍。今回は六つしか解かれなかった拘束は、世界を守るためのもの。
「聖槍、抜錨」
そこにあるだけで、その槍は世界を壊しかねない───故の拘束。
その槍の名は───
「『
全てを最果てに導き、過去と未来を繋ぐ役割を持つ法の槍である。
その力は、半分程度の力しか出せなかったとしても強大だ。
聖槍から突き出された巨大な光の奔流は、戦っているヴェルドラごと勇者を飲み込まんと迫っていた。
「ぬぉぉぉ!?そ、それはヤバい、我でもヤバいぞ!?」
「ヴェルドラ、戻れ!」
ヴェルドラの戦いを支援していたリムルは、すぐさまヴェルドラを
そして、残るは勇者のみだが───彼女に、
例え規格外のスペックを誇っている勇者でも、光を越える速さは持たないのだ。
それゆえに、勇者は
▼▲▼▲
「──では、ここまでです」
そう言って、彼女───アスティは先程まで繋げていた『目』を閉じた。
「あ?ここで止めるのか?」
それに疑問の声を上げたのは、この世界の誰もが知る最強の魔王ギィ・クリムゾンだった。
「未来は確定しました。これ以上見ても、何も面白いことは起きませんよ」
そう、静かにギィへと言い放った。
アスティとしては、ギィにこれ以上見られるのは不味いと判断してのことだった。
それに、アスティがこれ以上見ていても問題は起こらないと、確信したからでもある。
「へぇ?まぁ、いい。西側の戦力が増えるのは、俺にとって都合が良いからな。今回は見逃してやるよ」
「そうですか。それは良かった」
「棒読みになってるぞおい」
ギィはすぐに、アスティが見せられない『未来』を視たことを確信したが、敢えて踏み込むことはしなかった。
何故なら、ギィはアスティを信頼していたからだ。
少なくとも、こちらに積極的に敵対しようなどとは思わないだろうし、陥れることなどするはずがないと考えていた。
そもそも、アスティは人の命を奪ったことがない。というより、出来ないのだ。
ギィには分からないが、どのようなことがあっても、アスティは命を奪わない。それが悪魔であれ、人であれ、同じことだ。
といっても、命を奪わないだけで、精神生命体である悪魔の肉体を殺したことはあるのだが、別にこれは死んだわけではないのでカウントしない。
あと、知性無き魔物をアスティは気にせずに殺してるので、意思がある者を殺すのが駄目なのだとギィは考えていた。
「それじゃあ、俺は行くぜ」
ギィは席を立ち、アスティの家である『
「……一応聞きますが、どちらへ?」
「
そう言うと、ギィは図書館の中から姿を消した。魔法陣で外に出たのだ。
アスティはギィが居なくなったことを確認すると、身体から力を抜いた。
「……いつもいきなりなんですよ、あなたは……」
ポツリと、今はいない想い人に対して愚痴をこぼす。
アスティの視た未来の中には、最悪の未来がいくつも写し出されている。
すぐにどうこうなることはなくても、問題解決に時間を掛けすぎれば、すぐに最悪の未来は訪れる未来は多い。
それを回避するには、まず前提としてアスティが介入しない必要があった。
未来を視れる者の起こす行動は、容易く未来を変えてしまう───いや、
最善だったはずの未来が、最悪の未来に変わってしまうことなど、よくある話だった。
だからアスティは迂闊に動けない。今回、アッシュを送り出した理由の一つはそれだ。
他にも理由はあるが、それは省くとする。
だが、アスティは数々の未来を視てしまった。
────それが、彼女の行動を妨げるようになった。常に視えてしまうが故の苦悩だ。
それに─────
「……今は、視続けないと」
どういうわけなのか、今のアスティの視れる未来の約半数以上が
アスティの経験上、それはあり得ないことだった。
彼女にとっての最悪とは、そこまで多くはない。世界のことを考えるのならば相当多いが、それでも視れる未来の三割にも達しない。
なのに、今では半数を越えている───それも、全て
それはつまり────
「早く、見つけなければいけない」
いるのだ。世界を滅ぼそうとしている存在が。それも、下手をしたらギィやアスティ以上の力を持つ、そんな存在が────
───視てしまった以上、どうにかして最悪の未来を回避しなくてはいけない。そのためには────
「……まったく、前途多難ですね」
アスティはそう呟き、視界をアッシュのいる場所に開いたのだった。
最悪が視えてしまうアスティ。因みに、この最悪は誰にも伝えてません。下手したらそれだけで大分変わってしまうので。