───ガキン
金属と金属がぶつかり合う音が響いている。
────あれから、
未だにギィは
この数十年の間で、私とギィの関係が変わることはなかった。何も変わっていることなどないのだから、当然だろう。
────ガキン キン
……少なくとも、表面上はそうなのだ。中身がバレなければ、私にとってはどうでもいい。
だが、あれから数十年も経過して、それでいて何の変化もなかった───というわけではなく、むしろ私にとっては、かなり大きな変化が起きていた。
───一応言っておくが、
───ガキン キキン ギャリン
───先程から鳴り響いている、剣と剣がぶつかり合う音───その音を鳴らしている二人の男を、遠くから見つめた。
「く──こなくそ!」
「な、手前卑怯だぞ!?」
……まぁ、片方は剣と魔法だけでなく、目潰しまでやっているみたいだが。
片方は、私のよく知る人物───人でなく悪魔か───である、傲慢な、紅い"覚醒魔王"ギィ…いや、ギィ・クリムゾン。
もう片方は金髪の"覚醒勇者"ルドラ。
……ルドラに関しては、知っていることは少ない。興味ないからだ。その強さはギィと対等に戦えるだけあるので認めているが、それ以外に関しては、態々知ろうとは思わなかった。
むしろ、ルドラはギィが認めた
───だからこそ、ルドラと私の相性は最高であり、例え『
私の持つ
……まぁ、今のところ、戦う気はないが………そこはルドラ次第だろう。
「…で、終わりましたか?」
「あぁ……くそ!手前、目潰しとか卑怯だぞ!?正々堂々とか言ってたくせによ!やることが汚いんじゃねぇか!?」
「勝てば正義!いや、勝たなければ正義ではない!正義じゃなくなるんだよ!だから、俺様はなにがなんでも勝たなくてはならないのだ!
というかだな、さっき手前が使ったのは俺がこの前使った技だろうが!汚いのは、お前だ!」
「……ふぅ」
───ギィとルドラの戦いは、終わったあとは大抵こういう風に口喧嘩になる。喧嘩するほど仲が良い、とはよく言うが……ルドラとギィの関係は、まさしくそれなのだろう。
いつもなら、私は"白氷竜"『ヴェルザード』、"灼熱竜"『ヴェルグリンド』と一緒にギィとルドラの戦いを見ているのだが……最近生まれた新しい第四の竜の教育の問題で、二体は険悪な雰囲気になっているため、ギィの住む氷の城の外で喧嘩しているのだ。
…やってることは、ただの責任の押し付け合いなのだが。ヴェルザードが厳しすぎるだの、ヴェルグリンドが甘やかし過ぎるだのと、言い争っている状態だ。
……私から言わせてもらえば、どちらにも当てはまる性質である『強者ゆえの傲慢性』こそが、第四の竜を暴れさせる原因なのではないかと考えている。
もしくは、姉二人への畏怖や恐怖やらのせいで窮屈に感じ、その反動で暴れまわるようになったのか……まぁ、興味ないからどちらでもいい。
で、今、私が何をやっているかと言えば───ただ単に、ギィとルドラの戦いを見ていただけだ。
例え、ギィとルドラが会話をしていても、自らそこに加わることはしない。あくまで傍観者なのだ。ただ眺めているだけ────
それ以外は何もやっていない。まぁ、たまに起こる竜姉妹の喧嘩を無理矢理止めたりはするのだが。
────そこまで考えたところで、外から大きな破壊音……爆音が響いた。
「…また、ですか……止めてきます」
「おう、頼んだ」
「まったく、あいつら……」
普段の間柄は悪くないのだが、こういうストレスを溜めやすい状況だと、喧嘩しやすくなるのだろうか。
喧嘩するのであれば、もっと他の場所でしてほしいものだ。何度も止めることになるこちらの身にもなってほしい。
竜種の相手を何度もするのは、流石に面倒と言わざるをえない。
───"名"を名付けられなかったのなら、こんなことしようとは思わなかっただろうな───と、そう思いながら、喧嘩しているであろう姉妹の元に向かったのだった。
▲▲▲▲
「…ところでよ」
「あ?どうした」
『彼女』が去り、残ったのはルドラとギィだけとなったその場で、二人の会話が響く。
先程までは、ルドラとギィによる長い時を必要とする勝負───未来での
「あいつのことだ」
「…アスティか?あいつがどうした?」
───アスティ・ソロア
それが、天使である彼女に付けられた名前だった。
ヴェルダナーヴァの意図せぬところで誕生した
そして、ついには"名付け"により、
「あいつは、どっちにつくのか───そう思ってな」
「あー…どうだろうな?」
アスティは、人ならざる存在である天使だ。人間と共存することが難しいのは確かだった。
だが、彼女は人を殺すことを嫌がっていた。どんな状況であろうと、人を殺すことに忌避感を覚えていた。無意識に、アスティはそう思っていた。
そしてなにより、彼女は自由を好んでいた。魔王による徹底管理された世界を、彼女が好むことはないだろう。そういう意味では、アスティはルドラに付く可能性もある。
だが、心情的なものを無視することは出来ない。ルドラ───正確に言えばルシア───から見れば、アスティがギィに好意を抱いているということは分かりきっていた。
そんなアスティが、ギィと敵対する道を選ぶのか───ギィも、自身に向けられたアスティの好意に気付いてはいた。
いた、が────アスティの行動や言動が分かりにくいせいで、確信できるほどのものではなかった。
ルドラとギィからすれば、アスティがどちらを選んでも不思議には思わない。むしろ、どちらにも付かない、なんてこともありえるのだ。
「…いっそのこと、あいつに裁定をまかせるか?」
「裁定?」
「あぁ。俺とお前───もしもどちらかが道を外したら、それを裁定するやつがいたほうがよくないか?」
ルドラは口ではこう言っているが、その本心は「これで五分五分だ。アスティまで入ったら、ギィの方が有利になっちまう」というものだったりする。
もちろんそのことにギィも気付いていたが───自身の方が有利な状況で勝っても、面白くもなんともない。勝つのなら、相手が万全で自身も万全な状況で勝つ───それがギィだった。
「あぁ。いいぜ?正々堂々、だよな?」
「ふん!今回も、俺様が勝つのだ!」
「あ?違うな、俺が勝つ」
「いーや、俺様が勝つ!」
話は決まり、アスティの立ち位置が定まった。
ギィとルドラ───そしてアスティ。
争う二人の
この三人によるゲームは、どのような終わりを迎えるのか────
それは、数千年後に決まることとなる────
こうして決まる三人の役者。
そして、過去は未来へと繋がる────
そして、名前はアスティ・ソロアに決まりました。コメントをいただいたので、そこからもじらせて頂きました。