絵のモデルを頼んだ女子高生が幼女を拾ってきたんだがどうすればいいだろうか   作:込山正義

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皆さんあけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い致します。

まあそんなことよりしおちゃん誕生日おめでとう!
新年よりそっちの方が大事だよね! ね!


1月1日

 12月に入って数日経ったある日のこと。

 突如俺はさとうと2人っきりでお出掛け――もといデートをすることになった。

 

『もうすぐしおちゃんの誕生日でしょ? だからこの機会にプレゼントを買いに行くことにしたんだけど、お兄さんも一緒にどう? 良ければ選ぶの手伝ってくれない?』

 

 神戸家3人がまとめて出掛ける用事があったその日、暇を持て余していた俺にさとうからそう提案があった。

 俺もさとうも神戸家三姉妹のことは家族同然だと認識しているが、だからといってそこに入っていこうとするほど無粋でもない。

 家族水入らず。

 彼女たちが充実した1日を過ごしている間、俺とさとうも水同士仲良くお出掛けをすることにした。それが今回の経緯である。

 言うなれば買い物に付き合うだけでもある。しかし俺はこれをデートと認識することにした。

 男女が2人っきりで出掛ければそれはデートである。

 そう思う理由は単純明解。その方がテンションが上がるからだ。

 デートだと思えばこの寒い中外に出るのも億劫ではなくなる。

 さとうがこたつよりも上位の存在であることは不変の真理なのだ。

 

 しかししおへの誕生日プレゼントか。

 俺もまだ用意していないのだが、まさかさとうから一緒に選ぼうと言われるとは思わなかった。

 彼女のことだから最愛のしおへのプレゼントは自分自身で選ぶか、あとは自分自身で作るかするものだとばかり思っていた。ともすればすでに用意しているものかと。どちらにせよ、そこに俺の意思が介在する余地など絶無だと勝手に判断していた。

 ま、でも、結局さとうが自分で選ぶことになるのは変わらないか。

 俺が参考になる意見を言えるとは自身でも思えない。小さい女の子が欲しがるものなど想像も付かないのだ。

 そういえばさとうだけでなく、俺もしおへのプレゼントを用意しなきゃなんだよなぁ。

 すぐ近く、というかしおの誕生日の前日にさとうの誕生日もあるし、そっち用のプレゼントも用意しなければならない。

 うーん、悩む。

 別にめんどくさいとかどうでもいいとかいう気持ちはこれっぽっちもないのだが、だからこそ深く考えてしまう。

 彼女たちが今最も欲しいもの。最も貰って嬉しいものは何か。

 さとうと2人で出掛けるというシチュエーションを使い、さりげなく聞き出してみるか。

 本人に直接というのはなんとなくプライドに反する気もするが、1人で考えていても埒があかないのだから仕方がない。

 俺は親しい者のためなら容易くプライドを捨てられる男なのである。

 うん、あんまかっこよくはないかもだな。

 

 

 ****

 

 

 デートなのだから待ち合わせをする――などというめんどくさい拘りが特にない俺とさとうは普通に一緒に家から外へと出、そのまま市街地の方へと向かって歩いていった。

 そして辿り着いたのは映画館。買い物するにはやや不適切な気がしなくもない場所だった。

 

「しおちゃんの好きな作品が今ちょうどやっててね。そのグッズがあればと思ったんだけど」

 

 売り場を見るも、ほとんど商品は残っていなかった。

 人気の高い作品だったのだろう。こういうものは初日に来ないとあっという間になくなってしまう。映画館あるあるだ。

 

「ここまで来てそのまま帰るってのもなんだし、せっかくだから何か観ていこうよ」

「まじか」

 

 買い物はいいのか、と言いたいところだが、俺自身も映画など久しぶりなので観たい気持ちはある。

 しかしここで一つ問題があった。

 

「でも、今何やってるか全く把握してないんだよな」

 

 入り口や館内にあるポスターだけ見ても内容が分からず当たり外れも判別できない。かといってネットで調べるのはネタバレが怖いし何より多少なりとも手間となる。

 調べ物のためとはいえデート中に女の子の前でいきなり携帯をいじり出すことに僅かながらの忌避感があった俺は、一番手っ取り早い手段としてさとうに聞いてみることにした。

 秘技、他人頼みである。

 

「なんかオススメとかある?」

「うーん、個人的な感想だけどコレは結構面白かったよ。しおちゃんも感動してたし」

 

 売れ残りのクリアファイルを指差してさとうが応える。

 しおが好きな作品と言っていたそれは、遠くに貼ってあるポスターを見る感じ子ども向けのアニメ映画であるようだった。

 しかしこのファイルに描かれているのは子どもが泣くこと必至であると断言できるほどに醜くおぞましいキャラクター。なぜコイツをチョイスしたのか。売れ残りも当然である。

 

「ああ、そのキャラ、主人公の女の子のぬいぐるみなんだよ」

 

 コレが!?

 手足が何本も生えてるコイツが!?

 

「その子、映画の最後の方で大活躍するんだけどこれがまた……ああ、これ以上はネタバレになるから控えとくね」

 

 え、すっごい気になるんだけど!

 ぬいぐるみが活躍って何!?

 動くの!? 動くのか!??

 まさかコレが動くというのか!!??

 

「でもさとうは観たことあるんだよな?」

「うん、そうだね」

 

 俺が知らないうちにいつ2人で観たのかはこの際置いておくとして、一度見たものにもう一度付き合わせるのは若干心苦しい。

 好きな作品は何度観ても面白いというが、他にも上映している作品が多数あるのも事実。別に特典があるわけでないのならわざわざ観る必要もないのではと思ってしまう。初見であるということはそれだけで一定の価値があるものなのだ。

 それはそれとして、子ども向けアニメ映画を二十歳過ぎの男が年下の女の子と一緒に観るというのもどうなのだろうという思いもある。

 チケットを買うのにさえ勇気がいる。映画自体は楽しめると思うのだがそれならDVDが出てからしおも一緒に観ればいい話だし……うーん……。

 

「ならコレはどう? 私が密かに面白そうだと思ってたやつ。もちろんさっきのやつと違ってまだ観たことはないよ?」

 

 悩んでいる俺を見兼ねたさとうが提案してくる。

 俺は間を置かず頷きを返した。

 

「よし、ならそれにしよう」

「うん、じゃあ決定ね。上映開始はちょうど30分後だからタイミングもバッチリだね」

「おお、そりゃすごいな」

 

 そんな好条件のがあるなら是非もない。

 その作品のポスターを見る限りよくある男女の恋愛物のようだ。そういえばCMでも見たことがあったかもしれない。確かSF要素も含まれてるんだったっけか。

 デートで恋愛物の映画を観る。

 ド定番ではあるが、だからこそちょっと楽しみでもある。普通に映画を1人で観るのとはまた違った印象を受けるかもしれない。

 

「あっ、でも席とか空いてるのか? 見た感じ結構人いそうだぞ?」

 

 今日は休日。間も無く上映ならば空席は絶望的。それが宣伝をしっかりしている人気の作品ならば尚更だ。

 遠くの電光板を見ればそこには予想通り×の記号が。

 うわぁやっぱり。

 しかもこれを逃すと次の上映はかなり後になってしまう。

 なんてこった。やっぱそう全てがうまくいくわけないか。

 

 俺は絶望に打ちひしがれながら気まずげに隣のさとうを見やる。

 しかし当の彼女はなんの問題もないような様子で佇んでいた。

 俺の視線を受け首を傾ける。その後ややあってから納得したと首を元に戻した。

 

「ああ、それなら大丈夫。ちゃんと予約は取ってあるから」

「おおっ、流石さとう! …………え、予約?」

 

 おい待て予約ってなんだ。

 

 彼女の言っていることの意味が分からない。現状をきちんと認識できない。

 考えようとすればするほど思考の坩堝に嵌っていく。

 そんな風にうんうん悩む俺をさとうは手を引き先導し、気付けばチケット売り場の最前列にいた。

 

 そこで新たな事実が発覚した。

 今日という日は男女で映画を観る場合において割引が適用される日――つまりカップルデーだったのである。

 

 俺は考えることを放棄した。

 映画を安く観れてわたくしめはとても嬉しいでごわす。

 

 

 ****

 

 

 映画はとても面白かった。人気が出るのも納得の出来だった。

 そして俺が高評価を付ける理由の一つとして濡れ場が存在しなかったことが挙げられる。

 恋人同士で観るのをお勧めする作品にはそういうシーンが含まれていることが多々あるものだ。

 しかし今回観たものは例外だった。

 そのお陰で俺は気まずい思いをせずに済んだのだ。

 もし仮にそういうシーンが流れた場合、おそらくさとうは平然としていて隣にいる俺だけが意識してしまうみたいな展開になったことだろう。

 気まずさに加え謎の敗北感も味わうことになるのだ。本当に回避できてよかった。

 

「それにしてもあのシーンは驚いたね」

「ああ、あの後輩ちゃんが殺されるシーンな」

 

 そして現在、少し遅めの昼食を近くにあったカフェでとりながら、俺たちは映画の感想を言い合っていた。

 さとうの意見に一も二もなく頷く。

 確かにあのシーンは驚かされた。それも二重の意味で。

 この作品、なんと主人公と仲良くなりつつあった新キャラの女の子がメインヒロインに切られるシーンがあったのだ。

 新たなヒロイン候補になると思った矢先の出来事。

 これには観ている全員が度肝を抜かれたことだろう。

 そして同時にメインヒロインが人間でないことが明らかになるシーンでもあった。

 メインヒロインは実は独立した意志を持つ自立型の機械人形だったのだ。殺害も武器等は使わず自らの超合金の体で行なっていた。

 手刀が文字通りの刀になったあの瞬間は衝撃的だった。しかもそこから容赦のない首切り。ギャグのように飛んでいく頭部はトラウマ不可避である。

 

「それとあのシーンはすごかったね」

「ああ、あのド派手な戦闘シーンな」

 

 ヒロインを狙う悪の組織との戦い。

 ヒロインのスペックも最高峰なのだが、相手もそれに比肩するほどの武器を数々使用してくる。

 万物を溶かすレーザー。不可視のマント。どこにでも移動できるドア。エトセトラエトセトラ。

 お互い一歩も引かない戦いの末、やがてヒロインはエネルギー切れとなってしまい、絶対絶命の危機を迎えてしまう。

 そこに助けに来る主人公。なんの力も持たない少年は、しかし銃と化したヒロインの右腕を使って敵を殲滅する。

 未来兵器にただの鉛玉で立ち向かう姿は恐ろしいほどにかっこよかった。

 しかも勝ってしまうのだから主人公のやばさが窺える。流石主人公だ。そしてヒロインが初めて涙を流す姿が霞んでしまうくらいの蹂躙劇はトラウマ不可避である。

 

「あのシーンは感動したよね」

「ああ、あの最後のシーンな」

 

 戦っても戦っても新たな組織に狙われ続ける主人公とヒロイン。

 そして通算6個目の組織を壊滅させた時、いい加減鬱陶しさの限界がきてしまった2人は海外へ逃亡することを決意する。

 しかしその矢先に新たな襲撃が起こる。2人の住むマンションに向けて新型核ミサイルが放たれたのだ。

 基本の核対策は怠っていなかったもののそこは流石新型と言うべきか。崩壊こそ免れたがマンションは火事を起こしてしまう。

 下から迫る火の手。もはやここまでだろう。生身の人間である自分はどうあっても助からないから、せめて最愛のヒロインだけは助かってほしい。

 そう主人公が諦めかけた時、果たして奇跡は起こった。

 今まで何度挑戦しても成功し得なかった空中飛行。それをヒロインは土壇場で成功させたのだ。

 2人はそのまま空へと逃げ、ついでとばかりに海外まで飛んでいく。

 お金のかからない、実に合理的な海外逃亡だった。法を犯してはいるが、その世界では普通に国が消滅したりしてるので今更だろう。作品内の登場人物にも、映画館の席に座る観客の中にも、気にする者は特にいなかったはずだ。

 

 しかし火事か。

 俺自身マンションの最上階に住んでいるだけについ気にしてしまう。

 もし下から火が迫ってきたとしたらどうすればいいのだろう。

 そん時は大人しくヘリコプターを待つことにでもするかな。

 ま、誰かが故意に火を付けない限り平気だろうから心配する必要もないけど。

 大量のガソリンでもぶち撒ければ別だが、火の消し忘れ等の些細な事故でマンション全体が燃えるほどの火事が起こるとは思えない。

 俺は自分の住む場所の耐火性を信じることにした。限りなく低い可能性は考えるだけ意味がないのだ。

 

「……お兄さんすごいね」

「え、何が?」

「だって、私は『あのシーン』としか言ってないのに全く誤解なく伝わってるんだもん」

「おお、まじか」

 

 ぶっちゃけ独断と直感で話を合わせていただけなのだが、そう言うということはまさか全部当たっていたのか。

 俺すごい。そして嬉しい。

 つまりこれは俺とさとうの感性が似ていると言っても過言ではない。

 同じ映画を観て同じ感想を抱く。

 一つの作品に対する意見の共有とは楽しいものだ。

 

 

 昼食が終わり、言いたいこともあらかた言い終えた俺は少しだけ冷静になった。

 そして冴えた脳は一時の感情に惑わされず、作品を正しく評価する。

 落ち着いた俺から言いたいことは一つ。

 今考えると、あの作品、突っ込みどころが多過ぎた気がする。

 

 

 ****

 

 

 一緒に映画を観て、一緒に昼食をとり、そのままいくつかの店を回っていたらいつの間にか日も暮れそうな時間になってしまっていた。

 あれ、今日の目的ってなんだっけ。

 確かしおの誕生日プレゼントを買うことだったよな。

 俺は確かに途中で一つアクセサリーを購入したが、それもさとうへ贈るためのもの。

 しおへのプレゼントは一つも買っていない。そしてそれはさとうも同じ。

 これじゃ本当にただのデートじゃないか。

 

「なあ、まさかお前ともあろう者がしおのことを忘れてたわけじゃないよな?」

「私が? しおちゃんのことを? もう、お兄さんったら、そんなの世界がひっくり返ってもあり得ないよ」

 

 違うと知っていながらも念のためした質問に対して間髪入れずに断言するさとうは『何言ってんだこいつ』といった様子で俺を不思議そうに眺めていたが、やがて何かに気付いたのか「ああ」と頷く。

 

「もしかして誕生日プレゼントのこと?」

「そうそうそれそれ」

「ああ、それなんだけど……実は私、もうしおちゃんへのプレゼントは用意してあるんだ」

 

 なんやて!?

 

「全く、お兄さんもまだまだだね」

 

 やれやれと呆れ気味に首を振ったあと、悪戯が成功した子どものような笑みとドヤ顔を混ぜ合わせたような表情でこちらを見やってくるさとう。

 なんだこの敗北感は。つまり最初から全部さとうの手の平の上だったということか。

 今にもスキップをしそうなほど上機嫌なさとうとは裏腹に、俺は肩を落としながら重い足取りで夕暮れ時の帰り道を歩いたのだった。

 トボトボ。

 

 

 

 ****

 

 

 

 1月1日。

 それは年の始まりの日。お正月という名の避けては通れぬイベントの日。

 おせち、年賀状、初日の出に初詣、その他諸々やること盛りだくさんの日。

 テレビもいつもとは一風変わった番組が流れており、普段なかなか顔を合わせない親戚との数少ない交流の場が設けられる日でもある。

 世界中の人が大なり小なり相応の気持ちで相応の行動をする。それが1月1日という日の凄さであり大きさであり強さでもある。

 

 しかしそんなことはどうでもいい。それよりも重要なことはある。

 そう、今日という日はしおの誕生日であった。

 

「よし、それじゃあお兄さん、早速取り掛かろっか」

 

 腕捲りをし、気合いを入れたさとうがホイッパー片手に作業の開始を告げる。

 家にいるのは俺とさとうのみ。しおを含めたみんなは初詣へと出掛けている。

 別に仲間外れにされたわけではない。しおの誕生日ケーキは自らの手で作りたいというさとうの願いの結果だった。

 パーティー開始は夕方。それまでに俺たちは準備を完遂しなければならない。

 後から他にも合流する人はいるが今は2人のみ。しかしだからといって浮ついた気持ちでいるわけにはいかない。

 ケーキを作るという重大な仕事をする上で不必要な感情は徹底的に排除すべきだ。

 それ一つでパーティーは成功にも失敗にも転がり得る。やるならば完璧を。万が一にもミスは許されない。

 

「お兄さんはこれとこれと、あとこれを計量しといて」

「了解」

 

 昨日さとうに渡したプレゼント。その出番が早速やってきた。

 惜しむべくはそのうちのいくつかは最初に使うのが俺になってしまったということか。

 なぜ俺が贈った物を俺自身が使わにゃならんのだという気持ちはある。しかし見ているだけよりはだいぶマシだろうと割り切ることにした。古いやつを使うという選択肢もあるにはあるがどうせなら良いやつを使って最高のものを作りたい。しおの笑顔が曇るようなことがあれば俺はマンションの屋上から飛び降りたくなるだろう。

 

 で、それはいいのだが、計量している俺はあることに気付いた。なんか量が全体的に多い気がするのである。

 以前しおはさとうに言った。ウエディングケーキを食べてみたいと。

 それに対してさとうは応えた。なら私が作ってあげると。

 しかし完成したのは普通の――いや、普通のものよりも幾分か小さいサイズのケーキだった。

 いくら万能なさとうといえど、作ったことのないものを作るのには苦戦したらしい。

 しかもウエディングケーキといえば俺が想像できる甘味の中でも作成難易度最上位の一角を担う存在だ。

 だから失敗するのは仕方なかった。ある意味当然の結果とも言えた。

 しかしだからといって簡単に諦めるようなさとうではない。

 1回ミスをした程度で彼女はへこたれない。

 彼女の高スペックは一見才能によるものが多いように見えるが、その多くは努力の結果身に付けたものなのである。

 

 さとうはしおの願いを叶えるために燃えていた。

 リベンジが始まる。

 

「……とは言ってもこの量は流石に多すぎね? 作れたとしても食べ切れないだろ」

「そこは大丈夫。もし余ったらすーちゃんあたりにお裾分けするから」

 

 すーちゃんの扱いが酷い。まるで残飯処理係のようだ。

 確かに彼女にとってはさとうの手作りお菓子などご褒美以外の何物でもないだろう。

 しかしだからこそ懸念もある。それがどんなに大量であれ、彼女のことだから無理して食べ切ってしまうはずだ。しかもおそらく1人で。

 ただでさえ寒さで体調を崩しやすいこの時期。わざわざ新たな要因を加えられるところを見過ごすのは流石に気が引ける。

 もしさとうが看病するとかなら喜んで病に侵されるだろう。だがそれとこれとは話が別なのだ。本人が望むからって何でもしていいわけじゃない。

 

「……じゃあ見た目はそのままに、大きさだけ少し調整しよっか」

 

 そしてなんとか説得に成功した。

 もしそのままだったならかなりやばいものが出来上がっていたことだろう。

 推定だけでも大きさは昨日食べたケーキのおよそ4〜5倍。

 一方今日のパーティー参加予定者は7人。

 どう考えても釣り合っていない。

 材料は余ってしまうが、出来上がったものを余らせるよりははるかにマシだろう。

 開封しなければまた次の機会で使えるのだ。

 

 

 そしてなんやかんやあって無事に完成したケーキは、大きさを見直したとはいえまだまだ大きいものだった。

 でもまあこのくらいならなんとかなりそうなので良しとする。今日は来れない2人の分も残しておけそうだ。長く置いておくことは無理だがその時は俺が食べればいいだろう。

 さとうの手作りケーキを食べたがるのは何もしおやすーちゃんだけじゃない。

 俺も手伝った気はするがそこはまあノーカンなのである。

 

 

 

 そしてその後、誕生日会は盛大に行われた。

 しかし1月1日という忙しい日に開催されたため用事が入って来れない人が2人もいたのは残念だった。

 1人はすーちゃん。まあすーちゃんとしおは直接的な関わりはあまりないのでそこまで気にする必要はない。さとうが出席するというだけで何食わぬ顔で参加しそうなものだが家の用事ならば仕方ない。これで来てたらどこかの誰かと同レベルである。

 もう1人はしょうこちゃん。未来の義妹の誕生日会なのだからさぞかし参加したかっただろうが、こちらも家の用事なので仕方ない。彼女の家はかなり裕福な家庭であるらしいし、そういう家は年始には決まって大規模な親戚の集まりがあるものだ。きっと豪華な衣服に身を包み立食パーティーなどをしているに違いない。めんどくさそうにしているしょうこちゃんの姿がありありと浮かんでくるようだ。

 そしてそんな中普通にいる太陽まじ太陽。

 お正月舐めてんのか。しおより家族を優先しやがれと言ってやりたい。

 まあしおはこんな奴でもいなかったらいなかったで寂しがりそうな天使なので実際には言わないけどさ。しおが優しくてよかったな。場合によってはものすごく嫌われてた可能性だってあるんだからそろそろ自重しろ。お兄さんからの命令だ。

 

 そしてケーキ登場。

 しおがケーキの大きさに目を輝かせ、あさひは驚きで目を丸くする。

 ゆうなさんは甘い物の食べ過ぎを心配していた。クリスマス、さとうの誕生日と来て今日だからな。こんな短い期間でケーキを食べまくってたらそりゃ心配にもなる。

 太陽は気持ち悪い顔になっていた。お前としおの結婚式会場じゃねぇから。その妄想今すぐやめないと前歯叩き折るぞ。それで聞かないなら鎧通しの技術をもって奥歯も叩き折るぞ。分かったか。

 叔母さまはケーキをじっと見つめていた。俺の願いが届いたようで何より。

 さて、何はともあれパーティー開始である。

 

「誕生日おめでとう、しおちゃん!」

 

 昨日のすーちゃんの役を今日はさとうがやる。

 満面の笑みのしおに、他のみんなもつられて破顔する。

 さて、それじゃ早速ケーキを……ん? どうやって分けよう。

 7等分? めちゃくちゃ難易度高いしそもそも7等分じゃ1人分が多過ぎるな。縦にもでかいので切るの自体大変そうだし。

 結果、ケーキを分解することになった。

 完成形をしっかりと写真に収めた後、ケーキを上半分と下半分に取り分ける。

 するとあら不思議、大小2つのケーキが現れたではありませんか。

 一先ず分けるのは上半分の小さい方のケーキだ。下のは飾りが付いてないからな。

 

「よーし、しお。今日の主役はしおだから、しおの好きなようにケーキを切っていいぞ!」

「ほんと!?」

 

 俺の言葉に諸手を挙げて無邪気に喜ぶしお。

 雑用を主役に押し付けるような真似をしてすまない。試すような真似をしてすまない。

 しかし思い付いてしまったんだから仕方ない。しおがどのような行動に出るのかすごく気になるのだ。

 

「ここにいるのは全部で7人だから、ケーキも7つに分けるんだぞ」

「うん、分かった!」

 

 別に等分しろとは言っていない。たくさん欲しいなら自分の分を大きく分ければいいし、食べたいものがあるならそこを自分の分として切り取ればいい。

 全ての選択権をしおに与えたからこそ、周りも俺の提案に文句は言わない。

 ちなみに使っているフルーツはいちごのみに非ず。

 さあ、どれでも好きなように好きなだけ持っていくがいい!

 

「うーんと……あれ?」

 

 しおは優しく、自分だけが得をしようなどという考えは持ち合わせていない。故にしおはケーキを等分しようとした。しかし目の前にあるのは8つに分かれたケーキ。その大きさは大体揃っていた。

 

「1、2、3…………あれー?」

 

 個数を数え、やっぱり8個であることを再確認するしおちゃん可愛い。

 もう仕草一つ一つが愛らしかった。心があったかくなる。衝動的に太陽の目を潰したくなった。

 

「うーんと、うーんと…………あ!」

 

 どうしようかと悩み続けていたが、やがて解決策を見つけたのかしおがパッと顔を上げる。

 その手にフォークが握られた。そしてケーキのうちの一つを突き刺しパクリと頬張る。

 俺たちはその光景を黙って見守った。少ししてケーキを食べ切ったしおはこちらを見て満足そうに笑った。

 

「これで7つになったよ!」

 

 流石しお。天才の発想であった。

 

「よくできたなしお。ほらこの中から好きなの選んでいいぞ」

「うん! ……あ、でも私の2つ目になっちゃうよ?」

「上手にケーキを切れたご褒美だからいいんだよしおちゃん!」

「わーい!」

 

 頭がよく、他人の機微に敏感で、何気ないところで大人っぽさを見せることがあるしお。

 しかし同時にこういった子どもっぽい一面も持ち合わせている。

 これがギャップ萌えというやつだろうか。もう可愛いとしか言えない。

 

 和んだ空気の中ケーキを口にする。

 うん、美味しい。

 昨日のケーキも美味しかったが、今日のはさらに何倍も美味しく感じる。

 見た目、味も完璧だが、やはりさとうの手作りという事実による補正も大きいのだろう。

 全身が癒されるようだ。それでいて体の芯からポカポカと暖かさが生み出されるよう。

 

 きっと今年もいい年になるだろう。

 漠然と、しかし確信を持ってそう思えた。

 たぶん、俺は単純なのだろう。

 はむはむ。

 

 

 

 こうしてしおの誕生日会も大成功のまま無事終わった。

 翌日しょうこちゃんとすーちゃんも参加し、もう一度誕生日会に似たパーティーを行った。

 ケーキはまだ残りがあった。

 そして俺は甘いものの摂取量には限界があると知ったのだった。

 

 




しおちゃんメインと見せかけたさとちゃんメイン回になってしまった。
しおちゃんメインは難しい。主人公はロリコンじゃないのです。
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