「みなさん!スーパーウルトラベースボールの時間ですよー!」
『きたあああ』『待ってた!』『野球しようぜ!』
「当時のプロ野球を参考に作られたセンチュリーリーグ、パラダイスリーグ、
そしてこのゲーム独自のウルトラリーグの3リーグから選べるんですが……。
このゲームを楽しむにはウルトラリーグでやることになります」
『お、おう?』『せやで』『そーなのかー』
「えーっと最初にですね、たくさん対戦したいんで、イニング数は一発勝負の1、
ウルトラ打法、ウルトラ投法のポイントは無制限です!なので、
まともな試合にならなくなるミサイル打法、ワープ魔球、ストップボール、
アクセルボールは設定しません」
『えー?』『う、ウルトラ?』『魔球か何か?』『知らん人結構いるのな』
『あーまーそこらへんはね……仕方ないね』
『それあるとそれしか使わなくなるしなw』
「その理由の説明に、この『ワゴンセール』と『アキソーコ』のチームを使います」
コンソールから5番目と6番目のチームを選択し、アーカイブ表示モードで起動する。
「まず最初にストップボールを投げますね」
ワゴンセールチームの先発投手の手からボールが放たれる。
そのボールは……空中でピタッと停止して、その後再起動してキャッチャーミットに納まった。
『ふざけんなwww』『え……その、何?』『物理法則ドコーw』
「それで、これがアクセルボールです」
そのボールは今度は途中で急加速して、キャッチャーミットに収まった。
『打てるかwww』『無理ゲーww』『これは禁止』『ああうん、そうね……』
「ええと、最後にワープ魔球……名前で分かりそうですけど」
ワープ魔球はあんのじょう、
ボールが打者に届いたと思ったらワープしてキャッチャーミットに収まっていた。
『wwwww』『頭おかしいwww(褒め言葉)』『自重しろwww』
「お分かりいただけたでしょうか。次は打者のミサイル打法を見せますね」
『打者にもあるのか……』『震えて待て』
逆側のチームで操作して、ピッチャーに普通の球を投げさせる。
「行きますよー、それ!」
打たれたボールはミサイルのように低空飛行のライナーとなって、
捕球したファーストとライトを巻き込んでフェンスに当たり跳ね返った。
『いいかげんにしろwww』『超人www』『ウルトラ過ぎるwww』
「これ速すぎて守備での対応も難しいです……まあ元々普通じゃ取れないんですけど」
とりあえず一通りの「禁止技」を解説した俺はそこでリセットして、
エディットで両チームを開き、ウルトラ打法・ウルトラ投法の内容を書き換えた。
今見せた投法・打法は当然排除した。
『残当』『仕方ないね』『あいつらはやりすぎた……』
「それでは、皆さん手を挙げてください。10番目の方を……」
『ノ』『ノ』『ノ』……
「最初は……スミス岩さん。よろしくお願いします」
【よろしくお願いします】
配信上の特定通信機能をオンにして、対戦相手の発言も判別可能にしておく。
「えーっと簡単にチームの説明をしますと、1番目の「ウィニー」が速い、
2番目の「ファッティ」が普通に強い、3番目の「コンボ」が変化球とか小技系、
4番目の「バーン」が爆発して強い、5番目と6番目がその他を集めた在庫処分チームですね。
【在庫処分?】
「ええまあ、ウルトラとか言っても使えないのもあるんで、一応そこに配置したというか」
そうこう言っているうちに、スミス岩さんは2番目の普通に強いチームを選択。
俺は3番目の「コンボ」を選んで試合が始まった。
「ふふふ……」
何人もの俺のアバターが整列し、プレイボール。
残念ながらアバターをあらかじめ登録しなければゲームデフォルトの野球アバターだが、
俺は自己アバターをゲーム利用登録して、
チーム全員がそのステータスに合わせて微妙に改変された俺の姿となった。
深緑色の帽子にバット、あこがれのスポーツ用メガネにユニフォームは薄緑でスカート。
ゲーム特有の鉄壁処理がなされた魔法のスカートである。
『うーん、これは見えない』『見えないスカート』『こんなにいるなら一人位いいだろ!』
『何がいいんだよw』『通報しました』『しまってこー!』
俺は1P側で、設定を変えなければつまり後攻である。
「コンボ」チームのエース、その名も「のびる」
エディットにより球速は100キロ前後、
しかしアホみたいに曲がるスローボールで、ボールから内角・内角から大外、
大外からまたストライクに入るクソ変化球で三者三振に切って取る。
相手のウルトラ打法も、当たらなければどうという事はない。
『知ってた』『それな』『のびちゃんならこうするだろうなw』
『汚いなさすがのびる汚い』『あもりにもひきょうすぎるでしょう!?』
「いいんですー!これは基礎能力だけだからずるしてないですー!」
『まるで小学生キッズのような言い訳w』『ああ小学生だった感』『それなw』
『まあこのゲームじゃよくある光景よ』
その裏の攻撃。相手の先発はやはりエースの「コーリンサマ」
「その投手のウルトラ投法は、スネークボールですね。
蛇のようにうねりながら飛んできて、球速が速いので脅威ですが……私なら打てる!」
「コンボ」チーム1番、「のびちゃん」のウルトラ打法は、イレギュラー打法。
これは打ち上げるとあまり意味がないが、転がしてしまえばその名の通り、
イレギュラーバウンドを繰り返す追跡不能ボールへと変わる!
『ずっけえええええ』『ロムハックしてない?』『え?これランダムなの?』
『何で丁度守備空いたところに突っ込めるんだよw』『 い つ も の 』
ノーアウト2塁、足の速い1番を置いて2番、「のびかげ」
「ここでちょっと手心をですね……大車輪打法!」
【せ、世界がああああああ】
『ひっでえwww』『初見殺しwww』『球場ごと回転してんのかよww』
『回転して位置が見えないwww』『プレイヤーを混乱させてくwww』
『キタネエwww』『さすのびwww』
相手が戸惑っている間にのびちゃんがホームイン、ゲームセットである。
「いやーいい汗かいた!」
【もう少しこう……何というか】
『あきらメロン』『のびちゃんはいつものびちゃんだな(褒め言葉)』
『知ってた』『それな』『然り然り』
「では次の方。ええと、ストロングスタイルさん、お願いします」
ストロングスタイルさんは4番目の「バーン」チームを選ぶ。
【のびちゃん、よろしくね!】
「お、おおぅ意外と乙女さんでしたね……はい、ゲーム開始です!」
俺のエース「のびる」は、今度はウルトラ投法、スパイラルボールを使った。
ボールは時速30キロぐらいの超スローで小さな螺旋を描きながら進む。
これは球速が遅いゆえに細かい制御が可能なウルトラ投法である。
『うっぜえええwww』『遅すぎるwww』『滞空時間長えwww』
1人目は見事に三振。
しかし2人目で、ついにウルトラ打法「爆発打法」を使って打たれてしまった。
【行った?行ったこれ!?】
「今度は守備だ!」
こんなこともあろうかと!俺はかなり守備もかたい。
「ウルトラ守備」で大きくジャンプして、ホームラン性のボールをキャッチした!
【えええええ!?】
『ふざけんなwwww(2度目)』『知ってた』『それな』
『そりゃ守備もあるよなw』『なんで捕れるの……』『わからん……』
そして3人目……俺はついにエース3つ目の切り札、最後の初見殺しをセットする。
【震?】
そして投げられたボール……とは全く無関係に、その瞬間フィールドが震え、大地震が起こった!
「これが大地震ボールの力だ!」
『ふざけんなwww(3度目)』『やりやがったww』『本当にこういうの好きだなw』
『振れば当たるぞ!頑張れ!』『初見で無茶言うなwww』
初見だろうがなんだろうが、これで1回の表は終わりである。
1回の裏、燃える魔球やエレキテルボールを駆使したストロングさんだったが、
1番「のびちゃん」はイレギュラー打法で当然のように2塁に到達。
『ですよね』『これは無理』『ホント容赦ねえなw』
2番「のびかげ」もまた、大車輪打法で打点を狙うが……。
【大車輪打法、敗れたり!】
なんとストロングスタイルさんは根性で見切り、
のびかげを内野ゴロに打ち取った!
「なんとぉっ!?」
『うおおおおお』『やったぞ!』『やりやがった!』
『マジで根性がストロングだわ』『よー行けたなこれw』
しかし1アウト3塁となり、打率の高い3番、「のびもち」である。
そしてこの3番のウルトラ打法は……。
「はいっ!」
『何もない?』『そんな馬鹿な!』『普通だぞ!』『内野ゴロだ!』
一見普通に打っただけに見える打球。
しかしウルトラ打法がそれだけのはずはない。
ストロングスタイルさんは1塁にボールを投げるが……。
【何でくっついてるのーーー!?】
『くっついたwww』『取れねえwww』『粘着www』
『うっぜえええええwww』『もう許してやれよwww』
送球が野手に絡みつき、人工衛星のように野手の周りをゆっくりと回る。
その間は操作不能となり何も出来ない。
それが地味に嫌らしい恐怖の時間稼ぎ打法、マグネットボール打法である!
そしてその間にのびちゃんが当然のようにホームインして、試合終了。
【あーもうむちゃくちゃだよー……】
『www』『ワロスwww』
「ストロングスタイルさん、ありがとうございました!」
イニングを1回に設定しただけはあり、その後も試合は次々と続いた……。
………………
「ただいまー」
前世では年月によって対象者がいなくなり、最後はする機会がなかった何気ない挨拶も、
現在は毎日のように繰り返す当たり前の日々の一部である。
「帰ったか妹よ。お芸術は順調かな?」
「忘れてよ!もー!」
今日は忙しい姉が珍しく早めに家に帰っていた。
こういう時は何か俺に話があると相場が決まっている。
実はこの姉と、オタにぃにだけは転生者ということがバレているのだ。
姉は発掘者であるからして古典知識全般に強く、
俺が5歳の時にポロッとこぼした古典の知識から不自然さを感じ取られて、
その後オタにぃにも隠し切ることが出来ず……という流れ。
当然といえば当然なのだが、俺も当時はまだ転生後幼い身体に慣れ切っておらず、
流石に感づかれて誤魔化す芸当までは出来なかった。
今も100%行けるかと言われれば怪しいところではあるが。
「ちょっと相談があってね……なんか良さそうなゲームないかな?」
その後こうやって、知識を求められることがある。まあ俺としても、
未発売ゲームのデバッグとかテスターやらせてくれることもあるんで悪くは思っていない。
「えーと、確か帰ってきたマリオブラザーズとかいうファミコン書き換えディスク専用の、
マリオブラザーズがあったような……」
「ちょ、私それ聞いた事ないんだけど!?マジで!?マリオの未発掘があるってこと?
もっと詳しく……」
「あーいや、ふりかけの企業CMが入ってて安いとか何とか?
まだあるかな?なんか社名変わってるかもうないかも知れんけど」
「そういう系かぁ。分かった、探してみるね」
どういう基準で残されてるのか知らんけど、ファミコンのリメイク再現率も実はまだ9割程度で、
残りの1割が少ないゆえに発掘評価がうなぎのぼり……という、
プレミアム現象が起こっているらしい。
ちなみにPS2が3割、PS1が6割の再現率でその辺の世代に発掘者が集中している、
とは姉から聞いた話。
まあ姉のお陰で俺も古典発掘者周りの知識を小学生レベルとは思えないほど仕入れて、
このまま成長できれば(この未来の基準においては)お堅い、
発掘者関連の職につくことが出来そうだ。
主に姉にはスーファミ以前の知識を渡し、俺用にPS時代以降の知識は取っておいてある。
実績は既にあるからプレミアという信用度が欲しい姉とこれからの俺、分業でwin-win。
2人で話し合って決めた話だ。
「あ、そういえば私も相談があったんだ。ゲーム配信で来場者千人行ってさ。
どうしたらいいのかと……」
発掘だけではない、兼業配信実況という俺の望む未来へと一歩進んだがゆえに見えてきた道。
その先に進むため、俺は迷いなく聞き出して、対処することに決めた。
スーパーウルトラベースボールの日常