カルナさん、鎖に繋がれ緊縛ぷr(作者よ、死に侯え)
※※原作との矛盾が生じた為、内容を少々書き直しました。
ピチャリと石の間を伝い、地下水が滴る音が響く。その他にもカサカサと何かが蠢く音。この地下牢で命を落としたと思える怨念達の嘆きが、そこに座す男をそちら側へ引きずり込もうと囁くも、その男――カルナは微動だにせず、ただ目を閉じ瞑想するかの如く、鎖に縛られたまま座っていた。
どれほどの時間がたったのかは、カルナには分からない。ここは父の光も届かぬ地下牢。
無論、カルナがその身に宿す神性を、ほんの少し開放するだけでこの場は崩れ落ち、彼等京都妖怪は、自分達がどれほどの存在を侮っていたのか分かるだろう。だがそれをしないのは、カルナが帝釈天より預かった、「彼等を見極めろ」という使命を全うできない為だ。
【恐れられては本意を知るなどできぬ。武人である己は、ただ使命を全うするのみ。その為には、どのような扱いを受けようと、相手の懐に潜りこんだほうが、はるかに効率的だ】と、カルナは状況が動くその時まで、このままでいるつもりでいた。何よりこのような不当な扱いに、彼は
そのように考えていると、不意にカルナの耳にコツコツと、石階段を下る足音が聴こえて来る。
その足音が、カルナが入れられた牢獄の前でピタリと止まり、閉じていた眼を開くと、そこには彼を連行した中にいた、鴉天狗の一匹が立っていた。
「お前が須弥山からの確かな使者であると、弥々殿が幹部に説明なされた。出ろ――この京都の御大将、
◇
「――よう来られた、須弥山からの客人よ。わらわがこの京都、西日本に住まう全ての妖怪達の御大将。八坂じゃ。よろしゅう頼む」
カルナが捕らえれていた屋敷の最奥に位置する部屋の中、カルナはついに京都妖怪達の総大将、八坂にお目通りすることができた。
金毛輝く髪の毛は、ここが浮世であると忘れさせる程に美しく。口元を隠し、眼を細めこちらを見る仕草は普通の男であれば、それだけで理性が蒸発しそうに蠱惑的だ。
そこから八坂はカルナに口を開く間を与えずに、口早に今回の会談についての予定を詰めていく。
「さて、互いにこうして面通りしておるが、あいにくと、わらわは今、体調が優れぬ。お主にはちと悪いがもうしばし、観光を楽しみ待ってほしいのじゃが?」
どうかな?と問いを投げかけて来るが、これは命令だ。その証拠に、カルナと八坂のいる部屋の左右には殺気を隠す気も無い、大妖怪に分類される猛者共が、カルナの事を睨んでいるではないか。
「オレは構わない。いつまでにお前達と話して来いとは、あの男から言われていないのでな」
「それは良かった。いきなりの不躾を、許してもらい感謝するぞ使者殿」
感謝と口にはするが、そこには嘲りの感情が垣間見えていた。
相手は
「では、弥々」
「…はっ」
八坂に名を呼ばれ、屈強な妖怪達の隙間から、細い身体を潜り込ませるように弥々がカルナの隣で三つ指揃えて八坂に頭を下げる。
そこには先刻カルナと対峙した時のような、烈士の如き激しさは無く、今にも霞に紛れてしまいそうな、儚い雰囲気があった。
「其方には引き続き、そこの使者殿の観光を補助してもらう。日時が決まり次第、狐をそちらに送るでな。それまで決して、使者殿がこの京都で迷子にならぬよう、片時も離れぬように」
もはや隠す気も無い。つまりカルナを見張れという事だ。
もう話すことも無いと言いたげに、八坂はカルナから眼を離し、それを合図に弥々がカルナを伴い、表の京都に戻ろうと促す。
「
だがそこに、待ったをかける声がカルナにかけられる。それはこの場にいた大天狗が放った言葉であり、どうやら想定外の事であったらしく、周りの者がざわりとし出すが。
「静まれ、我等の行動一つ一つが、この京都そのものの価値をこの男に見せると思え」
まさに鶴の一喝。瞬時に騒然としていた者達は静まり、まるでこの大天狗こそが
カルナは黙したまま、話を聞こうと大天狗に一歩踏み出す。
「何用か、これではお前達の
「
大天狗はそう言い、まるで赫火の炎もかくもやと、鋭い眼光をカルナに向け。
「お主、我等が御大将の名乗りに何故返さん。それがどれほどの意味合いを持つかも知らぬ使者を、天帝殿は送り込んで来たのか?」
そう、誰もがカルナを名で呼ばず、『使者』と呼ぶのはカルナが自らを名乗り上げていない為だ。だがこれには理由があり、帝釈天が『お前には、もっとド派手な舞台を用意してやる』と言い、木っ端程度に教える義理はないと命じていたのだ。
大天狗のその問いかけに、カルナはいつものように、揺れぬ瞳で答える。
「あの男は向こう見ずな所はあるが、決して愚かでは無い。むしろ戦略すら見据え、己が名を貶めてまで勝ちを取りにいこうとするほどだ。その姿は決して、侮辱する事は許されぬ尊い行為であり、何よりオレが名を明かさぬ理由など、お前達は分かりきっているのだろう?」
「…何?」
大天狗…だけではない、上段で口元を隠しその様を見守っていた八坂。カルナに不審な動きあれば、即座にと構えていた者達全てに冷や汗が浮かび、そして…。
「オレは
最後にビクリと身体を震わせる
「――…ハァ、バレておったか。…もう良いぞ」
大天狗がカルナが去った部屋の中で、溜息と共に八坂…に
するとボフンと煙を上げ、中から九つの尾を持つ狐ではない、一尾しか持たぬただの狐が身体を震わせ現れたではないか。
「あ…あの、皆様…その…私の所為でしょうか…?」
恐る恐るといった感じで、ここに座す幹部達と比べ、格下の彼女はカタカタと震え叱責を待つ。
「いや、あの男…どうやら初めから分かっていたようじゃ。弥々殿の言った通りじゃな。儂もあの眼に睨まれた途端、心を暴かれたかのような錯覚に陥った。…誰じゃ、あれを人間風情と言った馬鹿者は」
この場を代表し…いや、実質的に八坂が行方不明な今、この京都を一粒種の九重に代わり治める大天狗は、集まった各種族の長達を一瞥する。
「わ、儂ではないぞ」 「儂もじゃ!儂も違うわい!」
かつては源 義経がまだ牛若丸であった時、彼を鍛え上げた鞍馬山の大天狗に睨まれては堪らんと、各々が違うと声を張り上げ、それは再び大天狗が溜息を上げるまで続き。
「ハァ…まぁ良いわい。こう言っては何だが、バレていたとはいえ、何も聞かれず助かったわい」
いや、正確に言えば八坂はまだ、この京都のどこかにいる。
“千年京”とまで呼ばれるこの都、それを可能にしたのは何もこの地を守護する者達の努力だけではない。
氣を操り地脈を纏め、千年の風化にすら耐えうる強固な陣を持って、途切れぬ流れの中に置く。
『陰』と『陽』、『妖』と『人』――住まう者達で太極を描き、その中心と呼べる場所で、氣の流れを管理することこそが御大将八坂の役割だ。
この地で崇められる宇迦之御魂神の眷属でありながら、妖怪としての一面を持ち、その中でも最上位の力を宿す八坂は扇で言うところの
故に彼女がこの地を離れれば、これまで防いで来た天変地異が立て続けにこの地を襲い、不安定となった力場が、いたる所に次元の狭間へと続く穴を作り上げていることだろう。だがそのような事は、まだ一件も起きておらず、それこそが八坂が京都のどこかにいるという証となっていた。
出来れば大陸から、仏教が伝わって来た時より細々とではあるが、知古と言っても良い関係性を保っていた須弥山側に、共に八坂を探してほしいと協力を要請したいところではある。しかし…。
「言いたくないが…恨みますぞ九重様」
言葉ではこの場にいない九重を責めていながら、大天狗の呟きに反応した幹部が睨みつけるは八坂に化けさせていた妖狐。
そう、カルナは囚われていた為、分かり得るはずもないが、あれからすでに一日がたっており、前日にこの京都に足を踏み入れたイッセー達悪魔に対し、勘違いした九重が襲撃を仕掛けていたのだ。この妖狐はその場にいながら、九重を制止するどころか、彼女を危険に晒したと今回罰として、八坂に化けさせられていた。
そのせいで京都側は八坂がいない事実を聖書の陣営に知られ、今この瞬間にも魔王レヴィアタンと、堕天使の総督にして、かつての三大勢力の大戦を生き延びたアザゼルが、ここに向かっているとの報告もあった。おそらくは協力体制と共に、八坂を探す手助けをと言ってくるつもりだろう。そしてこちら側には、それを断る術が無い。何しろこちらは襲撃をしかけ、謝罪する立場に転落しているのだ。それを覆す事など、もはや不可能。
それに須弥山側は
(惜しい事をした…あと一日、いやせめて半日早ければ、あの男と酒でも交わし、本音をぶつけてみたかった…)
大天狗もまた、この京都守護に名を馳せる勇士の一人。その仲間を容易くあしらい、鴉天狗の報告で、追い詰めたとされるあの男…。
とても若者とは思えぬ佇まい。何より己の殺気を涼やかな風の如く受け流し、あまつさえ恐れもしないあの胆力…あれほどの匂うような漢を見せる者など、はや何年見ていないことか…。
(いや、今は聖書の者どもについて、考えねばならんな)
「此度の一件は、全て弥々殿の責であり、あとは彼女に任せたが…これでもって不問とする。よいな?」
大天狗の低く、齢を重ねた者のみが持ちえる厳かな声が部屋に響き、皆一様に賛同の意を示す為頷く。
弥々は全てを話し、カルナの釈放を必死に訴えた。その上で、身勝手な判断で、須弥山と下手をすれば戦争になっていたかもしれぬ今の状況に対し罰を求め、大天狗が下した判決が先程のもの。つまり今最も失ってはならぬ九重の護衛に着く事を許されず、変わらずカルナを見張れといったものであった。
見方を変えれば罰にすらなっていないだろう。だが弥々程の者を遊ばせておくには今の状況では出来ず、またそんな彼女を一歩手前追い詰めた人間を放置することなど、出来ようもなかったのだ。
「では次の件。聖書の者どもの対応であるが…流石に今回は、九重様にも反省してもらわねばならん。ゆえに奴らの対応は、九重様に任せ、次期大将としての自覚を持ってもらい、同盟をいかするかを見極めてもらう。それと同時に我等は八坂様を捜索しつつ、決死の覚悟を持って、九重様を影より必ず守り通せ!
『おう――ッ!!!』
◇
屋敷を出てから弥々はカルナと目を合わせることが出来ず、彼の後ろをトボトボ着き歩くだけだった。
あれは全て、自分の嫉妬が原因…だというのに、あのような不当な扱いを受けさせ、あまつさえ自分は何の罰も受けていない。
何と声をかければいいのだろうか…謝罪する?気にしないフリをする?否、全て否だ。そのような資格すら、今の己には何一つ無い。
だが謝らないという虫の良い考えなど、この弥々にはできない。その為、声をかけようとする。
「あ、あの…全ての責は、この弥々にあります。いかような罵倒も、受け入れる所存でございます」
違う。こんな間接的ではなく、もっと直線的に謝らせてほしいと何故言えないのかと、弥々が一人、更に落ち込んでいると。
「その必要は無い。まず殺しにかかり、それによって同盟を組むか否かなど、オレが生まれたあの国では、日常茶飯事だったのでな」
中国とはそんな恐ろしい国だったのかと弥々が一人勘違いし、戦々恐々するが、カルナが生まれた国というのは【マハーバーラタ】に刻まれた、在りし日の古代インド。何よりカルナにとってこの程度など、辱めですら無い。
こちらも試し、相手も試した。それは言葉を交わさぬ武人の語りであり、彼女とあの大天狗とやらは、充分に己に語り明かしてくれた。特に大天狗など、この何も持たぬ、父に太陽神を持つだけの人間を初見から侮らず、対等の敵として殺気を飛ばしてくれた。かつて御者の息子として、舞台に上がる資格すら無いと侮辱されたカルナにとって、これがどれほど嬉しかったか…。
「お前程の女が、あれ程の怒気を見せたのは、オレが何か言ってはならぬ事を告げたからなのだろう?許せ。昔から、一言多いと良く言われるのでな」
「へ?あぁ、いえ。……御身は、おかしな方でございます」
何を言われたか一瞬分からなかった弥々だが、何となくこれがこの男なりの冗談と、励ましなのだろうと察し。そこにはもう、人間という嘲りと侮りなど無く。今度こそ、弥々はカルナを尊敬できる者なのだと、心の底から言葉使いを改めようやくカルナの隣に身を置き、先程の一件を問うてみる。
「使者殿。何故、あの者が影であると気づいたので?」
もはや隠しても意味はないと、八坂が偽物であったと告げる弥々。本来であればこれはかなりいけない事ではあるが、すでにカルナを信用できると考えての質問だ。
「あの程度の実力では、あの場にいた者達を統括するなど不可能だ。長に必要なものとは即ち、諸人を引き付ける才と、何よりも実力だ。あれにはその全てが欠け、オレに殺気を放っていた鼻の長い御仁が大将であると言われたほうが、まだ納得できたぞ」
「…つまり全て視空かしていたという事ですか。…申し訳ありませんが」
「分かっている。八坂について、オレは何も聞かん。だが…これは独り言だと聞いてくれ。早く見つかるといいな」
何とも不器用生き方しかできぬ、カルナらしい労い。だがそこには確かな優しさが溢れており、人の機微に敏い獣でもある弥々は、その言葉を正しく受け止めることができた。
「っはい!」
ようやく陰を見せていた顔に、太陽のような笑みが燦然と輝きを見せる。
そのまま弥々は、カルナの前へと駆け寄り、もう一度ちゃんと、頭を深々と下げ。
「この度は本当に申し訳ありませんでした。不肖ながらこの弥々、使者殿を会談まで退屈させぬよう、精一杯持て成す事を、どうかお許しくださいまし」
「別に構わない。こちらこそ、この国の作法に疎い為、迷惑をかけると思うが、よろしく頼む」
カルナの誠実さを今一度感じながら、弥々は“裏京都”の出口が近づく中尋ねる。「まずはどのような場所を見て回りたい?」と
するとカルナは顎に手を当て、しばし考えるような素振りを見せると。
「ふむ、ではあの店頭に並んでいた漬物とやら――」
――【千枚漬け】が気になるな。
これだけは言っておきますが、この弥々がヒロインになる事はありません
またしばらく期間が空くと思いますが、次回こそはイッセー達を出せるよう頑張らせていただきます
(早く京都編書き終ってfgo始めたいお…)