施しの英雄    作:◯のような赤子

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今回もカルナさん一切出ません(全キレ)

それと今更ながら、10万U・A突破ありがとうございます!

あと普段から誤字報告をくださる読者様にも、この場を借りて感謝します。本当にありがとうございます!

これからもどうか、カルナさんをよろしくお願いします。



親の気持ち子知らず

世界という水面から見れば、その存在は知覚すらできない程に小さく、しかし穿たれた(つぶて)は次第に巨大な波紋を形成していく――。

 

 

 

七山八海に囲まれた須弥山。その頂上、忉利天にある善見城に戻った帝釈天を待つ男が一人いた。

 

おおよそカルナと変わらぬ14、5歳に見える、まだ幼い面影を残す少年――曹操は、 “神滅具(ロンギヌス)”の由来となった最強と名高い“神器”【黄昏の聖槍】を肩にかけ、帝釈天に自分が須弥山を去ろうとしている旨を伝える。

 

 

「――へぇ、“禍の団(カオス・ブリゲード)”ねぇ」

 

「あぁ、聖書の陣営。悪魔の中で、真の魔王を名乗る者達が立ち上げた組織だ。三大勢力各所の過激派が集まり、世界に変革をと誘われてな。その中で俺は、“英雄派”を立ち上げるつもりだ」

 

 

彼等はどうやら、この【黄昏の聖槍】が欲しいから誘ったワケではなく、使えるなら使ってやろうという、あくまで上から目線で曹操に誘いをかけたらしい。

 

派閥を創り上げると謳う曹操に、帝釈天は色々言いたい事があるが取りあえず疑問を浮かべ、問う。

 

 

「派閥ってことは、仲間が他にいんのか?俺様は見た事ねぇZE?」

 

「いや、まだ誰もいないさ。だからまずはこの須弥山を出て、世界を回り、俺と同じく“神器”を宿す者達や、著名な英雄の血や魂を受け継ぐ転生者を探すつもりだ。できれば彼の大英雄ヘラクレスや、ドラゴン退治で有名なジークフリートが欲しい所だな」

 

 

その眼は己ならば、彼等のような存在を探しきれると自信に溢れていた。確かに彼の中に流れる血、“三國志”にその名を刻む曹操孟徳は、人材発掘の才で有名ではあるが…。

 

 

「貴方の言いたいことは分かる。そもそもこの最強の“神器”を持つ俺に、この須弥山を出ていくなと言いたい所なのだろう?」

 

 

そう帝釈天を見据えながら、言葉を放つ曹操の額には、一筋の汗が浮かんでいた。

 

“神器”というものは、宿主の魂と密接に繋がっており、それだけを取り出すことなど不可能だ。それはつまり、所有者を殺すと同意義となる。本来ならば、“神器”は宿主が死んだ途端、すぐさま別の人間へと宿るのが普通だが…相手は神々の中でも有数の力を持つ帝釈天。宿主を失った神器をそのまま所有することなど、造作も無いだろうと曹操はあたりを付け、下手をすればこの場で殺されるかもしれないと覚悟を決めていたのだが…。

 

 

「いや別に?好きにしな。俺様は止める気ないZE?」

 

「何…?」

 

 

それは曹操にとって、信じられないことだった。各神話勢力からも、来るべきシヴァとの戦いに備え、精力的に“神器”を集めていることで有名なあの帝釈天が、己が持つ“神滅具”をどうでもいいと言ったに等しいのだ。驚くなというほうが無理がある。

 

だが曹操には一つ、心当たりがあった。

 

 

(シヴァとの約定か…?)

 

 

それは彼が保護される以前のことではあるが、この須弥山では彼も知る程に有名な話だ。なにせこの神々の王と謳われた武神が、わざわざ自分でインドに向かい、その頭を下げたのだから…。

 

曹操はそれを、自分を各勢力に奪われない為のものだとタカを括っていたが…どうやらこの様子を見るに、違うらしい。

 

 

「それで?お前はそんな事を言う為に、この俺様に会いに来たのか?親に言われなきゃ、何もできんガキかテメェ」

 

 

まるで興味が無いように…いや、事実帝釈天は己にもはや興味が無いのだろうと考える曹操の心に、黒いモヤのようなものが到来する。その理由は、この武神に頭を下げさせた存在に嫉妬してか…はたまた自分を止めもしてくれない、親のように尊敬するこの男に心配の一声もかけてもらえないことか…。

 

 

「もう一度聞くぞ、曹操。何用でこの帝釈天が住まう善見城まで、その足を運んだ」

 

 

ただの問いかけ…しかし今の曹操には、どこか責められているような錯覚に陥る。だが……――。

 

 

「…決まっている。俺達の後ろ盾になってほしい」

 

「ほぉ?」

 

 

だが…彼はすでに、本音を隠すということに…その受け継がれた古代の為政者の血(・・・・・)は、彼に甘える時間を与えることなく、かつて(・・・)と同じように、破滅への道を歩ませようとする。

 

 

「俺は弱っちい人間様だからさ、後ろから刺されることが何よりも怖い」

 

「だから俺様の名を使わせろと?矛盾に気づいているか?俺様が後ろから刺さないとでも思っているのか?」

 

「矛盾こそが人の業だ。そしてこの俺は英雄となる男…貴方の在り方が、それを許さないだろう?」

 

 

それは“信頼”とは違う“利用”――何とこの青臭いガキは、この英雄達が崇める武神を利用させろと本人を前に、そう言い放ったのだ。

 

 

――だからこそ面白い――

 

 

「HAHAHA!!この俺様を利用するか!!曹操!!どこまでも業腹な奴め!いいZE?なってやんよ」

 

 

英雄とはどこまでも自分勝手な存在だ。その証拠に、どこかの馬鹿は己の誓いの為に、母親の頼みに首を縦にふらず、代わりに奪える異父兄弟達の首を取らず、その命を落としたように――。

 

 

「でもな曹操、お前は一つ勘違いをしている。ゆえに問おう、お前は己の何を持って、英雄と指す?どうやって、この帝釈天を愉しませようと?」

 

 

ニヤニヤと笑いながら、神は人を試そうとする。しかし言葉とは裏腹に、その心に映された情景は、つい最近見た、武神と名高い彼でさえも吐息を漏らした一つの死合い。すでに枯れた男を漢に戻した、あの施しの英雄の姿。

 

 

 

カルナを保護すると決めた時、帝釈天は一つ決めていたことがある。それは曹操とカルナを会わせないこと。

 

 

英雄とは、天に描かれた星辰のようなもの。そして大英雄と呼ばれる存在は、刹那に綺羅めく流れ星――その生涯を諸人に魅せ続け、その終わりを迎える際、彼等は新たな英雄を生み出す礎となる。己が蒼天を見せたこの少年に、カルナはあまりにも眩しすぎるのだ。

 

問わねばならない。もし今の曹操がカルナと出会えば、その影響は計り知れない。大英雄とはそういう存在だ。確かに施しの英雄とまで讃えられるカルナは良い影響を、この英雄の卵に与えるだろう。だが駄目だ、それでは駄目なのだ。

 

どれだけ尊い在り方を示そうと、どれだけ人に施そうと…それはただの真似(・・)にすぎないのだから。そのような者を、英雄とは断じて呼ばない。

 

ゆえに問わねばならない。英雄を目指す彼が、その先に、何を得ようとしているのかを…。

 

すると曹操は天井…いや、この場合は見えぬ空を指さし

 

 

「…あの蒼天に誓った。どこまでいけるのか、どこまで人という弱っちい身でできるのか…この身、この頭脳のみで、どこまであの蒼天に近づけるのかを、俺は試したい!試したいんだ!!」

 

 

次に手にした聖槍を、己を保護してくれた親の代わりとも言える帝釈天へと向け。

 

 

「あの蒼天に、貴方に誓った!!俺はいつか、貴方が認める…神々の王と称された、全ての英雄が崇める貴方が認める男になると!!帝釈天!俺は…俺達(・・)はいつか、神々への反逆を開始する!!歪められた人生、奪われ弄ばれ続けたこの刹那に等しい生を持って、人はこの瞬間、超常の存在へと牙を向けると誓おう!!」

 

 

それは若さに任せた、井の中の蛙に等しい、一人の若者の啖呵。だがそれでも大空の広さを知る彼は、知ってもなお目指すことを止めることなどせず、その身は人しか宿せぬ熱を孕んでいた。

 

 

つまり【何をし、何を利用してでも】という、あまりにも危険な熱を…。

 

 

だが帝釈天はそれを否定することなどせず、むしろ肯定する。

 

 

「…ハッ、いいぜ?それがお前の在り方か。どこまでも人間らしい、手前勝手な口上だNA」

 

 

戦いとは何も、英雄のように煌びやかな面だけではない。

 

血と狂気。泣き叫ぶ女子供を犯し、敗者を辱めることもまた、戦の本懐の一つ。つまり暗黒面も存在するのだ。ゆえに戦の全てを司る帝釈天が、それを否定することなど無い。

 

 

手首から先をプラプラと振り、出て行けという仕草をすると、曹操は黙って一礼を贈る。それが世話になったからか、はたまたこれから厄介をかけるというものかは定かではない。

 

出て行こうとする曹操の背中に、念を押すように帝釈天がもう一度声をかける。

 

 

「おい曹操、忘れんな?人として、俺様の前に来い。使えるモンなら何でも使え、それが仲間の命でもな。だがな、悪魔や人外の力に頼ってみろ。俺様に恥を掻かせたと、殺すだけじゃすまさねぇZE?」

 

「…あぁ、分かっているさ」

 

 

それが互いにとって、最後に交わした言葉だった。

 

閉じられた扉の先を見ることを止め、部屋で帝釈天は手を頭の後ろに組み、一人呟く。

 

 

「ったく、世話の焼けるガキばっかりで、嫌になるぜ…」

 

 

 

この数年後。曹操は失うことになった眼球の代わりに、“メデューサの眼”を移植することとなる。その後イッセー達に負け、帝釈天自らギリシャ神話のハーデスが治めるコキュートスに曹操を落とす時、彼がその様子をどのように感じ、その眼に何を映したかは、本人さえも分からない――。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

シヴァとアジュカとの会談、その数週間後。突如インド神話は鎖国に等しい状況を取り下げ、かつてのように悪魔でさえも好きに入れるようにした。

 

この知らせを受けた悪魔達は、「流石は魔王だ」と自分達の英雄を口々に讃え、その様子を面白く思わない者達は、それぞれが好き勝手な行動をとっていた。つまり悪魔(サイド)は、インド神話が何故あのような事をと疑問に思う事も、その解明もしようとはせず、いつも通りの日々を送っていた。

 

 

だが同じ冥界にある堕天使領。その堕天使達のトップ、総統アザゼルだけは違っていた。

 

 

「クソッ!サーゼクスの奴、相変わらず甘すぎる!!」

 

 

個人的な交友を持つアジュカからの知らせ。同じく表面上は敵対しているとはいえ、交友を持つサーゼクスはそこまで深刻に考えていないようだが…。

 

 

(いや、アイツが悪いワケじゃねぇことは分かってンだ。そもそも悪魔は今、それどころじゃないからな…)

 

 

聖書の陣営で、その数を最も減らしているのは悪魔だ。元々出生率が少ない上に、最近…と言っても数百年前ではあるが、前魔王の血筋が己達こそが魔王に相応しいと内乱を起こし、悪魔達は天才アジュカが発明した“悪魔の駒”で、何とか種としての保存を食い繋いでいる形だ。他勢力に関心を向けている場合じゃないのは分かっている。

 

 

(だが、その“悪魔の駒”でインド神話がこちらを排除したのもまた、一つの理由なんだろうな…こっち(堕天使)は関係無いってのによ)

 

 

“悪魔の駒”の特性の一つに、『他種族を悪魔に変える』というものがある。これを使い、悪魔達は次々と“神器”を宿す人間や、それぞれの勢力で力のある存在、例えば妖怪などを眷属へと変えていた。更にはその眷属達を用いた“レーティング・ゲーム”が人気を博しているのもまた、現政権が悪魔達に無理やりの眷属化を止めない理由となっているのだろう。

 

 

(でもそれだけじゃない、そもそも“レーティング・ゲーム”は各神話にファンを多く持つ競技だ。何せ、今時大規模な戦争なんざできないからな。特に英雄を好む北欧のジジィなんざは堪んねぇモンがあるだろうしな)

 

 

確かに各神話勢力は、互いに休戦状態にあると言えよう。しかし昔とはだいぶ違うのだ。それは自分と四大魔王達との関係が裏付けしている。

 

 

「…【あと数年】と、シヴァは言ったんだよな…?」

 

 

それが何を意味しているのか?その意味を、シヴァがその頭脳を欲しがった理由を、アザゼルはこの場で示す。

 

 

「たかだか数年じゃ、俺達のような人外は何もできねぇ。たかだか100年程度じゃ、俺達は月へ行く事もできねぇからな。…つまり人間…“神器”か…?」

 

 

“神器”所有者の覚醒。即ちシヴァや帝釈天のように、インド神話を元にした“神器”が発見されたのではと、アザゼルはあたりを付ける。

 

 

「…だったら最悪だぞオイ…()()()()()()()関連の“神器”なんざ、下手しなくても全て“神滅具”級じゃねぇか!?」

 

 

多数の武神を抱えていることで有名なインド神話。それ由来の宝具とも称される武器は、全てが神々に届きうる代物ばかりだ。特に弓矢関連などは、お前もう弓矢じゃねぇだろと言いたいものばかりである。

 

例えば以前、カルナが養父母に施した【ヴィジャヤ】。これは持ち主に勝利を呼び込み、その身に守護の加護を与えることで有名だ。他にもカルナが使った弓だけでも、【バルガヴァアストラ】は放つだけで敵対したパーンダヴァ軍を壊滅にまで追い込み、【ナーガアストラ】はあのシヴァをもってしても、破壊不能とされたアルジュナの冠を破壊することに成功している。

 

他にも超兵器【パーシュパタ】や【ガーンディーヴァ】など、上げればキリがない。しかも始末に負えないことは、この全てが下手をすれば、“神滅具”を軽く上回ることだ。だからアザゼルのような“神器”研究者達は、インド由来の“神器”が無いか血眼で探していたのだが…。

 

 

「いやいや、落ち着け俺…まだ見つかったってワケじゃねぇんだ。何とかシヴァやインドラと連絡を取りたい所だが…」

 

 

アジュカに対し、あのような答えを示したのだ。自分にも同じようなことを言わないだろうし、アジュカで相殺できないような攻撃を、遊び半分でされては身体が文字通り持たない。インドラ(帝釈天)はそもそもインド神話が開放されたにも関わらず、今もまだ沈黙を守ったままだ。それについ最近、アザゼルは自分の使者として、バラキエルを送り出したのだが…彼は傷だらけで帰って来た。それが答えなのだろう。

 

 

「どうする…バラキエルであれじゃあ、コカビエルでも駄目だな。それに最近、アイツは何か企んでいるみたいだし…」

 

 

ふと、一人の少年の顔が思い浮かぶ。

 

数年前、己の腹心シェムハザの下に、ある悪魔から少年を保護してほしいとの一報が入って来た。言われた先に向かうとそこには、ダークシルバーの髪を持つ幼い少年がいた。

 

調べて愕然とした。その身には悪魔の頂点ルシファーの血が流れており、更にはかつて自分達三大勢力の衰退を担った二天龍の一角、アルビオン=グィバーが宿った“神器”【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】を持っていたのだ。ゆえにアザゼルはこの言葉を彼に贈った。「お前こそが、過去未来、全てを合わせた中で、最強の白龍皇である」と。

 

その少年、ヴァーリであれば、帝釈天もその懐を開くやもと考えるが…。

 

 

「…いや駄目だな。アイツじゃ逆に、帝釈天にケンカ売って、こちらにエライ損害を与えそうだ…」

 

 

彼は自他共に認める戦闘狂だ。確か今も、ケガの治ったばかりのバラキエルに無茶を言って、戦っているところだと思い出していると…。

 

 

「アザゼル、終わったぞ。…何か悩み事か?」

 

 

扉が開き、中へ入って来たのは先程まで悩んでいたヴァーリ=ルシファーその人だ。子供らしくも無い、すでにその身は戦士のように洗練され、眼光鋭くアザゼルを捉えていた。

 

 

「おう、お疲れさん。良く分かったな、悩んでるってよ」

 

「ふっ、舐めてもらっては困る。お前ともう、何年の付き合いになると思っているんだ」

 

 

カツカツとブーツの音を立て、こちらに来て書類を無断で読むヴァーリを、アザゼルは咎めることなく、どこか遠くを眺めるような眼差しで見つめる。

 

 

(そうか…もう何年もたつのか)

 

 

あの時はまだ、己の腰くらいの身長しかなかったのに。今ではそう背丈も変わらずむしろ超えられそうだ。

 

 

「…早いもんだな、ガキの成長ってモンは」

 

「ん?何か言ったかアザゼル」

 

「いや何も」

 

 

ふむと喉を鳴らし、先程まで読んでいた書類を放り。

 

 

「バラキエルから聞いたぞ。最近須弥山辺りが何か、不穏な動きをしていると…おっと、彼を責めないでくれ、俺が無理に聞いたんだ」

 

「あのヤロォ…簡単に機密情報を流すなよ…ったく」

 

 

それでどうすると、暗に行かせろと告げてくるヴァーリにしばし考えたアザゼルの答えは――。

 

 

「…いや、駄目だ。すまないがアルビオン、出て来てくれ」

 

 

そうアザゼルが言うと、ヴァーリの背中が輝き、そこから現れたのはどこか、無機質めいた機械でできたかのような翼。するとその翼から、声が聞こえてき――。

 

 

『お前が私を呼ぶなど珍しいなアザゼル。それで、何用だ?』

 

「教えてくれアルビオン。確かインドラは、お前を欲しがってたんだよな?」

 

『…あぁ、何代か前の白龍皇は、その身を帝釈天に狙われたことがある。どうやらこのアルビオンの力を、彼の戦神は欲しているらしい』

 

「そうか…いや、すまないな。もう良いぞ、アルビオン」

 

 

会話を終え、再び輝きと共に背中の翼が消えアザゼルはヴァーリを見据える。それが何を意味しているか理解したヴァーリは、気に食わないという顔を隠すことなくアザゼルに食いかかる。

 

 

「…この俺が負けると言いたいのか」

 

「そうだ。今のお前じゃ、インドラには勝てん。万が一を考えろヴァーリ。お前を失うワケにいかん。それにお前、まだバラキエルにさえ勝った事ないだろ」

 

 

続けてアザゼルは告げる。そのバラキエルがボロボロになって帰って来た意味を考えろと。

 

 

「…最近は引き分けばかりだ。それに、もう俺は弱くない。過去と未来において、最強だと太鼓判を押してくれたのはお前だぞ、アザゼル」

 

「だから今は(・・)と言ったんだ。インドラよりも、()()()()()俺にお前はまだ勝てない。まずは彼我(ひが)の戦力を知れ、ヴァーリ」

 

 

そう言われてはグゥの音も出ない。確かに今のヴァーリは、すでに戦線から退き、研究がメインとなっているこの堕天使総督の足下にも及ばない。

 

 

「頼むよヴァーリ…俺は…お前を失いたくない。インドラの野郎は信用も、信頼もできない、何を考えているか分からん奴だ。そんな奴にとって、今のお前は恰好のエサだ」

 

 

グレート・レッド。つまり【真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)】すら超えた、【真なる白龍神皇】となる事を目標としている彼にとって、アザゼルの言葉は耐えがたいものがある。

 

 

「…ふぅ、分かったよアザゼル。だからそんな目で俺を見るな」

 

 

だがヴァーリはアザゼルの頼みを聞き入れた。その眼があまりにも心配そうに…息子を心配する父親のようにこちらを見ていたからだ。

 

ヴァーリは父親から虐待を受け続けていた身だ。だからアザゼルのその眼は彼にとってどこか、むず痒いような印象を与え、だからこそ、ヴァーリはこの場を引き下がった。

 

 

「悪いな、ヴァーリ。代わりにシェムハザに行ってもらう。アイツなら、そう無碍に扱われることもねぇだろうしよ」

 

「だがアザゼル、条件がある。俺のライバル、つまり赤龍帝を早く見つけてくれ」

 

 

二天龍――ドライグとアルビオンは互いに殺し合う宿命にあり、それは“神器”を宿した者達もまた同じ。どんな奴と戦うことになるのか、早く知りたいとこのバトルジャンキーはせっつく。

 

その様子がまるで、欲しいものを親にねだるよう子供のように感じたアザゼルは、軽くその頬を緩め。

 

 

「ったく、しょうがねぇ奴だな。まぁもう少し待ってろ。以前より、各段に“神器”を見つけやすくなる装置を、今開発中だ。遅くてもあと数年で、【赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)】を宿した奴は見つかるさ」

 

「ふっ、流石アザゼルだな。ならば俺は来るべき日の好敵手の為にも、更に強くなるとしよう」

 

 

踵を返し、再び鍛錬上へと赴くヴァーリが部屋を出た後、堕天使総督は一人ごちる。

 

 

「やれやれ、最近出来た“禍の団”にも目を光らせなきゃなんねぇってのに…お前は分かんねぇだろうなぁ、インドラ。ったく、ガキの世話ってのはいつになっても慣れねぇぜ」

 

 




意外とこの二人、似た者同士じゃね?と感じてもらえれば幸いです(パパの言う事聞きなさい!)

それとこの時期では、まだ禍の団のトップがオーフィスであると、誰も知りません
(決してオーフィスの事を忘れていたワケではアリマセンヨ?えぇ、アリマセントモ…(汗)

次回で原作次期を決めようかなと思います(もう1、2話閑話のようなものを挟むかもしれません)

その為、かなり投稿期間が空くとは思いますが、なるべく皆様の評価にお応えしたいと丁寧に書いていきたいので、決して失踪ではないことをここで書かせていただきます(多分長くて1か月くらいですね)

それでは次回もワインでも飲みつつ、聖書の陣営がどうなるか、愉悦と共にお楽しみください

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