強化人間物語 -Boosted Man Story-   作:雑草弁士
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ルナ2よ、俺は帰って来た

 ようやくの事で一年戦争が終わり、新年を迎えたわけだが、俺たちは……と言うか、俺とレビル将軍、それに事情を知っている数名は、気分が重かった。デギン公王、ドズル一家、更にそれに加えてデラーズとセシリア・アイリーンと言ったギレンのシンパを逃がしてしまったのだ。

 不幸中の幸い、月面グラナダ基地は一部ジオン将校がブチ切れて暴走し、戦闘行為を仕掛けて来た他は、無事に戦闘なしで無条件降伏したそうだ。ちなみに攻撃してきたのは、マレット・サンギーヌ大尉率いるグラナダ特戦隊のみだ。彼らは3rdロットのガンダム13号機、14号機、15号機に搭乗した、ブラン・ブルターク大尉、ライラ・ミラ・ライラ中尉、ヤザン・ゲーブル少尉が倒した。

 具体的には、ヤザン少尉がマレット大尉のMS-11アクト・ザクを撃墜し、マレット大尉は戦死。その後グラナダ特戦隊の面々は投降したと言う事である。ちなみにブラン大尉、ライラ中尉、ヤザン少尉のガンダムは、2ndロットシリーズのガンダム4号機、5号機から得られたデータを反映させた、宇宙用ガンダムだったり。

 ……あ。銀の槍作戦をやるのかな、あいつら。「GUNDAM LEGACY」3巻に載ってた外伝。気化爆弾の管理を徹底する様に進言しよう。あとデラーズに備えて核の管理も。その当たり前の事、出来て無かったからなあ正史の連邦軍は。

 

「ゼロ中尉、戦闘報告書が出来たんで、持って来ました。」

「その辺に置いとけバージル。チェックして、俺のと一緒に上に提出するからな。」

 

 掛けられた声に物思いから返ると、俺はバージルが持って来た書類のチェックをはじめる。こいつは几帳面なので、この手の書類でほとんど訂正すべき箇所は無い。今回も問題点は無かった。俺は書類にチェック済みのサインを入れた。

 

「……結局、ア・バオア・クーには寄らずにルナ2行きか。少し残念だな。」

「何が残念な……。あ、例の彼女さんですね?」

「まだ彼女違う。」

「……まだ?」

「お前な、上官で隊長をからかうな。」

 

 俺はため息を吐いて、自分の戦闘報告書とバージルのそれをまとめ、ツァリアーノ中佐のところに持って行くために自室を出た。

 

 

 

 サイド3ムンゾを発って、1週間が過ぎた。現在サイド3には第1艦隊が進駐し、治安の維持とジオン軍の武装解除の任に就いている。また第1艦隊から分遣された複数の小艦隊が、逃亡したジオン軍残党を追跡していた。

 また月面グラナダ基地には、第2艦隊の一部が駐留している。第2艦隊の残りは、宇宙要塞ア・バオア・クーと宇宙要塞ソロモンに、そして一部はルナ2へ帰還すると聞いていた。

 そして俺たちの第3艦隊であるが、レビル将軍が地球連邦軍の総大将である事、地球連邦軍宇宙基地ルナ2を何時までも戦力過少の状態にしておけない事から、ルナ2へと帰還の途に就いていたのだ。1週間の航宙の末、そろそろルナ2に到着する、との頃合いなのである。

 俺は自機、アレックス3のコクピットで待機していた。別に緊急事態ではない。ルナ2への入港式典を、またやるのである。しかも今度は、勝って帰って来た……表向き、ジオンをこれ以上無いってぐらいに叩き潰し、ギレン・ザビの首を取って帰って来たのだ。表向きは。

 まあ、デギン公王、ドズル一家、セシリアとデラーズ逃がしたけどな。画竜点睛を欠く、とはこの事だ。しっぱいしっぱい。……おどけていても、事態は変わらない。この後の地球圏に、禍根を残したのは間違い無い事だ。

 とにかく、勝って帰って来た以上、戦中にやった入港式典よりも派手な式典になるのは間違いない。相応に疲れる事を覚悟しておかないとな。

 

 

 

 疲れた。覚悟してたソレよりも、数段、数倍疲れた。入港前から入港中には艦載デッキの上の甲板上にMSを立たせて敬礼させてるだけで良かったんだが。その後で、レビル将軍の演説も、MSの中で聞いてるだけで良かったんだが!だが!

 その後で、俺たちレビル将軍直卒部隊の面々は、1人1人がレビル将軍と共に戦場で戦い、戦場で将軍を護った勇士として紹介され、満場の連邦軍将兵たちから一斉の拍手を送られたりしたのだった。後で聞いたら、なんか勲章の授与式も企画されてたそうだが、一度にやっちまうのは勿体ないと、後に回される事になったとか。

 ……また将兵の前で、見世物になるのか。いや、必要な事だとは思うから我慢するけどさ。溜息を吐きつつ、俺はルナ2基地のPXへ向かった。

 

「ふう、プリンを頼む。あとコーヒーを。」

「了解、パイロットさん。……さっき基地内放送のTVに映ってたよね。ひさしぶり。中尉に昇進したんだねえ。おめでとさん。」

「む?そんなに回数来た事ないけど、覚えてるのか?兵長。」

「ああ。来るたびに甘い物頼んで行くからね、記憶に残ってたよ。前に来たのは、ソロモン戦の前だったっけ?甘い物好きなんだね。」

「……ああ。俺は甘党でね。」

 

 俺は少し嬉しくなる。他人に覚えてもらえていた。ただそれだけの事なのに、嬉しくなる。訂正だ、少しじゃない。もの凄く嬉しかった。

 飲食スペースに移動して、俺はプリンを食べ始める。やはり品質は良く無いが、それでも美味い。甘い。美味い。やっぱり必死で作ってる味がする。と、そこに声が聞こえて来た。

 

「今日はケーキがいい!」

「えー、プリンだよー。」

「シュークリームがいいよー。」

「はいはい、喧嘩しないの。昨日ケーキだったし、一昨日プリンだったから、今日はシュークリームにしましょう。」

「「「「「「はーい。」」」」」」

 

 俺は人工のニュータイプ感覚で、誰がやって来たのか理解していた。何故彼女らがここにいるのかは、わからない。だが、現にここにいるのは間違いないのだ。向こうにも、ここに俺がいる事は多少遅れたが感じ取れた様で、こちらに向かい歩いて来た。俺は彼女らに挨拶をする。

 

「……よう。皆、元気だったか?ハリー伍長にケイコ伍長、ジェシー伍長、はじめて会う子らも大勢いるな。そしてレイラ。」

「あら。わたしはオマケ?ふふふ。TVで見たわよゼロ。かっこよかったわ。昇進したのね、中尉さん?」

「あ、少尉さんが中尉さんになってるー!?」

「しょ、中尉さん!あいつら、やっつけてきてくれた!?」

「……ああ。思いっきり、けちょんけちょんにして、ぎゃふんと言わせてやったぞ。それとな、奴らの親玉を叩き潰したのは、俺たちのリーダーのレビル将軍だ。俺はその人を、すぐ隣で守ってたんだ。」

 

 子供たちの、うわー、うわー、と言う感嘆の視線にくすぐったい物を覚える。俺はレイラに目を向けた。

 

「で、何故ルナ2基地にいるんだ?てっきりまだ、ア・バオア・クーにいるものとばかり……。」

「うーん、そのね。レビル将軍とワイアット中将、それにゴップ大将が口利きをしてくれたらしいのよね。それで亡命が例が無いほどあっさりと、至急の扱いで認められたのよ。

 それでわたしね……。連邦軍に志願したの。そうしたら、階級は前のままで良いって事になってね。今とりあえずの任務は、この子たち……。フラナガン機関から救出された子たちの面倒を見る事。本当の職分は、MSパイロットなんだけど、ふふふ。」

「連邦軍に志願?……レイラ、お前が戦うことなんて、無いんだぞ?」

 

 悲しそうな顔になった俺を気遣ってか、レイラは慌てて言葉を重ねる。

 

「あ、いえ!そうじゃないのよ。わたし……実際他に出来る事なんて無いし。それに、なんていうか……。他人だけを戦わせて、自分はその成果を受け取るだけっていうのも……。気が引けるのよ。」

「今までつらい目に遭って来たんだ。その分幸せになったってバチはあたらないだろうに。」

「あなたが言う?」

 

 苦笑しつつ言ったその台詞に込められた、俺を哀れむ様な慈しむ様な思念。上から目線で憐れんでいるわけではなく、同病相哀れむ、と言う感じがする。彼女は、俺が強化人間である事を知っているのだ。その事を、俺は理解した。

 

「何故……。いや、言うまでも無いな。」

 

 たぶんレビル将軍だろう。どう言う意図があるのかは分からないけれど。

 

「ええ、たぶん考えてる通りよ。できるなら、貴方の友人になってくれ、力になってくれって言われた。貴方がわたしを色々気遣ってくれたのを、見たからでしょうね。

 たぶん……わたしたちがここで再会したのも、偶然じゃあないかも。」

「あの人は……。もしかして、俺のためも、あるの、か?すまない……。」

「え?わたしが連邦軍に志願した事?うふふ、謝らないで。わたしはそう悪い気はしてないから。」

 

 俺はふと、気になる事を思い付き、まさかとは思ったが訊ねてみた。

 

「まさかハリー、ケイコ、ジェシーらも……。」

「それはまさかよ。この子らは志願してないわ。ただ、救出されてきた子たちも含めて、保護するための方便として、全員軍属に準ずる扱いだけど。だから今はもう伍長じゃないわ。」

「そっか……。まさかとは思ったが、安心した。他の子たちは何て名前なんだ?なあ、お前ら。俺に教えてくれるか?」

 

 俺は子供らの目に視線を合わせ、名前を聞く。子供らは、嬉しそうに答えた。

 

「僕はアルジャノン!」

「僕はカール!」

「ぼ、僕はブレットだ!」

「僕、ハワード。」

「僕は、僕はアーヴィン!」

「……リサ、です。」

「ルーシーよ。」

「メイジー、あたしメイジー!」

「ニコラです。よろしく。」

「わたしルビー。」

 

 10人……総勢で13人か。これだけ多くの子供たちが……。いや、助けられなくて実験で死んだ子も、多いんだろうな。そう思うと、なんか切ない気持ちになるな。あれ?だけど、誰一人として苗字を言わない?

 俺はレイラに目を遣ろうとして、その前に言うべきことを言わねばならんのに、危うく気が付いた。

 

「そうかー。お前ら、いい名前だな!」

「「「「「「うん!!」」」」」」

 

 俺は小声でレイラに訊ねる。

 

「……何故だ?」

「それはね……。」

 

 レイラも小声で答えてくれる。さすが、勘が良い。俺が言いたかったことを、理解している。

 

「実験の、せいなのよ。この子たち、親の事も、自分の名前も、憶えて無くて……。いつも「貴様ら」って呼ばれてたらしいわ。

 ……この名前も、わたしが付けたの。姓はこの子らが何処かの養子に入る時に、その姓を付けるって事に。」

「……!!」

 

 それって、初期のって言うか、初歩の強化人間の実験じゃないのか!?思わず歯ぎしりが漏れそうになる。だが子供達の前だ。俺は必死で精神を落ち着かせた。くそ、頭が頭痛で痛い。頭の中でヘビがうねっている。

 

「……よし、お前ら。今日は俺がおごってやる。レイラ、支払いは俺のカードで給与引き落としにするから、美味い物食わせてやってくれ。」

「よかったわね、皆。さ、シュークリーム買ってらっしゃい。」

「「「「「「はーい!」」」」」」

 

 子供らは、厨房スタッフのところへ急ぎ向かった。そしてレイラが失笑しつつ言う。

 

「……正直助かったわ。この子たちのオヤツは、わたしが出してたのよ今まで。」

「む?経費で落ちないのか?」

「食費は落ちるけど、贅沢品と見做される物は一部除いて駄目なのよ。今はまだジオン軍の戦闘能力を奪っただけで、正式に終戦したわけじゃないでしょう?調印しないと。

 だから、まだ戦争中で非常時ってわけ。戦争がちゃんと終わったら、オヤツ代ぐらいは出る様になるらしいけれど。」

「少尉の給料じゃ、キツいな。パイロット職とは言え、今はまだパイロットの各種手当も無いんだろ?」

「ええ。」

 

 世知辛かった。マジで世知辛い。

 

「ゼロ……。この上お願いするのは凄く心苦しいんだけれど……。」

「ん?……気にするな。俺もいつか、お前に頼る時が来るかも知れん。」

「うん……。人に会って欲しいの。フラナガン機関に以前いた人で、別の実験のために引っ張っていかれた人なのよ。それでその実験の失敗か……考えたくないけれど実験の成功によって、意識不明の重篤状態になったらしいの。

 サイド6の、とある病院に入院していたんだけれど、フラナガン機関が再度それを見つけてマークしてたみたい。ごく最近……1週間前に目覚めて、フラナガン機関が拉致しようとしたところを、連邦軍の諜報部員が身柄を奪ってきたんだって。」

 

 俺は目を丸くする。その条件に合致する人物を、俺は知っていたからだ。

 

「その娘、亡命を勧めてるんだけれど何か拘りがあるみたいで、首を縦に振らないの。ジオンに忠誠を誓ってるのかと言うと、それも何か違うみたいなのよ。」

「名前、は?」

「マリオン・ウェルチ。」

 

 やっぱりか。頭が痛かった。

 

 

 

 俺がレイラに伴われて病室へ入ると、かなり痩せこけた銀髪の少女が寝台の上で上体を起こし、本を読んでいた。その傍らには、俺たちより少し年上ぐらいの女性、ピンク色の髪をした娘さんが、少々疲れた様子で椅子に腰かけていた。

 

「どうです?アルさん。」

「駄目ね。この娘、頑固者よ。……あら?レイラのボーイフレンド?」

「ちょ、ま、まだそんな!」

「まだ!」

 

 レイラをいじって楽しんでいるこの女性……。どう見ても、クスコ・アルだ。彼女も救出されたのか?

 

「あんたは……。」

「あ、ごめんなさい中尉さん。わたしはクスコ・アル。その子みたいに亡命の後に志願はしなかったけど、一応軍属の扱いになってるわ。オペレーター業務を手伝ってる。

 でも、志願した方が良かったかも、と今は思ってるわ。今からでも遅くないかしらね。軍人じゃなく軍属だから、色々制限かかるのよ。」

「よろしく、俺はゼロ・ムラサメ中尉。MSパイロットだ。俺が言うのも何だが、軍人は軍人でキツいぞ。……あんたも救出されたクチか?」

「ええ。その前はサイド6船籍の輸送艦のオペレーターやってたんだけれどね。半ば拉致、半ば脅迫同然でフラナガン機関に。」

「そうか。助かって良かった……。」

 

 実際、これから厳しいんだがな。連邦軍でも、ニュータイプの軍事利用を研究したがる奴らは多いはずだ。そいつらから身を守らないと。せめて非道な実験だけは阻止しないと。

 俺は、ベッドの少女に向き直る。

 

「君がマリオン・ウェルチか。レイラから教えてもらった。俺はゼロ・ムラサメ中尉。……地球連邦軍の強化人間、つまり人工的な兵器としてのニュータイプだ。色々不完全でな。ニュータイプ能力を使うと激烈な頭痛に襲われたりする。」

「「!!」」

「あなたは……。」

 

 俺の言葉に、レイラとクスコ・アルが驚愕する。レイラは俺が強化人間であるのをバラした事、クスコ・アルは俺が語った内容について、と言う違いはあるが。マリオンの視線が強まる。

 

「あなたには、会った事があります。」

「ああ、会った事あるぞ。4つに分割された君の、最後の1つを破壊したのは俺の乗ったMS、ガンダムNT1アレックスの3号機、アレックス3だ。」

「……亡命を、申請します。けれどその前に……。」

「ええっ!?」

「そんなあっさり!?」

 

 レイラとクスコ・アルはまたも驚く。だが俺は、マリオンがどんな条件を出して来るのか、と警戒した。

 

「その前に、クルスト・モーゼス博士、ニムバス・シュターゼン中尉、ユウ・カジマ少尉……。生きていますか?」

「クルスト・モーゼス博士は俺は知らない。」

「そうですか……。わたしの意識の1つが、クルスト博士を殺した様に思うのは……たぶん間違いでは無いのですね。」

 

 俺は言葉を続ける。

 

「ニムバス・シュターゼンは、ユウ・カジマ少尉機が撃破した。だがEXAMの搭載されていた頭部のみを破壊したので、ニムバス機の胴体は無傷とはいわないが、残っていた。あの後、敵か味方かに救出されていれば、生きている可能性もある。」

「……。」

「ユウ・カジマ少尉だが。改ペガサス級強襲揚陸艦イカロス所属のMS隊にいるから、俺たちと一緒にルナ2に戻って来てるはずだぞ。連絡取れば、たぶん来てくれるだろう。」

「!!……あ、会わせてください!!お願いします!!」

 

 ひとつ頷くと、俺は傍の机にある端末の受話器を取り上げ、宇宙港に電話を入れた。宇宙港の通信士は親切で、すぐにイカロスのブリッジへと電話を繋いでくれる。そこでしばらく待たされて、ユウ・カジマ少尉が電話に出た。

 

 

 

 無口男との電話は、ひたすら苦行だった事を追加しておこう。

 

 

 

 ……ニュータイプと言えば、ニュータイプ研。しかし最近そう言えば、マコーマック博士の事を見ていない。私室も空っぽだった。いったい何が……?




今回、タイトルに偽り有り、かもしれません。主人公が帰って来たのは、ルナ2ではなくそこのPX、飲食スペースだからです。主人公は、甘党なのですよ。
ですが、流石に改ペガサス級強襲揚陸艦ペガサスでも、戦争中に食堂にケーキとかの専門の甘味は置けません。レーションに入って来るチョコレートやキャンディー、食事のセットに付属のクッキーやゼリーが頼みの綱。ルナ2に帰ってこれて、主人公は心から喜んだのです。
勿論、厨房スタッフが顔を覚えてくれていたのも、なんとなく感動しましたけどね。

そして、無口男との電話は泣くほど苦痛だったのです。泣きませんでしたが。







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