強化人間物語 -Boosted Man Story- 作:雑草弁士
宇宙世紀0081、6月。俺が率いるツァリアーノ連隊第01独立中隊「オニマル・クニツナ」隊は、C-88中型輸送機ミデア改4機に分乗して、インドシナ半島へと向かっていた。現地で行われる、ジオン残党軍の掃討作戦に参加するためだ。
この部隊、「オニマル・クニツナ」隊は、編成上はツァリアーノ大佐の直下にあり、そしてレビル将軍の手足となって動くための部隊でもある。……俺の、中隊だ。
その第1小隊……。今、俺の乗っているミデア改には中隊の第1小隊、中隊長である俺の直卒小隊が、MSを含む機材と共に載せられている。
◆ゼロ・ムラサメ少佐
俺だ。乗機は一年戦争末期の愛機、RX-78NT-1ガンダムNT1アレックスの3号機、アレックス3。俺が士官学校で短期圧縮コースで学んでいた1年の間、他のパイロットに回される事も無く、研究用機材として残されていた。
いや、他のパイロットじゃ扱い切れんだろう、この機体は。研究機関のテストパイロットが音を上げたとの噂も聞いた。
◆レイラ・レイモンド少尉
第1小隊の副隊長であると同時に、少佐であり部隊長である俺の副官も兼任している。ジオン公国からの亡命者であると言う点が、連邦軍人として生きる上で負担になっている事は否めない。だが彼女はそれに負けずに頑張ってくれている。そ、その……俺の……恋人だ。いーだろー、別にーーー!!……あー、能力そのものは非常に弱いが、ニュータイプ能力者だ。
乗機はRGM-79Nジム・カスタム。性能的にはジム改高機動型の方が高いのだが、アレは整備性や稼働率に問題が。既にその面でアレックス3と言う問題児を抱えている俺の部隊では、ジム改高機動型やジムスナイパーⅢを抱え込むのは難しかったのだ。だがジム・カスタムも、けっして悪い機体じゃない。
◆ファング・ィユハン曹長
中国系の男性で、少々軽めの性格。黒髪黒目。まだ付き合いが浅いため、そのぐらいしか分かっていない。少しでもその為人を知ろうと、飯などを一緒に食いに行っているのだが……。書類では家族は既に亡い模様。一年戦争とは関係なしに、それ以前に事故で喪ったらしい。そのためか、軽さの中にも虚無感がやや感じられるのが気にかかる。いや、人工の物とは言え、俺のニュータイプ感覚って便利だね。
乗機はRGC-83ジム・キャノンⅡ。ジム・カスタムと部品の共有化が大きい機種なので、整備には受けが良い。え、俺のアレックス3の受けが悪いだけだって?
◆マリー・アップルヤード曹長
ツァリアーノ大佐から半ば押し付けられた、戦闘オペレーター。栗色のショートボブ、茶色の目をした若い娘さん。最初はどうしたもんかと思ったが、戦術能力に欠ける、とまではいかないと思うんだが、あまり自信のない俺には必要な人材だった。
生真面目だが優しく、亡命者であるレイラにも全く悪感情を抱いていないため、助かる。いや、そう言う人材を選んでくれたんだとは思うんだがね。
彼女はM353A4ブラッドハウンドホバートラックを戦闘指揮車として使用している。
◆ウィリアム・ウィルコックス軍曹
年季が入った白っぽい金髪で碧眼のおっさん。うちの中隊の整備長だ。アレックス3の整備性の悪さに愚痴をいいつつ、完璧に仕上げてくれる。ありがたいおっさんだ。おっさんだけど。
そして俺は、ミデア改の窓から他のミデア改を見遣る。あれには中隊の第2~第4小隊が載せられているのだ。
第2小隊は、おそらく総合力では第1小隊を超えるだろう戦闘力を持っている。何せ、並のニュータイプ能力者……能力にばかり頼っている奴では、太刀打ちできないのが小隊長をやっている上、強力なニュータイプ能力者が加わっているからだ。
◆ユウ・カジマ中尉
第2小隊の小隊長。言わずと知れた、一年戦争のエース中のエースだ。もっとも、彼の戦果は極秘計画であったEXAMの研究に関わっており、秘匿されている。そのためもあって、おそらくはトップクラスであろう撃墜数であるのにそれは公表されず、彼の名は知る人ぞ知る、と言う物になっている。
ちなみに彼の隊には、戦闘オペレーターは付いてこなかった。モーリン・キタムラ伍長は?と訊くのは、なんとなーくためらわれたので、訊いてない。
乗機はジム・カスタム。彼はかつてG-3仕様の2ndロット、ガンダム8号機に搭乗していた時期がある。サイド3戦が終わってからおおよそ1ヶ月間だ。しかしその機体は、やはり整備性などの問題から交換を余儀なくされたと言う事だ。
だがおそらく、ジム・カスタムでは彼の能力を活かし切れない。なんとかアレックス級の機体を配備できないか、今交渉中だ。
◆マリオン・ウェルチ軍曹
ジオン公国からの亡命者その2。彼女もまた、ジオン出身者だと言う重圧に負けずに頑張ってくれている。基礎的な戦闘能力はともかく、能力だけを言えば強化人間である俺に匹敵するニュータイプ能力者だ。……もしかしたら、ララァ・スンなんかよりも本当の意味でのニュータイプに近いのでは?
乗機はジム・カスタム。今のところは彼女にはこの機体で良いと思うが、ユウからの報告書では彼女の操縦能力はこの1年でかなりのレベルに達しており、早晩この機体では追いつけなくなると思われるそうだ。困った。
◆コーリー・ディズリー軍曹
黒髪黒目の長身女性パイロット。オーストラリアのシドニー出身のため酷くジオンを恨んでおり、当初は亡命者であるマリオンと、それをかばうユウに何度も突っかかったらしい。だが今はマリオンとも和解、信頼しており、関係は改善されている。だがジオン自体はまだ恨んでいるそうだ。
乗機はジム・キャノンⅡ。精密正確な支援射撃は、第2小隊に無くてはならない物だ。
第3小隊は、第2小隊と縁深い。なんと言っても、隊長は第2の小隊長ユウとかつて同じ隊にいたのだ。当然EXAMにも関わっているので、かなり撃墜数稼いだはずなのに秘密になっている。けれど秘密にはなっているが、無かったことにはなっていないので、ユウと同じく評価はきちんとされている。
◆フィリップ・ヒューズ中尉
第3小隊の小隊長。射撃が比較的得意と言う他は突出した能力は無いのだが、逆に不得手な部分も無く、隙が無い。パイロットとしても指揮官としても、優秀だ。以前やった模擬戦では、防御に集中して、なんとサマナ元曹長……今は候補生が、俺たちの母艦であるペガサスの急所に一撃加えるまで耐えてみせた。……レビル将軍の攻撃を耐えきったんだよ!?凄いよ!?
乗機はジム・カスタム。彼はこの機体でいいらしい。一安心。
◆アンドルー・カッター軍曹
茶髪で茶色の瞳をした青年。彼についても、まだあまり知らない。なんとか部隊内での親睦を図らなくては……。ただ彼は、将来士官になりたい気持ちがあるらしく、士官学校入学を志願しようか悩んでいるらしい。
なお、彼の乗機もジム・カスタムだ。射撃よりかは格闘戦が得意であるらしい。
◆ブリジット・サトウ伍長
日英ハーフの、茶髪っで緑の眼のまだ若い娘だ。彼女についてもまた、あまり知らない。部隊で宴会でも開くかな、近いうちに。
彼女はジム・キャノンⅡに搭乗している。彼女もまた、精密射撃が持ち味だ。
第4小隊は、おそらく一番戦闘力が低い。いや、小隊長からして元テストパイロットで、実戦経験は無いわけでは無いが浅く、部隊指揮は初めてだし。隊員に1人、歴戦の強者がいるのが救いだ。
◆クリスチーナ・マッケンジー少尉
これも言わずと知れた、アレックスの元テストパイロットだ。MS戦の能力はそこそこで、操縦技能も優秀なのだが、今のところ優秀止まり。実戦で彼女が指揮官としてもMSパイロットとしても、どこまでやれるかは、これから試される。
余談だが、彼女がテストしていたアレックスは、アレックス1として今もレビル将軍の乗機となっている。ちなみにアムロ・レイが乗っていたアレックス2は、今現在レビル将軍の予備機だ。レビル将軍は、今も時折ツァリアーノ連隊を伴って、アフリカ大陸に出没するとかなんとか。
なお、彼女の乗機もジム・カスタムだ。
◆ダミアン・アルテンブルク曹長
白髪にも見える色の薄い金髪に、緑眼の大男。おっさん。一年戦争を生き抜いた強者で、もと61式戦車に乗っており、その後RGC-80ジムキャノン、RX-77Dガンキャノン量産型と乗り継いで支援一本槍で一年戦争を戦って来た。
その戦歴からすれば、尉官になっていてもおかしくは無い。だがアシストは多数……いや無数にあれど、単独撃墜数はあまり無いため、当時の上官には評価されなかった模様。それでも5機以上は撃墜しているため、エースではある。
乗機はジム・キャノンⅡ。
◆ウェンディ・デッカー伍長
正真正銘の新人パイロット。ショートカットの金髪で、ヘイゼルの瞳。背が低く華奢で、体力的に不安がある。生真面目。MS戦の能力は未知数。技能は優秀、との訓練教官の但し書きが付いて来ているが、実戦でどこまでやれるか……。
乗機は少数生産のジム・カスタムを与えられ、はしゃいでいる。……なんとなく、バージルを思わせるな。
これが俺の部隊だ。ちょっと不安要素はあるが、なかなか優秀な人材が揃った。特に第2と第3小隊。彼らは安定して頼りになる。俺の第1小隊は……。自分で言うのもなんだが、ちょっとピーキーかな。戦闘能力自体は高いと思うが、安定してない。第4小隊は、基本未知数で、最初のうちは頼りにならないだろうな。
そして俺は、編隊の最後尾を飛ぶ、5機目のミデア改に目をやった。今回の行き先が東南アジア、インドシナ半島だと言う事から、レビル将軍とツァリアーノ大佐が補佐に付けてくれたのだ。
……元コジマ大隊第08MS小隊、現ツァリアーノ連隊第01独立小隊。小隊長シロー・アマダ中尉率いる精鋭たち。隊員は、カレン・ジョシュワ少尉、テリー・サンダース・Jr.少尉、退役しそこねたエレドア・マシス軍曹、ミケル・ニノリッチ軍曹。
ほんとはアマダ中尉は一年戦争において、大尉になっていてもおかしくは無い戦果を上げていた。しかし彼は敵であるアイナ・サハリン女史と恋愛関係に陥った事から軍法会議にかけられたりした経緯もあり、この高級士官不足の状況にも関わらず昇進は見送られている。
……アマダ中尉、アイナ女史との間に既に子供も儲けているらしいのだが。アマダ中尉は結婚したいのだが、彼女は民間人の身分でありながらMAアプサラスⅡのパイロットとしてジャブローを急襲した事実がある。それが南極条約でゲリラ行為にあたるのではとか、彼女はサハリン家の一族であったがため戦闘行為をやむなくされていた被害者では、と軍事裁判で検察側と弁護側が今も争っている。
アマダ中尉は、アイナ女史を護るために高名な弁護士に相談し、そして彼女が収監中に出産した娘を引き取り認知し、優秀かつ良心的なベビーシッターを雇い、自身は世界中を飛び回って必死で戦っている。
俺も他人事じゃない。レイラが亡命に成功した事、戦闘に参加はしたもののジオンの軍籍をちゃんと持っていた事、そして連邦軍人の命を1人たりとも奪っていない事。このおかげで、彼女は今も堂々と俺の隣に居られる。
だけど、もしどこかでボタンを1つかけちがえていたならば……。そう思うと、ぞっとする。
「ゼロ少佐。中継地点であるトリントン基地まであと1時間です。」
「了解、レイラ。」
今はお仕事中だ。レイラの台詞も硬い。でも雰囲気は、柔らかい。彼女がコーヒーを淹れてくれる。……美味い。軍用のレギュラーコーヒーとは思えない味だ。普通これをコーヒーメーカーで淹れると、泥水コーヒーになるのだが。
彼女は俺のために、色々と努力してくれる。俺も彼女に少しでも、気持ちだけでも、返す事ができればと思う。
「……美味いな。ありがとう。」
「どういたしまして、少佐。」
彼女が柔らかく微笑む。俺は笑い返し、隊員の人事書類をまとめてファイルにしまい込み、作戦に関する書類を引っ張り出した。
トリントン基地で、一休みする。やはりミデア改は旧型のミデアよりは各段に乗り心地が良いが、それでも軍用機だ。長時間乗る代物じゃない。今は例の頭痛は、軽くて済んでいるため、比較的楽だが。
少し物思いにふける。考えたのは、ジオン公国とその残党の事だ。ジオン公国は、戦後に俺が士官学校に入ってる間に、解体された。うん。解体されちゃったんだ。レビル将軍たちは抵抗したんだが、当初反対してくれていたゴップ大将が諦めてしまい、消極的賛成に回ったのだ。結果、ジオン公国は解体、サイド3は連邦の直接統治下に置かれた。連邦政府は、図に乗っていた。
ただ、レビル将軍たちは無力なわけでは無かった。本来紙切れになるはずのジオンの通貨を、連邦通貨と等価交換する事を連邦政府に約束させたり、戦前に比べて少しではあるがスペースノイドに対する穏健政策を認めさせたのだ。
「その約束、政府が守ればいいんだが……。む?……ツウッ!!」
頭の中でヘビがうねった。そして強烈な敵意が感じられる。俺は周囲の部隊員に怒鳴った。
「全員MSに搭乗!!敵が来るぞ!!」
第2小隊のマリオン軍曹とユウは、既に走り出している。マリオン軍曹もおそらく何かを感じたのだろう。おれはズキン、ズキン、と脈打つ様な頭痛を、意識を集中して精神から切り離す。そしてミデア改1番機に搭載されているアレックス3に走った。レイラが、俺のすぐ後について走っている。
ノーマルスーツを着用する暇も無く、アレックス3に飛び乗った俺は、即座にシステムを立ち上げる。改良された全天モニターに、ミデア改のコンテナ内部が綺麗に映った。アレックス3を立ち上がらせ、シールドとビームライフルを装備。ビームライフルのエネルギー残量、腕部90mmガトリングの残弾、頭部バルカン砲の残弾を確認。俺は叫ぶ様に言う。
「ゼロ、ムラサメ!アレックス3、出るぞ!」
『レイラ・レイモンド、ジムカスタム、発進します!』
『ファング・ィユハン、ジムキャノンⅡ、いっきまーす!』
『マリー・アップルヤードです!指揮車輌を出します!』
俺はミデア改の機長に通信を繋ぐ。
「機長!俺たちが出撃したら緊急離陸して、西方に退避してくれ!敵は東から、海から来る!」
『了かザザッ!!』
通信に雑音が混じり始めたか……。ミノフスキー粒子をばら撒ける機体があるって事だな。……いた!!ルッグンだ!
ルッグンは存分にミノフスキー粒子をばら撒くと、帰還しようと機首を東に向ける。そうはさせない。
「墜ちろ……!!」
俺はビームライフルで、ルッグンを狙撃する。ルッグンは煙を吐いて墜ちていった。
「マリー!基地のレーダーとリンクして情報取れ!ミノフスキー粒子撒かれたが、無いよりマシだ!」
『りょ、了解!……ザザザ東より敵影!機数ザッ6!』
「……ユウ、どう思う?」
俺は次席指揮官に意見を求める。
『ザッ……。』
「ユウもそう思うか。だがその6機も、放っておくわけにはいかんさ。」
『……ザザッ。』
「ああ、頼む。第2、第3小隊は東から来る6機を迎え撃て!」
え?どうやって意思疎通してるんだって?いや、モニターに顔、映るんだよね。パイロット同士の通信って。微妙な表情の変化が見られれば、顔の出ない電話よりずっと楽だよ?
『ど、どうやったの?じゃない、少佐!我々はザザッかなくてもいいんですか!?』
「敵の陽動の可能性がある!俺たちは予備兵力として、待機だ!」
『少佐、指揮下に入ります。俺ザザッはどうすれば?』
アマダ中尉が指示を仰いでくる。彼らの機体は3機ともガンダム・ピクシーだ。地上戦は得意中の得意だ。
「アマダ中尉、あんたたち、いや君たちはとりあえず俺たちと共に待機しておいてくれ……。」
『こら、貴様らザザッ!ザザザ撃命令など出しておらんぞ!』
そこへトリントン基地の基地司令が、口を挟んで来る。ああ、苛立たしい。現在のトリントン基地は100%ではないものの、コリニー中将の……ジャミトフらの影響力が強い基地だ。まだ切り崩しは成功していない。
「自分たちは独立部隊です。独立部隊の権限を持って、出撃しております。」
『ぐ、むむ……。それザザッだな……。』
「それに、そちらは初動が致命的に遅れているじゃないですか。基地の防衛部隊は、何故出撃しないのです?」
『うるさい!今発進さザザザッ!!』
言葉の通り、いかにも慌ててますと言う風情で、ジム改とジム・コマンドG型が出撃して来る。まだジム・コマンドを更新してないで使ってたのか。
『貴様ら、これ以上手を出ザザザッ!!いいな!?』
「よくありません。敵は予想以上の戦力です。……南から来る敵を任されますから、北の敵をお願いします。」
『な、何!?』
南と北から、敵のプレッシャーを感じた。俺は機体を南に向かせる。がなる基地司令の声を無視……しかし、しっかりと録音する。マリー曹長が叫ぶ。
『と、トリントン基ザザザッからレーダー情報をカットされました!ザザッですが直前までの情報で、少なくとも10機の敵が南から、8機が北から!ザッ』
「……ふん。マリー、レーダー情報をカットされた前後のログ、きっちり記録を残しておくんだ。後々の証拠になるからな。」
『りょ、了解!』
俺は命令を下す。
「南からの敵を迎え撃つぞ!「オニマル・クニツナ」隊、第1、第4小隊!ツァリアーノ連隊第01独立小隊!前進!!」
『『『『『『了解!!』』』』』』
俺たちは、南へと前進を開始した。
いよいよ主人公の部隊が編制されました。その初陣です。
ついでと言ってはなんですが、歴戦の1個MS小隊が一緒についてきてます。