強化人間物語 -Boosted Man Story-   作:雑草弁士

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「敵」の馬鹿は、ある意味「味方」

 月面マスドライバー施設は、月から採掘した資源を地球の衛星軌道付近まで射出し、マスキャッチャーによってそれを受け止め回収するための磁力カタパルト施設だ。今俺たちは、そのマスドライバー施設にいる。

 ここには大型宇宙港施設は無いため、ミノフスキークラフト搭載艦で同時に着陸機能も持つ改ペガサス級ブランリヴァル、セントールの2隻のみ降下した。残りのサラミス改級4隻、ネルソン級1隻、フジ級1隻は上空待機している。

 第41独立戦隊のMS隊、「F.O.T.A.」隊部隊長グスキ大尉が、何処か残念そうな感じもする口調で、言葉を発する。

 

「これだけ重厚な護りがあるんです。さすがにもう、襲っては来んでしょうなあ。」

「そうだと良いんだがね……。人の事はあんまり言えないが、奴らは自分のカッコよさに酔ってるからなあ……。」

 

 徐に俺は、自分の事を棚上げし、鬱々とした気分で言う。グスキ大尉は、妙な顔になる。

 

「カッコよさに酔ってる?」

「スペースノイドの自治独立と言う夢のため、巨大組織地球連邦の弾圧と戦う正義の志士、悲劇の英雄たち……。そんなカッコいい自分と言う、都合のいい夢想に酔っているんだよ。」

「なるほど……。腹立たしいですな。」

 

 憎悪を表面に滲ませて、グスキ大尉は吐き捨てる。

 

「自国の数倍はいた、サイド1、2、4、5のスペースノイドたちを皆殺しにしておいて……。何がスペースノイドの自治独立だ。ジオン公国民以外は、スペースノイドでは無かったとでも言うのか……。」

「そのスペースノイド皆殺しさえ、下手をすると地球連邦政府のプロパガンダであり、ほんとの損害はそこまででは無かったとか、実は連邦政府がやってジオンに罪を擦り付けたなんて信じている阿呆もいる模様だ。」

「な!……あれは嘘偽りなんかじゃない。俺は見たんだ!俺はサイド1駐留艦隊のトリアーエズ隊にいたんだ!やつらが、やつらが俺の故郷を、サイド1を!」

 

 取り乱す、グスキ大尉。俺は彼が落ち着くまで待っていた。そして言葉を続ける。

 

「ああ。証人も証拠も山ほどある。嘘なんかじゃない。

 だが、そんな阿呆どもよりも始末に悪いのは、「あれが必要な犠牲だった」などと臆面もなく考えている、それこそ面の皮が厚い連中だ。」

「……。たしかに、その通りですな。そして俺たちは、そう言う連中を赦してはならない。そうですな?」

「ああ。だけど1つ忠告して置くぞ?だからと言って、自分たちの幸せを犠牲にしたら、それはそれで貴官らの負けだ。やつらを叩き潰し、かつ自分たちの幸せを掴む。そうでなくちゃいけない。

 ……難しいのは、わかってるんだけどな。」

 

 ため息混じりに言った俺の言葉に、だがグスキ大尉は大まじめに頷いた。

 

「そうですな。俺たちは、負けるわけにはいかない。生き延びて、ジオン公国の理想が薄っぺらい嘘っぱちであった事の生き証人として、叫び続ける。その上で俺たちが幸せを掴む。それでこそ、やつらを嘲笑えると言うものですな。」

「そうさ。あいつらのおかげで不幸を背負わされた俺たちが、幸せを掴んでみせるんだ。奴らにとっては、これ以上ない皮肉だろうさ。」

「ゼロ少佐……?もしや少佐も?」

「ちょっとな。コロニー落としのせいでさ。」

 

 俺は自分については、そこまでしか語らなかった。グスキ大尉も、突っ込んでは来なかった。そして俺は別の話題を振る。

 

「大尉……。いっしょに仕事する上で、話しておかにゃならん事がある。隠しておこうかと思ったが……。隠して置いてバレたら、信頼関係を損ないかねん。だったら話しておいた方がいい。」

「少佐?」

「……俺の、俺の「オニマル・クニツナ」隊には、複数名のジオン公国からの亡命者が存在している。だがその者たちは、決して……。」

 

 早口に俺が言いつのろうとした時、グスキ大尉が片手を上げてそれを制止する。そして大尉は言った。

 

「大丈夫、その事はこの任務を受けた時に、そちらの上官のツァリアーノ大佐からお知らせいただきました。大佐の、少佐に対する親心ですな。誰がその亡命者なのか、詳しくは教えていただけませんでしたが、なんでもジオンで迫害を受けており、少佐たちの尽力で救出されたとか。」

「!!……大佐、何言ってくれちゃってるんですか。あ、いや。迫害……を受けていた事は確かだ。」

「大丈夫です。俺たち「F.O.T.A.」隊の面々は、既にその事については納得済みです。俺たちの敵は、「ジオン公国の旗を仰ぐ者ども」だけです。

 ……俺はサイド3攻略戦にも参加しました。当時はまだ現役だった、ジムコマンド宇宙戦仕様に乗って。そして、あのシーマ・ガラハウ少佐の放送を聞きましたよ……。」

 

 遠い目をして、大尉は語る。俺は、黙って聞いていた。

 

「最初は憎悪に塗れましたよ。同胞であるはずのサイド2を虐殺したクソ女が、何をいまさらと。だけど、あの涙声……。彼女は犯した罪の報いを受けていますし、おそらく今も受け続けているでしょう。悪夢としてね。

 それに……。彼女は騙されて虐殺に加担させられた。そして前非を悔い、償った。ジオン公国を叩き潰す一手となった事で。」

「……。」

「俺たちは、彼女ですら赦しているんです。虐殺の実行犯ですらね。ですから、大丈夫ですよ。何度も言いますが俺たちの敵は、「ジオン公国の旗を仰ぐ者ども」だけです。」

「……感謝する、大尉。「F.O.T.A.」隊員たちにも……。」

 

 シーマ少佐かあ……。今、何やってんだろうなあ。新しい顔と名前と戸籍、連邦軍の軍籍と前歴を手に入れて、頑張ってるはずだけどな。俺とグスキ大尉は、連れ立って廊下を歩いて行った。

 ちなみに俺の人工ニュータイプ感覚で、他に誰もいない事は確認してあるよ?そうでなきゃ、こんなアブナい話、できないよね。

 

 

 

 このマスドライバー施設を襲撃したジオン残党の歩兵部隊は、マスドライバーの軌道計算プログラムを所持していた。この軌道計算プログラムは、地球上の主要連邦軍基地を目標にした物だ。

 艦に残った「オニマル・クニツナ」隊のメンバーと「F.O.T.A.」隊は、俺たちの攻撃で半壊した敵MS部隊を倒し、歩兵部隊の半数を降伏させた。残り半数?いや、降伏しなかったし、仕方ないだろう。あの世に逝ってもらうしか無かったそうだ。

 そして捕虜から押収した、マスドライバー攻撃による質量弾の軌道計算プログラムは、すべて破棄された。めでたしめでたし……と、ならないだろう事は、俺がよく知っていた。

 

「地上で陽動を行っていたジオン残党が、宇宙へ上がった、か……。来るんだろうな。」

「月へ、ですか……。なんで、わからないんでしょうね、彼らは。自分たちに、大義など欠片も無い事を。大義を語る資格が無い、と言った方がいいんでしょうか。」

 

 レイラの声が、何処となく悔し気に響いた。俺は、グスキ大尉には「奴らはカッコいい自分に酔ってる」と言ったが……。背景には、地球連邦の宇宙市民を踏みつけにする体質があるのは理解している。グスキ大尉はそれも分かっていたはずだから、あえて彼との会話では触れなかったが。

 しかし、それを理由にしたところで、同じ境遇の宇宙市民を虐殺したのは、言い訳できる事ではない。正史ではこのマスドライバー施設職員の中にも、ジオン残党に協力的な者は数多かった。だがレビル将軍が存命で、彼の演説で何度となくジオン公国の蛮行が叩かれたこの世界では、地球連邦政府に不満や反感を持つ職員でさえ、ジオン残党に協力するのはご免だと公言している。

 

「……自分を正義だと思っている、いや、そう思いたいんだろう。正義の味方は、カッコいいからな。そして、カッコいい自分に酔えば、現実から目を背けられる。酒に逃げるのと、なんら変わらんだろう。

 それだけじゃないのかも知れない。だけど、それも少なからずあるんだろう。そして、奴らは酔っ払い運転で人をひき殺したも同然だ。俺は奴らを叩き潰すよ、レイラ。奴らに同情はしない、できない、しちゃいけない。」

「手伝うわ、ゼロ。いえ、手伝うだけじゃダメね。わたしも戦うわ。」

「頼むよ。」

 

 自分の声が、なんか頼りなさげに響いた。

 あれ?正義に酔ってるのは、俺も同じか?せめて酔い過ぎない様にしないと。俺の戦う理由は、普遍的な正義と言うよりは非常に個人的なもんだと言うのを、忘れちゃ駄目だ。うん。

 

 

 

 レーザー通信で地球から届いた情報によると、『水天の涙』作戦決行において中心的働きをしていた敵部隊「インビジブル・ナイツ」を含むジオン残党が、月へと向かった模様だそうだ。更にソレを追って、その敵と何度となく交戦していたゲリラ狩り部隊、「ファントムスイープ」隊は改ペガサス級強襲揚陸艦ペガサスを使い、彼らも月へ向かう途上にあると言う。

 特筆すべきは、フルアーマー実験機であったRX-78-7ガンダム7号機を、「ファントムスイープ」隊が受領している事だ。正史においては、敵スパイであったシェリー・アリスン中尉がテストパイロットをしていたため、彼女の関わった機動補正プログラムが抜かれていたと記憶している。それでうまく戦えないと言う事態に陥っていたハズだ。

 気になったので、通信に出たツァリアーノ大佐にそれとなく聞いて見た。そうしたら、大至急新しい機動補正プログラムを組んで、搭載したそうだ。でもって、実はソレはプログラム媒体のメモリユニットが別物になっただけで、元々の奴の、ただのコピー品らしい。俺から話を聞いていたレビル将軍が、諜報部通じてコッソリ手を回した結果のようだ。

 

「改ペガサス級ペガサス、か。ウッディ大尉……今は少佐だったと思うが、あの人が艦長だったはずだな。本当はサラブレッドが使われていたはずだったが。」

「あのとき精神世界で、貴方に見せられた未来の1つにあった話ね?」

「ああ。だが、未来は変わっている様だ。少しでも、わずかでも、良い方に……。」

「今頃ペガサスは、月面近傍に到着してこちらに向かっているはずね。」

 

 俺とレイラは、マスドライバー施設に隣接して地下に建設されている、MS格納庫へと急いでいた。まだ俺たちのニュータイプ感覚には、敵襲のプレッシャーは感じられない。だが正史において、「ファントムスイープ」隊が月面へ到着したかしないかの頃合いで、「インビジブル・ナイツ」はマスドライバー施設に攻撃をかけてきたはずだ。

 既に敵を乗せたジオン残党の艦が、月面に到着したらしいとの話も受けている。いつここが襲われても、おかしくは無……!!

 

「来たな!」

「来たわね!」

 

 俺たちのニュータイプ感覚に、敵のプレッシャーが感じられる。とうとうやって来たか。俺は近場の壁にある端末に飛びつき、「オニマル・クニツナ」隊と「F.O.T.A.」隊の半数に召集をかけた。今、マスドライバー施設周辺には「F.O.T.A.」隊の残り半数が展開して警備にあたっている。だが、このままでは……。

 

「まずい、このプレッシャーは……。」

「ニュータイプ、いえ……。まさかとは思うけど……。」

「たぶん、間違いない。」

 

 来たのは、「インビジブル・ナイツ」だけじゃない。このプレッシャー、間違いない。……と、思う。

 

 

 

 ……強化人間だ。

 

 

 

 悪いタイミングだった。外に展開しているのは、「F.O.T.A.」隊でも練度の低い小隊2つだ。これが「オニマル・クニツナ」隊の練度と装備であったなら、と思わずにはいられない。俺たちが格納庫より出撃したときに感じた気配は、既に施設外縁部に到着している。

 そして「オニマル・クニツナ」隊、「F.O.T.A.」隊の第1、第2小隊は、地下の格納庫から出撃する。グスキ大尉が叫んだ。

 

『マイルズ!コンラッド!』

 

 俺たちの眼前で、2機のジム改が吹き飛ぶ。そして両機とも爆散した。……断末魔の悲鳴が、俺の人工的ニュータイプ感覚に聞こえる。

 

『く、くそ!スタンリー中尉、報告を!』

『はっ!だ、第3小隊はロジャー伍長機がやられましたが、パイロットは脱出!他は健在です!第4小隊は……マクシミリアン中尉が真っ先に撃墜されて、脱出は確認できておりません。その後、今しがたマイルズとコンラッドが。残るはトラヴィスのみです。』

『そうか……くそ。トラヴィス、お前はスタンリー中尉の指揮下に入れ!そして……。』

「避けろ、グスキ大尉!」

 

 俺の警告が間に合って、グスキ大尉機はかろうじて敵機の攻撃を躱した。しかしシールドを半分切り裂かれる。突入して来た敵機は、MS-11アクト・ザク……。それが3機1個小隊。だが変だ、こいつら、たぶん強化人間だが……3人分の気配こそ感じられるんだが、意識が1つしか無い様な……?

 

「グスキ大尉、こいつらは俺たちに任せて、他の敵を!こいつらは別格だ!ヤバイ相手だ!」

『く、了解!悔しいが……。部下の仇を、頼む。』

 

 グスキ大尉が退いて行く。それと敵機の間に入る様にアレックス3を移動させ、アクト・ザク3機にプレッシャーをかけてやる。敵機はこちらを容易ではない相手と見たか、グスキ大尉機を無理に追わず、こちらに向かって各々武器を構えた。

 

「……どう思う?レイラ少尉。」

『妙です。3機の動きが、綺麗に同時に行動を起こしてます。あまりに綺麗すぎます。』

「ィユハン曹長?」

『なんか……シミュレーターの敵機を思わせますね。人間じゃ、あそこまで同時に動くのは。タイムラグまったく無いってのは、無茶です。』

 

 ィユハン曹長の言葉に、俺は唐突に理解した。なんてことしやがる!

 

「奴らのうち、後ろの2機はビットだ!ビットと同じだ!強化人間を強化する際に自由意志を奪って、リーダーの強化人間によって操作される様にしてやがるんだ!

 ちくしょう、遠隔タイプのサイコミュの代わりに、そんな手を……。」

 

 待て、俺は何を言った?サイコミュの代わりに、ニュータイプ能力者同士の共感を利用したのか?いくらなんでも、そんな手間をかけるなら、ジオン系のやつらなら普通にビット使うだろ。こいつら作ったのは、やっぱり……!!

 

「1-2、ィユハン曹長!お前は後方支援に専念しろ!けっしてこいつら相手の近接戦闘は避けるんだ!1-1、レイラ少尉!近接支援を!

 0-0、マリー曹長!全機に通達!小隊単位で散開して、敵機の来襲を防げ!ただしユウたち第2小隊は、遊撃として火消し役に飛びまわれ!こいつら以外に強敵がいるかもしれん!それは、ユウたちに任せる!」

『『『了解!!』』』

 

 俺は3機のアクト・ザクとのダンスを開始する。と、その時殺意を感じた俺は、急ぎ機体を後退させた。今までの位置に、3条のビームが突き刺さる。見遣ると、新たなアクト・ザク3機がこちらに向かっていた。

 

「なんてこった……。もう1組かよ。0-0!ユウたちをこっちに寄越せないか!?」

『こちら0-0!無理です!今第2小隊は、ジム・キャノンⅡ3機の砲火に釘付けにされています!ろ、鹵獲された機体と推測されますが……。』

『シット!連邦の機体じゃないかよ!』

「くそ、ほんとに鹵獲機だったらいいんだがな。」

 

 横流しされた機体で無い事を、切に願う。……その望みは、叶いそうに無いが。そして向こうも3機、か。あちらの方角から感じるプレッシャーも、重い。ただ、こちらの2組ほどじゃないのが救いか。

 しかし、まずい。俺とユウの2個小隊が、強化人間に捕まっている。フィリップ中尉の第3小隊、クリス少尉の第4小隊、「F.O.T.A.」隊に残された3個小隊で、強化人間以外の戦力を捌いてもらわないと……。しかし正直、不安だ。敵は、明らかに異常な戦力供給を受けている。

 いったい何処から?決まっているだろう、そんな事。

 

 

 

 地球連邦軍だ。くそったれ。

 

 

 

 だがここを切り抜ければ、諜報部による内々の調査じゃなく、おおっぴらな捜査も可能だ。ジムキャノンⅡなんてのを流した考え無しの馬鹿のおかげだ。ありがたい事だ!なんとしても、切り抜けてやる!




今回、突拍子もない敵が出て来ました。主人公たちの相手じゃあありません。ユウ・カジマ中尉を釘付けにしている、なんと「ジム・キャノンⅡ」の3機小隊です。鹵獲機にしては、あきらかに状態が良すぎる機体です。それが3機も。
もろに横流し品ですねー。「敵」は、考え無しのおかげで馬脚をあらわしましたね。「敵」はどうやって切り抜けるんでしょう。やっぱりトカゲの尻尾切りかなあ。
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