強化人間物語 -Boosted Man Story-   作:雑草弁士

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敵に至る鍵

 右から1機のアクト・ザクが襲い来る。その手にはヒートホークが。左から1機のアクト・ザク。その手にもヒートホーク。そして正面からも1機のアクト・ザク。その手にもヒートホークが鈍く輝く。

 こいつら……と言うか、こいつと言うか。3人1組のこいつらは、格闘戦に特化した強化人間と見た。さっきグスキ大尉の機体のシールドを、半分に切り裂いたのもこいつらだ。俺はアレックス3にシールドを捨てさせる。わずかでもいい、機動性を稼ぐのだ。こいつら相手にシールドを使うと、1回は防げそうだが代わりに攻撃ができなくなりそうだ。

 そしてもう3機のアクト・ザク。こちらは射撃中心の調整を施されていると見た。格闘戦特化の3人が俺を押さえている間に、この射撃戦中心の3人がレイラ機とィユハン曹長機を墜とすつもりらしい。

 だが……。

 

『見えるわ!』

『なんで見えるんです、副たいちょ!!』

 

 レイラのニュータイプ能力は、以前とは異なり大幅な拡張を見せている。おそらくセイラ・マス元軍曹、現士官候補生に等しいか、若干上ぐらいの力を手に入れているはずだ。まあ、セイラ候補生が、今も同じくらいの力だったら、だが。

 レイラ機が、敵機の射撃を躱しまくる。レイラには射線に乗った、敵の「殺意」がその目に見えているのだ。いや、俺にも見える。射撃タイプのやつらのリーダー機……こいつ、殺意を隠すのが下手だ。

 そしてィユハン曹長機が、相打ちになりながらシールド強度や機体耐久度、ビームランチャーの敵ビームライフルとの出力差で、ビット役の1機を撃墜した。だが、ィユハン曹長機は、シールドを大破喪失した上、脚部にも軽度の損傷を被った模様。

 

「ィユハン!下がれ!後ろから支援射撃を!」

『りょ、了解たいちょ!!』

 

 俺は3機連携で斬りかかってくるアクト・ザクを、二刀流のビームサーベルでいなしながら、ィユハン曹長に命令を下す。こいつらがレイラの方にいかなくて良かった。こいつら、と言うかリーダー役のこいつ、「殺意」を隠すのが上手い。俺レベルじゃないと、ニュータイプ能力で「感じ」て躱すのができない。

 そうなると、素の技量で躱すしか無くなるんだが……。レイラの素の技量は、現状グスキ大尉と同じぐらいか?となると、盾を失う事を代償に、1回なんとか躱すのが、多分せいいっぱいだろう。

 だが俺なら……なんとか「見える」んだよ!!

 

「そこだ!」

『『『!!』』』

 

 俺は左のビームサーベルで敵の1機の腕を狙い、ヒートホークごと斬り落とした。そして即座にアレックス3の左腕に仕込まれている、90mmバルカン砲を起動。そのアクト・ザクを穴だらけにする。そして倒れ伏したアクト・ザクは、幸い爆散はしなかった。後で調べてもらおう。

 だがそう思った時、リーダー機がビームライフルを抜く。そして倒れた機体を撃ちやがった。爆発するアクト・ザクのビット機……。

 

(……。)

「……死ぬときまで、何の反応も無し、か。徹底的に壊されてやがる。」

 

 そして俺は、もう1機のビット機コクピットを狙って右腕のビームサーベルを突き出した。アレックス3の肩部装甲に大穴を開けて右腕の自由を奪う事と引き換えに、そのビット機を操縦していた操り人形の強化人間は、絶命する。

 

(……。)

「楽に……なったか?」

 

 俺の技量はとうの昔に、「殺意」とか「殺気」とかを乗せないで攻撃できるレベルに達している。それだけじゃない。本来の攻撃とは別個に、「殺気」をぶつけてやる事で、攻撃を誤認させる事だってできる。ニュータイプや強化人間には、この幻の攻撃に反応せずに実体の攻撃を躱したり防いだりする事は、逆に困難だろう。

 敵リーダー機は、今度は倒れたビット機を破壊しなかった。つまり機体にはなんの機密も無く、強化人間そのものを調べられるのが嫌だと言うわけだな。よし、そうならば貴様そのものを調べてやろうじゃないか。俺は、ビット機のパイロットとは言え、機密保持のためとは言え、部下をなんのためらいも無く使い潰すこいつが気に食わなかった。

 濃密な俺の殺気を感じ取ったのだろう、リーダー機のアクト・ザクはビームライフルを腰にマウントすると、ヒートホークを再度装備しなおして構えつつも、じりじりと後ずさりする。

 と、そこに思念が走った。

 

(……状況029-000。成功作TYPE-0、仕様―ムラサメ博士型と遭遇。最高傑作であるTYPE-0と遭遇した際にはそれまでの任務を放棄、データを可能な限り収拾し、戦場を離脱、帰還せよ。条件一致、データ収集は完了なりや?)

(で、データ収集は、これ以上のデータ収集は困難!全、全マリオネットを喪失しましたっ!り、り、離脱命令を!離脱命令を!)

(……了解。A班、B班、C班、全機現状の任務を放棄し、離脱せよ。)

(び、B班リーダー、りょ、りょ、了解!!)

(C班リーダー、了解しました。しかし現状驚異的な技量の敵と交戦中。離脱は不可能です……。)

 

 こ、こいつら……。まだ子供だ!この思念、まだ子供の物だ!そう言えば、この間墜とした強化人間も、子供だった!

 ……成功作TYPE-0?まさか俺か?最高傑作、だと?……笑わせるな、俺は失敗作だ。そうでなきゃ、今は意識から無理に切り離してるこの頭痛が、あるもんかよ!いや、まずは俺のデータを持っていかせるわけには行かない!

 

(うおおおぉぉぉ!!!)

(ひ!コマンダー!コマンダー、たすけ……。)

 

 精神で怒号を放ち、相手をびびらせる。歴戦の勇士には無意味だが、こいつら……少なくとも目の前にいるB班とやらのリーダーには有効だろう。目に見えて、動きが鈍くなった。

 アレックス3の左腕に抜かせたビームサーベルで、俺は目の前のアクト・ザクの両腕両脚と頭を、次々に斬り落としてダルマにし、身動きを取れなくした。手加減したわけじゃない。敵の強化人間を捕虜にするのだ。部下である操り人形の強化人間……マリオネットとやらを殺してまで隠そうとした機密事項、調べさせてもらおうじゃないか。

 

(残念だ、B班リーダー。機密保持のため、抹消する。)

(や、やめて!助けて!コマンダー!)

(させん!)

 

 俺はアレックス3の右脚で、ダルマになったアクト・ザク胴体を蹴飛ばす。それは、ごろごろと転がって、岩にぶつかって止まった。今までそれがあった所に、2条のビームが突き刺さる。撃ったのは、射撃タイプの操るアクト・ザクだ。

 その隙をついて、レイラが必殺の念を込めてビームランチャーを発射。あとで「殺気」とか「殺意」を込めないで撃つ方法をレクチャーして訓練してやろう。そうしないと、ニュータイプ能力者や強化人間には不利だ。

 やはり、アクト・ザクのリーダー機はそのビームを防いだ。残り1機になったビット機……マリオネットとやらの乗る機体を盾にして、だ。爆散するマリオネット機。その爆圧をも利用して、コマンダー機は加速して飛翔した。

 

「しまった!逃げられ……。」

『そうはいかないぜっ!』

 

 ィユハン曹長機が、爆圧に乗った事で逆に動きが取れなくなったアクト・ザクを、狙い撃つ。遠距離狙撃は、ハイザック・カスタムの得意とするところだ。片脚を失ったアクト・ザクが無様に月面の大地に、ゆっくりと転がり落ちて来た。

 

「よくやった、ィユハン曹長!!」

『へへっ。見直したかい、たいちょ?』

「ああ、見直した!」

『え?マジ?』

 

 俺はアレックス3の左手にビームライフルを抜かせて、その機体のもう片方の脚部、そして両腕部、頭部を連続して撃ち抜いた。アレックス3をコマンダー機に歩み寄らせ、俺はオープン回線で言葉を発する。

 

「……降伏しろ。公正な扱いは保証してやる。コマンダーとやら。……やった事がやった事だからな。子供と言えど……。」

(……状況029-999。TYPE-0に鹵獲されそうになった場合に該当。ただちに……。)

「!?」

 

 俺は嫌な予感を感じ、アレックス3を全力で後退、大ジャンプさせた。さらにスラスターを全開で噴射する。次の瞬間、そのアクト・ザクの胴体は大爆発を起こした。

 

「……なんて奴だ。いや、そこまで擦り込みをされていた、って事か……。」

(コマンダー?A班リーダー、コマンダー指示を。こちらC班リーダー。マリオネットは両機とも大破、行動不能。当機も小破し、主武装ビームキャノンを2門とも使用不能。機密保持のための僚機破壊も不可能、離脱も不可能です。指示を……。)

(コマンダーとやらは死んだ。)

 

 俺は、やりきれない想いを抑え込み、思念でC班リーダーとやらに語り掛ける。

 

(B班リーダーとやらは、まだ生きているが意識は無い様だな。お前はどうす……。)

(コマンダーが、死んだ?)

(ああ、死んだ。)

 

 次の瞬間、俺は耳を疑った。いや、思念による会話だから耳とは言わんが。

 

(あはは、あはははははは!!やった!やったわ!これであたしは!!あはは、あはははははははははは!!)

(!?)

(ぜ、ゼロ?いったい何が?)

(れ、レイラ……。わ、わからん。)

 

 そして改ペガサス級ブランリヴァルのブリッジで、戦術情報を提供している0-0のマリー曹長から通信が入る。

 

『こちら0-0。ゼロ少佐、1-0……。第2小隊と交戦していたジム・キャノンⅡの小隊ですが、小隊長と思しき機体から、降伏するとオープン回線で……。2-0のユウ中尉が降伏を認めたんですが、第2小隊も各機小破から中破と、被害甚大でして……。』

「ならば第2小隊には、そのジム・キャノンⅡを見張らせておいてくれ。俺たちも、無事なのはレイラ少尉機のみで、俺の機体も、1-2のィユハン曹長機も、中破してる。」

『ええっ!?少佐が中破させられたんですかっ!?』

 

 驚くマリー曹長。いや、俺も強化人間とは言え、人間だからね?限界はあるよ?

 

「さすがにな。相打ち狙い、肉を切らせて骨を断つ覚悟でやらんと、あぶない相手だったからな。戦況はどうだ?場合によっては、予備機で出撃する。」

『申し訳ありませんが、予備機のハイザック・カスタムに乗り換えて出撃してもらう事になりそうです。ネルソン級MS軽空母ネルソンをそちらに回します。積んである予備機で出撃してください。』

「了解だ。」

 

 しばらくして、上空からネルソンが降下してくるのが見える。だがネルソンは着陸機能が無いので、俺とィユハン曹長は、損傷した機体に鞭打ってその高度まで跳んだ。

 

 

 

 戦闘終了後、アイザック2機がセンサー全開で索敵を行った結果、損傷を負って隠れている敵機を何組も発見したので、俺たち第1小隊が現場に急行して降伏、あるいは全滅させると言う行動を、何度も繰り返した。……相手が降伏せずに、全滅させざるを得なかった方が多かったのは、言うまでも無い。

 俺たちが疲れてマスドライバー施設に帰ってきた時、敵の総大将とグスキ大尉が怒鳴り合っている現場に遭遇した。いや、怒鳴っているのは敵の総大将……あれがエリク・ブランケか。そいつだけだった。グスキ大尉は、静かに喋っているだけだ。

 

「貴様ら連邦にはわかるまい!スペースノイドの悲願、自治独立の夢!そのために我々は……!!」

「……面白いことを教えてやろうか。俺たち「F.O.T.A.」隊……貴様らのおかげで、半数近くの命が失われたがな。それは、全員がスペースノイドで構成されている。」

「な、なに!?馬鹿な!貴様ら、連邦に魂を売った、裏切り者……。」

 

 グスキ大尉は、静かな口調で言う。

 

「裏切り者はどちらだ。全スペースノイドの裏切り者、ジオン公国のエリク・ブランケ・少・佐・ど・の?

 俺は目の前で、故郷であるサイド1を失ったんだ。他の連中も、皆故郷を、友を、家族を、全てをジオン公国に奪われた者たちだ。」

「な……。だ、だが、それは……。」

「必要な犠牲だった、とでも言うのか?だったら貴様。全スペースノイドのためだと言う理由で、サイド3の全員が、お前の故郷が、お前の家族が、友が、大事な者が、みんな踏みにじられてみろ。

 ……サイド3のやつらのために、その数倍のスペースノイドを殺しやがって。俺はお前らスペースノイドの裏切り者のくせに、スペースノイドの代表顔してるクズどもを、この宇宙から一掃してやる。そのためなら……。」

 

 俺はいつの間にか泣いていたグスキ大尉に近寄って、声をかける。

 

「グスキ大尉、泣いてるぞ。これ使えよ。」

「ゼロ少佐……。もうしわけありません。

 ……!?」

 

 俺が手渡したハンカチで涙をぬぐったグスキ大尉は、驚く。ハンカチが赤く染まっていたからだ。口調こそ静かだったが、あまりの怒りに瞼の毛細血管が切れて、血の涙を流していたのだ。

 

「こんな奴、相手にするな。貴官には、まだまだ倒さねばならない「敵」が、たくさん、たくさん居るだろう。」

「……は、了解です。少佐……ありがとうございます。」

「はやくそいつを連れていけ。」

「「はっ!!」」

 

 エリク・ブランケは、毒を抜かれたかの様におとなしくなり、肩を落として去って行った。そこへ、1人の大尉がやってくる。ユーグ・クーロ大尉、地球からエリク・ブランケら「インビジブル・ナイツ」を追って来た「ファントムスイープ」隊の隊長だ。彼は、エリク・ブランケと深い因縁があるはずだ。

 彼は、俺たちに向かい敬礼をする。俺とグスキ大尉も、答礼を返す。

 

「自分は地球連邦軍遊撃特務部隊、「ファントムスイープ」隊部隊長、ユーグ・クーロ大尉であります。」

「自分は地球連邦軍レビル将軍直属部隊ツァリアーノ連隊第01独立中隊、「オニマル・クニツナ」隊部隊長、ゼロ・ムラサメ少佐だ。こちらは地球連邦軍第41独立戦隊MS隊、「F.O.T.A.」隊部隊長、フェリクス・グスキ大尉だ。」

「ただいまご紹介に預かった、フェリクス・グスキ大尉です。」

 

 クーロ大尉は、ちらりとエリク・ブランケが連れていかれる後ろ姿を見遣る。

 

「たしか、奴を撃破したのは貴官だったな。貴官も奴に何か話が?」

「は、い、いえ……。」

「クーロ大尉、俺の権限で許可を事後承諾でもぎ取るから、話したい事があるなら話して来ていいぞ。と言うか、話しておいた方がいい。結果がどうあれな。後悔を後々まで引きずるより、ましだ。」

「……はっ!では失礼します!」

 

 クーロ大尉は、エリク・ブランケの後を追って早足で去って行く。俺はその後姿を見て、呟いた。

 

「ふう……。世話のやける。」

「彼は何を?」

「いや、俺が一方的に知ってるだけだからな。あまり話すべきじゃないだろう。」

「……そうですな。了解です。」

 

 グスキ大尉は、素直に引き下がってくれた。

 

 

 

 俺はレイラと共に、捕らえた強化人間の尋問に立ち会っていた。尋問官は、わざわざルナ2から大急ぎでやって来た、レビル将軍の息がかかった人物たちである。彼らがルナ2より到着するまで、強化人間たちは他者との接触を最低限に抑えられていた。何故って、変な事言われて機密が漏れても。

 最初に尋問されたのは、C班リーダーと称されていた10~11歳程度の少女である。ちなみに捕らえられた他の強化人間は、C班マリオネットの少年2名は、いずれも人形のごとくで、C班リーダーが思念で命じなければ、食事どころか睡眠や排泄もしない事が判明した。B班リーダーの10~11歳ぐらいの少年は、何かに怯えてガクブル状態であり、尋問は後に回される事になった。

 

「何を聞きたいの?何でも話すわ。」

「……名前から話してもらえるかね?」

「MM-008よ。」

「それが名前かね?」

「そう。前の名前は、記憶消されちゃったから。」

 

 審問官は、続けて質問を行う。

 

「名前の番号に、意味は?」

「008は強化人間としての開発番号。ただ、あたしが8番目ってわけじゃないわ。他の系列の強化人間にも、008の番号は居るから。」

「MMは?」

「開発者の名前の頭文字。マコーマック博士、メレディス・マコーマック博士のMMよ。」

 

 俺は思わず立ち上がった。やったぞ……!これでニュータイプ研に捜査のメスを入れる事ができる!!

 

「?……どうしたの?TYPE-0。いえ、この呼び方は貴方は知らなかったんだったわね。どうしたの?プロト・ゼロ。」

「あ、え、あ……。ゼロ、ちょっと……。」

 

 強化人間の少女、MM-008は、きょとんとした表情で尋ねる。隣にいたレイラは、どうしようか困って俺と少女の顔を交互にきょろきょろ見遣り、俺を諫めた。しかし俺は、喜びのあまり、それらの声が耳に入らなかった。




とうとうニュータイプ研に、メスを入れるに足る根拠、証拠を手に入れました。しかし相手も、むざむざ黙って捕まる様なやつらでしょうか。ちょっとそのあたりが不安ですね。
そして機体を流していた馬鹿ども。それがニュータイプ研と協力関係にあったであろうことは確実でしょうが、そちら方面も、うまくいくでしょうか。
いざ、ご期待。

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