強化人間物語 -Boosted Man Story-   作:雑草弁士
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ティターンズ

 ここは改ペガサス級強襲揚陸艦ブランリヴァルの医療室。俺はレイラを連れて、ここで前回の戦いで重傷を負った部下を見舞っていた。

 

「元気か?ダミアン曹長、アンドルー軍曹。」

「少佐!ええまあなんとか。早く治して、また働きたいですよ!」

「少佐すみません、こんな無様な……。」

「気にするな、アンドルー軍曹。窮地に陥った「F.O.T.A.」隊第2小隊を救出するためだったんだろう?グスキ大尉も感謝していた。」

 

 俺はアンドルー軍曹を慰める。軍曹の傷は、重傷ではあるがいずれも致命的な物は無く、ある程度の入院とリハビリは必要だが、必ず現場に戻ってこられるだろう。落ち込んではいるものの、それほど深刻でも無い。

 俺は口ではアンドルー軍曹を慰める物の、本当に俺が心配していたのはダミアン曹長の方だ。彼は元気な口調をしていた物の、また「働きたい」と言った。……また「戦いたい」では無いのだ。彼の左眼は失明しており、もはや光が戻る事は無い。そして左脚も膝から下が無くなっている。……もう彼が、MSに搭乗する事は無いだろう。

 口調は元気を装ってはいるものの、彼の落胆や失望、心の傷は、ニュータイプ能力を持つ俺たちには筒抜けだ。しかし俺たちは、あえて無理に気遣う事はしない。下手に気遣えば、より彼を傷つける。

 

「ダミアン曹長。ルナ2にはいい義肢装具士がいるそうだ。今は技術が進んで、訓練次第だがすぐに歩ける様になる。」

「ほう、それはありがたいですな!」

「それとダミアン曹長が今回死に物狂いで敵を阻止してくれたおかげで、マスドライバー施設の民間人が人質に取られないで済んだ。これは第4小隊全員の手柄でもあるんだけどな。クリス少尉からは、特に曹長の手柄が大きいと上申を受けている。間違いなく昇進の沙汰が下りるだろうよ。」

 

 これはレーザー通信で、ツァリアーノ大佐からの言質も取ってある。大佐によれば、一年戦争時からの彼の記録を掘り返し、前の上官が評価していなかった共同撃墜やアシストについても再評価を行った。結果、今更ながらではあるがそれを評価し、二度に分けて1階級ずつ2階級、昇進させる事にしたと言う話だ。つまりは中尉だな。

 そして怪我が癒えた後は、おそらくだがどこか後方部隊の兵站部隊長として再配属されるだろうとの事。……俺たちの部隊とは、お別れになる。彼がいなければ、今の「オニマル・クニツナ」隊第4小隊は無かっただろう。と言うか、生き残っていたかも怪しい。

 ……彼の代わりになる様な人材は、手に入るだろうか。彼無しで第4小隊は無事に生き延びられるか。クリス少尉も、ウェンディ伍長も、自分がもっと上手くやれていればと悔やんでいた。彼の重厚かつ包容力のある人格が隊から消える事、彼の精密な支援射撃が後衛から失われる事が、第4小隊に致命的な傷を与えねば良いが。

 っと、そうだった。

 

「アンドルー軍曹。そう言えば、前々からお前が言っていた事なんだが。リハビリ終わったら、士官学校行くか?」

「えっ……。」

「ちょうどリハビリ終わったあたりで、来期の願書提出期限が来る。推薦書は、さすがに将官級とはいかんが、ツァリアーノ大佐が書いて下さる。お前の直接の上官、フィリップ中尉もこれには賛成している。どうだ?」

「……行きます。」

 

 俺は包帯でぐるぐる巻き、左手右脚をギプスで固められ、点滴の管だらけのアンドルー軍曹に笑いかける。アンドルー軍曹の表情に、決意の色を見たからだ。

 

「行きます。そして僕、いえ自分は必ずこの隊に戻って来ます。ま、まあその時に隊に空きがあれば、ですが……。」

「そうか……。じゃあ書類を、レイラ少尉。」

「はい。」

「え゛。」

 

 俺はアンドルー軍曹に命じる。事実上、これが「アンドルー軍曹」に対する最後の命令だろう。次にはこいつなら必ず、「アンドルー少尉」になっているはずだ。

 

「アンドルー・カッター軍曹。宣誓して、書類にサインをしろ。略式でいいからな。」

「りょ、了解。」

「右手を上げて、俺が言う言葉を繰り返せ。わたくし、アンドルー・カッター軍曹は、地球連邦憲章を支持、遵守し……。」

「わたくし、アンドルー・カッター軍曹は、地球連邦憲章を支持、遵守し……。」

 

 さて、もう1人我が部隊から欠けた、か。補充兵を2人……。可能ならば腕利きが欲しいな。見つかるだろうか。俺はアンドルー軍曹のサインが入った宣誓書類を受け取り、レイラと共に、アンドルー軍曹の士官候補生志願関係の書類仕事をするため、怪我人2人に別れを告げて自分の執務室へ向かった。

 

 

 

 書類仕事が一段落したとき俺は、少々へばっていた。レイラがお茶の用意をしてくれる。お茶うけのお菓子は、冷蔵庫に仕舞っておいたカスタードプリンに、同じく冷蔵庫で保存していたバニラアイスクリームと、生クリームにカラメルソースを添えた物だ。

 アイスクリームとカスタードプリンは、ルナ2で買ってきた物で、後方の皆さんが兵士の口に入れるため、がんばって作った味がするアレだ。生クリームは、あらかじめ地球から個人で持って来ていたストックを使ってホイップしたばかり。カラメルソースも、今作ったばかりだ。

 

「なあ……。これ、MM-008とMM-010にも持って行ってやろうか。」

「そのつもりで、2つ余計に用意しておいたわ。冷蔵庫に入れてあるから、残りの仕事が終わったら差し入れとして持って行きましょう。」

「ああ。」

 

 俺はお茶の紙パックにストローを突きさして飲む。さすがに無重力空間で普通のカップでお茶を淹れてもらうのは無理だ。ちょっと残念。そしてプリンとアイスクリームを口に運びながら、俺はあのMM-008の尋問を思い出していた。

 

 

 

 MM-008は、非常にこちらに協力的だった。訊かれた事は、ほとんど隠さずに話し、答えられない事については理由を述べた。その理由が、「心理ブロックをかけられているから話せない」だったのは、マコーマック博士らに怒りが湧いたが。

 

「……何故君は、こちらに対しそこまで協力的なのかね?一応我々は、敵だったはずなのだがね?」

「わたしが、ある意味失敗作だからでしょうね。わたし、あいつら……わたしを調整した奴らに、忠誠心なんてカケラもないのよ。忠誠心があるフリをしていたけどね。だいたい、腹がたつのよね、あいつら。強化するなら、もうすこしまともに強化してほしいわ。

 頭が……いたいのよ。われる様に。吐き気もするし。何度、訓練中にたおれたか。今はある程度、ガマンできるようになったけど。」

「よくそれなのに、従っていたな?君の能力をもってすれば、たとえば先の戦闘中とかに反乱するとか。あるいはさっさと降伏して、こちらの保護を求めるとか。」

 

 尋問官のその台詞に、MM-008は表情を憎々し気に歪める。

 

「わたし、その点に関しても精神操作されているのよ。MM-009……コマンダーだけどね。そいつと、マコーマック博士当人には、絶対にさからえないの。さからおうと思ったこともあるけれど、それを思った瞬間に、数倍の吐き気とめまい、頭痛がおそってくるのよ。たえられないの。ガマンできないのよ!

 あいつら……。頭痛とか消す事はできないどころか、研究すらしないくせに、その頭痛を利用したり増幅することは考えつくなんて……。MM-010も、同じ調整をされてるわ。」

「MM-010?」

「MM-008からMM-010の3人の中で、いちばん後に作られた強化人間。MS格闘戦が得意な奴よ。あれは意識のコントロールについては成功してるから、きっちりマコーマック博士に忠誠を誓ってるわ。わたしと同い年くらいの男の子。

 そんな奴にも、あいつらは念のためって、命令に逆らえないように精神操作したの。今頃は、きっと怯え切ってるわね。」

「……。」

 

 MM-008は、尋問官から俺の方に顔を向けた。

 

「尋問中だからかしら?プロト・ゼロが喋ってくれないのは。あなたには感謝してるわ。コマンダー……MM-009、あのデンジメカ野郎を殺してくれたんでしょう?」

「……。」

「デンジメカ野郎、とは?」

「その通りよ。頭になんか理屈はわからないメカが埋め込まれてたのよ。で、ニュータイプ能力をもった人工知能みたいな感じになってたわ。」

 

 物理的に、脳を改造されてたのか。あの無機質さ、そんな裏があったとはな。俺は苛立ちを噛み殺すのに苦労した。

 その後も、尋問は続いた。彼女たちが使っていた、パペットじゃない、マペットでもない、ああ、マリオネットだ。そう呼ばれていたリモコン役の操り人形強化人間たちは、MM-002~MM-007までの失敗作の廃物利用だとの事。MM-001はなんか既に、俺に倒されているらしい。

 しかし、どこから強化人間の候補となる被験者を手に入れているんだ。表のルートはワイアット中将たちが潰し、裏のルートも同じくワイアット中将のおかげでか細くなっているはずだ。その件については、MM-008は何も知らなかった。知っていたところで、消されてしまった過去の記憶に含まれるんだろうな。自分がどこから「調達」されたか、なんてのは。

 

 

 

 俺は我に返る。そしてアイスクリームがとけてしまわない内に、口に運んだ。

 

「MM-008……。どうしたもんだろうな。俺たちを裏切れない様に、マリオネットたちと共に手錠かけて、各々独房に閉じ込めてくれ、か。映像でも手紙でもニュータイプ能力による感応でも、マコーマック博士からの直接命令だと確信すればその時点で、自分はその命令に従わざるを得ない……。」

「ゼロ……。そのマコーマック博士って人……。」

「研究バカだが、そこまで悪漢じゃなかった。そこまでキチガイじゃなかったよ。何かあの男を変えてしまう事が、あったんだろう……。

 けど、たとえ何があったとしても、奴を赦すわけにはいかないな。」

「そうね。いくらなんでも、赦される事じゃないわ。」

 

 レイラも頷きながら、紙パックのお茶を飲む。今日のお茶の時間は、甘い菓子を食べているはずなのに、妙に苦かった。

 

 

 

 やられた。先手を打たれた。

 何の話かと言うと、ジャミトフ・ハイマン少将の話だ。奴は俺たち「オニマル・クニツナ」隊が勝つ事すらも計算に入れていたのだろうか?ジャミトフは、俺たちがルナ2へ帰還する直前あたりのタイミングで、蜥蜴の尻尾切りをやったのだ。いや、尻尾ではない。何と言えばいいのか。奴は「頭」を切りやがった。

 何をやったかと言うと、内部告発だ。コリニー派の重鎮であった奴は、ひそかにコリニー派の悪事の証拠や醜聞を、丁寧に収集していた。そして自分はその証拠を集めるために、コリニー派に属していたのだ、と言う顔をして一気に公開しやがったのである。

 コリニー派がやっていた悪事は、大きく分けて以下の2つ。

 

1:ジオン残党への、ジオン公国鹵獲兵器の横流しの指示

 これは読んで字のごとし。コリニー中将は、コリニー派の子だか孫だかにあたる小派閥、ルーパート少将派に鹵獲兵器を処分する権限を委譲し、鹵獲兵器を処分した事にして完全整備した上で、ジオン残党へ流させていた模様。

 目的は2つ。1つは弱体化し過ぎたジオン残党を強化し、これ以上の連邦軍軍縮を阻む事。2つ目はジオン残党軍をレビル将軍派閥の部隊にぶつけ、消耗させ、あるいは壊滅させて、レビル将軍派閥の力を削ぐ事。ただし、2つ目は成功すれば御の字のオマケだ。

 だがルーパート少将派は、何を勘違いしたのか、2つ目の目的達成を至上命題としてしまった。そしてそれは、ジム・キャノンⅡなどと言う機体をジオン残党へ流す事や、ニュータイプ研究所と秘密協定を結ぶ事につながって行く。

 

2:ニュータイプ研究所への、強化人間研究開発の指示

 これも読んで字のごとし。ニュータイプ研究所はいつの間にかジャミトフ少将からコリニー中将の直下に移っており、しかもその事は秘密にされていた。そしてニュータイプ研はコリニー中将派閥の庇護の元、総大将であるはずのレビル将軍の命に反し、秘密裏に強化人間の開発を続けていたのである。

 しかし強化人間の研究を続けるためには、素体となる被験者が必須である。しかしその「供給元」となる孤児院などからのルートは、ほぼ全てワイアット中将、コーウェン中将らに潰されてしまった。わずかに手に入る、素養の低い素体だけでは研究は進まない。

 そこでニュータイプ研の暴走が始まる。研究素体を入手するために、ルーパート少将派に強化人間を提供する代わりに、素体となる被験者の「調達」を依頼したのだ。また稀に、強化人間用カスタマイズをジオンの鹵獲機体に施したり、特別に依頼されて特注の強化人間を作る事も行ったが。ルーパート少将派は、その強化人間をジオン残党に流し、ジオン残党は対価として強化人間の被験者を提供したのである。

 ジオン残党の、一部の騎士道精神溢れすぎてる奴らは、その時点でルーパート少将派と手を切った。しかし残りはあちこちから……地球上のアースノイドはおろか、同胞であるはずのスペースノイドまで、色々と手練手管を使い、ニュータイプ能力の素養がある者を攫って来たのである。そしてルーパート少将派にその被験者を提供する見返りに、強力な戦力を受け取ったわけだ。

 

 ちなみに、依頼されて作られた特注の強化人間と言うのが、俺がトリントン基地で倒したイフリートに乗っていた強化人間らしい。アレは元々キシリア派のジオン士官であった様だ。更にはフラナガン機関残党とも、ニュータイプ研はルーパート少将派を仲介に、繋がりを持っていた模様だが……。

 ルナ2の通信室で、レビル将軍の苦り切った顔が大型モニターに映る。

 

『不幸中の幸い……。奴がコリニー派の内部事情をぶちまける数分前に、憲兵本部と諜報部がニュータイプ研の強制査察に入っておった。そのおかげで、我々がコリニー派の悪事に対し無力であったなどと糾弾される事は避けられそうだが……。

 それとニュータイプ研自体も、我々の側で全て接収できそうだ。……全て、と言うには逃げられてしまった者も多いが。マコーマック博士とか、な。』

「残念です……。」

『だが、ムラサメ博士は逮捕できたし、研究資料、研究設備は全て押収できた。これで、マコーマック博士たち逃げおおせた者が、資料をマイクロフィルム化したり磁気媒体にコピーしたりしていたと言う話が無ければな……。』

 

 マコーマック博士と、主力の研究員たち数名が、まるでこちらの手入れを知っていたかの様に逃げおおせていたのである。憲兵隊本部が表から、諜報部が裏から追っているのだが……。諜報合戦では、敗北してしまったと見て良いのだろうか。その相手は、ジャミトフじゃないかと思うのだが。しかし確信はあっても確証はない。

 

『ジャミトフ少将……。彼はコリニー中将派閥で、下の者の大半は、事情も理由も知らされずに盲目的に上の命令に従ったまでで罪は無いと、かばいおった。そして罪があるとされた者はおそらく……派閥内での彼の政敵であろうな。

 そしてジャミトフ少将は、ほぼ完全に元コリニー中将派閥を掌握しおった。派閥その物の影響力は落ちたが、彼自身の影響力は数倍になったな。そして何も知らぬ将兵は、内部告発した彼を英雄視しておる。近日中に、彼は中将に昇進するだろうな……。』

「他にも何かありそうですね、将軍。」

『うむ……。彼は『この様な腐敗と汚濁が連邦軍内部を汚染している状況を鑑み、綱紀粛正のため清廉な将校を選りすぐった、独立部隊を結成すべし!』と進言してきたのだ。そしてその部隊に、他の部隊への査察や逮捕の権限を与えると言ってきおったのだ。

 ゴップ大将の、『まずは通常の独立部隊を編制し、試してみてはどうか?』とのとりなしや、我々の必死の抵抗で、何とか『一般軍人の二階級上として扱われる』などの無茶な条件は排除できたのだが……。』

 

 俺はごくりと唾を飲み込む。

 

「その部隊の名は、やはり……。」

『うむ。『ティターンズ』だ。』

 

 ここで、1人の青年将校が口を挟む。

 

「ところで……。その話は、自分が聞いていても良い物でしょうか?と言いますか、その様な話をする場に、自分がいてもよろしかったのでしょうか?将軍……。」

『うむ、当然では無いかね。第42独立戦隊の長であろう、君は。ブライト・ノア少佐。』

「将軍の仰る通りだ。今更気にする事じゃない。と言うか、手遅れだろう?」

 

 ブライト艦長の背中が煤けて見えた。良かったな、艦長。出世は間違いなしだ。




オチはブライトさん。よっ、苦労人!!

でも、マコーマック博士には逃げられた挙句、ジャミトフは英雄扱い。ニュータイプ研は人員以外は全部接収できましたけれども。
そして正史よりも早く、ティターンズ結成。表向きの大義名分は随分違いますが。
さあどうなることやら。







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