強化人間物語 -Boosted Man Story-   作:雑草弁士

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強制査察

 今、俺とレイラの目の前には細身の男性士官が突っ立っている。相手が敬礼してきたので、こちらも答礼を返したが、正直こいつと仕事をするのは気が進まない。命令だし、仕方ないけどさ。

 

「ちょっとばかり久しぶりですね、ゼロ少佐。ああ、贈られてきたドリンク剤の詰め合わせは、部員たちにも大変好評でしたよ。みんな目が死んでましたからね。ははは。」

「そうですか、それはよかった。次はいつになるか分かりませんが、また何か贈らせていただきますよ。諜報部には何時も世話になってますからね、アボット少佐。レイラ、次は果物の缶詰でも手配してくれるか?」

「了解です。早速手配します。」

 

 そう、目の前にいるのは諜報部のアーロン・アボット少佐。諜報員でこそないが、諜報部の中でも力量は非常に高い男だ。ただなあ……。

 コイツ、ヤバい奴なんだよな。作戦目標の達成、戦略的勝利のためならば、自分の命をも平然と投げだす覚悟を持ってやがる。いや、投げ出すのが自分だけならいいよ?周囲の協力部隊とか、そういった物までいっしょに擲つ覚悟まで、勝手にしてやがるんだコレが。

 実際コイツが作戦立案したのかは今一つ不明だが、俺たち「オニマル・クニツナ」隊はコイツ含め諜報部のせいで、『キシリア・ザビ護送任務』で酷い目に遭った。内通者とか裏の敵の動きとか調べるために、わざとこっちの飛行ルート漏らして敵の反応で誰が内通者だとか調べたんだ、コイツは。

 俺たちの力量が高かったから無事ジャブローに到着できた上、敵の事を色々調べる事ができたけど……。コイツ、いざとなったらキシリアを自分の独断で消す覚悟までしてたんだよなあ。

 ああ、できればコイツとの共同作戦は、避けたかった。レビル将軍とツァリアーノ大佐の命令じゃなきゃ、拒否してやるんだがなあ。仕方ないか。それに諜報部が作戦に絡んで来たせいで酷い目に遭ったとは言え、それ以外の面で諜報部が無きゃ地球連邦軍レビル派は手足もがれたも同じなんだよな。「オニマル・クニツナ」隊や第42独立戦隊含めて。

 

「しかし宇宙は慣れませんなあ。ルナ2基地の中では磁石靴で立っていられますが、立っていると言うよりは……。昆布か何かにでもなった気分ですよ。

 いや、ある程度は慣れましたが、いまだに胃の調子が変ですよ。この自由落下状態がいつまでも続く無重力と言うのは。」

「ははは。それはご愁傷様ですね。仕方ないですよ、いつか慣れます。」

「だと良いのですが……。」

「ところでアボット少佐、今回の用向きは……いえ、今回の作戦はいったいどういった物なのでしょうか。」

 

 アボット少佐は頷く。レイラはメモを取る準備をし、レコーダーも起動した。

 

「ええ、貴方がたが捕らえた「紅い稲妻ジョニー・ライデン」と、「白狼シン・マツナガ」なんですがね。その彼ら……いえ、特にマツナガの方が持って来て、ソレと引き換えに部隊全員の助命、減刑を嘆願してきた、その交換物件なんですが。」

「マツナガ大尉が?」

「はい。彼が持って来た色々な情報や証拠書類……。彼らはかなり軽い刑になりそうですよ。」

「それほどの……。」

「何せ、やつらデラーズ・フリートの決起に関する情報まで入ってましたからね。」

「!!」

 

 色々既に戦っているとは言え、デラーズ・フリートは正式に決起したわけではない。やつらは深く静かに……当人たちはそのつもりだろうが、静かに隠れ潜んで、一斉に決起するその時を待ち構えているのだ。……どこが静かなんだろうな、とは思うが。

 と言うか、上は奴らに決起させない方法を考えている。奴らが決起に成功すると、再建しつつあるサイドや宇宙基地の幾つかが占拠され、場合によっては地上の拠点までも奪われる可能性があるのだ。そうなったら、ぶっちゃけた話、迷惑極まりない。

 しかしやつらが決起に成功するためには、やつらだけでは駄目だ。

 

「つまりは……。やつらの決起に呼応して立ち上がるやつらなり、やつらがこっそり忍び込ませた戦力なりの情報が、証拠付きで?」

「その通りです。今、わたしたち諜報部や憲兵隊は大忙しです。民間警察や検察にまで協力を依頼して、そう言った者達をテロリストあるいはその予備軍として検挙する準備をしていますよ。

 あなた方には、その一端として協力を願いたいのです。わたしたちは、諜報部、憲兵隊、民間警察の機動隊などでは対抗できない戦力にあたる事になるので。そのため、それに対抗する戦力として期待させていただきたいのですよ。」

「はっきり言ってください。MSを含んだ勢力、たとえば鼻薬を効かされて篭絡され、敵部隊の一部を呼び込んだ宇宙基地とかを攻略するのでしょう?」

「まあ、まだ攻略になるとは限りませんけどね。まずは査察です。強制査察なんですけどね。ですが、そこにMS他の機材が搬入された形跡もありますし、もしかしたらその基地に正式に配備されているMS部隊までもが敵に回る可能性あり、ですからね。

 あと宇宙基地ではなく、サイド5のコロニー内基地ですね。連邦軍の。」

 

 アボット少佐は、微笑みながら言った。

 

「そしてマツナガ大尉がもたらした書類には、かつてサイド6に存在したフラナガン機関の人員が、そこに堂々と出入りする様子を撮影した写真もありましたよ?」

「む……。」

「フラナガン機関!?あ、し、失礼を……。」

「……まあ、気にしなくていい、レイラ。了解です。出立はいつ何時になりますか?」

「明日1月12日、マルハチマルマル(08:00)時です。」

「わかりました。」

 

 ……フラナガン機関の人間がそこに。つまりはニュータイプ研究が行われている可能性が……。

 

「……いるのか?マコーマック博士が。」

「可能性はありますね。」

 

 俺のひとり言に、アボット少佐は律儀に返して来た。

 

 

 

 そして1月18日、マルサンマルマル(03:00)時。俺たち「オニマル・クニツナ」隊を載せた第42独立戦隊は、サイド5ルウムの1バンチコロニーであるミランダを臨む宙域に浮かんでいた。

 

「じゃ、ブライト艦長。行って来る。」

『気を付けてな。』

 

 俺は既にアレックス3に乗り込んで、カタパルトの上に機体を載せていた。

 

『ゼロ少佐、進路クリア、発艦願います。』

「ゼロ・ムラサメ、アレックス3、出るぞ!」

 

 凄まじいGがかかり、アレックス3は漆黒の宇宙空間へ射出される。俺が発艦した右舷MSデッキとは反対側の左舷MSデッキからは、ユウのアレックス2以下第2小隊の面々が次々に発艦してきた。無論右舷デッキからも、第1小隊の面々が出撃してくる。そして最後に、アイザック2機の第5小隊が、左右のデッキから1機ずつ射出された。

 僚艦のキプロスⅡ、グレーデンⅡからも第3、第4小隊機が上がって来る。そして最後の1隻であるネルソンから、今回のみ載せられている強襲揚陸艇が2つ、発進してきた。あの揚陸艇に、諜報部の諜報員数名、宇宙軍の陸戦隊員、憲兵隊が乗っているのだ。アボット少佐も捜査令状を持って、2隻のうちどちらかに乗っているハズ。

 片方の強襲揚陸艇が、ミランダコロニーの外壁に近づいて行く。そして強力な電磁石で回転するコロニー外壁に強引に貼り付いた。あの近くに、コロニー内部への侵入口……厳密に言うならば万一のときのため、コロニーからの脱出口が作られているのだ。そしてそこを逆行していった先には……目的の基地がある。

 

「第3小隊、フィリップ中尉。頼んだ。」

『ザザッ了解ッ……。』

 

 ミノフスキー粒子のノイズが混じる。これは今回、我々が散布したものだ。フィリップ中尉は、コロニー外壁に貼り付いた強襲揚陸艇の付近で、コロニー外壁にセメント……コロニー補修材がそう言われているだけで、セメントそのものでは無いのだが、それで取っ手を張り付けるとそれに各機体を固定した。コロニー内壁でほぼ1Gの遠心重力がかかっているのだから、コロニー外壁に貼り付いた彼らは1G強の重力を感じているはずだ。

 フィリップ中尉と第3小隊は、万が一ここから相手が脱出してきた際に、取り押さえるのが目的だ。第1から第4のどの小隊でも一応は可能な任務だが、こういった事に最も適しているのはフィリップ中尉たち第3だ。と言うより、他の小隊が向いてなさすぎると言うか……。特に第4小隊。なあ、ヤザン少尉?

 

『ザッゼロ少佐?お願いしますよ?ザザザッ……。』

「任せてくださいアボット少佐、では行きましょう。」

 

 俺たちはコロニーの宇宙港から侵入する。何と言うか、「機動戦士ガンダム」第1話でサイド7に侵入したファルメル隊MSの様だ。しかも隊のMSは大半がザク系のハイザック・カスタム。やれやれ。

 そして俺たちは、宇宙港の大型重機やMSのためのエアロックを通過、コロニー内部へと侵入する。足元に、諜報部員とか陸戦隊員とか憲兵隊とかが乗った軍用エレカの群れが見える。その中の、先頭の車輌にいるアボット少佐がこちらに手を振った。こちらもアレックス3の右手を振って応える。ここから先は、無線封鎖だ。アボット少佐たちは目的の施設に向かうべく、軍用エレカを発進させた。

 一方俺は、第5小隊の2機のアイザックと、第1小隊の残り2機のハイザック・カスタムに通信用のケーブルを投げた。相手はそれを受け取って、機体の適当な場所に貼り付ける。これで接触回線による「お肌の触れ合い会話」が可能になるのだ。

 

「リディア少尉、ホーリー少尉。アイザックでしっかり目的の基地を監視しててくれ。」

『了解です。』

『こちらも了解ですっ!』

「頼んだぞ。いざと言う時は、すぐに飛び込む。ィユハン曹長!」

『うぃっす、たいちょ。』

「万が一のときには、構わず撃て。目的の基地まではちょっと遠いが、お前の狙撃の腕ならば……。コロニーの壁に穴開けなきゃ、文句は言わん。」

『了解です。』

 

 そして全天モニターの一部にウィンドウが2つ開く。そこにはアイザックから転送されてきた、目的の連邦軍基地の望遠映像と、そこへ向かっているアボット少佐たちの軍用エレカ群の映像がそれぞれ映し出されていた。

 アボット少佐は基地の正門ゲート前で、いったんエレカを降りる。そしてゲートを護っている兵士に捜査令状を提示した様だ。兵士は泡を食って詰め所に戻り、しばしして詰め所から出て来ると大きな態度でアボット少佐に詰めよっている。たぶん基地の上の方にいったん連絡して、何か吹き込まれたんだろうな。だがそれは悪手だぞ。

 ほら、他の大型のエレカから、憲兵隊だの陸戦隊だの色々降りてきた。そして兵士を取り押さえると手錠をかけた。えーと、宇宙世紀0082、1月18日、標準時で05:07時、公務執行妨害で逮捕、と言う所か。

 諜報部員だと思うが、ソレが詰め所に入って行き、しばらくしたら基地の正面ゲートが開きだす。

 

「……相手が大人しく査察に応じればよし。そうでなければ……。」

『あの様子じゃあ、無理じゃないっすかねえ。』

「ああ、ィユハン曹長。俺もそう思う。狙撃の準備をしておくんだ。」

 

 俺は少し離れた場所で待機している第2小隊と第4小隊に、アレックス3の手で出撃準備のハンドサインを送る。ユウのアレックス2が、了解のハンドサインを返して来た。

 ワンテンポ遅れて、赤紫色のガルバルディβが了解のハンドサインを。クリス中尉機だ。先日受けた傷は、綺麗に直っている。さすがはウィリアム整備長とその優秀な部下。ぶつくさ文句を言いながらも、きっちり修理や整備をやってくれたなあ。

 

 そして「敵」が動く。

 

「無線封鎖解除!ィユハン曹長、狙撃準備!他の機体は目標に突入!ィユハン曹長に狙撃のタイミングは任せるが、撃ったらすぐに第2狙撃ポイントに移動だ!」

『『『『『『了解!』』』』』』

『……!』

 

 ……ユウ、なんか喋れ、こんなときぐらい。

 それはともかく、アイザックから転送されてきた映像の中では、憲兵隊、陸戦隊、諜報部員たちが3機編制のジム改にマシンガンを突きつけられていた。大半の隊員が腰が引けてるのに対し、アボット少佐は堂々とジム改の前に捜査令状を突きつけている。MS用マシンガン対捜査令状。すごいなー、かっこいいなー、あこがれちゃうなー、アボット少佐。俺は全力で機体を飛ばす。

 あ、バカ!撃ちやがった!憲兵隊員他が逃げ惑う。アボット少佐は堂々と捜査令状を掲げたままだ……。いや、表情がにやりと笑みを形作ってる。あー、なるほど。相手がMSを持ち出して、しかも脅しとは言え実弾を発砲した時点で、相手の負けってわけか。……無茶がすぎるぞ、アーロン・アボット諜報部少佐。

 次の瞬間、ジム改の右肩から頭部にかけてが綺麗に消し飛んだ。ィユハン曹長機の狙撃だ。マシンガンを持ったままの右腕が、人工の大地に転がった。そして俺たちのMSが、「敵」ジム改の小隊を取り囲む。

 

『な、な、き、貴様ら!ここを何処だと……。』

「黙れ、反逆者。自分はレビル将軍直属部隊であるツァリアーノ連隊所属、第01独立中隊「オニマル・クニツナ」隊隊長、ゼロ・ムラサメ少佐だ。我々は、現在そこで令状を掲げているアーロン・アボット少佐の指揮下にある。アボット少佐、無事ですか?」

 

 オープン回線と外部スピーカーの両方で、堂々と言ってやる。アボット少佐はこちらに向かい、声を張り上げた。

 

「こちらは無事です!ありがとうございます!これから自分たちは、基地司令および副司令を始めとした司令部の逮捕に向かいます!」

「お願いします。」

『な、ま、まさかあの令状、本物……?「オニマル・クニツナ」隊のゼロ少佐……?あのレビル将軍の懐刀……。』

「令状が偽物だと思ってたのか?馬鹿なやつだ。降伏し、武装解除に応じろ。さもなくば……。」

 

 ジム改のパイロット共は、慌てて機体の動力を落としてMSを降りて来る。そして憲兵隊とかに武装解除され、仕返しとばかりに手荒に扱われていた。そこへィユハン曹長から通信が入る。

 

『たいちょ!コロニー外から未確認機が3機そちらに!俺たちが入ったのとは逆側の宇宙港からだと思います!

い、いえ機種はハイザック、ハイザックです!コードは友軍……ティターンズ!』

「ティターンズ、だと!?……!!こちらでも機影を目視した!」

 

 3機の緑色のハイザックが、地面との相対速度を合わせて正面ゲートの内側に着陸した。それから判断するに、01のナンバーが塗装されている機体に乗っている者は腕は良い方だが、ちょっと危なっかしい。02は腕前のほどは01と同程度であるが落ち着いている。03は技量はもっとも劣るが、慎重であり堅実だ。

 01の機体から、オープン回線で通信が入った。

 

『おっと……。遅かったか……。』

「……遅かった、とはどう言う意味か?」

『いや、俺たちもこの基地の強制査察を命じられて来たんだが……。』

 

 02の機体から、戸惑った様な声が入る。

 

「……ティターンズの結成理念は、軍内部の腐敗の粛清だったか?」

『ああ、そう言う事だ。』

『ジェリド中尉!相手は少佐よ!?言葉に気を付けなさい!ティターンズの理念は……。』

『お、おっと。済まなかっ……いや違う、申し訳ありませんでした少佐殿。』

「こちらレビル将軍直属部隊ツァリアーノ連隊所属、第01独立中隊「オニマル・クニツナ」隊隊長、ゼロ・ムラサメ少佐だ。そちらは?」

 

 いや、知ってるけどね。

 

『はっ!自分は独立部隊「ティターンズ」の第1MS中隊第2小隊小隊長、エマ・シーン中尉であります!』

『同じく自分は第2小隊所属、カクリコン・カクーラー中尉であります。』

『同じく、自分はジェリド・メサ中尉だ……であります。』

 

 01がジェリド、02がカクリコン、03がエマか。で、小隊長が03のエマ。普通小隊長は01または00じゃないのか?しかし態度が小さいな、こいつら。あ、そうか。レビル将軍たちが頑張って、「二階級上扱い」とかの無茶な条件は潰したんだっけ。

 

「貴官らは、ここを査察する上で歩兵とか連れて来ていないのか?こちらは憲兵隊とか陸戦隊員を連れて来ているんだが。」

『あ、いやー、その。……上から、はなから叩き潰すつもりでやってこい、と。どうせスペースノイドが多い基地だからって……。』

「……バスク大佐、か?」

『『『知ってらっしゃるんですか?』』』

 

 いや、そら知ってるわな。しかしバスクか……。なんとかしないといかん……なあ。……!?

 

「貴官ら、避けろ!!」

『『『!?』』』

 

 ジェリド、カクリコン、エマの3人は、かろうじてその第1射を躱した。俺はそちらを見もせずに、自機アレックス3に狙撃させる。胸部をごっそりと抉られて、ガルバルディαが倒れ伏した。それを踏み越えて、基地の格納庫からフル装備のケンプファーが出撃してくる。その後にも、十数機の敵の気配が感じられた。

 

「ち……。「オニマル・クニツナ」隊、敵機を殲滅するぞ!ただし、ここがコロニー内だと言う事を忘れるな!」

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 ここでティターンズ3人組が泡を食って話し合う。

 

『お、おい。俺たちゃどうすれば……。』

『何もできずに帰ったら、あのバスク大佐の事……。ろくな未来は待ってないだろうなあ……。』

『……この場の責任者は、ゼロ少佐よ!ゼロ少佐、少佐の指揮下に入ります!ご命令を!』

『『なぁーーーっ!?』そ、そんな事したら怒鳴られるだけじゃすまんぞ、エマ中尉!』

『だから何!?今の小隊長はわたしよ!わたしの決定、責任はわたしが取るわ!』

 

 俺はふっと笑うと、返事を返した。

 

「……了解した。ティターンズの諸君は、3時方向の敵機を頼む。エリート部隊の力、見せてくれ。」

『了解!』

『とほほ……。』

『しょぼくれてんなよ、カクリコン。俺は腹くくったぜ。』

 

 まだこの頃は、綺麗なジェリドなんだな。やはりカミーユに殴られてから捻じ曲がったのか。ちょっと高慢なところはあるけどな。

 

 

 

 そしてあっさり全敵機を無力化することができた。コロニー内部だと言うのがひびいて、ちょっと苦戦した味方機もいたけどな。何にせよ、味方機の損傷は軽微。これはティターンズ機も含めての話だ。

 ところで、ティターンズ3人組の様子が……?

 

『う、嘘だろ?』

『なんだよゼロ少佐って……。』

『1人で5機墜として、アシストが8……。』

「貴官ら、どうする?」

『『『はいっ!?』』』

「いや、こちらとしては貴官ら充分な戦果を上げてくれたしな。後ほど礼状を添えて、そちらの上へ報告しておくが……。これで帰還するか?」

 

 3人は一斉に首を横に振る。

 

「そうか。では周辺警戒を手伝ってくれると助かるんだが……。」

『『『了解!!』』』

 

 3人組は、急ぎ3方向に散って周辺警戒を始める。そこでレイラ機がアレックス3の傍に立った。念話が俺の精神に届く。

 

(彼女たちがティターンズ……。)

(ああ。末端はまだ理想に燃えてる清廉な士官なんだがな……。いや、ジャミトフも道を誤っただけで、ほんとの悪党じゃない。問題は……。)

(バスク大佐?)

(ああ。どうしたものか……。)

 

 俺は頭をかかえた。そしてそこへ更に、頭を抱えたくなる事案が発生する。

 

『ゼロ少佐?こちらアーロン・アボット少佐です。今、基地の無線でそちらに話しかけてます。』

「アボット少佐、何かありましたか?」

『えらいモノが。少佐、降りてこられますか?』

「……了解しました。副官のレイラ少尉を連れて、そちらへ行きます。だが本当に何があったんです?」

 

 その返答を聞いて、俺は愕然とした。いや、一応は想定していた事は想定してたんだが……。

 

『連邦軍の旧ニュータイプ研から逃走した研究員を発見しました。全員では無いのですが……。その中に、メレディス・マコーマック博士が居ましてね。逮捕しようとしたのですが、研究員たちは抵抗し、銃撃戦になりました。数名が死亡し、この場にいた全員を逮捕しましたが……。』

「……居ましたか。」

『一応本人確認は行ったのですが、やはり一番彼を良く知っているのは、ゼロ少佐、貴方ですからね。』

「了解、ただちに向かいます。」

『ああ、あと司令官をはじめ司令部の人間は全て逮捕済みです。』

 

 俺は指揮権をユウに委譲し、レイラと共に基地内の司令部が入った本部棟のビルへ向かった。俺の心は、だが何故か異様なまでに静かだった。普通なら、激怒したり悩んだり、色々マイナス方向への感情が吹き荒れてしかるべきじゃないんだろうか。

 

「……ゼロ少佐。いえ、ゼロ……。」

「ん?なんだい?」

「……気を付けてね。」

「くくく、俺はそんな酷い顔をしてたか?」

「うん。ガチガチにこわばってる。」

 

 ありゃ。やっぱり何処かでなんかイラついてたんだな。だが、なんか逆にその事で、ほっとしてしまった自分がいる。俺は諜報部の誰かさんが運転する、迎えに来てくれた軍用エレカに乗り込んだ。レイラも乗って来る。

 

「少尉、運転頼んだぞ。」

「了解です。」

 

 諜報部の少尉は、運転のお手本の様な見事な発車をする。本部棟はエレカなら、すぐ到着だ。レイラがそっと、手を握ってくれる。……マコーマック博士と対決する覚悟を、俺はしっかりと決めた。




さて、シン・マツナガが司法取引で差し出した情報により、デラーズ・フリートは窮地に追い込まれます。まだ決起もしてないのに(笑)。
そしていよいよ満を持して登場の、「ティターンズ」!!でもまだ小物(笑)。
そしてそして、ついにマコーマック博士を捕えた!?アボット少佐、大金星!?
その辺は、次回をお楽しみに!

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