機械とヒトと。   作:千年 眠

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「黎明の子、明けの明星よ、あなたは天から落ちてしまった。もろもろの国を倒した者よ、あなたは切られて地に倒れてしまった」―― 旧約聖書「イザヤ書」一四章一二節


CHAPTER Ⅰ:[G]round zero
第一話 二柱の悪魔


「オルガ」

 

 三日月・オーガスの声に、オルガ・イツカは目を覚ました。ここは民兵組織クリュセ・ガード・セキュリティの動力室。発電機替わりのMS(モビルスーツ)が向かい合わせに鎮座しているここは、昼寝に最適な場所だった。

 

「おぉ、ミカ」

「おおじゃないよ、またこんな所でサボって。見つかったらまた何されるか」

「わかってるよ」

 

 微妙にだるさが残った体を起こす。膝立ちになった巨大なMS(モビルスーツ)が嫌でも目に入った。二本角のこいつらは一体なんて名前なのだろうかと、オルガはふと思った。

 

「おぉい! いたか三日月!」

「ああ」

「どうした、おやっさん」

「どうしたじゃねぇよ! マルバが呼んでるぞ!」

 

 浅黒い肌の大男、ナディ・雪之丞・カッサパが向かいのドアから叫んでいる。彼はクズの掃き溜めと化したCGSの中では、良識ある「いい大人」だった。

 

「社長が?」

「つーかここ入んなって言ったろ!」

「いや、ここ年中あったけぇからさ」

「ったく! 一応この動力室は最高機密扱いなんだぞ」

 

 雪之丞の小言を受け流し、オルガは重い腰を上げた。正直もう少し昼寝したかったが、仕方ない。

 

「ミカ、行くぞ」

「ああ」

 

 MS(モビルスーツ)の股下を通って動力室を出る。オルガは何の気なしに振り返ってみた。向かいの派手な方と目が合った気がした。

 

 

 

 

機動戦士ガンダム 鉄のオルフェンズ

機械とトと。

 

 

 

 

火星 アーブラウ領 クリュセ独立自治区郊外

CGS クリュセ・ガード・セキュリティ 社長室

 

 

「クリュセ独立自治区、その代表の愛娘を地球まで運ぶ。そいつの護衛を……お前ら参番組に任せる」

 

 CGS社長、マルバ・アーケイ。現役時代のたくましい体はどこへやら、今ではすっかりだらしない体と化したそれが言う。無駄に華美な装飾が施された社長室は彼の趣味。その隣に立つ強面はハエダ・グンネル。CGS壱軍隊長。

 

「あの、代表の娘って、クーデリア・藍那・バーンスタインですか?」

「知ってんのか、ビスケット」

「えと、確か独立運動をやっているとかって……」

 

 今喋ったのはビスケット・グリフォン。小太り。CGS内ではかなり博識な方で、もっぱらオルガのブレーキ役として働くことが多い。いつもかぶっているキャップが目印。今はさすがに脱いでいるが。

 

「今回の地球行きも火星の独立運動絡みらしい。ご立派なことだ」

 

 マルバが鼻を鳴らして言った。青臭いと思っているのかもしれない。

 

「でもそんなでかい仕事なんで俺らに?」

 

 オルガは当然の疑問をぶつけた。

 参番組は基本、非正規の少年兵やヒューマンデブリで構成された弾除け部隊だ。

 阿頼耶識のおかげでそこそこ練度は高いが、所詮非正規は非正規。普通の任務であれば大人で構成される壱軍や弐軍が全部かっさらっていくはずだった。

 

「お嬢様直々のご指名なんだよ」

「え、それって……」

「形はどうあれ、やることはいつもと変わんねぇ! お前らガキ共はしっかり俺らの言うこと聞いてりゃ良いんだよ!」

 

 ハエダ、お前には聞いていない。それがこの場にいる参番組二人の総意だった。基本的に正規兵と非正規兵の仲は最悪といえる。

 

「とにかく、そういうわけだ。タダでさえお前らは学がねぇんだ。失礼のないようにな。解散」

 

 

 

 

 

 

CGS 食堂

 

 

「俺たちがお嬢様の護衛?」

 

 金髪の青年、ユージン・セブンスターク。上昇志向が強いせいか少々他のメンバーと揉めることもあるが、根は良い男。

 

「お嬢様って良い匂いするんだろうなー!! なぁ三日月!」

 

 ノルバ・シノ。ピアスが目印。よく仲間とくだらない話で盛り上がっているムードメーカー的な男。

 

「お嬢様って言っても同じ人間なんだし、そんなに変わんないだろ?」

 

 そして、三日月・オーガス。体格は劣るが、モビルワーカーの腕はピカイチ。感情の起伏がイマイチわかりにくいが、参番組の中では最も仲間思い。

 

「あぁ〜!?」

「女に飢えてない三日月さんにんな事聞いてもムダっすよ!」

「何だとコラ!」

 

 早速年少組のダンジ・エイレイに遊ばれるシノ。なんだかんだ言って彼は慕われている。

 

「タカキ」

「はい。水ですか?」

 

 三日月が金髪の少年、タカキ・ウノを呼び止める。彼の頬にはガーゼが貼られていた。

 

「いやその傷……」

「あ……平気っす。いつもの事で」

 

 タカキはそう言って笑ってみせた。

 

「でもあれだな、社長もよ、口だけの社員様より結局は俺らの力を認めてるって事なんじゃねえの。で、これをきっかけによ、社員のやつら出し抜いて俺らが一軍になって……!」

 

 ユージンが己の野心を語る。

 

「いくらマルバのオヤジが耄碌したって、使い捨ての駒ぐれえにしか思ってねぇ俺らを認める訳ねぇだろ」

 

向かいの席に座るオルガは諦めたように言った。スプーンで椀を叩く。チン、と鳴った。

 

「……っ! おい……俺ら参番組隊長のお前がそんなだからいつまで経ってもこんな扱いじゃねえのか!」

「やめなよユージン」

 

 オルガの隣、ビスケットが諌めるが……一度ついた火は踏み消そうとしてもなかなか消えないもので。

 

「うっせービスケット! てめえは黙ってろ! 大体てめぇ……ああっ! ぐぅっ!」

 

 直後、三日月がユージンの耳をひっつかむ。

 

「喧嘩かユージン? 俺は嫌だな」

「取れる、取れるって!」

「喧嘩じゃねーよ。これぐらい、な?」

「あ、ああ、あったりめぇだろ! だから離して三日月、取れちまうから!すいません! すいませんでした!」

 

 三日月という名の消火剤をばらまかれたユージンは一転、己の耳を守るべく命乞いを始める。参番組のいつもの流れだった。

 

「悪いな昭弘。騒がしくってよ」

「いつものことだ」

 

 理不尽で、無情な少年兵達の日常。それでも彼らは、強かに生きている。この不毛な火星の地で。しかし、その日々は唐突に終わりを迎えることになる。それが良いことなのか悪いことなのかはわからない。

 

 

 

 

 

 

アーブラウ領 クリュセ独立自治政府 首相官邸

 

 

 首相官邸、その庭園。

 

「それではお母様、行って参ります」

 

 クーデリア・藍那・バーンスタインは身なりを正し、母親へ出立の挨拶を告げた。

 

「あら藍那、もう行くの? くれぐれも地球の方々に失礼が無いようにね」

「お父様は私の運動に反対なさっていると思っていたのに、今回地球との調停役という大役をいきなり任せて下さるなんて……」

「何でも悪く取るのはあなたの悪い癖、お父様はあなたのことをいつも心配して下さっているのよ」

 

 母、朋巳・バーンスタインの言葉に、クーデリアは何も言わずに笑った。

 表面的な言葉を適当に述べて庭園を離れた途端、クーデリアはメイド、フミタン・アドモスに本音を吐露する。

 

「お母様は目を逸らしているのよ。この屋敷の外で何が起こっているのか知ろうとも思わない。私はそんなの嫌。本当の事を見たいし、本当の事に触れたいの」

「それで今回の護衛役に彼らを?」

「そう! 彼ら非正規の少年兵たちは長く続く地球圏からの支配が生んだ今の火星が抱える問題そのものなのよ。そんな彼らと触れ合う事で私は少しでもその痛みをわかち合えたらって思うの」

 

 革命の乙女、クーデリア・藍那・バーンスタイン。革命への道程は厳しい。それでも彼女は進む。それが火星の人々のためになるなら。

 

 

 

 

 

ギャラルホルン火星本部 静止軌道基地アーレス

 

 

「若さとは、純真さとはなんと美しいことだろう。地球との関わりの深いバーンスタイン家の娘が独立運動の旗頭として扱われるとは皮肉なものだな。ノーマン・バーンスタイン君」

 

 静止軌道基地アーレス、その一室。コーラル・コンラッド三佐はニヤニヤと笑いながらノーマンへ語りかける。

 

「はぁ……愚かな娘で……」

 

 ノーマンは視線を下げ、汗を拭き、へつらうように言った。

 

「いや、愚かさもあそこまでいけば立派なものだ。だからこそクリュセの……いや火星中のならず者たちも彼女を支持するのだろう。ならば完全なるカリスマとして永遠に民衆の記憶に残るよう、我々も手助けをしようじゃないか」

「……はい、お手柔らかに、コーラル閣下」

 

 結局この密談の中で、ノーマンは一度もコーラルと目を合わせようとしなかった。

 

(自分の娘を売っておきながらお手柔らかにときた。ふぬけとはあの男のことだな。娘の爪の垢でも飲むといい)

 

 密談を終え、MS(モビルスーツ)ハンガーへ向かうエレベーター内。

 

『これよりゼロGブロックに入ります』

(しかしこれで厄介な地球からの監査も好機になる。ノブリスからの援助を受けるためにもあの娘には頑張ってもらわないとな)

 

 コーラルはこれから生まれるであろう膨大な利益を想像し、ひとりほくそ笑む。

 

「オーリス! 作戦が決まった! 今回はお前に指揮を執ってもらう!」

 

 MS(モビルスーツ)ハンガーに着いたコーラルはパイロット達に指示を出す。彼は士官としては汚れているが、MSパイロットとしての誇りは未だ捨てていない。こうして作戦を直接伝達するあたりは。

 

「了解!」

 

 プライドの高そうな男、オーリス・ステンジャ。

 

「クランク! お前は元教え子をサポートしてやれ!」

「はっ!」

 

 歴戦の風格を漂わせる壮年の男、クランク・ゼント。

 

「アイン!」

「は、はいっ!」

 

 生真面目、という言葉にそのまま服を着せたような若年の兵士、アイン・ダルトン。

 

「貴様は今回が初陣だ! しっかり励め!」

「了解であります!」

 

 クーデリア・藍那・バーンスタインへ魔の手が迫る。

 

 

 

 

 

 

CGS モビルワーカー格納庫

 

 

「よーし。これで持ってく装備の確認は終いだ」

「お疲れさん」

 

 モビルワーカーの脚部を椅子がわりにしていた雪之丞は、やっとタブレットを操作する手を止めた。太陽はとっくに沈み、今はもう夜更けだ。

 

「もう明日か。例のお嬢さんが来るのは……」

「ああ。で、明後日には出発。地球までの往復にあれやこれやで五ヶ月くれぇか」

「ここも静かになるなぁ。ま、ご指名の仕事なんだろ?良かったじゃねえか」

 

 雪之丞はポケットからタバコを取り出し、点火。

 

「何が良いもんか。いつもどおり便利に使われるだけさ。マルバのおっさんは俺らのことをヒゲのおかげで他よりちょっとすばしっこいのが取り柄のネズミぐらいにしか思っちゃいねえからな」

 

 雪之丞は煙を吐き出すと、苦い顔をして言う。

 

「旧時代のマン・マシンインターフェイス、阿頼耶識か……ひでぇ話だな」

「ま、こいつを埋め込むのがここで働く条件だからな」

「それでも仕事があるだけまだマシか……ふっ、おめぇん時は笑えたよなあ。麻酔もねぇ手術なのに泣き声ひとつあげねぇで可愛げがねぇって殴られてよ」

「泣けばだらしねえって殴られただろ。どっちにしろ、ここじゃ俺ら参番組はガス抜きするためのオモチャか弾除けぐらいの価値しかない。でも俺にも意地があるからな。格好悪いとこ見せられねぇよ」

「ふぅー……三日月には、か?」

「フッ……」

「苦労するなぁ、隊長」

 

 

 

 

第一話 二柱悪魔

 

 

 

 

CGS 社長室

 

 

「いやぁ光栄ですな。クーデリア様の崇高な志には私は常々……」

 

 マルバがクーデリアに媚を売る中、ぞんざいなノックがその会話を止めた。

 

「入れ」

「参番組。オルガ・イツカ以下四名、到着しました」

「ふむ……こいつらが護衛を担当する予定の」

「初めまして。クーデリア・藍那・バーンスタインです」

 

 クーデリアは物騒な雰囲気が染みついた少年兵にも物怖じしない。肝が据わっていると言うべきか、警戒心が無さすぎると言うべきか。

 

「……はい」

「どうもっすー、あの〜」

「てめえら! 挨拶もまともに出来ねえのか! ったく……!」

「ふ……」

 

 マルバの機嫌はにわかに悪くなっていくが、クーデリアは至って上機嫌だった。

 

「では改めてこれからの段取りを……」

「あなた!」

「?」

 

 クーデリアはマルバの言葉を華麗に無視して声をかけた。三日月本人は当惑した。話しかけられる理由がないのだから。

 

「お名前は?」

「三日月・オーガス……です」

「三日月。ここを案内してもらえますか?」

「は?」

「はいぃ?」

 

 三日月はこの場にいるクーデリア以外の者全員が思っているであろうことを容赦なく代弁した。

 

「フミタン。ここはあなたに任せるわ」

「かしこまりました」

「あの……それは……」

「お気になさらず。説明は私のほうでお伺いします」

「ですが……」

「何か問題でも?」

「では、三日月」

 

 困惑するマルバを置いてけぼりにしてクーデリアが催促する。

 

「じゃあこっちへ」

 

 三日月はそれだけ言うと、そそくさと部屋を出ていってしまった。

 

「あ、あの、ちょっと!」

 

 三日月はクーデリアのことなど気にもかけず、ずかずかと施設を進む。頼まれたから仕方なくやってるんだとでも言いたげなその態度。実際、三日月は身内には優しいが、他人には基本関知しない性格だ。逆に言えば一度身内と認められればいいわけだが、今初めて会ったクーデリアには到底無理な話で。

 

「で、この奥が動力室」

「あの……」

「うちは自前のエイハブ・リアクターがあるんで……」

「あの!」

「?」

「はぁ、はぁ、あの握手を……あっ、握手をしましょう!」

 

 そう言って鼻息をむふーっと吐くクーデリア。

 

「あー……」

「何故ですか? 私はただあなたたちと対等の立場になりたいと思って」

 

 三日月の態度が誤解を招いた。クーデリアの抗議の声に、

 

「手が汚れてたから遠慮したんだけど」

 

 にべもなく告げる三日月。その声は冷たかった。

 

「あっその……私……」

 

 自分の誤解に気づいたクーデリアが恥ずかしさに顔を赤らめる。

 

「けどさ、それってつまり俺らは対等じゃないってことですよね」

 

 直後、クーデリアは自分の発言を深く悔いることになる。「対等の立場になりたい」なんてセリフはひどく上から目線だ。純真さゆえの傲慢というべきか。

結局クーデリアは、二の句を継げなかった。

 

 

 

 

 

 

 夜。敵襲を知らせるサイレンにオルガは飛び起きた。

 

「おいお前ら起きろ! 敵襲だ!」

 

 オルガの叫びに呼応して他のものも慌てて飛び起きる。彼らが外に出た頃には、ロケット弾による飽和攻撃が始まっていた。どこの誰か知らないがよほど金持ちらしく、止む気配はまったくない。

 

 モビルワーカーの格納庫へオルガが着いた頃には、すでにユージン達が出撃準備を整えているところだった。

 

「状況は?」

「おせえぞ! 今三日月と当直のシノの隊が出たとこだ。第二ハンガーから昭弘たちも出てる」

「何やってんだ! お前ら参番組は総員で敵の頭を抑えろ!」

 

 ハエダがどかどかと走り寄ってくる。

 

「敵って、相手がわかったんですか?」

「ぐっ……そ、それは」

「教えてくださいよ、一体誰なんすか?」

「……ギャラルホルンだ」

 

 格納庫にどよめきが起こる。ギャラルホルンといえば約三百年もの間、世界の秩序を保ってきた組織。一介の民兵組織などが戦える相手ではない。

 

「どうしてギャラルホルンが!?」

 

 ユージンがわめく。当然だ。こちらには攻撃を受ける理由がないのだから。

 

「知るわけねえだろ!」

「いいからとっとと出ろ!」

 

 便乗して騒ぎ立てるトドを目で制してオルガは問う。

 

「一軍は? 本隊はどう動くんです? 連携は?」

「お、俺たちは回りこんで背後を撃つ。挟撃だ! だからそれまで、お前らは相手をしっかり抑えとけ!」

「わかったな! おら! 早く!」

 

 嘘だ。オルガは直感で理解した。

 

「ちぃ! 行くしかねえか!」

「オルガ。うちの動力炉以外のエイハブ・ウェーブが観測されてる」

 

 そしてビスケットがもたらす最悪のニュース。

 

「ええ?」

「相手がギャラルホルンならもしかすると……」

「……」

 

 どうするオルガ・イツカ。考えろ。MS(モビルスーツ)が出張ってきたら一巻の終わりだ。MS(モビルスーツ)にはMS(モビルスーツ)でしか対抗はできない。……待てよ。MS(モビルスーツ)ならウチにも……?

 

「オルガ! 早くしろよ!」

「ビスケット。頼みがある」

「うん……!」

 

 オルガは決意した。勝つためにはこれしかない。

 

「ユージン!」

「なんだ?」

「連中の指揮、頼めるか?」

「は?」

「頼む。お前にしか頼めねぇんだ」

「ま、まぁそういう事ならやっても……でも、お前どーすんだよ」

 

 それを聞くとオルガはニヤリと笑い、

 

「ウチの動力室のアレ、動かすぞ」

 

 

 

 

 

 

 オルガとビスケット、そして三日月。三人はクーデリアを連れ、動力室に向かっていた。

 

「どこへ行くのですか?私はフミタンを待たねば……」

「あのままあそこにいたら死にますよ!」

 

 クーデリアの抗議にビスケットが返す。

 

「し、死ぬ……私は死ぬのですか……?」

「そうならないように努力してるところです! 開いたよ!」

「よし!」

 

 パスワード付きのドアを抜けた先にあったのは、向かい合わせに鎮座するモビルスーツ。クーデリア達はそのうちの一機の股下をくぐるようにして入ってきた形だ。

 

「おう! もう始めてるぞ! ほんとにいいんだな!?」

「ああ、頼む! おやっさん!」

 

 そして動力室横のリフトからは一機のMW(モビルワーカー)が顔を覗かせている。

 

「これ、どうすんの?」

 

三日月が下に降りてきた雪之丞に聞く。

 

「あれはもともと転売目的でマルバが秘蔵してたもんでな。コクピット回りは使う用がねぇからごっそり抜かれちまってたんだ。だからこいつを流用する」

 

 そう言って雪之丞はクレーンにMW(モビルワーカー)のシートを繋いだ。クレーンがスルスルと上がっていき、やがてシートはMS(モビルスーツ)のコックピット部分に装着された。

 

MW(モビルワーカー)のシステムで動くの?」

「ああ、システム自体はもともとあったものを使う。ほれ、一応目を通しておけ」

 

 三日月はタブレットを渡そうとする手を笑って止めた。

 

「あ、ああ……だったな。ま、欲しいのは阿頼耶識のインターフェイスの部分だ。大戦時代のモビルスーツはだいたいこのシステムで……」

「阿頼耶識!? それは成長期の子供にしか定着しない特殊なナノマシンを使用する危険で人道に反したシステムだと……」

 

 クーデリアが驚きの声をあげた。無理もない。

 

「ナノマシンによって脳に空間認識を司る器官を疑似的に形成し、それを通じて外部の機器、この場合MS(モビルスーツ)の情報を直接脳で処理出来るようにするシステムだ」

「いいよ」

「よし。こんなもんでもなきゃ、学もねぇこいつみてえのに、こんなもん動かせるわけねえだろ」

「ですが!」

「けどな三日月。MS(モビルスーツ)からの情報のフィードバックはMW(モビルワーカー)の比じゃねぇ。下手したらおめえの脳神経は……」

「いいよ、もともとたいして使ってないし」

「おめえなあ……」

 

 あっさりと死のリスクを受け入れた三日月に雪之丞は苦笑した。

 

「なんで……そんなに簡単に……! 自分の命が大切ではないのですか!?」

「大切に決まってるでしょ。俺の命も。みんなの命も」

 

 三日月の言葉は重かった。クーデリアが受け止めきれない程に。

 

「よし。こっちはこれでいいな……オルガ、おめぇはあっちだ。あっちは阿頼耶識が丸々生きてるからもう乗っとけ」

「おう」

 

 そう言って雪之丞が指さしたのは、動力室に入る時に股下をくぐったそれ。三日月が乗る方に似た二本角の機体。

 

 オルガは簡易的なタラップを駆け上がり、コックピットへ潜りこもうとしたのだが。

 

「……つってもこれ、起動スイッチはどこだ? ってか……どっちが操縦席だ?」

 

 その機体は複座だった。直感で手前の座席に座り、さらに直感に任せてディスプレイ下部の赤いボタンを押してみる。

 

「なんも……起きねぇ……っておぉ!?」

 

GUNDAM FRAME TYPE
SATAN

 

ASW-G-00

 

システム起動中……

 

システムチェック開始

メモリーユニット状態:グリーン

戦闘ログ:ファイル破損 救出中……成功 79%復元

地形データ:該当なし 周囲の3Dスキャン開始

バイタルチェック:グリーン

推進剤残量:14% 補給が必要

エイハブリアクター温度:適正

エイハブリアクター内圧力正常

IFF起動:失敗 識別データが存在しません

FCS起動

通信感度:良好

装備認証完了:頭部60mm機関砲

コックピット内酸素供給:正常

冷却システム:冷却液が311ml不足 冷却に問題なし

機体位置測定システム:通信に失敗 現在位置不明

最優先目標:MA(モビルアーマー)の殲滅及び人類の保護

現在時刻:不明

パイロット:操縦士 副操縦士 共に不在

敵反応:なし

データリンクシステム:エラー 僚機なし

警戒レベルを最大に設定

 

全センサー起動

 

「オイオイなんか勝手に――」

 

全パラメータ起動ボーダーラインに到達

 

ASW-G-00 GUNDAM SATAN 起動

 

 

 




次回
ディアボルス・クス・マキナ
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