藤丸立香は悲しみに暮れていた。
先ほど引いた十連ガチャが爆死したからだ。
残った聖晶石は、運営からのログインボーナス、無償石一個だけである。
藤丸はその石をカ無く握りしめ、とぼとぼと廊下を歩いていた。
心ここにあらず。注意力散漫になっていた。
故に彼は気づかない。彼の足元、すぐそこに大きな亀裂があることに__。
「ぶっへ!?」
藤丸は転んだ。それはもう無様に。
そしてその拍子にその手に握りしめた無償石を放り投げてしまう。
「僕の無償石がッ!?」
無償石は廊下を転がり、壁に空いた小さな穴にすっぽりと落ちてしまった。
この壁の穴や床の亀裂は、レフが引き起こしたの爆破テロによるものであり、スタッフの手によってある程度修復されたカルデアではあるが、未だ多くの爪痕がこうして残っているのだ。
慌てて這いつくばり、穴の中を覗いてみるが、そこには真っ黒な闇だけがあり、無償石は見付からない。
泣きっ面に蜂である。
今日の藤丸はとことん付いてないらしい。
ため息を着き、諦めて立ち去ろうとした時、
「やあ、マスター!」
穴の奥から声が聞こえて来た。
とても軽快で楽しそうな声。藤丸はこの声に聞き覚えがあった。
もう一度壁の穴を見てみると、真っ暗な闇の中からぬるりとピエロが姿を現した。
「ペニーワイズッ!!」
彼の名はペニーワイズ。ピエロの格好をしたおかしな奴だが、藤丸が召喚した、れっきとしたサーヴァントである。
彼のことをよく知る者はいない。カルデア内で彼に会うことがほとんどないからだ。
そんな彼が目の前に突然現れた。
メフィストフェレスのような嫌らしい笑みを浮かべながら。
「星5のサーヴァント、もう手に入れた?」
いきなり出てきたペニーワイズに驚く藤丸をよそに、彼はフレンドリーに問いかけて来た。
藤丸は正直に首を横に振った。
「えーっ、もうすぐ3章に突入するのに。これからどんどん敵が強くなるんだぜ」
ペニーワイズは渋い顔をしながらも言葉を続けた。
「早く強い鯖を手に入れて強化しなきゃ、6章で痛い目にあうぜ。課金することを強くオススメするよ」
「そうやって爆死させる気だろ。騙されんぞ」
藤丸は知っている。ペニーワイズの恐ろしさを。
一見彼は、オススメの物を紹介するとても親切なサーヴァントに見える。
しかしその実態は、彼のオススメに興味を持った相手を破滅させ、精神を殺す、恐ろしい宝具を手にした悪性サーヴァントなのだ。
ペニーワイズがカルデアに来てから、既に何人ものスタッフやサーヴァント達が被害に合っている。
勿論、被害に合った彼らがそのまま黙っている筈も無く、各々のやり方でペニーワイズに仕返しをしようとした。
__ある者は剣で。
__ある者は槍で。
__ある者は弓で。
__ある者は銃で。
__ある者は体術で。
__ある者は魔術で。
しかし誰一人、ペニーワイズを傷付けることは出来なかった。誰かに攻撃されそうになるとペニーワイズは隙間の奥底に隠れてしまうからだ。
ある日、とうとう怒りが頂点に達した一人のサーヴァントが仲間の制止を振り切り、宝具を使用した。しかしそれでも、ペニーワイズ所か彼の潜む隙間のある壁にさえ、傷を付けることが出来なかったのだ。
ダヴィンチちゃん曰く、ペニーワイズにはありとあらゆる隙間を自身の固有結界にする力があるとのこと。固有結界はとても強力で、どんな宝具だろうと防いでしまうらしい。
ダメ押しに令呪を使用してみたが、全く効果はなかった。
誰にも倒せない無敵のサーヴァント。
それゆえに、藤丸はペニーワイズを警戒していた。
そんな警戒する藤丸を知ってか知らずか、ペニーワイズは話を続けた。
「いや、確かに課金しても星5の鯖を必ず手に入れられるとも限らない。けど、そうやって意地を張って無課金でプレイするよりも、課金した方がより早く、良い鯖を手にすることができるだろう。そうすれば攻略や種火周回だって楽になる」
「へぇ。それは名案だ」
そう言いつつも、藤丸は彼に背を向け、そのまま立ち去ろうとする。
「呼符でガチャ回すわ」
「待てやッ!?」
ペニーワイズの叫びに驚き、藤丸は思わず振り返る。
「そう言わずに、これを……」
立ち止まった藤丸に安堵の顔を見せ、ペニーワイズは自身の懐をごそごそと探り、ある物を取り出した。
それはペニーワイズと出会うきっかけになった物であり、藤丸が取り戻すことを諦めていた__。
「僕の無償石ッ!?」
「その通り!これは君の無償石だ。だから君に返すよ」
ペニーワイズは無償石を高らかに掲げる。
嘘偽りのない本物の無償石。
紛れもなく藤丸が落とした物だ。
しかし何故か、石が『二つ』ある。
「何で、石が二つも……」
「これかい?これは『有償石』さ」
「なんだって!?」
藤丸は驚き、そして怒った。
ペニーワイズはまだ藤丸にオススメすることを諦めてなっかたのだ。
あろうことか、彼のなけなしの無償石を人質にして。
藤丸の顔は怒りで真っ赤に染め、ペニーワイズをこれでもか、というほど睨み付けていた。
「おーぅ、マジで怒っているって顔だね。」
ペニーワイズはそんな藤丸を気にもせず、おどけた様に話す。
「別に、何もたくさん課金しろと言っている訳じゃないんだ。ほんの少し。ほんのちょっとだけさ。今回だけ。良い鯖が一体出ればそこで課金を終わりにすればいい。
俺はマスターを心配して、課金をオススメしてるんだぜ」
ペニーワイズの甘い誘惑。
しかし藤丸の心は動かない。
今の彼の心は鋼鉄のように硬く、どんな誘惑をもはね除ける。何があろうと藤丸の心砕けないのだ。
ペニーワイズは、そんな彼にダメ押しとばかりに話しかける。
「それにだ、今だけピックアップガチャが開催している。ピックアップ鯖は……源頼光だ」
「課金するわ」
藤丸の心は、あっさりと
「頼光ママ、きっと来るよね?」
「えっうん」
頼光のこと夢想し、だらしなく鼻の下を伸ばす藤丸を見て、ペニーワイズはドン引きしながらもぎこちない返事を返す。
藤丸はふやけた顔をしながら、穴の中に手を伸ばす。ペニーワイズが手にした『有償石』に。
「課金はいいぞ、マスター。……深いぞ」
道化師が笑った。
ふと、彼と目が合う。
ペニーワイズは、世にも恐ろしい笑みを浮かべていた。
この時、藤丸は自分がとても愚かな過ちを仕出かしたことに気付いた。
肌が粟立つ。
呼吸が荒くなる。
これはヤバい!直感がそう告げている。
慌てて手を戻そうとしても、時すでに遅し。
その手にはペニーワイズによって無理矢理掴まされた『有償石』が、キラキラと輝いていた。
ペニーワイズが叫んだ。それはとても恐ろしく。それでいて、可笑しくて仕方ないというように。
「幻想を抱いて、爆死しなッ!!」
「これが人間のすることかよぉぉぉぉぉーッ!!」
藤丸の絶叫が、カルデア中に響き渡った。
藤丸は爆死した。
あろうことか生活費にまで手を出し、盛大に爆死したのだ。
ペニーワイズは何処にでも現れる。
爆死に対する恐怖心がある限り、彼は何度でも姿を現すだろう。
次に彼が召喚させるのは、貴方のカルデアかも知れない。
サーヴァントマテリアル
召喚時の台詞
「はい、調子いい?サーヴァントのペニーワイズだ。早速だけど、マスターにオススメしたい物があるんだ。このオススメはいいぞ、マスター……」
真名:ペニーワイズ
クラス:アルターエゴ
属性:混沌/悪
筋力:D
耐久:E
敏捷:E
魔力:A+
幸運:C
宝具:EX
好きなもの:ジョージ
嫌いなもの:話を聞かず立ち去る者
ピエロの格好をした珍妙なサーヴァント。その正体は、様々な物をオススメし、相手の精神を殺す、恐ろしいサーヴァントである。
本来のペニーワイズとは全くの別物のため、所々違うが、その本質が悪であることに変わりはない。
ちなみに、マスターとの絆レベルが上がると、親しみを込めて『ジョージ』と呼ぶようになる。
クラススキル
対魔力:B
単独行動:A
固有スキル
ペニーワイズがオススメするシリーズ:A++
無辜の怪物の亜種。本来であれば、子供達を殺す残忍な殺人ピエロであるが、何の因果か多くの人々に、ジョージに様々な物をオススメし、精神的に殺す愉快なピエロと認知されたためにこうなった。
側溝に潜む者:EX
排水溝からペニーワイズが現れたシーンがスキルになったもの。側溝は勿論、壁の亀裂などのありとあらゆる隙間を自身の固有結界にするスキル。
この固有結界に居る間、ペニーワイズは無敵になり、宝具や令呪さえもはね除ける。
ジョージの船:C+
近くにいる人物の手にした物を自身の固有結界に引き摺り込むスキル。使用する際には条件があり、対象となる人物の周囲に誰もいないことが必要となる。
黄色の風船:C
相手の心を揺さぶる『オススメ』を生み出す。これだけでは相手の心を完全に掌握することが出来ないため、ペニーワイズ自身が説得する必要がある
宝具
"それ"をオススメされたら、終わり:EX
ペニーワイズがオススメする物に興味を持った相手にのみ発動できる宝具。
ペニーワイズの語る言葉には魔力が込められおり、人を惹き付け、誘惑するある種の呪いのような物である。
彼の言葉に惑わされ、心を掌握された際、彼に触れられると"それ"で終わり。宝具が発動する。
宝具の効果を受けた相手は、ペニーワイズにオススメされた物に強く執着するようになる。その結果、破滅し、精神が死ぬ。
小説書くのめっちゃムズい。(語彙力喪失)