サーヴァント:ペニーワイズ   作:サブカルクソ野郎

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奇跡的に続きが書けたので、初投稿です。


キュケオーンのキャスター

あ、メディアじゃないか。

 

ちょうど良かった。今、マスターが何処にいるのか知ってるかい。

 

……なるほど、トレーニングルームだね。

 

ありがとう、メディア。恩に着るよ。

 

それじゃあ、またね。

 

え、ちょっと待ちなさい?

 

どうしたんだい、いきなり呼び止めて。

 

顔色が悪いよ。大丈夫かい?

 

キュケオーン食べるかい?

 

いらないの?それは残念だ。

 

そんなことはどうでもいいだって?

 

さっきから、ずいぶんと慌てているね。

 

__怪我をしている?

 

ああ、この血糊のことか。

 

何でそんな物を塗っているのかだって?

 

ふふふ。

 

それはとても簡単な理由だよ。

 

__マスターに心配してもらうためさ。

 

……なんだい、その可哀想な人を見る目は。

 

ちょっと!ため息つかないでよッ!!

 

あ~~っ!今、バカって言ったなッ!!

 

自分の師匠をバカって言ったなッ!!

 

酷い奴だな、きみは!!

 

そうか、そうか。つまりきみはそういう奴だったんだな!!

 

いいじゃないか!別に。

 

私だって、マスターに甘えたいんだッ!!

 

マスターに心配されたいんだッ!!

 

マスターに触れ合いたいんだッ!!

 

マスターに看病されたいんだッ!!

 

私だって乙女なんだよ!

 

夢見る年頃なんだよ!

 

いいじゃないか!!

 

え、もうそんな歳じゃない、だって!?

 

失礼なことを言うね。

 

きみみたいな年増と一緒にしないでくれたまえ。

 

ん?……痛っ!痛い痛い痛い痛いッッ!!

 

止めて!

 

謝るから!謝るからっ!!

 

破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)で刺すのを止めて!

 

 

あ~~、酷い目にあった……。

 

まぁ、とにかく、私はマスターに会いに行くから。

 

え、どうせ成功しない、だって!?

 

きみは何を言っているんだ。

 

どこからどう見ても完璧な作戦じゃないか。

 

あの『ペニーワイズがオススメ』してくれた作戦なんだよ。

 

……っ!?

 

どうしたんだい!メディア!

 

顔が真っ青だよ!?

 

早くこのキュケオーンを食べるんだっ!

 

え、いらないの?……そうか。

 

ペニーワイズと何処で知り合ったかだって?

 

うーん。長い話になるけど、いいかな。

 

やっぱりいい?

 

そんなこと言わず聞いてくれよ、メディア。

 

手短に頼むって、メディアは我が儘だね。

 

……っああ!行かないで!

 

頑張って、手短に話すから!

 

__それじゃあ、えーと……。

 

少し前に、マスターのためにキュケオーンを作ったんだ。勿論、愛情を込めてね。

 

そのキュケオーンをマスターに持って行ってあげたんだけど、断られたんだ。

 

どうやらマスターはもうご飯を食べた後らしかったんだ。

 

まぁ、しょうがないさ。

 

確認しなかった私が悪いんだからね。

 

けど、まあ、ショックだったね。

 

私の愛を受け取って貰えなかったんだから。

 

私の硝子の心は傷つき、上の空になっていたんだ。

 

だからだろうね。

 

私は気付けなかったんだ。

 

帰り道。その廊下に『亀裂』があることに。

 

私は転んでしまった。その亀裂に躓いて。

 

そのせいで、キュケオーンを手放してしまったんだ。

 

冷えたキュケオーンが宙を舞う。

 

フライングキュケオーン(空飛ぶ麦粥)はそのまま壁に向かって飛んでゆき__、

 

__壁に空いた穴の中にすっぽりと入ってしまったんだ。

 

私はキュケオーンの後を追って、穴の中を覗いてみたんだ。

 

けどそこには何もなかった。

 

真っ暗な闇が広がっているだけ。

 

キュケオーンのキの字も見当たらない。

 

仕方ない。

 

そう見切りを着けて帰ろうとしたその時、声がしたんだ。

 

__『やあ、キルケー!』ってね。

 

穴の中を再び除き込むと、暗闇の中からぬるりとピエロが這い出てきたんだ。

 

キュケオーンまみれのペニーワイズがね。

 

これはいけない!と私は思ったよ。

 

何てったって、彼の顔面にキュケオーンをぶっかけてしまったからね。

 

きっとカンカンに怒っているに違いない。

 

すぐさま私は逃げようとしたんだ。

 

私が走り出そうとした瞬間、

 

__『待てやッ!?』

 

大声で呼び止められたんだ。

 

私はビックリして振り返った。

 

そこには、憤怒の表情を浮かべたペニーワイズが。

 

って、思うじゃん。

 

違うんだよ。

 

彼はちっとも怒っていなかったんだよ。

 

それどころか、こちらを歓迎するような笑みをしていたんだ。

 

え、怒りが一周して笑顔になっていただけだって?

 

そんなことないよ。みんなが思っているよりもペニーワイズは良い奴なんだよ。

 

私の相談にも乗ってくれたからね。

 

 

__『そんな悄気た顔して、どうしたの?』

 

ペニーワイズは初めにそう聞いてきた。

 

気が動転していた私は、つい、話してしまったんだ。キュケオーンまみれにした負い目もあるからね。

 

私は胸の内にあるものを吐露した。

 

__マスターが最近素っ気ないこと。

 

__マスターがあまり私を使ってくれないこと。

 

__マスターがキュケオーンを食べてくれなかったこと。

 

__マスターが他のサーヴァントとばっかり、いちゃついていること。

 

ペニーワイズは聞き手に徹して、時折頷いていたよ。

 

意外にも、彼は聞き上手だったんだ。

 

そうして話が終わった後、彼がこう言ったんだ。

 

__『マスターと仲良くできるオススメがあるんだけど、どうかな?』

 

ってね。

 

そう言うなり、彼は懐からある物を取り出す。

 

そう!この血糊さ。

 

まぁ、私も最初は理解出来ずにいたけどね。

 

困惑している私をよそに、彼は語り出す。

 

__『押してダメなら、引いてみるべきさ』

 

__『この血糊を全身に塗りたくるんだ』

 

__『そうすれば、弱った自分を演出できる』

 

__『マスターはきみを心配するはずだ』

 

馬鹿げてるよね。

 

確かに彼の言う通りにすれば、マスターは心配してくれるだろう。

 

けど、そんなずるい手は使いたくないんだ。

 

あくまでも、私は正攻法でマスターを虜にしたいんだ。

 

それに、ペニーワイズは悪性サーヴァント。

 

現在進行形でカルデア内の要注意人物にされているからね。

 

いくら私だって、無条件で信じたりしないよ。

 

きっとこのオススメは罠に違いない。騙されんぞ、ってね

 

奴は訝しがる私を知ってか知らずか、楽しそれに話を続ける。

 

__『おーぅ、マジで疑っているって顔だね』

 

__『確かに、この作戦が上手くいく保証はない』

 

__『けど、成功すれば、マスターに看病してもらうことができるかもしれない』

 

__『マスターと触れ合える、甘い一時を過ごせるぞ』

 

ペニーワイズは何度も私を誘惑した。

 

何度もね。

 

けど私は聞く耳を持たなかった。

 

だって、血塗れだよ!血塗れッ!!

 

そんなのヤンデレヒロインみたいじゃないか!

 

私は超絶美少女!可憐で清楚なメインヒロインなんだからねッ!!

 

……神話級負けヒロインが何を言ってるんだ、だって?

 

それこそ何を言ってるんだきみは。

 

私がそんな不名誉な名で呼ばれてるわけないじゃないか!

 

まぁ、いいさ。話を続けるよ。

 

数々の誘惑をはね除けた私に対し、ペニーワイズは笑みを崩さなかった。

 

まるで、自身の勝利を確信しているかのようにね。

 

けど、オススメを断固として拒否する私にしびれを切らしたのか、ペニーワイズが穴の奥に帰って行ったのさ。

 

そう!勝ったのさ!!

 

あの、ペニーワイズにっ!!

 

誰も勝つことの出来なかった彼にッ!!

 

ふふふ。

 

どうだい、メディア。

 

凄いだろう。

 

崇め讃えても良いんだよ。

 

……え、じゃあ何で、血糊を使っているのかだって?

 

実はアイツ、帰る際に血糊をぶっきらぼうに投げ捨てて、あることを呟いたんだ。

 

__『看病してもらえたら、マスターにキュケオーンを、「はい、あ~~ん❤️」されたかもしれないのに……』

 

ってね。

 

その言葉を聞いて、私に稲妻が走った。

 

だって!「はい、あ~~ん❤️」だよ!

 

「はい、あ~~ん❤️」ッ!!

 

マスターにキュケオーンを、「はい、あ~~ん❤️」されるなんて、最ッ高ォォォォーーッのシチュエーションじゃないかッ!!

 

人生に一度あるかないかの、ビッグイベントだよッ!?

 

下手したらレアプリズム……いや、聖杯なんかよりも価値があるんだよッ!!

 

え、ずるいことはやりたくなかったんじゃ、だって?

 

知るか!そんなこと!!

 

恋愛戦争は勝ってなんぼなんだよ!

 

まぁ、アイツの作戦を使うのは癪だけど、そんなのは些細なことだ。

 

これでマスターは私の……ふふふ。

 

いや~~、ペニーワイズさまさまだね。

 

ん?宝具は本当に使われなかったのか、だって?

 

もお、心配性だね。メディアは。

 

安心して、私は何もされてないよ。

 

勿論、血糊も確認したけど、魔術的なものは何もなかったよ。

 

私は大魔女だからね。その辺は抜かりないよ。

 

それじゃあ、私はマスターのところに__。

 

……そんな神妙な顔をしてどうしたんだい、メディア?

 

やっぱり止めたほうがいいだって?

 

何を今さら、大丈夫だって。私は何も__。

 

__それこそが、奴の策略だって!?

 

何を言ってるんだ。

 

宝具を使われてないから死にようがないじゃないか。

 

あ、ちょっと!血糊を落とそうとしないで!

 

なんだよもお、全く。

 

ん?どうしたんだい、鷹がキュケオーンを食らったような目をして。

 

後ろが何だって?

 

……。

 

ナイチンゲール?

 

どうしたんだい、ナイチンゲール?

 

滅茶苦茶恐ろしい顔をしているけど。

 

__なに、治療が必要だって?

 

一体だれが?

 

え、私だって!?

 

ああ、この怪我は……その……何と言うか、怪我のようで怪我じゃないんだ。

 

__え、支離滅裂な発言、頭の治療も必要だって!?

 

失敬な!いたって私は正常だ!

 

あ、ちょっと!銃をこっちに向けないでっ!

 

止めて!洒落になんないよっ!

 

メディア!助けて!!

 

……っああ!逃げないで、メディア!!

 

キュケオーンあげるからさっ!!

 

メディア!

 

メディアァァァァー一ッ!!

 

 

 

 

 

キルケーは殺された。

 

治療するために殺されたのだ。

 

__『死んではいません。治療するために殺しましたが』

 

 

 




__体はキュケオーンで出来ている

材料は大麦で、味付けはミント

幾たびのキュケオーンを食べて完食

ただの一度も欠食はなく

ただの一度もお残しはない

彼の者は常に独り食卓でキュケオーンを食べる

故に、その生涯に意味はなく

その体は、きっとキュケオーンで出来ていた

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