サーヴァント:ペニーワイズ   作:サブカルクソ野郎

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恐らく最後の初投稿です。


ジャンヌ妹

それはルルハワにあるリゾートホテルで起きた出来事である。

時刻は深夜、ホテル内の灯りは抑えられ、薄暗くなっている。

そんな廊下を歩く一人の人物がいた。

白い髪と肌。黒い水着。なぜか携えている日本刀。

この微妙に残念な感じがする女性こそ、ジャンヌダルクオルタ。

通称、邪ンヌである。

 

「ペン入れ……2ページ。ペン入れ……2ページ。ペン入れ……2ページ。ペン入れ__」

 

そんな彼女は幽鬼の如く廊下をふらつきながら、うわごとのようにそんな言葉を繰り返している。

目の下には隅が出来ており、とても正気とは思えない。

それも仕方がない。何せ彼女は今現在、修羅場を突っ切っているまっただ中なのだから。

どうしてこうなったと言えば、邪ンヌ自身の自業自得なのだが。

復讐と言う名の反発精神の塊である邪ンヌは、サバフェスに参加する自称姉を名乗る不審者(ジャンヌダルク)の存在を知り、それに対抗すべく急遽参加を決意したのだ。

サークルメンバーにマスター達を招き入れ(捲き込み)、黒髭から借りたホテルの一室で同人誌作りを開始したのである。

サバフェス開始まで一週間。

勿論、邪ンヌ達は同人誌のことを何も知らないずぶの素人だ。

だがそんなのは関係ない。

邪ンヌは描いた。

ひたすらに。

がむしゃらに。

描いて描いて描き殴った。

邪ンヌはそこまで才能があるわけではない。斬新な発想力や緻密な絵を描く技術等は持ってはいない。

しかし誰よりも作品に対する情熱があった。

カルデアで拾った『あの作品』を読んでから、自分の中で産まれた思いを火種に煌々と燃え盛る情熱が。

その情熱があったからこそ、今日この時までペンを走らせることが出来たのだ。

途中、宇宙から来訪したフォ一リナーと戦い、街で暴れるイバラギンを宥め、「素材だ!」と叫びながら鶏の羽をむしり始めたマスターを止めたり、色々あったが完成は目前。

残すは原稿のペン入れ2ページのみである。

がしかし、ここで問題が発生。

邪ンヌに眠気が出たのである。

通常サーヴァントに睡眠は必要ないのだが、同人誌作りを開始してからずっと作業していたことにより、肉体及び精神的疲労が積み重なり、その結果疑似的な睡眠欲が生じたのである。

由々しき事態である。

その眠気を覚ますため、邪ンヌは自販機で缶コーヒーを買うべく廊下を歩き始めたのである。

 

しかし、彼女は知らなかった。

そこに『アイツ』がいることを__。

 

 

「やあ!邪ンヌ」

 

それは突如聞こえてきた。

静寂した廊下に響く底抜けに明るい声。

邪ンヌは知っている。この声の主を。

思い出すは何度も『オススメ』をされ、宝具によって精神を殺された忌々しい記憶。

 

「お前は__」

 

復讐の炎を燃え上がらせ、声のした方向を睨み付ける。

視線の先にあるのは、少しだけ開いた扉。その隙間から見覚えのあるピエロがぬるりと顔を覗かせた。

出会った相手を死に誘う道化師。

ペニーワイズ、それが彼の真名である。

 

「はい、調子……って、おい!扉を開けようとするなッ!!やめろッ!!

 

ここを開けなさい!サブカルクソピエロッ!!今日こそブッ殺すッ!!

 

何だよその呼び名ッ!?

 

日頃の恨みとばかりに扉にしがみつき、開けようとする邪ンヌ。

開けられてたまるかと抵抗するペニーワイズ。

二人の力により、扉がミシミシと音をたてる。

力は互角。

悪性サーヴァント同士が火花を散らす。

人類史上、他に類を見ないであろうこのしょうもない戦争は実に数十分にも及んだ。

 

 

__数十分後。

 

「クソッ!覚えてなさい!!」

 

結局邪ンヌはペニーワイズを倒すことが出来ず、貴重な時間を無駄にしただけであった。

息を切らし汗を滝のように流している邪ンヌに対し、ペニーワイズは余裕の笑みを浮かべている。

……いや、よく見ると彼の額には玉のような汗が付いており、にやつく口の変わりに鼻孔を大きく広げ呼吸をしている。

要するにただの見栄である。

 

「あんた筋力Dの癖に何でこんな強いのよ」

 

「ジョージを必ず引き摺り込むために鍛え上げたからな」

 

「馬鹿じゃないの」

 

どうやらこのピエロ、戦闘力はあまりないくせに、無駄な筋力はあるらしい。

まるでどこぞの発明王のようである。

呆れかえっている邪ンヌをよそに、ペニーワイズは彼女に問い掛ける。

 

「同人誌もう完成した?」

 

「貴方には関係ないでしょ」

 

ペニーワイズの問いに、邪ンヌは素っ気なく答えた。

そもそもこんな奴に関わっている余裕はないのだ。

邪ンヌには同人誌を完成させるという重大な任務が課されている。

速やかに自室に戻るが吉だ。

そう思いすぐさま立ち去ろうとするが、身体が鉛のように重い。

瞼が重力に従って閉じようとし、喉元から欠伸がこみ上げてくる。

先ほどの下らない戦いでなけなしの体力と精神カを全て使ったため、眠気が頭の中を瞬く間に支配していく。

 

「おーぅ、マジで眠いって顔だね。一度寝てスッキリすることをオススメするよ」

 

「そうやって寝落ちさせるつもりでしょ。騙されないわ」

 

子供を諭すように優しくオススメするペニーワイズ。

そんな彼の言葉をバッサリと邪ンヌは切り捨てた。

 

「えーっ、一度寝て朝仕上げた方がいいと思うよ。……そんなにその同人誌が大事なのか?」

 

「当たり前よ」

 

邪ンヌは断言する。

 

「正直な話、この同人誌で一位を取る自信はあまり無いわ」

 

ぶっちゃけると今回のサバフェスがだめでも『次のサバフェス』があるのだ。

何度も同人誌を描いているからこそ、それなりに良い作品の良し悪しがわかるようになった邪ンヌは、今回の作品も一位を取れないことを察していた。

一位じゃなきゃ全てが巻き戻り、再び白紙の状態からスタートするのだ。

つまり、今回のサバフェスで未完成の同人誌を出しても何かが変わるわけではない。最後まで頑張る必要はないのである。

 

「けど、そんなのは別にいいのよ」

 

一位はあくまでも目標であり、邪ンヌの目的ではない。

彼女の真の目的は__、

 

「一位なんてどうでもいい。あたしの目的は自分が納得のいく同人誌を描くこと。誰のためでもない、自分が美しいと思うエンディングを描き上げ、あたしだけの『オススメ』を生み出すことなのよ」

 

そう、邪ンヌは自分だけのオススメを描くことが目的だったのだ。

彼女の熱の籠った言葉は、ペニーワイズの心を揺さぶった。

 

「自分だけのオススメか……なるほど、良いじゃないか」

 

口をニンマリと曲げながら、愉快そうにペニーワイズがそう言った。

邪ンヌはそんな彼を見て満足そうに口角を上げる。

二人の間に和やかな雰囲気が広がる。

 

__そんな二人に忍びよる影があるとも知らず。

 

ゴスッ。

鈍い音と共に邪ンヌの後頭部に鋭い痛みが走る。

突然の奇襲になすすべもなく倒れる邪ンヌ。

一体誰が?

身体が床に倒れ伏す。

最後の力を振り絞り、首を動かし、相手の顔を見ようとする。

暗闇の中、ほっそりとしたシルエットが浮かんでいた。

女性……だろうか?どこか『見覚えがある』気がする。

残念なことに邪ンヌの思考はそこで止まった。

意識が闇に落ちる。

 

 

邪ンヌは起きた。

朝になって目が覚めたのだ。

 

「__あ……さ…………ん?__っ!?あああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

絶叫とともに飛び起きる邪ンヌ。

 

__サバフェス。

__原稿。

__ペン入れ。

__締め切り。

 

様々な単語が走馬灯の如く頭をよぎる。

息が荒くなり、視界がグニャリと歪む。

しかしながら頭は妙に冴えいる。

その頭で必死にこの絶望的な状況を打破するための策を考える。

 

「い、いや、まだ時間がある……はず__」

 

もしかしたら、の可能性。

一抹の希望を信じ、時計を見る。

 

「……終わった」

 

残念、時間切れである。

邪ンヌは頭を抱え、ベッドに倒れこむ。

う~う~、と唸りながら布団にくるまりゴロゴロとベッドの上をひたすら転がり続ける。

脳裏をよぎるは協力してくれたマスター達の姿。自分の我儘で捲き込んだ彼らだが、何だかんだ言いながら最後まで手伝ってくれたのだ。

__それなのに、

 

「……完成、出来なかった」

 

__同人誌を仕上げることが出来なかった。

自責の念が胸を締め付ける。

あれだけ大口を叩いたのに、これでは格好がつかない。

彼らに合わせる顔がない。

__どうしよう……。

その時、ガチャリと部屋の扉が開いた。

 

「よう、もう起きたのか?__って何してんだ?」

 

ロビンフッドを先頭にマスター達がぞろぞろと部屋の中に入ってくる。

そんな彼らは、ベッドの上で簀巻きになっている邪ンヌの姿に呆気にとられている。

__覚悟を決めるしかない。

自分が始めたことなのだ。

ならば逃げることは許されない。

ベッドから飛び起き、マスター達の前にゆっくりと歩み出る。

そして息を深く吸い上げ、

 

「ご、ごめんなさいっ!!あたし、同人誌、完成させることが、出来なかった……あれだけ手伝ってもらったのに、本当にごめんなさいッ!!」

 

嗚咽混じりの謝罪する。

正真正銘邪ンヌの本心である。

腰を綺麗に90度に折り曲げ、頭を下げる。

そんな邪ンヌの姿を見た一同は首を傾げ、不思議そうな顔をしていた。

 

「あー。何を言ってるのかよくわからないが、同人誌出来てるぞ」

 

「……は?」

 

頭を掻きながらそんなことを言うロビンフッド。

彼の言葉にますます混乱する邪ンヌ。

そんな邪ンヌにロビンフッドは『ある物』を手渡す。

 

「あたしの同人誌ッ!?」

 

「その通り。こいつはお前さんが描いた同人誌だ」

 

邪ンヌはそれをひったくるように奪い取り、中身をまじまじと見る。

ぺラペラと忙しく捲り、しっかりとチェックしてゆく。

そして肝心の2ページに差し掛かった時、邪ンヌは驚愕し目を見開く。

 

「嘘……完成、してる」

 

「まだ寝惚けてるのか?朝来た時にはちゃんとペン入れをした最後の2ページが机の上にあったぜ」

 

「邪ンヌ殿は覚えておられないのですか?」

 

「仕方ないよ。あんなに疲れていたんだから」

 

「ええ、最後に見た時はとても窶れていましたからね」

 

「そういうこった。あんまり気持ちよさそうに寝ていたからそのままにして、こっちの方で同人誌を印刷したってわけだ」

 

「……そう、完成していたのね」

 

ふう、と息を吐き、邪ンヌは安穏する。

しかし、それと同時に疑問が湧き上がる。

__本当にあたしが描いたの?そんな記憶はないのに……それに昨日会ったペニーワイズは、夢?

何が現実で何が本当なのか。邪ンヌにはわからない。

けれども、

 

「まあ、完成しているならいいわ。早く会場に行って準備をしましょう。」

 

そんなことよりも今やるべきことがある。

何も不都合はないのだ。

ならば問題はない

そんなこんなで邪ンヌの脳裏に芽生えた疑問はサバフェスの熱気と忙しさによって霧散したのであった。

 

 

サバフェスが終わった頃、ホテル内部を歩く者がいた。

邪ンヌの自称姉、ジャンヌダルクである

ホテルの廊下を迷いのない足取りで歩く彼女は、やがて一室の扉の前で足を止める。

 

「私です。ジャンヌダルクです。例のモノを持って参りました」

 

そう言いながら、コツコツと軽やかにノックをする。

数秒の間の後、ゆっくりと扉が開いた。

いや、扉が『開いた』と言うより『隙間が出来た』と言った方がこの場合正しいだろう。

そこには真っ暗な闇があった。1メートル先さえ見通すことの出来ない闇が。

そんな闇の中から見覚えのある白塗りの顔がぬるりと現れた。

 

「やあ!ジャンヌ」

 

皆様ご存知、ペニーワイズである。

 

 

邪ンヌ()に睡眠をオススメしていただき、本当にありがとうございました」

 

「いいってことさ。そういう『約束』だろう」

 

驚愕の事実。

ペニーワイズが邪ンヌに接触し、睡眠をオススメしたのはジャンヌダルクの差し金だったのだ。

一体何故?

 

「本当に良かったのか」

 

「良いんですよ。最愛の妹が寝食を忘れ、日に日に窶れていくのを見るのは、とても心苦しいので」

 

「その最愛の妹をお前はぶん殴ったんだぞ」

 

ペニーワイズは見た。ジャンヌダルク(自称姉)の凶行を。

恐らく、ジャンヌダルクは本当にオススメが成功するのか心配だったのだろう。ペニーワイズが説得している時に、急遽参戦してきたのだ。

いつも振り回している旗で邪ンヌの後頭部を急撃。

白目を剥いて倒れる妹。

満悦の笑みを浮かべる姉。

ギャグ空間のサバフェスがサスペンスに変わった瞬間である。

何故こうも聖女は脳筋なのか。

 

「それでいてペン入れもするとは、とことんあんたは妹に甘いねえ」

 

ペニーの言葉にジャンヌダルク照れ臭そうに笑い。「あの娘には内緒ですよ」と、茶目っ気たっぷりにウインクする。

全ては愛する妹のため。

そのためだけにジャンヌダルクはペニーワイズに頼み込んだのだ。

 

「本当にありがとうございました」

 

ジャンヌダルクは深々と頭を下げ、そのまま立ち去ろうとする。

 

「それでは」

 

「待てやッ!?」

 

そんな彼女をペニー大声で呼び止め、

 

「おーぅ、約束を忘れてもらっては困るな」

 

ペニーワイズが苦言を言う。

約束とは何か。

ジャンヌダルクは忘れていましたと言わんばかりに口に手のひらを当てがい、その後懐から約束の品__『サバフェスの同人誌数冊』を取り出す。

 

「これで本当にいいんですか?」

 

「ああ。俺は外を歩けないからな」

 

ペニーワイズは外を歩くことが出来ない。

歩こうものなら他のサーヴァントに袋叩きにされるのが落ちだ。

つまりはサバフェスの同人誌を手に入れることが不可能なことを意味している。

どうしたもんかと悩んでいたそんなペニーワイズにジャンヌダルクは約束を取り付けたのだ。

 

「しかし意外でした。貴方が同人誌に興味があるなんて」

 

「オススメには鮮度があるんだ。流行り物じゃないと、うまく気を引けないからな。」

 

それはクソ生意気な小僧(ジョージ)との戦いで見つけた、一つの真理であった。

どんなに価値の高い品物でも、時間がたてば次第に人々の興味は失せるものである。

そのためペニーワイズは日常的に人々の流行り物をリサーチしているのだ。

彼が同人誌を欲したのもその一環である。

あながち邪ンヌが付けたサブカルクソピエロと言う呼び名も的を射ているのかもしれない。

 

「ふむ。確かにリスト通りの品々だ。__ん、これは?」

 

「それは邪ンヌが描いた同人誌です」

 

「ほう、あの邪ンヌの『オススメ』か」

 

頼んでいなかった予想外の品。

ペニーワイズはそれを興味深げに見て、ペラリと読み始めた。

ジャンヌダルクはそれを静かに見守っている。

 

「ふむ、キャラデザインは悪くない。けど魅力がいまいちだな。ここのコマ割りのせいでちょっと読み辛いな。後半の作画が安定してないし、誤字も目立つ。おっとここの髪の毛のベタが塗り忘れているぞ。それと__」

 

ペニーワイズの口から容赦ない批評が飛び出す。

予想以上にダメ出しをされ、ジャンヌダルクは思わずむっとしてしまう。

そんな彼女をニヤニヤと見つめながらも、ダメ出しの奔流は止まらない。

 

「そんなに、ダメですか」

 

ジャンヌダルクはペニーワイズに問い掛ける。

 

「まあまあだな。粗が目立ちすぎる」

 

首を横に振りながらそう返すペニーワイズ。

ジャンヌダルクはそれを聞き、しょんぼりと肩を落とす。

はぁ、と可愛らしいため息を溢す。

そんな彼女に対し、ペニーワイズは「だが」と言葉を続けた。

 

「想いが籠ったなかなか良い『オススメ』だ。俺が言うんだから間違いない。次のサバフェスは1位を取る最高のオススメになるに違いない」

 

道化師が上機嫌にそう言った。

そんな彼を見て、ジャンヌはくすりと笑った。




優 し い 世 界(全員生存ルート)

ペニーワイズ死亡ルートを描くと言ったな。
あ れ は 嘘 だ。(お兄さん許して!)

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