狭いところって描写が面倒ですよね。
会話劇を書くのが実は一番苦手です。コミュ障なので……
「う……、痛っ……」
逮捕される経験というのは、一生のうちそうあるものでもないだろう。特にテロリストとしてならばなおのことである。
維摩が目を覚ますと、そこは知らない部屋であった。三方を冷たい壁で囲まれた、狭苦しい小さな場所だ。意識を失っている間に入れられたのであろうそこは、独房の類いに違いなかった。
部屋は小さな便器と寝心地の悪そうなベッドが備え付けられただけの寒々しい造りで、最低限の設備しかそなえていない。
「あの……、誰か……、誰かいませんか!?ここは何処なんですか!?」
そとに向かって大声をあげるが、反応は何もない。外に出ようにも唯一外界と通じる透明な扉は固く閉ざされ、外には人の気配はない。
目を覚ましたばかりの朦朧とした頭で考えながら、維摩は意識を失うまでの出来事を、思い出せる限りで反芻してみた。逮捕された後、護送車に長いこと揺られ続け、どこか遠くへ運ばれたのだ。降ろされた場所は薄暗いどこかの施設であった。維摩が思い出せるのはそこまでだ、これ以上記憶を辿ろうとしても、頭痛を感じ止まってしまうのである。
「そうか、僕は捕まって……」
犯罪者として牢に入れられた。ようやく頭の中にその事実が浮かび上がってくる。犯罪者という言葉も、逮捕という言葉もどこか現実味がなく、まるで夢を見ているかのようである。そもそも自分は犯罪など何一つ犯していないのだ。ならば然るべき措置がされねばならないはずだ。おそらく、自分が意識を取り戻したならば、取り調べのひとつでも行われるだろう。その時にしっかりと抗弁すればいい。
ならば、と維摩の考えに希望が灯った。まだ全てが終わったわけではない。自分はまだ裁判すらも受けていないのだ、ならばここで悲嘆にくれるより、これからのことを考えるべきである。そう考えた維摩は、来るであろう取り調べに備え、頭の中を整理することにした。しっかりと抗弁すれば、きっとわかってもらえるはずである。そうその筈だ………………。
◆
あれから暫くの時間が過ぎた。巡回に来る監視用兼食事配給用のドローン以外に出会った者はいない。
人間は不安なとき、孤独でいるだけで精神が磨耗するという。それは維摩もまた例外ではなく、その静けさは彼の心もまた蝕んでいった。
初めは軽い強迫観念と不安だった。誰かと話がしたい、そんな小さなことである。だが、それは時間が経つに連れて肥大化し、彼の心を追い詰めていった。牢の中では独り言が増え、食事にもほとんど手を触れない。気が付くとベッドから立ち上がり、牢の中をふらふらと歩き回っていたのも一度や二度ではないのだ。
一体なぜ何も動きがないのか、そもそも来る人間などいるのか。不安と疑念は時間が経つにつれてどんどんと高まっていく。時計など無く、どれだけ時間が経ったかは正確にはわからない。少なくとも一時間や二時間ではあるまい。
そうして繰り返す静寂の中で、もう何度目かわからない独り言をつぶやいていた時だった。それまでドローンと空調の駆動音しかしなかった世界に、新たな音が入り込んできた。それはどんどんと大きくなり、維摩の耳にも判別ができるようになってくる。硬質なセラミックの床を規則正しく叩くそれは、おそらく何者かの靴音であろう。それを理解したとたん、維摩は思わず独房の扉へと飛びついた。
「――あの、ここの人ですよね!?僕はどうなるんですか!!話がしたいんです、ちょっと……!!」
だが、足音は維摩に気を留めることなく、その隣の独房の前で立ち止まった。必死に扉を叩き、大声で存在をアピールするが、足音の主が気を向ける様子はない。やがて、ガサゴソとなにか作業をするような音とともに、その足音は去っていった。
「そんな……」
足音の消えた後も、しばらくそうやって叫び続けていたが、ついぞその人物が戻ってくることはなかった。そのことに落胆し、維摩はうなだれるように肩を落とす。だがそれは決して、現状に変化が起きなかったわけではなかった。
「……誰か、そこにいるのか」
くぐもったように低い、呻くような男の声が聞こえる。その声の元をたどると、すぐ隣の壁に行きついた。どうやら、隣の房に新しい囚人が入れられたらしい。
「うわっ……!?えっと……あの………」
思わぬことに、維摩の口から素っ頓狂な声が出てくる。混乱した頭で出てくるのは、要領を得ない言葉だけだった。
「子供……?やつらが二人も捕虜をとるとはな……」
隣人の声はしわがれているが、老人のそれとは違うだろう。だがその声は、どこかで聞いたような気がするものであった。
「あの……、どこかでお会いしたことはありませんか?僕の名前、紫乃菊 維摩って言うんですけど?」
つかの間の考えるような声の後、帰ってきた答えはこうだった。
「……いや、聞き覚えは無いな。言語と名前からして日系なのだろう?私の知り合いに東アジア出身の者は……。いや、あの時の二人は日本人と中国人か。……それくらいだ。」
「そう……ですか」
何か含みのある言い方ではあったが、やはりというべきだろう。しかし、何にせよ話の通じる隣人がやってきたというのはうれしいものだ。彼の事情を考えれば、手放しに喜ぶべきではないかもしれないが、それでも話し相手というものは必要だろう。
「あの……、あなたはどうしてここに?」
もしかしたら、自分と同じ境遇なのかもしれない。しかし、その答えは維摩の期待していたようなものではなかった。
「どうして……か。そういうおまえは何者なのだ?どうにも戦士の類ではないようだが……」
どうやら、自分が答えるまでは向こうも話す気はないらしい。維摩本人も誰かに相談したかったこともあり、自分が思っていた以上にすらすらと言葉が出てきた。学生であること、冤罪で捕まったこと、ずっとこの場所に閉じ込められていたこと。壁の向こう側の彼は、時折短い相槌を打ちながら、長いであろう維摩の話をしっかりと聞いていた。
「なるほど……、事情は分かった。つまりおまえは、知らぬ濡れ衣を着せられ、ここに繋がれていたということか」
「……はい。話を聞いてもらおうにも、取り合ってもらえなくて」
「やつらはそういうものだ。おまえが言うような方法で連れてこられたのなら、よほどのことがない限り放しはしないだろうよ」
まるで、この状況になることを知っているような口ぶりである。それだけ何か事情に通じているのか、それともそれ意外の何かか……。
「おまえが何故連れてこられたのかは知らん。だが、聞く限りでは『確保』していることが重要なのだろうな。でなければ長いこと手が付けられていないことに意味が見出せん」
「確保していること……。それっていったい何なんですか?」
答えは無い。当然だ、彼は当事者ではないのだから、知っているはずもないのだ。だが、その口ぶりはやはり一般人というにはかけ離れている。そして、その答えを維摩はまだもらっていない。
「あの……、それで。さっき聞いたことなんですけど……。あなたは一体……」
いったい何者なのか。その答えは、予想に反して素直に帰ってきた。
「……プラタル・モックス……。今は……、『XCOM』に身を寄せるものだ」
◆
それからは、最善とは言えずともマシな日々であった。話し相手が一人増えただけでも、生活というものは変わるものである。
独房の隣にいるのがテロリストの一味であるというのは驚いたが、話してみれば意外と恐れるようなこともなかった。彼自身のことは多くは語らないが、話す内容はどれも興味をそそるものであったのだ。
「……それで、ノブナガンはどうやって窮地を切り抜けたんですか?」
「オダ一族の秘剣『ハラキリ・ブレード』だ。ルーンの輝きがホンノウテンプルを……、いやダークジェネラル・アーケチすらも打ち破ったのだ」
歴史の話を聞いた時も、維摩が全く知りもしなかったような話をしてくれた。すこし誇張しているような気もするが、どれも興味をそそられるようなものばかりである。逮捕された最初の時とは変わって、むしろ楽しいほどだ。
歴史の話が『オダ一族の興亡:ランセイ編』まで差し掛かったころであった。ここ最近で何度も聞きなれた、あの靴音が聞こえてきたのである。
「――ッチ!……無粋な客だ。ユマ、続きは後にするとしよう」
「……は、はい。続き、楽しみにしてます……」
尋問などをしているのか、モックスは定期的に兵士によって連れていかれるのだ。そのたびに気を失って帰ってくることから、よほど疲れる内容であったのだろう。一度本人に何をされているのか聞いたところ、『気にするな』の一点張りであった。本当に謎の多い人である。
話のタネは、何もモックスからだけではない。彼から維摩へ尋ねるときもある。その話は決まって、アドヴェントのシティでの内容であった。
「……それで、そのアドヴェントバーガーとやらはおいしいのか?」
「はい、注文する特は大体これですし、安定ですね。あとは—―――」
生活や施設、或いは学校の授業の内容まで様々だ。その内容を話すたびに、「ほう」や「それで?」というように様々な相槌を打ってくれる。話し方から取っ付きにくい印象を持っていただけに、中々に意外であった。
そんなやり取りが繰り返される中であった。彼ともほどほどに打ち解けた頃である。今なら行けるであろうと考え、彼の過去について問うてみた。
「そういえば、モックスさんってどこのご出身なんですか?」
何気ない質問であった。彼とは日本語が通じるが、さりとて訛りがそれらしくない。アドヴェント共用語も伝わっていたことから、シティで教育を受けていないということでもないだろう。
「出身……か。そうだな、どう話すべきか……」
だが、その語りは意外に重かった。いや、ためらうこと自体は予想はしていた。しかしこれは、ためらうというより、答えを探しているようである。
「私は、もともとはアドヴェント平和維持軍に所属していたのだ」
「えっ……!!モックスさんが……!?」
意外な答えだった。彼がアドヴェント軍に所属していたことも、そこから裏切ったことも両方だ。
「どうして……、軍を?」
「意外か……?」
当然だ。維摩にしてみれば、何故アドヴェントに不満を持つのかすら理解できないのである。彼の知る限り、彼の政府は完璧なシステムである。そこから出ようなどとは思ったこともない。
「なら、お前はどうして信用できる?」
「そんなの簡単です。アドヴェントはあらゆる政府より完璧な統治システムで――」
いつも通りの答えをだす維摩。いつもなら相槌を打つだけのモックスが、唐突にそれを遮った。
「だが、事実そうではなかった。……完璧ならどうしてお前がここにいる?」
統治が、生産が、技術が……。そう続けようとした維摩を黙らせるには、十分であった。完璧な政府が、完璧でないミスを犯す。濡れ衣など、『完璧』にあっていいものではない。
「えと……。それは、きっと何かの手違いで……」
「なにかの手違いで?ハッ、これだけの時間が過ぎても手違いだというのか?それに、今お前は『あらゆる政府より完璧』といったな、……それは一体どの政府だ?」
「それ……は……」
どの政府かなど答えられるわけがない、維摩はどの政府も知らないのだから。知っているのはただ一つ、アドヴェント政権のみだ。答えに窮する維摩へ、モックスがなおも問いかける。静かに、だが厳かに述べるそれは、不思議な力強さがあった。
「答えられはしないさ。ユマ、お前は歴史を知らない。アドヴェントによる統治の真実も、支配者たるエルダーの暴虐も、すべて隠されてきたのだからな」
「隠されてきた……?な、何を言って……?」
わからない、何もわからないのだ。彼が何を言っているのかも、アドヴェントが完璧でないなどという言葉も、維摩にとっては意味が分からない。当然だ、彼は今まで、『アドヴェントは完璧である』と教え込まれ続けたのだから。
「分からないか?当然だ、お前はまだ何も知らなさすぎる。この世界の真実も、お前たちが崇める神の偽りも、何も知りはしないのだから」
その言葉に、弘樹との会話がよみがえる。
『アドヴェントはなぜ「歴史」を捨てた』
「ユマ、この世界は間違っている。だからこそ我々は戦っているのだ」
牢の外から物音がする。複数の足音、しかしいつもの兵士とのものとは少し違う。バラバラで、しかしどこか人間味を感じさせるものだ。押し殺したそれがどんどんと近づいてき、やがて牢の前で止まった。
牢の中からでも見ることのできるその集団は、一様に不揃いな格好をしていた。色も、人種も、性別も何もかも違う。共通しているのは、各々が武器を持っているということだ。
「我らはXCOM、人類最後の希望だ……」
◆
「XCOM……」
それはアドヴェントに敵対する反政府組織、そしてモックスが所属しているというものの名だ。そして、今目の前にいる者たちの名であろう。
「Oh, sir looks fine. Is not it a supreme squid thing? Besides, it comes with room service(おう、モックスの旦那元気そうだぜ。ずいぶんイカしたスイートルームじゃねえか。おまけにルームサービス付きと来てやがる)」
その中の一人、ドレッドヘアにノーズピアスを着けた大柄な黒人が愉快そうに笑った。英語ゆえに維摩には何を言っているかは理解できない。声が抑えられているのは、ここが敵陣のど真ん中であるからだろう。
「Calm down Gordon. Even if you make a noise, your girlfriend is on your right(落ち着けよゴードン。騒いでもお前のガールフレンドは右手だぜ)」
隣の男が肩をすくめて何かを言うと、三人目のフードの人物がその脇腹をこづついた。どうやら、なにか癇に障ったらしい。
「Don't be joking. I open the key, Monitoring Regards(ふざけてないで。鍵を開けるわ、監視よろしく)」
「「Aye,Aye ma'am(へいへい、了解)」」
そう言うと、彼女の周りを飛んでいたドローンが牢へ近づいていく。彼女が何か操ると、圧縮した空気が洩れるような音とともに、鍵の開く音がした
「Did you serve you hard, did the call girl of the advent's service?(お勤めご苦労、アドヴェントの世話係はサービスしてくれたかい?)」
「I didn't have a bassroom.(バスルームはついていなかったな)」
ゴードンと呼ばれた男が何か言うと、モックスは英語で自信ありげに返した。すると彼はやれやれとばかりに肩をすくめると、こんどはこちらへと向き直った。
「So, what do you do with this, are you a boyfriend?(で、こっちはどうする?あんたのボーイフレンドか?)」
「Leave it to me.(私に任せてくれ)」
そう言うと、モックスは牢越しに維摩へと向き直る。彼の姿を見るのはこれが初めてだ。牢越しに聞く声では歳がいっていると思っていた身体は、思いのほかにがっしりとした体躯であった。その全身は白い塗装の戦闘服に覆われ、その顔はヘルメットにより覗くことはできない。
「――ユマ。お前の眼で、この世界を見てみる気はないか?」
「この世界を……?」
そう言うと、彼は自分の顔を覆うヘルメットを外した。その瞬間、維摩の顔が僅かに恐怖に引きつる。そこにあったのは、人間の顔ではなかった。
「ひっ……!!」
「これが、アドヴェントの真実だ」
その顔は,およそ人間とは呼べぬものであった。顔の造りこそ人に近いが、致命的に異なると断言できる。頭髪はなく、頭蓋には奇妙な文様。鼻は爬虫類の様につぶれ、逆に両脇の眼は異様に肥大化している。今までに言葉を交わしていなければ、見ただけで恐怖に陥るほどの凶相だ。
「こ、これって、いったい……」
「アドヴェント兵は皆、私と同じ貌をしている。改造を施された、人外の印だ……」
知らない、こんなもの維摩の記憶にはない。混乱する彼を引き戻す様に、モックスは静かに語り掛ける。
「直ぐに賛同してくれなどとは言わない。だが、ここを出るなら今が最後の機会だ。
ユマ――――」
「――我々と、来てみる気はないか?」
◆
「Son of a bitch! Why did it happen !!(あー、くっそ。なんでこうなりやがった!!)」
ゴードンが忌々しげにわめきながら、その手に持ったグレネードランチャーに爆弾を込める。打ち出したそれは巡回のアドヴェント兵を壁ごと吹き飛ばし、その抗弾プレートを粉々に砕いた。
「 Sit!! Tomas go !!(畜生!!トマス、止め頼む!!)」
「 OK !(まかせな!)」
トマスという名の男が前に出ると、よろめく兵士に向けて素早く拳銃を抜き放つ。獲物が我に返るより早く叩き込まれた銃弾は、その頭蓋を粉々に叩き割った。
「Oh, after all it's going to be like this(あーあ、結局こうなるのかよついてねえ)」
「.. .... If it does twice, it will become a fossil stone(……二回もやれば流石にばれる)」
フードを目深にかぶった女性が、陰気そうに英語で呟いた。彼女の名は『エリフ』というらしい。英語に関してはさっぱりの維摩には、彼らがどんな会話をしているのかはわからないが、少なくとも喜んでいないのだけは理解できる。
彼らに頷き、牢から出してもらったのは良いものの、どうやら警報装置に引っかかったらしい。現場指揮をしているらしいトマスが、耳に着けたイヤホンをしかめっ面で聞いていた。様子を見るに、やはり想定外の事態らしい。
「あー、あんたは日本語なら話せるのか?」
「は、はい。トマスさんこそ日本語、話せるんですか?」
これには維摩も驚いた、この中で日本語が話せるのはモックスだけだと思っていたからだ。
「班長以上はそれなりにな。あー、わかるならそのまま我らが指揮官殿の言葉を伝えるぞ。『気にするな』だとよ」
そういうと、彼は爆破された穴から外へと出ていった。なんでも、隊員が警戒した後かついていけとの指示である。彼らの索敵が終わるまでは、施設の中に待機である。爆破された隙間から、肌寒い外気が洩れる。今は春なのに、それにしてもやけに寒い風である。まるで冬に戻ったかのようだ。
気を使われていることがわかり、さっと顔を伏せる。モックス一人なら気が付かれずに脱出できたのに、この事態になったのは維摩の牢の鍵も開けたからだ。今の言葉は、自分を責めるなということだろう。だが、そうやってここから逃げるのだろうか……。
外に敵がいないのを確認したのか、トマスがハンドサインを送ってくる。壁の割れ目から外に出ると、維摩は思わず肩を振るわせた。
「痛ったぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああッ!!」
外に出た瞬間、極寒の風が彼の肌を切りつける。息をするごとに鼻腔が痛くなり、一瞬で手足の先がかじかんでいく。日本の冬とて、ここまで寒くはあるまい。もはやその温度は寒いよりも痛いほどである。
「ど、どどどどどどこなななななんんんんでででででででで!!!」
寒さで呂律すら回らない。その問いにトマスはさらっととんでもない答えを返した。
「ん?どこって新北極だが?」
「―――――――へ?はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!?」
新北極。地球の最北、北緯66度33分以上の極寒の地である。防寒着を着けていても寒く、ましては学生服一つで歩くなど自殺行為の場所だ。遠くに来たとは思っていたが、流石にこんなものは予想外である。
「なんだ、知らなかったのか?」
「知りませんよ!」
「はは、なら出所祝いのサプライズだな」
サプライズレベルではない、命に係わるレベルである。それは彼らも当然わかっており、予備であろう上着を渡される。
「そう長いことこの中を行軍したりはしないさ。すぐに迎えが来る」
「た、助かります……」
上着の前を閉じ、風が入ってこないよう留める。一時凌ぎでしかないが、トマスの言う『迎え』まで持てばいいのだ。しかし、安堵したのもつかの間、ゴードンが怒鳴り声をあげる。
「Head down !!(頭下げてろ!!)」
何を言っているのかわからずぽかんとしていると、後ろから伸びてきた手に頭を掴まれる。そのまま強引に頭を下げさせられるのと同時、後ろの床が硬質な音とともに砕けた。
「――ヒッ!!」
「ぼうっとするな、死ぬぞ!!」
いつの間にか、隣にはモックスがしゃがみ込んでいた。既にヘルメットをかぶりなおしているが、どうやらまだ戦える状態ではないらしい。維摩と同じく隊員たちに囲まれるように移動している。維摩の命を救ってくれたのは彼の様である。
「あ、ありがとうございま――」
「move move move !!(行け、行け、行け!!)」
感謝を述べるまもなく、トマスが事前に聞かせた、『走れ』のハンドサインを送る。停車していた兵員輸送車の横まで駆け抜けると、遠く空の方から轟音が響いてきた。
「な、なにが……」
「Reinforcement !!(増援だ!!)」
空を見ると、黒い輸送機がすぐそこまで来ていた。扉が開き、中から兵士たちが顔を出す。一人は初めて見るが、もう一人の装備には見覚えがあった。アドヴェントスタンランサー、近接戦を主兵装とするタイプである。
地上の方へ視線を戻すと、外を巡回中であったアドヴェント兵が戻ってきたらしい。おまけに施設の防衛システムが動作し始めたらしく、
「か、囲まれちゃいましたよ!!」
しかし、隊員たちに焦りはない。むしろ、焦っているのはアドヴェント側である。兵士たちが配置につこうとする隙を狙い、トマスが移動の指示を出す。
「スモークの場所まで走れ!!降り変えるな、go go go go !!!!(行け、行け、行け、行け!!!!)」
言われた通り、全力でその場所まで疾走する。遮蔽物から出てしまえば格好の的だが、いまは気にする必要はない。そしてその場所までたどり着いたとき――。
「――ユマ!!」
こちらに伸ばすモックスの手を、全力で握りしめた。その瞬間、力強く引っ張られるのと同時に、全身が浮遊感に包まれた。否、浮いているのだ。下を見ると、追いかけてくるアドヴェント兵がどんどんと遠ざかっているのがわかる。やがてそれも、施設全体を見渡せるような高度になると見えなくなっていく。さらに引っ張られ、足場へと引き上げられる。どうやら、維摩たちをひっぱっていたのは、小型の輸送機から伸ばされたロープであったらしい。
暫く茫然とし、やがて身体中にどっと疲労感が襲い掛かる。自分が今まで命のやり取りの最中にあったこと、死の隣にいたことが今になってのしかかってきたのだ。
「お疲れさん」
トマスが水筒を差しだしてくる。震える手でつかもうとするが、上手く指が動かない。手に取ろうと身を乗り出すと、そのままバランスを崩して倒れてしまった。
モックスが慌てて助け起こそうとするが、緊張の糸が切れたせいで維摩の身体は床に突っ伏したまま動かない。そのまま彼の意識は、深い闇の中へと落ちていった……。
◆
「う……、あれ……?」
重い瞼を持ち上げると、どうやら誰かに抱えられていることがわかった。どうやら、気絶したまま肩を支えられて運ばれているようである。
「目が覚めたか、どうしたかと驚いたぞ……」
「モックス……さん?」
どうやら、運んでくれていたのは彼らしい。つくづく迷惑をかけてばかりである。そうして少し余裕ができると、あたりを見渡すことができるようになった。
狭い輸送機の中ではない。夕焼け空が見えることから屋外であろう。足元は土ではなく、金属製の武骨な床であった。
「ここは……?」
いったいどこなのか、モックスに尋ねようとしたが、彼はその問いに反応することはなかった。かわりに、正面をじっと見つめている。周りの隊員たちも皆同じか、それ以上であった。敬礼する者や、ぽかんと呆ける者、その反応は様々だ。
いったい何があったのか。彼らの見つめる先を追うと、一人の人間がいた。夕日が逆光となってすぐにはわからな方が、だんだんと近づくにつれてその容貌があらわになってきた。
二十台後半であろう容貌の、背の高くスラっとした体型の女性だ。風にたなびく白い髪や、同じく陶磁器のように白い肌の色をみれば、西洋系のようにすら思える。しかし、その瞳や顔の造形は、どちらかと言えば日本人に近いものであった。
「司令官直々にお出迎えとは、今日はお赤飯っすかね?」
トマスがおどけた調子で笑う。しかし、その瞳には侮った様子はなく、むしろ微かに畏敬の念すらあった。
「フっ、たまにはいいだろう。美人上司がお出迎えというのも、粋な計らいだと思ってな」
そう返すと、こんどは維摩達へと視線を移した。
「生きててよかったよ、モックス。それと、そこの少年が例のボーイスカウトかい?」
「あ、えっと……」
あいさつか、助られたお礼のどちらを先に言うべきか迷っていると、司令官は大股で維摩の方に迫ってきた。そのまま彼の目の前に立つと、じっとその黒い瞳で見据える。
「………………」
「えっと……」
品定めだろうか?維摩と視線を合わせたまま、彼女は目線をそらさない。やがて、ふっと表情を柔らかくすると、右手を差し出してきた。
「ようこそ、XCOM本部アヴェンジャーへ。私がこの船の、そしてXCOMの指揮官……ということになっている
ははは、勇猛果敢 支離滅裂とはまさにこのこと。当たって砕けろ執筆スタイルですわ。
とにかくこんなペースで、まずは月一更新を目標に頑張っていきます。余裕ができたらもう少し早くします。
英語監修
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