もしも遠坂時臣が色々とパワーアップしてたらという体裁で書く中の人が一緒なだけの出オチです。
時臣パパとマジックパパを超☆融☆合!

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久しぶりにZERO見たのとFGOでコラボイベ復刻したのとパプワくん読み返したので、途中まで書いて放置していたのを供養とリハビリ兼ねて書きました


リンちゃんパパだよ

「そしてこれはパンダ」

「わあ! お父様ありがとう!」

「そして勿論、桜ちゃんにも」

「あ、ありがとうございます!」

 

 娘達よりも大きいぬいぐるみを手渡すと、二人とも飛び跳ねて喜んでくれた。

 その様子がたまらなく愛らしく、時臣は自然と鼻血を出した。

 

「時臣さん、鼻血が」

「ああ、すまないね。ありがとう」

 

 恍惚とした表情で鼻血を流す成人男性という異常事態にも、時臣の妻である葵は平然と対処する。

 見慣れた光景過ぎて、今更どうこう言うものでもないからだ。

 ティッシュで鼻血を拭う仕草も手慣れたもの。

 人は、悲しいことにどんな異常にも慣れてしまうものである。

 

「お父様! この子達の名前は何というの?」

「ん? 名前かい? ……そうだな、コハクとヒスイというのはどうかな」

「素敵な名前! 初めまして、コハク! 今日から貴方は遠坂の子よ」

「ヒスイ、今日からずっと一緒だよ」

 

 ぬいぐるみの名前は宝石から取ったのであって他意はない。いいね?

 

 凛と桜がパンダぬいぐるみを大切そうに抱きしめる姿を見て、時臣、更に鼻血。

 あらあらまあまあと笑顔で首筋をトントンする葵。

 

「ハッハッハ、今日もウチの双子のモンチッチは最高に可愛いね」

「ええ、本当に。そして時臣さん、貴男は今日も優雅でダンディですね」

「ハッハッハ、優雅な上にダンディすぎて申し訳ない」

 

 双子じゃないとかモンチッチってなんだよとかいう些細なことはどうでも良かった。

 遠坂家は、今日も平和であった。

 

 

 旦那さまの名前は時臣。

 奥さまの名前は葵。

 二人はごく普通の恋をし、ごく普通の結婚をしました。

 凛ちゃんと桜ちゃんという二人の可愛い娘にも恵まれ、幸せな生活を送っていました。

 

 でもただひとつ、普通と違っていたこと。

 それは、旦那さまは魔術師だったのです。

 そして世界最強の殺し屋軍団、ガンマ団の総帥だったのです。

 

 

 日を改めて、後日。

 遠坂邸には時臣の弟子であり聖杯戦争の協力者でもある言峰綺礼が訪れていた。

 聖杯戦争始まりの御三家として、時臣も当然として聖杯戦争に参加する。

 その為の下準備の一環であろうと綺礼は考えていた。

 

「すまないね、綺礼。君にわざわざ足を運んでもらって」

「師よ、私にお気遣いは無用です。それで、見せたいものとは一体……」

「ああ、これだ」

 

 時臣が見せたのは豪華で美しく、それでいて華美になりすぎない優雅な装丁が施された二つのアルバム。

 燃えるような赤と淡い桜の色をした二冊には、魔術による強力な防護が為されたと一見してわかる……それが、ただのアルバムであろうはずがない。

 そしてこの時期にわざわざ綺礼を呼びつけてまで見せるもの。

 十中八九、聖杯戦争に関係する品だろう。

 

(今回の聖杯戦争に参加する者の身辺調査を纏めたファイルか? 確かにそれならば、迂闊に見せられぬ代物だ)

 

 魔術師としての顔とガンマ団総帥という顔、両方を使って世界中に張り巡らせた網から得たであろう値千金の情報。

 これがもたらす情報アドバンテージを考えれば、時臣の慎重さも頷けるというもの。

 

「取り急ぎ、ようやっと纏めたものでね。家族以外には、まず君に見せておこうと思ったんだ」

「……恐縮です」

 

 家族以外には、という単語に引っかかりを覚えるが一先ずは手渡されたアルバムに目を通す方が先だろう。

 あるいは、この見知らぬ参加者の中に己の抱える苦悩への答えを与えてくれる者がいるかもしれない――淡い希望を込めて綺礼はまず赤のアルバムを捲った。

 

 まず目に飛び込んできたのは、満面の笑みを浮かべた遠坂凛。

 大きく引き伸ばされたそれは、一ページ丸々使って収められていた。

 目眩がする。

 

 膨大な精神力を動員し、次のページを捲る。

 すやすやと天使のような顔で眠っている凛の写真が待ち受けていた。

 頭痛がする。

 

 震える指をなんとか押さえ込み、次のページを捲る。

 顔を真っ赤にして恥ずかしがる凛の写真が待ち受けていた。

 吐き気がしてきた。

 

「どうかな?」

 

 ダンディな笑みで時臣が聞いてくる。

 どうかな? って聞かれてもどうしろというのだ。

 だが、生真面目な綺礼はなんとか言葉を選び出し、失礼のないように返答しようと努力した。

 

「その……大変可愛らしい、かと」

「ハハハ、そうだろうそうだろう! いやあ、選ぶのには苦労したよ。何せ、どれも素晴らしい半年分の写真の中から限られた収録作品を決めなくてはならなかったからね。だが苦労の甲斐あってようやく去年下半期の凛ちゃんベストショットアルバムが完成したのさ」

「はあ……それは、お疲れ様です」

「なあに、愛しい娘の為ならこの程度なんともないとも」

「あの、ではこちらの方は……」

「ああ、そっちは桜ちゃんのアルバムだ。そちらも作成には断腸の思いで挑んだよ。我が娘達は、余りにも可愛らしすぎてどの写真も芸術になるからね。まったく困ったものだよ」

 

 桜色のアルバムを愛おしそうに撫でる師の姿を見ていると、綺礼は己の心がガリガリと削られていく音を聞いた気がした。

 

「時臣師……あの、もしや、私を呼んだ要件とはこちらのアルバムだけですか?」

 

 お願いだから違うと言ってくれ、と神に全身全霊の祈りを捧げながら発した言葉に、虚しさを感じないわけにはいかなかった。

 そんなこと、叶うはずがないのだから。

 しかし、神は綺礼を見捨ててはいなかった。

 

「まさか。そんなはずはないだろう」

 

 真面目な顔で、時臣は望んでやまない否定の言葉を与えてくれた。

 

 なんという僥倖。

 なんという奇跡。

 今まさに福音は鳴り響き、神の愛が遍く世を照らしていることが証明された。

 綺礼は神への信仰と愛を一層深め、人生を捧げる決意を改めて誓う。

 

「君には娘達も世話になっているからね。ベストショットアルバムだけ見せるなんて酷い扱いはしないよ。これが惜しくも選考に漏れた写真を収めたアルバムさ。更に今日は特別に、去年下半期版葵ベストショットアルバムも見せてあげよう」

 

 嘘です。見捨てました。

 あるいは神は死にました。

 または休暇取ってベガスに行ってる。

 

 時臣は十冊以上に及ぶ娘達のアルバムをテーブルの上に置き、おまけに秘蔵の一品とばかりに妻のアルバムまで持ち出してきやがった。

 どこぞの間桐雁夜が見たら血の涙を流して喜びそうな豪勢なラインナップに、いよいよもって綺礼の精神が死に始める。

 

「ふふふ、勿論写真一枚ごとの解説は私がしよう。さあ、まずはこの満面の笑みを浮かべる凛ちゃんからだが、これは海外への仕事で三日留守にした時に帰ってきた私を迎えてくれた時のものだ。この笑顔、まさに天使としか形容できない。いや天使以上とすら――」

 

 喜々として語り始めた時臣の前で、全てを諦めた綺礼は意識を手放した。

 

 

 同じ頃、闇を煮詰めたような深い黒の中で一人の老人が溜息を吐いていた。

 

「……此度の聖杯戦争。さて、どうしたものか」

 

 聖杯戦争御三家が一角、間桐家の当主である間桐臓硯であった。

 間桐家の精髄の極地と言える地下工房、蟲蔵の主として君臨する邪悪な老爺は、しかし再び力なく溜息を吐く。

 

「次の聖杯戦争まで、果たして間桐が……いや、儂が持つかどうか。かといって博打を打つには、余りにも分が悪い」

 

 ぶつぶつと独り言の愚痴をこぼす姿からは、とても人外の化生とは思えぬ弱々しさが漂っている。

 

「よもや、動かせる手駒が一つもないとは。こんな事なら、雁夜の奴めを見逃すでなかったわ……」

 

 だが唐突に怒りの気を吹き出すと、忌々しそうに顔を歪めた。

 

「それもこれも、全てあやつ……遠坂時臣めのせいよ!」

 

 呪詛を込めて吐き出された言の葉は人の心胆を寒からしめる力を十二分に纏っていたが、臓硯以外は蟲しか居ない蟲蔵においては、只々空しく響き渡るのみ。

 臓硯は回想する。

 何故、己がこんな苦境に立たされたのか。

 何度、その光景を思い出したか分からぬほどに心中に焼き付いた、その場面を。

 

 

 遠坂の家に第二子が生まれたと知った時、臓硯は歓喜した。

 当然、同じ御三家の慶事に素直な祝福を送ったわけもなく。

 とうの昔に魔術師としての限界に達したマキリの血に、新たな息吹を吹き込むまたとない機会が訪れたと確信したからだ。

 

 魔術師として家を継げる者は一人のみ。

 後継者争いに脱落した者は、凡俗に落ちるか、一生を逃げ回って終わるか、はたまたホルマリン漬けの永遠を生きるか。

 何にせよ愉快なことにはならない。

 そこに、次代の後継者とするべく養子として迎え入れたいという申し出があればどうであろうか?

 魔術師ならば、一も二もなくこの申し出に飛びつくだろう。

 間桐の魔術を受け継ぐという意味を、理解すること無く。

 

 奇しくも、遠坂の姉妹の母はかつて母胎として狙っていた禅城の女。

 ならば姉妹どちらも素晴らしい素養を持ち、胎盤として申し分ない働きをしてくれるだろう。

 時が経ち、二人が健やかに育った時分を見計らって意気揚々と遠坂邸を訪れ時臣に養子縁組を申し出た臓硯の企みは、しかし呆気なく打ち砕かれた。

 

「大変有り難いお申し出ですが、お断りします」

 

 そっけない、ただ一言によって。

 

「な、何故じゃ!? 遠坂の家を継げるのはどちらか一人のみ! この申し出は儂だけでなく双方に利益のある話だろう!」

「確かに。魔術師としてはこの上なく有り難い申し出です。『魔術師の遠坂時臣』ならば、ご厚意に甘え娘を託したかもしれません」

「ならば、何故!?」

 

 口角泡を飛ばして問い詰める臓硯に、時臣はあくまでも冷静に話を進める。

 そして放たれる、簡潔極まりない理由。

 

「簡単な話です。私は、桜を魔術師として育てるつもりはない」

「なん……だと……! 時臣、貴様……娘を凡俗に落とすつもりか!」

「いいえ、そのつもりもありません。間桐の翁、そもそもの前提条件が間違っているのですよ」

 

 一向に考えが理解できず困惑する臓硯を尻目に、時臣は優雅に、そしてダンディにワイングラスを傾ける。

 

「二人の娘、凛と桜はどちらも稀代の素養を備えて生まれました。片や五大属性。片や架空元素・虚数。二人が二人とも、魔導の家門による加護を必要とするでしょう。通常ならば」

「なればこそ、儂の提案は渡りに船だったのではないのか」

「実のところ、遠坂の家を継ぐのはすでに凛と決まっているのですよ。となれば、間桐の家に出せるのは桜となりますが、残念ながらそれは無理なのです」

「だから、それを何故かと問うて――」

「――桜は、『青の一族』の後継者として育てます」

 

 射抜かれた。

 深く、深く、どこまでも深い青の双眸に。

 臓硯の体は完全に時臣の眼に縫い止められ、身体を構成する蟲が本能的な恐怖で耳障りな悲鳴を上げる。

 

「凛は素晴らしい魔術師として生を受けましたが、残念ながら一族としての力は現れなかった。しかし桜は違った。青の一族の証たる秘石眼を受け継いで産声を上げたのです。それも、私と同じ両の眼に」

 

「凛には遠坂の血が、桜には青の一族の血が色濃く現れたのでしょうね」と、時臣は感慨深く語る。

 

「生まれ落ちた瞬間すでに、二人の行く末は決まっていました。凛は遠坂の魔術刻印を受け継ぎ、桜は青の秘石を受け継ぐ。私は実に幸運でしたよ。二つの一族の後継者を無事に手に入れたのですから」

 

 青の一族――彼らの正体は謎に包まれている。

 遥か古代から存在する原初のヒトの一族とも言われているが、今持ってその真偽は明らかではない。

 確かなのは、青の一族とは総じて並外れた知性と身体能力を持ち、また現行の人類との間に子を成せる程度にはヒトと近しい存在であること。

 その継承者一門には秘石眼と呼ばれる超常能力が宿り、絶大な力を行使できるということ。

 青の秘石と呼ばれる秘宝を代々の当主が受け継ぎ、守ってきたということ。

 

 そして目の前にいる遠坂時臣こそ、かつて遠坂と青の一族が結ばれた証であり、一族最強の力を持つ長として君臨しているという厳然たる事実。

 更に厄介なことには、青の一族の末裔が興した世界最強の戦闘集団として名高いガンマ団の総帥でもあるから手に負えない。

 ガンマ団は科学・魔術両面から多岐に渡る戦闘能力者を抱えており、時計塔ですらその存在を無視できないと来ているのだから、やりすぎというものである。

 

「ですから、間桐の翁。繰り返して申し訳ないのですが、その提案はお断りさせて頂きます。我が娘達は、二人ともが大切な後継者であり、他家に預けられるものではないのですよ」

 

 乾きを癒すために真紅の液体を口に運ぶ何気ない仕草ですら絵になる美中年は、これで話は終わりという空気を容赦なく醸し出す。

 もはや、これ以上食い下がってもどうにもならない自体なのは明白だった。

 

 忌々しい。

 なんとも度し難く忌々しい。

 青の一族の後継者を魔術師なんぞにくれてやるわけにはいかぬと、遠回しに言ってのけたこの男が。

 突発的に殺意の嵐が臓硯の心に沸き起こるが、それを理性で無理やり押し込める。

 

 魔術師としてならば、目の前の小僧に負けるつもりなど無い。

 どのような卑劣卑怯な手管を使ってでも、必ず殺し尽くしてみせよう。

 

 だが、果たして目の前の男は、本当にヒトか?

 あの青い両眼に宿る神秘は、ヒトが御し得る領域を逸脱しているのではないか?

 今まで幾度なく抱いてきた疑念が、堰を切って吹き出す。

 

 五百年の妄執を抱えたマキリ・ゾォルケンすら怯ませる青の一族とは、一体何なのだ?

 本当に、奴らはアラヤに属する生命体なのか?

 もっと別の……自然発生的に誕生したのではなく、何者かが何らかの意図を持って作り出した生命体なのでは?

 

 未知と、理解できない物への恐怖が攻撃衝動を押し留める。

 触らぬ神に祟りはなく、藪をつつかなければ蛇は出ない。

 かつての「マキリ・ゾォルケン」ならともかく、今の「間桐臓硯」にとって最も大事なのは、生き延びること。

 怒りに我を忘れて猪突するなどという愚策を犯すはずもない。

 

「……あいわかった。どうやら、老いぼれの要らぬお節介だったらしい」

「とんでもない。同じ御三家として、そして同じ魔術師としての翁のご厚情を無下にしてしまい、誠に汗顔の至りと思っております」

 

 いけしゃあしゃあと言い放つ時臣にまたぞろ殺意が鎌首をもたげる。

 この遠坂時臣という男はどうにも、癇に障る。

 怒りに反応して震える蟲をどうにか押さえ込んで遠坂邸を後にした苦い敗北の記憶が、消えることなく臓硯の心中にへばりついていた。

 

 追想から意識を呼び戻すと、こみ上げる屈辱と敗北感だけが残る。

 

「おのれ……! おのれ……! 遠坂時臣め! 奴さえ首を縦に振っておれば、このように追い詰められることも無かったと言うに!」

 

 遠坂の血と胎盤を手に入れる算段がご破算となると、いよいよ持って間桐は進退窮まった。

 半端な魔術師の血ではすでに枯れ果てた血脈を蘇らせる事など夢のまた夢。されど代を重ねた名家とは容易に婚姻を結べるはずもなく。

 止めとばかりに臓硯自身の劣化も歯止めがかかるどころか加速していく有様では、もはや命脈は絶たれたも同然。

 

「好かろう……! 座して死を待つくらいならば、あえて火中の栗を拾おうぞ!」

 

 臓硯の双眼に妄執の炎が宿る。

 長き時の中で摩耗し、かつて抱いた気高い理想などとうに忘却した成れの果てが求めるは、ただ自己の生存のみ。

 

「もはや手段なぞ選んではおられん! 必ずや時臣を……そして他の参加者どもを縊り殺し……聖杯の力にて永遠の命を手に入れてみせよう!」

 

 闇の底たる蟲蔵において、一匹の醜い蟲が生き残りを賭けて気炎を上げた瞬間であった。

 

 

「ハクション!」

「風邪ですか、師よ」

「ハハハ、くしゃみすらダンディで申し訳ない」

 

 臓硯からの憎悪を一身に受けていようとはつゆ知らずの時臣は、相変わらず無自覚に綺礼の心をグサグサ抉る。それはもう容赦なく。

 

「……ところで、聖杯戦争への準備は順調なのですか?」

 

 内心の疲弊をおくびにも出さない鉄仮面のまま、綺礼は聖杯戦争についての話題を時臣に振った。

 拷問のような家族への惚気話になんとか耐えきったのだ。このまま帰ったのではあまりにも得るものがなさすぎる。

 

「勿論だとも。考え得る限り最強のサーヴァントを呼び出せる触媒が手に入った。首尾よくアレを呼びせれば、我々の勝利は確定する。まあ、もし期待にそぐわぬサーヴァントだったとしても負けるつもりは毛頭ないがね」

 

 余裕を持って語る姿はともすれば慢心とも思えるが、時臣のそれは実力に裏打ちされた確かなものだ。

 ともすれば、サーヴァント抜きでも聖杯戦争を勝ち抜いてしまえるのではないかと思わせるほどに……その青い眼は、人を超越したなにがしかの存在を嫌でも想起させる輝きを放っていた。

 

(……いや、余計なことを考えるのはよそう。私の望みは――『答えを得ること』。師には申し訳ないが、聖杯戦争の趨勢よりもそちらの方が重要だ)

 

 あの後に改めて時臣が収集した参加者の情報の中から見出した一人の男――衛宮切嗣。

 彼こそが生まれ落ちた瞬間から抱える苦悩に答えを与えてくれる唯一の人物であると、綺礼は確信している。

 

 だからこそ。

 

(聖杯戦争中の師の親馬鹿には全て呼び出したサーヴァントに付き合わせるとしよう)

 

 まだ見ぬサーヴァントを生贄に捧げることを、固く誓うのであった。

 

 

 そして渦中の人である衛宮切嗣もまた、遠く離れたアインツベルンの城にて奇しくも時臣と綺礼の師弟について考えていた。

 

「……今回の聖杯戦争で特に警戒すべき人物は二人居る。それが遠坂時臣と言峰綺礼だ」

 

 傍らに寄り添う最愛の妻、アイリスフィール・フォン・アインツベルンに向けて切嗣は集めた情報の要点を説明していた。

 

「言峰綺礼。こいつは――きっと危険なヤツだ。さっき説明した通り、この男は底抜けに虚ろな、空虚な人間だ。その在り方が、何より僕には恐ろしい」

 

 アイリスフィールには読み取れない、苛烈な戦場を何度も乗り越えた切嗣だけが最大限の驚異と見積もる『なにか』を言峰綺礼は持っているのだろう。

 愛する夫の判断を何よりも信頼する彼女は、静かに頷く。

 

「もう一人の遠坂時臣は、ある意味でとてもわかりやすい強敵ね。私達だけじゃなく、全ての参加者が彼を警戒するでしょう」

 

 同じ聖杯戦争の御三家と言えど、ある時点――青の一族と交わったその時から、すでに遠坂はアインツベルンの理解の埒外へと成り果てた。

 青の一族が持つ豊富な資金と戦力を背景に、堂々と表の世界へも関わるようになったのだ。

 すでに、根源への到達を目的としているかすら疑わしい。

 

 そして遠坂の今代当主にしてガンマ団総帥である時臣は魔術師としては秀才程度の才しか持たないと言われてるが、青の一族としての力は歴代最強と称されるらしい。

 彼らの持つ秘石眼は魔術ではない一種の超能力らしいが、分厚い機密のベールに包まれて切嗣とアインツベルンの情報網にすら詳しい情報は入ってこない。

 

 未知にして理解の及ばぬ強者。

 これを警戒しないはずがない。

 

「そうだね、アイリ。時臣は僕がアインツベルンに来る前からその名を轟かせていた。裏の世界のスターってやつさ。誰もがその存在を知っているのに、誰も彼を殺すことが出来なかった」

 

 あれはもう、人というより怪物のカテゴリーだろう。切嗣は忌々しいそうに吐き捨てた。

 

「だが、それでも僕は……僕達は奴を必ず倒さなきゃいけない」

「ええ、わかっているわ切嗣。私達には、彼を倒す理由がある」

 

 お互いに決意を瞳に宿して、比翼の夫婦は見つめ合う。

 そう、忘れもしない。

 遠坂時臣に関する情報を集める中で見つけた驚くべき出来事を。

 聖杯戦争が始まる前に送られた奴からの宣戦布告を。

 とうに、奴との因縁も、戦うべき理由も用意されていたのだ。

 

 

 それは、遠坂時臣がワールドナイスミドル大会というふざけた催しで優勝した時のインタビューだった。

「ダンディすぎて申し訳ない」とかくだらない事をほざいていたが、そこはどうでもいい。

 問題なのは、家族について聞かれた時の時臣の返答だ。

 

『やっぱりウチの娘達が世界で一番可愛いですね。知り合いのアインツベルンさんの所にも娘さんが居るそうですが、まあ絶対ウチの凛と桜の方が可愛いですよ。あと妻の葵も世界で一番美人だと思います』

 

「巫山戯たことを! 世界で一番可愛いのはウチのイリヤだろう!」

「そうよそうよ! 遠坂の子達も可愛いでしょうけど、一番はやっぱりイリヤよね!」

「そして世界で一番美しいのはアイリに決まっている!」

「まあ! 恥ずかしいわ切嗣……♪」

「時臣の奴に教えてやろう。その驕り高ぶった増上慢の報いは高く付くということを……!」

「きゃー! 切嗣かっこいいー!」

 

 キメ顔で語る切嗣にアイリスフィールはメロメロであった。夫婦仲が良いのは実に喜ばしい。

 相棒も娘もついでにサーヴァントも居ない中では、この二人の暴走は止まらないのであった。

 

 

 そうして、ここになんだか色々と間違った御三家による聖杯戦争の幕が騒がしく上がるのであった。

 この世界においても、血は流れ、絶望は撒き散らされ、全ては始まり(ZERO)へと至るだろう。

 ただその過程において、んばばんばんばでめらっさめらっさが起きた時…それは誰も知らぬ特異点となるだろう。

 

 わかっていることは唯一つ。

 どんな時でも遠坂時臣は優雅でダンディであり続けるだろう。

 

 ダンディすぎて申し訳ない。




この時臣さんは本来の能力に加えて両眼秘石眼(眼からビーム)で眼魔砲(手からビーム)撃てるという豪華仕様。
もうサーヴァントいらないんじゃないかな


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