ナガレモノ異聞録 ~噂の都市伝説召喚師、やがて異世界にはびこる語り草~   作:歌うたい

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Holic 2【Plastic Lullaby】
Tales 23【Beginning】


水で薄め切れてない、それこそ油絵のアクリルみたいな濃い夕焼けの中に、伸びた影法師。

 

昼に軽く過ぎた通り雨に濡らされたせいで、まだ渇ききってないアスファルトの独特な匂いが苦手で、つい顔をしかめてしまう訳だけど。

 

そんな俺の顔よりも、随分しかめっ面の似合うお隣から持ち出された苦情が、あまりに今更過ぎた。

 

 

 

『つくづくてめぇってヤツは変わりモンだな、性懲りもなく絡んで来やがって。ウチの学校、オカルト研究会とかあったろ。普通そっち行くもんじゃないのか』

 

 

『んーなんていうかね、研究会も悪くないっちゃ悪くないんだけど、あんまり活動的じゃないんだよね。基本資料を読み漁ってレポートに纏めて発表、みたいな。要は同じ趣味を持つ者同士の為のコンテンツって感じ?』

 

 

『……それの何が問題だってんだ』

 

 

『別に問題じゃないって。ただ、それならわざわざ研究会に入んなくても済む事だろ? 俺は研究するより実践派だから』

 

 

『……アホらしい。その内、マジで呪われてちまえば良いよ』

 

 

『本望。いつでもウェルカム』

 

 

『……はぁ』

 

 

呆れて物が言えないって顔をしながらアキラが頭を掻くから、その夕焼けの朱より尚濃い緋色の長髪がサラサラとなびく。

 

長身を包むライダースーツの黒。

そしてアキラがさっきから押して歩いてる単車の黒いカラーリングとの対比を生むから、よりハッキリと、どこか幻惑的に映える光景とも言えた。

 

 

つくづく変わり者だろって、言われなくても分かってる。

けどそれ以上に、言い返しときたい事もあって。

 

 

『てゆうかね、変わりモンって言うけどさ……そんな俺に何だかんだ付き合ってくれるアキラはどうなんの?』

 

 

『……別に、オレは単に新しい道を走んのも悪くねぇって思ってただけだ。そこに偶々お前がこんな廃墟まで連れてけって言い出しやがったから、まぁ良いかってなった……そんだけだよ』

 

 

『いつぞやのこっくりさんも何だかんだで一緒にやってくれたし……校内一の不良にしちゃ面倒見が良いよね、アキラって』

 

 

『あん時は適当に付き合ってやれば満足すると思ってだな…………チッ、文句あんなら帰りは歩いて帰んな』

 

 

『あーウソウソ、冗談』

 

 

『だったらさっさと行ってさっさと帰るぞ。ったく、この歳になって廃墟で肝試しとか馬鹿馬鹿しい……』

 

 

『肝試しなんかじゃないって何度も説明したでしょうが。今から行く廃墟では逢魔ヶ時にスマートフォンのアラームが鳴るようにセットした状態で……』

 

 

『ハイハイ』

 

 

 

勿論、俺も充分に変わり者だって自覚はあるけど。

 

学校もバイトもない休日にいきなり廃墟に行こうとか言い出した変人からの誘いに、あぁだこうだ嫌々渋々といった体裁をとりながらも付き合ってくれるヤツだって大概じゃないか。

 

人並み外れた腕っぷしの強さと粗暴な言葉遣いで校内校外問わず有名な不良である、大河アキラという"この女"も、すんごい変わりモンだよなって話。

 

 

 

────

──

 

【Beginning】

 

──

────

 

 

 

 

 

 

 

 

やっと、ようやく、とうとう、ついに。

 

この旅の道程には、そんな装飾が相応しくないと思えたのはアムソンさんによる行き届いたサポートのお蔭とも言えるけど。

大体は俺の隣でナインの尻尾をブラッシングしてるお嬢様の、良くも悪くも騒がしさによる割合が大きい。

 

 

「こらナイン、逃げるんじゃありませんわ。全く、わたくしの魔力による恩恵を受けているのであればもう少し美意識に気を配って貰わなくては困りましてよ」

 

 

「美意識の強い鼬ってなんか変じゃない? まぁ、お嬢は毎朝きっちりクルクル巻いてるもんね」

 

 

「当ッ然ですわ! この高貴かつエレガントなヘアスタイルはわたくしのポリシーですもの。ですからナインもこのわたくしの卷属らしく、常に優雅で清潔な見た目をしていただきませんと!」

 

 

「キュイ……」

 

 

「だからナインは別にお嬢の卷属って訳じゃないってば」

 

 

お嬢からしたらナインは言わば自信の証そのものみたいなもんだから、卷属としたい気持ちも世話をやきたい気持ちも分かる。

だからって毎度毎度ナインの再現し続けるのは、地味な負荷が掛かりっぱなしで色々と辛い。

 

体力的な意味でも……精神的な意味、でも。

 

 

「…………」

 

 

視野が広く土地勘も零ではないから、という理由でパーティの先頭に立ってくれてるアムソンさん。

そして、その一歩後ろで羨ましそうにチラチラと、お嬢の胸に抱かれながらブラッシングを受けているナインへと視線を向けるセリア。

 

羨ましいなら素直にナインに構えば良いのに。

とはいえ、多分俺がセリアについ言ってしまった『死にたがりってか可愛いたがりに改名する?』って一言を気にしてしまってるのが原因なので、若干申し訳なく思う所もある。

 

体裁を取り繕ろうにも今更過ぎるけど。

時々恨みがましそうにサファイアブルーがこっちを見てるけど、気付かないふりしとこう。

 

 

いや何かしらのアクションで応えたいのは山々なんだけど、もっと放置出来ない要因がある訳で。

 

 

──プルルルルル……

 

 

あぁ、ほら早速だ。

ひっそりと溜め息を落としつつ、壊れたはずのスマートフォンを取り出し、通話ボタンをフリック。

 

スピーカーから流れてくるのは、想像通り機嫌が悪そうなソプラノだった。

 

 

『……私メリーさん。ナガレの一番の相棒のはずのメリーさんなの…………なのに最近は全然私を再現してくれないのね』

 

 

「……いやね、そろそろセントハイムも見えて来る頃だろうし、着いたら着いたで色々と忙しくなるから、ここで同時再現しとくと後がキツくって」

 

 

『……じゃあそこの《あざとイタチ》をさっさと還してしまえば良いの』

 

 

「……多分それはそれでお嬢が拗ねるというかね」

 

 

案の定、拗ねてらっしゃる。

けどメリーさんの要望通りナインを還してしまえば、今度はお嬢が膨れっ面を作り出してしまうのは目に見えてる。

 

だってもうナインのブラッシングする時のお嬢、物凄く機嫌良さそうだし。

 

 

『……散々尽くして来たのに、新しい方ばっかりに構って……うぅ、メリーさんはナガレにとってただの都合の良い女にしか過ぎないのね……きっと飽きたらポイって棄てられるの、ぐすん』

 

 

「何この昼ドラ的な展開……」

 

 

それはそれで元の都市伝説の形に近付くかもしんない、ってのは思っても口にしてはいけないっぽい。

 

なんかちょっと芝居掛かった口調だけど、多分これメリーさんの本音だろうし。

 

あっちを立てればこっちが立たず。

冴えたやり方は、思い付く限り一つしかない。

 

 

「……りょーかい、喚ぶから。でも、ナインと喧嘩しないでくれよ」

 

 

『あはっ、私メリーさん! 優しいナガレが大好きなの!」

 

 

「はいはい」

 

 

冴えたやり方どころか単に折れただけなんだけど。

我ながら立場弱いなぁと凹みつつ、お決まりの台詞と共にメリーさんを喚ぶ。

 

 

「【World Holic】」

 

 

「私メリーさん。今ナガレの後ろに居るの」

 

 

「居るってか、もはや乗っかってる」

 

 

「私メリーさん。細かい事は気にしなくて良いの」

 

 

「あらメリー、ご機嫌よう」

 

 

「私メリーさん。ご機嫌よう、ナナルゥ。そしてさん付けは忘れないで欲しいの」

 

 

途端にずっしりと背中が重くなる理由は勿論、再現の負荷だけな話じゃない。

別に久しぶりって訳でもないのに再現された喜びが大きいのか、すりすりといつぞやのナインみたくメリーさんが頬を寄せて来る。

 

それはもう、お嬢にブラッシングされてるナインに見せ付けるように。

 

 

「……ギュイィ」

 

 

「……ふっふーん」

 

 

「キュイ!!」

 

 

「あ、お待ちなさいナイン! んっ、あ、暴れるんじゃありませんわ!」

 

 

「メリーさん、煽るの禁止」

 

 

「はーい」

 

 

俺からは見えないけど、恐らく得意気に勝ち誇った顔でもしてるんだろう。

 

子供っぽい挑発だとは思うけど、どうやらそれはナインの癪に触ったようで、シャーッと猫みたいに毛を逆立てて暴れ出してる。

ただ、その、暴れる足場がなんというか……お嬢のそれはもうご立派に育たれてる箇所の上だから、俺としては前を向いてる事しか出来なくなる訳で。

 

 

喧嘩するなって言ったのにこれだよ、とげんなり肩を落としながら顔を上げた先で……ふと、膨れ上がった丘の上に立つセリアがちょいちょいっと手招いているのを目にする。

 

 

それはつまり、目的地へのゴールテープが差し迫ってきたという合図だった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

空と海を遮る境界を水平線と呼ぶのなら、人という小さな波が起こした家屋や建物で出来たこの人海と蒼い空との境目も、そう呼べたって不思議じゃない。

 

 

遠目で見るだけでも感嘆の吐息がするりと抜けて落ちるほどの街並みは、最早ガートリアムですら比べ物にならない。

一体どれほどの人があそこで生活しているのか、数えるのも億劫なほどの規模。

 

現実の世界にも当然これ以上のものを見ようと思えば見れるのかも知れないけれど、この沸き立つ感覚を添えるのは、あの風無き峠での苦労が大きかったからだろうか。

 

 

 

「……もしかしなくても、アレが……」

 

 

「えぇ、そう──あそこがレジェンディア三大国の一つ、セントハイム王国よ」

 

 

そして、街並みの奥でその頭角を突き出している、目に見えて大きい白装飾の絢爛な巨城。

 

後は、あそこに座るトップへと親書を渡すだけなんだけども。

 

虫の知らせか、確証のない第六感みたいなものが知らせる、ちょっとした予感が不意に騒ぎ立てる。

 

 

 

 

──多分、俺達の目的はそうすんなりとは果たせない。

 

 

背中に取り付けたアーカイブの厚表紙に、そっと手を添えた。

 

 

 

 

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