ナガレモノ異聞録 ~噂の都市伝説召喚師、やがて異世界にはびこる語り草~   作:歌うたい

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Tales 31【闘争準備】

『ほんなら、二人とも参加って事やね。いやぁ良かったわぁ、ボクらもボクらで参加規約に苦しめられとったから、キミらが参加してくれて助かったんやでほんまに。そんじゃとりあえず代表のセリアちゃんには依頼契約の書類にサインして貰おか』

 

 

不安だったと語る割には、その日の内に書類をきっちり作成している辺り、抜け目のないというか油断出来ない相手というか。

お嬢の幼馴染であるエトエナが盗み聞きしてたってのも、どうやらあえて泳がせていたっぽいし。

 

 

『あ、そうそう。ちょっと気の早い話やけど、もしトーナメントでボクらのメンバーと対決ってなっても、無理に棄権とかせぇへんでええからね。とゆーか、そんな事させたらエトエナちゃんに睨まれてまうし』

 

 

勝てるもんなら勝ってみぃ、と。

要するにそういう事なんだろうけど、果たして今の俺とお嬢でどこまでやれるか。

 

俺もお嬢も伊達や酔狂で闘魔祭の参加を決めた訳じゃない。

だからこそ、予選開始までのこれより六日間を無駄に消費するつもりは毛頭になかった。

 

 

有り体に言えば──『修行』をしましょう、という事で。

 

 

 

 

「また逸れておりますぞ、重きを置くポイントを易々と手離してはなりませぬ!」

 

 

「っと……ハッ!」

 

 

「振り下ろす際に目を細めてはなりません。それではカウンターに対応しきれませんぞ」

 

 

「なんの!」

 

 

「防御の基本は、おのが隙を殺す事と間合いの管理。腕を伸ばし切らず、斬るのではなく(さば)く、ですぞ!」

 

 

「おっす!」

 

 

「ムーブをコンパクトに! ストイックなディフェンスを!」

 

 

「藪からスティック!」

 

 

藪ほどじゃないが、気を抜けば葉の長い草に足が取られそうになる草原で、また一つ俺の汗が散った。

度重なる後退で(くるぶし)が悲鳴を上げている。

 

けれど身体の悲鳴に耳を澄ませば、その隙を的確に刈り取るように拳が飛んで来るので、泣き言すら言ってられない。

 

 

「緩みましたな」

 

 

「──くあっ」

 

 

汗一つ、どころか息すら乱さないアムソンさんの鋭い蹴り上げが、握っていた剣だけを弾き飛ばしたのが、これで二十二回目になる。

クルクルと風車みたく宙を舞う剣は、放物線の終着点で待ち構えていたメリーさんの腕の中へと収まった。

 

 

「ぜぇ……はぁ……あーしんど……」

 

 

「私メリーさん。ナガレ、大丈夫?」

 

 

「……なんとか」

 

 

「ほっほ。昨日、今日とで重心の据え方もそろそろ掴めてきたようですな。要領も良い……この調子ならば、闘魔祭開始までには意識せずとも身体が覚えましょうぞ」

 

 

「お手柔らかに……メリーさん、タオルありがと」

 

 

「うふふ、メリーさんが拭いてあげようか?」

 

 

「子供扱いすんじゃないの」

 

 

「ぶー」

 

 

世話を焼きたかったのか、ぷくーっと膨れるメリーさんの頬を突っつきながら汗を拭う。

その髪に映える蝶のブローチが、淡く光った。

サッと吹いた秋半ばの風の冷たさが心地良い。

 

セントハイム郊外の街道から少し逸れた草原に来たばかりの頃はまだ太陽の位置も低かったけど、今ではもう高めの秋空を昇り詰めている。

いつの間にそんな時間が経ったのかと、体感との食い違いに渇いた笑いが自然とこぼれた。

 

 

「防御って……そんな言うほど簡単じゃないとは思ってたけどな……」

 

 

「左様。戦術に差異はあれど、攻めの訓練よりも防ぐ訓練の方が難しいものです。相手の観察と対応、下がる方向の意識など逐一考えておかねばなりませぬ」

 

 

「……ミノタウロスとの闘いの時、セリアとアムソンさんがいかに大変だったかがよーく分かったよ」

 

 

「メリーさんも! メリーさんもちゃんと頑張ったの」

 

 

「勿論分かってる、あん時はありがと」

 

 

「えへへー」

 

 

ゲームとかなら防御のコマンド一つで出来る事も、実際にやるとなれば難しいのは当たり前。

ここ(しばら)く毎朝セリアと剣の素振りをしてたぐらいじゃ、防御の心得まで身に付けれる訳もない。

 

 

「習得は難事ではあります。しかし、ナガレ様が闘魔祭を勝ち進む為には、是非とも防御の心得を身に付けて戴きたいのです」

 

 

「……確かに。メリーさんやナインは間違いなく桁外れに強いけど、『俺を潰せばそこで終わり』ってのは誰しも思う事だろうし」

 

 

「……むー……そんな事、あのあざとイタチならともかく、このメリーさんなら絶対させないのに」

 

 

「拗ねない拗ねない」

 

 

厄介な術に効果的な手段は、術者そのものを狙う事。

ワールドホリックは紛れもなく強力だが、俺自身は素人に毛が生えたレベル。

セリアが参加を厭う理由も此処にあった。

 

だからこそ、近接戦闘の達人であるアムソンさん直々に手解きして貰ってる訳であり、『メリーさんを喚んでる状態』という、より実戦に近い形式でのトレーニングを採用している。

 

 

「……さて、そんじゃ休憩がてらお嬢達の様子でも見に行こっか。アムソンさんも、さっきから気にしてたみたいだし」

 

 

「……! ほっほ、申し訳ございませぬ。ジジイにもなるとつい老婆心が働きましてな、いやお恥ずかしい」

 

 

「わたし、メリーさん。アムソン、全然恥ずかしがってるように見えないの」

 

 

「メリーさんは手厳しい方ですな、いやはや」

 

 

「??」

 

 

そう、採用。

って事はつまり、このハードながらも理に適ったトレーニングは誰かしらの発案によるもの、という意味でもあり──それは実に意外な人物からの提案だった訳だけど。

よくよく考えてみれば、戦術的な彼女の立ち位置と俺の立ち位置が似ているからこそ、とも思える。

 

加えて言うなら……彼女もまたこの護身術を会得していた、いわば姉弟子みたいなモノであり、その時の苦労を共感して欲しいというメッセージでもあるという事でもあるんだろうか。

 

 

「……」

 

 

要は『今後はわたくしにもしっかり敬意を払う事。よろしくて?』ってな目論見が見え透いてて、うん。

 

なんかムカつくし、これまで以上にお嬢の事をおちょくってやろうという決意を固めた俺の背を、また一つ流れた秋の風が押してくれていた。

 

 

 

────

──

 

【闘争準備】

 

──

────

 

 

 

「【エアスラッシュ(空裂く三日月)!】」

 

 

「【アイシクルバレット(爪弾く氷柱)!】」

 

 

淑女の繰り出す薄緑の風の刃と、騎士の放つ尖鋭な氷の弾丸とが、互いの中間にて衝突する。

風の精霊と水の精霊とのせめぎ合いは不思議と長引かず、草原に敷かれた黄金(こがね)色の絨毯を優しく撫で付けた。

 

 

「【エアスラッシュ(もう一輪)!】」

 

 

「【アイシクルバレット(次弾発射)!】」

 

 

けれど、ここからがむしろ本番であるらしく、先程の光景をセリア達は幾度にも繰り返す。

もう一回、もう一度と精霊魔法が繰り返される度に、中間に位置する衝突地点ではちぎれた黄金色の葉が宙を舞い上がる。

 

さながら金に色付いた粉雪の様で、激しい衝突音とは正反対の美しさに、背中にくっついていたメリーさんから恍惚とした吐息が零れた。

けれど、その現象を作り続けるのは簡単な事ではないらしい。

 

 

「も、もう……限界、ですわ!」

 

 

「……!」

 

 

ダイヤモンドダストならぬ、ゴールドダストにも勝るとも劣らない美麗な顔を次第に息苦しそうに歪ませていくお嬢は、ついに声高にギブアップを叫んだ。

 

 

「お疲れ、セリア教官殿」

 

 

「教官はやめて。貴方達は休憩?」

 

 

「そそ、アムソンさんも心配そうだったんでね」

 

 

軽い茶化しにもおざなりな抗議をしつつ、髪束の間から覗くサファイアの瞳が笑ったように見えた。

向こうでへばってるお嬢と比べると平静な横顔なのは流石ってとこだけど、大事なのは訓練の成果だ。

 

 

「で、どう?」

 

 

「悪くはないけど、成果を期待するにはまだ気が早いわ。詠唱技術(スペルアーツ)は本来、座学からノウハウを叩き込むものだから」

 

 

「スペルアーツって、詠唱を破棄したりする技術だっけ?」

 

 

「えぇ。短縮に破棄、遅延。火力主義が台頭してるとはいえ、魔法のみで闘うのならどれもに有力なって来るものよ。特に一対一の戦いには必須といっても過言じゃないわ」

 

 

「まぁ実戦じゃ悠長に詠唱なんてさせて貰えないもんな」

 

 

ワールドホリックを主体に戦う俺に必要とされるのは、最低限の防御スキル。

精霊魔法を主体に戦うお嬢に必要とされるのは、スペルアーツのテクニック。

 

となればそれぞれに必要なコーチの割当ては、現状が最適となる。

ただ、闘魔祭までの期日の少なさもあってか、訓練内容は相応にハードになるのも仕方ないっちゃ仕方ない。

 

 

「つ、疲れましたわ……」

 

 

「ナナルゥ、ヘトヘトなの」

 

 

「お嬢、大丈夫?」

 

 

「こ、これが……大丈夫な姿に見えますの……?」

 

 

「見えなくもない」

 

 

「節穴にも程がありますわよ!」

 

 

見るからにグロッキーなお嬢だけども、軽口に対するリアクションは怠らない。

乱れ髪から覗いた紅い瞳が不服を訴えていて、それが妙に子供っぽく見えた。

 

 

「ま、お嬢も友達に啖呵切っちゃったんなら頑張らないと。ファイトー」

 

 

「ナナルゥ、ふぁいとーなの」

 

 

「ぐぬぬ、他人事みたいに……第一エトエナは友達なんかじゃありませんわよ! ナガレこそ、なんでそんな余裕そうなんですの! まさかアムソンに手を抜いて貰ったりしてませんわよね!?」

 

 

「ただの空元気だけど?」

 

 

「胸張って言える事じゃありませんわよ!」

 

 

まぁアムソンさんから聞いた話じゃ、エトエナってのとの関係は友達ってより腐れ縁のが近そうだったのは確か。

でも、なんというか……俺からしたら、意地っ張り同士が変に擦れ違ってるだけに聞こえたのも事実。

 

なんとなく"懐かしさ"と微笑ましさからか、ついからかいたくなる。

お嬢のからかい易さもあるんだろうけど。

 

もしかしたら、少し……羨ましいのかも知れない。

 

 

「……」

 

 

ふと沸いた、似合わない感傷を振り切るようにして、強引に話の舵を取る。

闘魔祭に向けての準備も大事だけど、俺にとってはもう一つ大事なイベントが残っている。

 

それは御世辞にも立派な題目とは言えない……というか、ごく個人的な目的が絡んでる訳だけど、大事なのは間違いない。

 

 

「あ、そうそう、セリア。張り切るのは良いけど程ほどに。後で『衣装』を買いに行くんだし、一応余力は残しといてよ?」

 

 

「……えぇ、分かってるわ。けれど、本当にやるの?」

 

 

「勿論。セリアの演技にも期待してるから」

 

 

「……気が重いわ」

 

 

「衣装って何の衣装ですの? それに演技って……」

 

 

どことなく乗り気じゃなさそうなセリアではあるものの、色々と思う所があるのか『今夜のメインイベント』に協力はしてくれるらしい。

けれど、今一つ話の流れが掴めなかったのか、やや疲れめのワインレッドを丸めたお嬢様は小首を傾げていた。

 

 

一応、お嬢達にも今夜の段取りについては昨日、話してたんだけど、いかんせん話の流れが急過ぎたか。

 

 

「衣装ってのは、まぁ……お嬢にしたらドレスみたいなもん?」

 

 

「……なんですのそれ。セリアがどなたかと逢い引きでもするって言うんですの?」

 

 

「そそ、正か──ってのは冗談!! 冗談だから!」

 

 

これ以上ふざけるなら懲らしめるべき矛先を変える。

 

そんな意味合いが込められた絶対零度の視線に睨み付けられて、慌てて訂正。

多分次はなさそうなので、真面目に。

 

 

 

「……ま、とある大貴族のとこにちょっとね」

 

 

「大貴族って……あぁ、そういう事ですの」

 

 

「そゆ事ですの。とゆー訳で、良かったらお嬢。

セリアが似合うような、赤いワンピース、選んでくれない?」

 

 

 

 

 

それはもう、とびっきり赤いヤツを。

 

 

 

 

 

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