ナガレモノ異聞録 ~噂の都市伝説召喚師、やがて異世界にはびこる語り草~   作:歌うたい

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Tales 66【トリックスター】

 ナガレの組み立てた作戦が稚拙だった、という訳ではなかった。

 短期決戦を仕掛けて勢いのまま押し込む。

 その判断は都市伝説再現の度に消耗を強いられるが故に、長期戦は不向きなナガレとしては間違っていないだろう。

 

 誤算はただ、一点。

 純粋に、セナトという人間が強過ぎた。

 

 

「ナガレ!」

 

「キュイ!」

 

「くっ、危なっ……」

 

『か、間一髪! ナガレ選手、ナイフの投擲をギリギリで回避しました! しかし当初の勢いは完全に覆り、ナガレ選手の陣営は防戦一方となっております! これはいよいよピンチでしょうか?!』

 

「……底が見えない、とは思ってたけれど」

 

「こっちは三対一……しかもミノタウロスを倒したナインもいるんですのよ。それをああも簡単に捌くなんて……何者なんですの、あの黒づくめは!」

 

「……」

 

 

 数の有利も小細工も守勢を極めたその身一つに叩き潰され、その手腕は攻勢となっても緩められる事はない。

 攻めさせまいと反撃するメリーやナインを的確に対処し、間が開けば漆塗りの暗具を投擲して、ナガレを冷徹に追いつめていた。

 

 理不尽にすら映るほどの強さ。

 影法師を映したワインレッドが癇癪染みた悲鳴をあげれば、それを拾ったのは、後方より前列への階段を降りてくる二人組。

 

 

「たはー……流石は音に聞こえた【黒椿】なだけあるなぁ。ナガレくんが完全に押されてしもうてるやんか」

 

「わざとらしい野郎だ。押されてる理由なんざ分かりきってんだろうがよ」

 

「! エース、と……キング」

 

 

 エルディスト・ラ・ディーの切り札が二枚、エースとキング。

 その並びに周囲がざわめき立てる彼らもまた、相応の実力者であるのは窺える。

 特にラウンドサングラスが象徴的な巨漢、キングの方には昨日の件で含むところがあってか、珍しくセリアの表情が鋭く張りつめた。

 

 

「出ましたわね……で、押されてる理由ってなんですの!」

 

「あァ? おいおい、テメェも本選出場者だろうがよ。そのくらい見て分かれや」

 

「わ、私は魔法で華麗に、そして優雅に闘うスタイルですの。ああいう野蛮なやり取りとかは専門外ですわ! だ、だからさっさと教えなさいな!」

 

「……」

 

「なっはっは、素直な理屈やね。ナナルゥ譲ちゃんも相っ変わらずおもろいなぁ……そら、キング。あんまり勿体ぶるのもアレやし、ご期待に添えてやりぃや」

 

「だったらテメェが教えりゃ良いだろ」

 

「イヤやよ、僕説明すんの下手やし」

 

「……チッ」

 

 

 ナナルゥとて含むところは同じなのだが、それよりもキングの口にした理由に対する追求が勝ったらしい。

 多少引け腰になりつつも開き直るナナルゥとエースの口添えもあってか、キングは舌打ち気味に口を開いた。

 

 

「単純な話……あの小僧と黒椿のとじゃあ、場数が違い過ぎんだよ」

 

「場数、ですの?」

 

「オラ、見てみろ」

 

 

 ファー付きのコートを靡かせ、グラス越しに獰猛に尖る眼光が、直下の激闘を見下ろす。

 広がる光景は、もう何度も焼き直されたナガレ達による反撃。

 がむしゃらながらにも食らい付く彼らの眼は、決して光を絶やしていない。

 

 だが、それでも。

 いいや、そんなものでは。

 

 

「メリーだなんだを召喚する能力がいかに凄かろうが、あいつらに指示してんのは、あの小僧。多角からの挟みうち、囮を使った奇襲……色々頭を回しちゃいるみてぇだが」

 

『これも通らず! セナト選手、またもナガレ選手陣営の反撃をいなしていく! 付け入る隙を全く与えさせません!』

 

 

 通らない。

 通せるはずがないのだと、多くの戦場を駆け抜け、今や『キング』という看板まで掲げる様になった男は断言する。

 

 

「アイツの視線、剣を持つ手に入り過ぎてやがる力、一撃二撃の"綺麗過ぎる"タイミング……そういうとこから狙いってのは見えてくんだよ」

 

「なっ────そんなもの、そう簡単に見えるはずが……!」

 

「だから言っただろうが、場数が違い過ぎんだろってなァ」

 

 

 キングの言う通り、理由は単純にして明快だった。

 

 多少喧嘩慣れしているだけの元高校生と、大陸全土に名が知られている傭兵集団の一員。

 闘いにおいての経験値が天と地ほどの差があるのは、推し量るまでもない。

 

 

「奇襲や搦め手っつぅのはなァ、それを通す為の牽制だの誘導だの演技だのと、クソ細けぇとこでの駆け引きが必要になんだよ。そういう『癖』は、付け焼き刃じゃ身に付かねぇ。場数っつうのはそういう事だ」

 

「じゃ、じゃあ……」

 

「あの黒椿からしてみりゃ、小僧の考えてる事は透けて見えんだろうよ」

 

「────」

 

 

 軍師は、ある日突然生まれはしない。

 培った経験と積み重ねの改善が、"戦術"を磨き上げる。

 苦戦の理由は、セナトの純粋なフィジカルだけではない。

 ナガレの戦術の未熟さと、セナトの推察の成熟さが何より大きかった。

 

 

 そして、彼の言葉が真実であると証明するかの様に。

 

 

「かはッ──?!」

 

「ナガレェ!」

 

「キュイィィ!!」

 

『あぁっとぉ、手痛い一撃ィ! ナガレ選手の腹部に、強烈な蹴りが炸裂、ふっ飛ばされてしまいました! これは……いよいよ決着の瞬間が来てしまったのでしょうか……!』

 

 

 未熟な青年は、翼をもがれた鳥の末路を描く様に、地へと這いつくばった。 

 

 

 

 

────

──

 

【トリックスター】

 

──

────

 

 

 

「うっ、げほっ……」

 

 

 痛感、ってのを文字通り噛み締めると、鉄と砂の味がした。

 

 込み上げる吐き気を嗚咽まじりに堪えながら、鉛みたく重い身体をなんとか起き上がらせる。

 けれども、立つには力が入らない。

 辛うじて四つん這いの態勢を作れば、耳鳴りの奥で剣檄が届いた。

 

 まだ、皆闘ってくれている、その証拠。

 早く立て、一人だけ楽をするじゃない。

 そう膝に力を込める中で。

 

 でも、と。

 これ、もう無理なんじゃないか。

 

 心の亀裂からひょっこり生えた弱気が、鼓膜の内側でそう囁いた。

 

 

(……参った)

 

 

 打開策は、ひとつある。

 けどそれは前提に、セナトへの『一撃』が必要になる。

 問題はそこだ。

 というか、試合開始前から定めていた目標がまさにそれだった。

 

 その一撃をなんとか作る為にメリーさんとナインの同時召喚というカードを切ったくらいで、言ってしまえば一点賭け。

 だが、そのたった一撃すら許されないくらいに、セナトが余りにも強過ぎた。

 

 故にこの有り様だった、ただそれだけ。

 ただそれだけが、とてつもなく高い壁なのだから。

 言い訳染みた弱音だって、鳴らしてもいないのに響いてくる。

 

 

「キュイッ」

 

「……ナイ、ン……」

 

「キュッ、キュイ」

 

「『もう一回』……か。えっと、そう、だな……次は…………」

 

 

 マイナスへ傾く思考を遮ったのは、白銀に輝く毛並みだった。大丈夫かと気遣いながらも、次の指示を求める意志が伝わる。

 

 

 けれどヒビの入り出した心では、直ぐ様に次のもう一回を編めない。

 もう、何をしたって、セナトには通用しないんじゃないかって。

 悪戯に無理を強いるだけになるんじゃないかって。

 そんな弱気がリンク機能を経由せずとも伝わってしまったんだろうか。 

 

 

「キュアッ」

 

「あだっ」

 

 

 ガプッと人差し指を噛まれた。

 セナトの蹴りみたいな鋭さはない、軽い痛み。

 けども予想だにしなかったからか、つい目を丸めてちっちゃな牙の持ち主を見つめてしまう。

 

 

「キュイ」

 

「『膝は折っても気持ちは折るな』か。はは、結構熱いこというじゃん、ナイン」

 

「キュイッ!」

 

「冗談だって。分かってる……やるよ、最後まで。メリーさん一人に闘わせてる場合じゃないよな」

 

「……キュイ」

 

「そこは同意しなよ。ほんっと仲悪いんだから…………ありがと」

 

「キュッ」

 

 

 簡単に諦めるな。赤い瞳の鎌鼬は、かく語りき。

 

 そんな励ましを、多大な力を貸してくれてるナイン達に言わせたら、都市伝説愛好家以前に男としてお仕舞いだろう。

 自分勝手な意地で、啖呵を切ったセリアに合わせる顔もなくなるし。

 

 弱り目を塞いでくれた小さなシルエットに、お礼を込めてサッと一撫で。

 それから立ち上がろうとするが、やっぱりダメージが抜けが悪く、まだ膝に力が入りきらない。

 

 

『メリーさん、ここにきてセナト選手との激しい打ち合い! しかしやはり徐々に押されつつあります! 肝心のナガレ選手は……まだ立てないようです!』

 

「くぅっ……ここは、通さない、のッ!」

 

「……」

 

 

 脂汗を落としながら、セナトによる黒刀二刀流の猛攻から、必死に防衛線を守ってくれているメリーさんの背中を見つめる。

 

 負けられはしない。

 ナインに、そしてメリーさんによって灯された火は確かに今、胸の内で熱を持つ。

 

 でも、だからといって何か策がある訳じゃない。

 このまま無策で突っ込んだって同じ事の繰り返し。

 何かないか。セナトの隙をつけるような何か、もしくは隙を作れるような何か。

 

 歯をくいしばって膝に力を込めながら、思考回路を激しく焼く、そんな折だった。

 何かに強く反応してピクンと顔を上げたナインが、一際強く訴えるように鳴き声をあげた。

 

 

「!!────キュイッ」

 

「え?」

 

「キュキュッ、キュイ!」

 

「『アーカイブを開いて』って……なんで?」

 

「キュイッ!」

 

「わ、分かったってば……」

 

 

 早く早くと急かされて、慌ててホルスターから取り外したアーカイブを開く。

 そうすれば興奮気味のナインが前足でページをパラパラと(めく)り、あるページでピタリと止まった。

 

 そのページは、紛れもなくナイン自身についてのパラメーターが記載されているページ。

 ナインが更に小さな前足で、紙面の"ある項目"を指し示したのなら。

 

 

「……!!」

 

 

 暗雲が、一気に晴れる。

 

 確かに……コレなら、セナトが俺に抱いている"ある前提"を利用出来るかも知れない。

 上手くいけば、アイツの意表をついてやれるかも。

 

 

「……なんつータイミング」

 

 

 まさかこんなタイミングで、都合良く救いの一手が開示されるなんてと、思わず苦笑してしまう。

 

 けど、そんなものはどうだっていい。

 都合なんてのは、こっちの意志とか意地とかで無理矢理引っ張って来るもんだって、いつかのアキラも言ってたし。

 これもその無理矢理の内のひとつって事で良い。

 

 

「……やるよ、ナイン」

 

「キュイッ!」

 

 

 ただ、通用するのは最初で最後だろう。

 一度限りの、文字通りの『奇襲』。

 失敗すれば、いよいよ打つ手がなくなる。

 

 何としてでも、通す。

 その為には────こだわりくらい捨ててやる。

 

 

 

 

 

「似てなくても、怒んないでよ……────お嬢」

 

 

 

 

 膝に力を入れる。

 今度はちゃんと立てた。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 

『おおっとぉ! すわこのまま決着かと思われましたが、メリーさんの奮闘に応えるように、ナガレ選手が再び立ち上がりました! さぁ、此処から反撃の一手は──』

 

「【奇譚書を(アーカイブ)此処に(/Archive)】」

 

 

 

 ミリアムさんの熱の入った実況を遮って、白金のいくつもの細い奔流を、招く。

 奇譚書を発動させるたびに周囲を逆巻く、この不思議な現象の正体がなんなのかを、俺はまだ知らない。

 

 けれど、今はどうでもいいことだ。

 何より大事なのは……"それっぽい演出"として映えているかどうか、という一点のみ。

 

 

 現象を目にするや、途端にざわめきだした観客。

 メリーさんと切り結ぶセナトの瞳と、視線がぶつかる。

 まだ余裕を残す黒曜石に、興味の色が乗っていた。

 

 

 きっと彼らが期待してるのは、『更なる演者』のお披露目なんだろう。

 けど、残念ながらそれは────"まだ早い"。

 

 

(……トリックスター、か)

 

 

 戦線に混ざらず、俺の右肩へと昇ったナインを一瞥して、息を浅く。

 ふと思い浮かべたのは、試合開始前に呼ばれた、新しいな肩書き。

 

 

 トリックスター。

 物語(ものがたり)の展開役にして、詐術を駆使して(かた)る者。

 

 御大層過ぎる肩書きだけれども、なら、いかにもそれっぽく──かき乱して見せようか。

 

 

 

「真横に敷かれた夜空から、浮かぶ三日月を手にとって」

 

「!」

 

『……おおっ』

 

 

 紡ぐ物語は、かつての世界には溢れて、この世界では物珍しい、奇譚ではなく。

 この世界に満ちて溢れた神秘のひとつ。

 

 

「姿なき巨人が腕を振るえば、三日月が無色を横切った」

 

「────な、に……?」

 

『あ、これはもしや……』

 

 

 会場の空気が、どよめく。

 あぁ、やっぱり。あぁ、そうだよな。そういえば、"まだだったよな"って。

 その反応も当然といえば当然だろう。

 

 レジェンディアに住む彼らからしてみれば、俺が為そうとしている事なんて、別に特別な事なんかじゃなく。

 むしろお前なら出来て当たり前だっていう、『前提』があったのだから。

 

 

 でもさ、細波 流って人間の正体を知っている人間からしてみれば。

 (ある)いは、俺が精霊魔法使いじゃないって仮定している奴からしてみれば。

 

 

『ど、どういうことですのぉぉ?!?!』

 

「この世界の片隅を、些細な神話のように裂く」

 

 

 観客とは真逆に。

 それこそ真逆(まさか)ってなぐらいに。

 前提が、物の見事にひっくり返る。

 

 そうだろ、セナト?

 

 

空裂く三日月(エアスラッシュ)!!」

 

「キュイッ!!」

 

 

 大事なのは、演技。

 

 肩から掌までに降りたナインに合図を送り、同時に……"振り上げる"。

 俺はナインが乗る右腕を、それこそ気障っぽくショータイムだと告げるように。

 そしてナインは"尻尾"を。

 

 

『か、風の精霊魔法!』

 

 

 その瞬間、生み出されたのは──白金色に輝く、風の刃。

 お嬢が得意としているエアスラッシュをそっくり形だけ模した、ヒト一人分はある巨大な三日月の刃。

 

 

──勿論、これは精霊魔法なんかじゃない。

 

 

 ついさっき開示されたばかりの、ナインの新しい保有技能によって作られたもの。

 

 自分の身体を鎌に変化する【二尾ノ太刀】、これに続いて開示された保有技能。

 

 その名も、【一尾ノ太刀】。

 効果の内容はご覧の通り。

 『風の刃を生み出す』という、いかにも妖怪鎌鼬らしい能力といえるだろう。

 

 

 それがメリーさんと打ち合っていたセナトめがけて一直線に、空地を疾走。

 俺達もその刃に追従するようにして、後を駆けた。

 

 

「逃がさない……!」

 

「……!」

 

 

 高速で地を削りながら襲い来る刃。

 こんなもの、みすみす食らう訳にはいかない。

 となれば当然回避しようとするが、それをメリーさんが許さない。

 

 自身も軌道上に残ったまま、影法師を縫い止めるが如く鋏を振るう。

 勿論、メリーさんごと攻撃なんてする訳がない。

 これは彼女の俺に対する、信頼の証だ。

 

 必死に駆け足を働かせながら、タイミングを見計らう。

 

 まだだ。

 

 まだ、もうちょい…………よし、今!

 

 

「【プレスクリプション(お大事にね)】」

 

「っ、やってくれる!」

 

 

 帰還の命という名の、緊急離脱。

 逃すまいと食らい付いていたメリーさんの姿は、白昼夢さながらに姿をくらませて、今セナトの目の前に迫るのは風の刃。

 

 回避は、間に合わない。

 瞬時に判断したセナトは、両腕を目一杯弓なりにクロスさせたかと思うと、風の刃へと黒刀を振るう。

 

 

「──シッ」

 

 

 両腕でそれぞれ放つ、居合い切り。

 剣速だけで肌が騒ぐほどの、斬撃。

 恐らく、セナトが初めて見せた全身全霊。

 

 その威力は凄まじく、たった今披露されたばかりのナインの新技さえも、紙切れみたく斬り飛ばした。

 

 

(反則過ぎるってホント!)

 

 

 ほんと、いい加減にしてくれ。

 どんだけ強いんだよアンタ。

 折角の新しい保有技能も、朝露みたく儚くかき消されてしまえば、悪態のひとつやふたつも付きたくなる。

 

 

 だが。

 そのくらいはやってきても可笑しくない相手だって事は、嫌ってほど理解していた。

 そりゃもう骨身に沁みるくらいに。

 だからこそ、痛む身体に鞭打って、全力で走って来たんだから。

 

 

「喰らえッ!」

 

「ッ」

 

 

 ショートソードの切っ先を、牙みたく突き立てる。

 威力よりも速さに力に裂いた一撃。

 

 だが、それでもまだ届かない。

 風の刃を打ち破ることで崩れた態勢からでも、セナトは黒刀をダーツみたいに投げることで、俺の剣先を的確に弾いてしまった。

 

 

(……ですよね)

 

 

 つくづく、化け物じみた剣技だよ。

 パワーもスピードもテクニックも、どうやったらそこまで磨けんだってくらいに桁外れだ。

 

 でも、重ねていうけど……それも"織り込み済み"。

 

 

『惜しかった、が……お前が、二度も同じ手を使うほど、つまらん男じゃない事は知っている──残念だったな』

 

 

 アレの意趣返しって訳じゃないけど。

 

 

 

「キュイッ」

 

 

 弾かれた反動で背中から倒れそうになれば、視界は上を向く。

 そこにはあのなんちゃってエアスラッシュの際に、俺が腕を振り上げた反動で、"宙高くを舞っていた"ナインの姿。

 

 それも、尻尾を鎌に変えて。

 となれば後は……分かんだろ、セナト。

 

 

「キュイィィィ!!」

 

 

 これこそが、本命の一手。

 手間暇かけて作った隙をつく、騙しに騙した上での奇襲。

 

 

「……大した奴だ」

 

「そいつはどうも」

 

 

 都市伝説愛好家としては、あんまり好ましくない『精霊魔法使い』を自ら騙ってまで打つ、全身全霊の一手だ。

 

 こだわりさえ捨てたんだ、この瞬間の為に。

 

 セナトを倒せるかも知れない、打開策。

 その為の第一歩である、たった一撃を作る為に、ここまでしたからには、と。

 

 

 行く末は、甲斐あって──望んだ結果を切り結んだ。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 まぁでも、これが望みに望んだ結果って言うと、いろいろとアレな気がする。

 というか、風紀委員ばりに厳しいお嬢とかが許さないと思うけど。

 

 

 

「……着痩せするタイプ?」

 

「…………だとしたらなんだ」

 

「苦労してんね」

 

「あぁ、めでたく水の泡にされたところだ」

 

 

『えっ…………えっ?? あ、あれ? も、もしかしてセナト選手って……』

 

 

 ナインの奇襲によって裂かれた外套から覗く、『サラシ』の白生地の切れ端と、褐色の肌。

 そして、明らかに男のものとは思えないくらいに……豊かに育ってらっしゃる"胸のふくらみ"。

 

 そして何より。

 若干頬を染めつつ「よくも、やってくれたな」と言わんばかりに俺を睨み付けるその黒曜石が、何よりの証明といえた。

 

 

 

 

つまり──

 

 

 

 

 

 

『女の子……だったんですかぁぁぁ?!?!』

 

 

 

 

 

 

──そういうことだ。

 

 

 

 

 


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