魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe-   作:フォールティア

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/02 Eindruck

八神はやて──ひいては機動六課との契約から二週間が経った。

その間、俺は八神が用意した戸籍謄本やら住民申請やら、とにかく書類関係に四苦八苦した。

時には八神やハラオウンに教わりながらそれらを書き上げ、無事に届けが承認され、そして今日。

 

「今日から私たちと一緒に戦闘訓練に参加することになった、クレン・フォールティア君です、みんなよろしくね?」

 

『はい!』

 

「いやおい待てコラ高町」

 

どういうわけか戦闘訓練に参加させられていた。

いや百歩譲ってそれはいいとしよう、だがなんで事前に一切の連絡も無かった?

八神が「まあまあ、行けばわかるから」とか誤魔化してた時点で怪しいとは思ってはいたが……。

 

「あれ?はやてちゃんから聞いてなかった?」

 

「一切、何も」

 

「あちゃー、はやてちゃんの悪い癖が出ちゃったかー」

 

「仮にも組織を預かる頭目がそれでいいのか……」

 

多分いたずら目的なんだろうが……俺を勧誘したときのあのカリスマとのギャップが激しい。

 

「んー、本当はクレン君のリハビリも兼ねて軽い運動をしてもらおうかなって思ったんだけど」

 

「全員バリアジャケットとデバイス展開した軽い運動とは」

 

「仮想ビル群を使った障害物レース」

 

「全ッ然軽くねぇ……」

 

おかしい、ここの連中もしかしたら隔離街の連中よりぶっ飛んでんじゃないか……?

 

「どうする?見学だけにしておこうか?」

 

「いや……いい機会だしやるわ」

 

見学を提案してくる高町にそう返して、俺は右手に持った片手剣型のインテリジェントデバイスを眺める。

戦わないで久しいのと、聖遺物と同化した今の身体のスペックを確認するのに高町の言うメニューは最適だろう。

 

「しっかし……管理局のBJってこんなにダサいのな」

 

「ちょ、それ他の部隊の人が聞いたら怒られちゃうよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し経って、俺はスターズ、ライトニング分隊の面々と共に仮想空間に展開されたビル群の中に居た。

ルールは簡単、ここからゴールに指定された場所まで設置された障害物を越えるか破壊してゴールするだけ。

言うだけならそう難しいことではないが、確実に設置された障害物が面倒そうなのはわかる。何でかって?

 

「いっちに、さんっし……」

 

「ルートはこっちの方が速い……でもトラップの可能性も……」

 

さっきから真剣に準備してる奴らが隣に居るからさ。

いやなんだコイツらの雰囲気、これ訓練だよな?

確か名前はスバル・ナカジマとティアナ・ランスターだったか。分隊はスターズ分隊。

で、さっきからこっちを見てるのが……

 

「エリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエ、だったか?」

 

「あ、はい。エリオ・モンディアルです!よろしくお願いします!」

 

「き、キャロ・ル・ルシエです!」

 

「ああいや、そんなにあらたまらなくていい、よろしくな」

 

見たところ二人はまだ子供だ。

だがまあここに居るということは、この二人も何かしら戦う術を持ち合わせているんだろう。

隔離街に子供は居なかった……というか居させなかったので、こうして見るのは久しぶりだ。

 

「こういうの、やったこと有るのか?」

 

丁度良いのでエリオ達に今回の障害物レースについて聞いてみた。

 

「そうですね、何回かあります」

 

「結構難しい感じか」

 

「……やさしい時も、ありますよ?」

 

「…………」

 

エリオ、無理にフォローしなくていいぞ。

見てるこっちが辛くなる。

だがこれで、高町の設定するレースがそこそこ難しいのは分かった。

 

「出来る限りのことは、やってみるかね」

 

【みんな、準備はいい?】

 

並立つビル群を眺めていると、高町から通信が入る。

それと同時に俺たちの前に信号らしきものが投影された。

 

『はい!』

 

「おう」

 

【うん、それじゃあ改めてルールを説明するよ】

 

俺たちの返事を聞いて、高町がルールを話始めた。

 

【今みんなが居る場所をスタート地点として、3ルートに別れて、直線で10キロ離れた場所にあるゴールに向かってもらいます。陸路、空路は問わないけれど、道中にある障害物は必ず破壊するか迂回すること。以上がルールです】

 

「何時も通りね……」

 

「でも今日はクレンさん居るからちょっとは優しくなってたりして」

 

「逆に難易度上げてくるんじゃねぇか、アイツ……あとさん付けは要らねぇよ」

 

「デスヨネー」

 

ナカジマが希望的観測を言うがそれをバッサリ斬る。

単純に普段より人数が増えているのもあるし、障害物レースとは言っても各分隊の連携も見るつもりでもあるんだろう。

そんでもって俺個人のポテンシャルを測るいい機会だしな。

手に持ったデバイスを肩に担ぎ、左腕の銀鎖の調子を見る。

……良好良好。

 

【それじゃみんな、準備はいい?】

 

『はい!』

 

「何時でも」

 

【OK、カウントスタート!】

 

高町からの通信が切れると、投影されていた信号が点滅を始める。

5、4、3、2、1──。

 

「オープンコンバット!!」

 

そしてランスターの掛け声を皮切りに俺達は三方へと散るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レース開始からしばらく。

最初に現れた障害物はガジェットと呼ばれる機械兵器だ。

数は1。

ガジェットにはAMFと呼ばれる特殊なフィールドがあり、並大抵の魔法攻撃は通さず、ガジェット自体の攻撃は非魔法であるため一方的に攻撃が出来るという、魔法根本で出来たこの世界ではインチキみたいな性能の兵器だ。

しかも量産されているらしい。

そして、機動六課がメインで対処している厄介な奴だ。

 

「確か物理で倒すのも苦労するって八神が言ってたな……」

 

レース前に高町から十字架を使うなと言われた以上、今ある武器でどうにかするしかない。

 

「とりあえず、やってみるか」

 

さっきから鬱陶しく楕円形の駆体から伸びた二本の触手をうねらせているガジェットの顔面?カメラ?に銀鎖をぶつける。

が、やはりというか、一応マジックアイテムの銀鎖では少し装甲に傷を付けただけで終わった。

 

「ふぅむ」

 

お返しとばかりに飛んできた光弾を銀鎖で弾きながら考える。

普段人間やら生身のヤツしか相手にしてこなかったから、大体銀鎖で一撃で沈めて来た分、こういう機械系の敵の対処は確立出来ていなかった。

これもいい勉強と思って色々やってみるか。

 

「つっても、後やれんのは──」

 

足に力を込め、一気に加速する。そしてそのまま──。

 

「これだけだよな……!」

 

右手の剣を叩きつけた。

当然、これはフィールド貫通とか便利な魔法を付与してない、正真正銘ただの剣型デバイスなのでAMFを破れず、ガジェットに傷すら負わせられない。

 

「……は?」

 

……筈だったんだが。

どういうわけか、目の前には綺麗に真っ二つになったガジェットがあった。

それはもう綺麗に、断面が潰れた跡すらなく。

小さくスパークを出すだけで爆発すらしないガジェットを前に、俺は呆然と立ち尽くす。

 

待て待て、もしかしたら高町がガジェットのAMFを切っていたのかも知れない。

銀鎖で傷付いたのもそれが原因かもしれないしな。

 

【AMFは切ってないよ】

 

「しれっと心読むんじゃねぇ!」

 

訊こうとする前に高町の方からそう言ってきた。

となると何か?単純な膂力だけでガジェットをこんな簡単に斬ったってか?

 

【デバイスにも何も異常は見られないし、多分クレン君本人の力だけでそうなったね】

 

「もし仮にナカジマが同じ事をやったらどうなる?」

 

【普通に弾かれると思う】

 

「マジか……」

 

これが聖遺物の影響ってやつか?元から膂力には自信があったが流石にガジェットみたいな機械装甲を破れた事は無かったし……。

今後は力加減に気を付けねぇとダメかもな……。

 

「高町、次の相手の強さ、少し上げといてくれ。あと数も」

 

【わ、わかった】

 

一体一体ちまちまやったとしても、これじゃテストにもなりゃしないので、難易度を上げることにした。

流石にどっかで限界は来るだろ……?

 

それからは道路一杯にみっちり詰まったガジェットの大群やら、ビル群の各所からスナイプしてくる魔力球(スフィア)だったりを相手に戦って行ったんだが……

 

【なぁにこれ?】

 

「…………俺が聞きたい」

 

全く苦戦することなく撃破して、そのままゴールしてしまった。

 

【一応難易度は最高に設定したんだけど……】

 

「クリア、したな……」

 

当事者たる俺ですらまだ事態をうまく飲み込めていない。

ホントに何なんだこれは?今まで以上に身体が軽い。

膂力は増してるし、視覚や聴覚も向上、さらには直感とも呼べるような感覚の冴え。

聖遺物との同化とは、思った以上に肉体に変化をもたらすらしい。

 

「一応、データは取れたか?」

 

【まあ、うん……】

 

傍らで息を荒げて休んでいるランスター達を見やる。

ランスター達のコース難易度は10段階の4らしい。これは一般的な魔導士でも結構苦戦する難易度だそうな。

対して俺は難易度10……それで無傷かつ全く呼吸が乱れないあたり、自身の異常性がわかる。

 

「あー、高町」

 

【あ、なに?】

 

「とりあえずこっからは見学でいいか?嘱託になる以上、コイツらの動きも知っておきたい」

 

【わかった、それじゃあこっちに戻ってきて。丁度はやてちゃんも来たし一緒に見──】

 

「OK、八神を捕まえとけよ?とりあえずデコピン一発で済ませてやる」

 

こりゃさっさと戻らないとなぁ?

丁度いい、障害物のない単純なスピードも測るついでに走って行くか。

 

【…………、逃げるんだよォ~!】

 

【はやてちゃん、諦めよう?あと報連相は基本だよ?】

 

【ちょ、なのはちゃん!?バインドは反則やろ!?】

 

「待ってろよ八神ぃ!」

 

【ぴぃ!】

 

通信越しに八神の悲鳴が聞こえたが無視。

さて、俺の速力はどんなもんかな?

脚に力を込め、俺はビルの床を踏み抜いて駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──で、今日1日、彼の様子を見てどう思った?」

 

夜。緊急出動もなく、普通業務を終えた六課の会議室にて、隊長・副隊長含めはやてが最も信を置く面々に、はやてはそう問い掛けた。

その額には真っ白なガーゼが張られていた。締まらない。

 

「んんっ、では私から」

 

若干弛んだ場の空気を咳払いで締め直して、桃色の髪の武人然とした女性、シグナムが自らの所感を話す。

 

「二三、言葉を交わした程度ですが、今の所さして問題は無いかと。倫理観や常識のズレも、高町やテスタロッサの教育で抑えられていると、思います。しかし……」

 

「あの戦闘力か?」

 

言い淀むシグナムにはやてがそう促すと、シグナムは静かに首肯した。

 

「はい。彼のあの膂力は剣士と自負する私から見ても異常と言う他ありません。シミュレーションとはいえ、ガジェットを魔力強化無しであのように切り捨てるのは私でも難しいでしょう」

 

「身体能力もそうだけど、アイツの戦い方もだいぶイカれてるよな」

 

シグナムの言葉をついで、その隣に座る赤髪の小柄な少女、ヴィータが苦笑した。

 

「大抵のやつは動きがパターンってか癖みたいなもんがある筈なのに、アイツにはそれが無い。あの銀鎖ってのを初擊に使ったと思えば次はいきなり斬りかかったり……ありゃ相手にすんのが一番面倒なタイプだな」

 

「隔離街での生活が、そうさせたのかも……」

 

ヴィータの言葉に、なのはは小さく呟いた。

復讐代行。無聊を癒すための人殺し。

その無聊とは何なのかはまだ分からない。だが、きっとヴィータの言う戦い方の異常性は、人殺しのために磨かれてしまったセンスなのだろう。

 

「ふむ……まあ戦闘力に関してはそもウチがそれを見込んでスカウトした以上、受け入れんとな。医者としてシャマルはどう思う?」

 

「うーん、そうねぇ……」

 

はやての質問を受け、淡い金髪の、穏やかな風貌の女性が答えた。

 

「はやてちゃんに言われて精密検査をしてみたけど、はっきり言って彼、人間辞めちゃってる感じよ」

 

「……どういう意味や?」

 

「握力速力筋力、各種臓器、肺活量その他諸々。リンカーコアと純粋魔力量。どれを取っても人間の範疇を越えてる。特に肉体の頑強さはおかしいなんてモノじゃない」

 

「具体的には?」

 

「理論上の話だけど、なのはちゃんのディバインバスター以下の攻撃は彼の生身の身体に傷一つ付けられない」

 

魔導士の常識を真っ向から潰すその言葉に、場に居た全員がざわつく。

なのはの使う直射型砲撃魔法、ディバインバスターは凄まじい火力と貫通力を持つ魔法で、大抵の魔導士ではこの火力を出すのは難しい。

つまる所、一般魔導士ではクレンを倒すことはほぼ不可能に等しい。

 

「さ、さすがに冗談だよなシャマル?」

 

「こんな事で冗談言わないわよヴィータちゃん、さらに凄いことにこれでまだ伸び代がありそうなのよ」

 

「……つまり?」

 

「まだ強くなるし硬くなる」

 

「……なるほど、人間辞めちゃってるわ」

 

ヴィータは思わず天井を仰ぎ、シグナムは何故か楽しそうにし、はやては──

 

「ま、大丈夫やろ」

 

特別、変わったことは無かった。

 

「教育はなのはちゃんとフェイトちゃんがやってくれとるし、戦技教育はヴィータとシグナムが。日常生活のサポートはシャマルとザフィーラが。ウチがいっちばん信頼出来る人達がついとるんやから、大丈夫や」

 

「はやてちゃん……」

 

「それにな?きっと彼、そんなに悪い人とは思えんのよ。あんな所に居たのに、エリオ君やキャロちゃんに気を回してたり出来るんやから。ちょっと、信じてみたいんよ」

 

だからみんな、頼まれてくれへんか?

そう最後に付け足してはやてが笑うと、その場に居た全員が笑顔で頷いた。

 

そうして会議は回りに回って、結局クレンに関しては要経過観察と、無難な所に着地して終わった。

 

「──形成(Yetzirah)、か」

 

皆を帰し、一人残ったはやてがポツリと呟く。

その言葉……Yetzirahという綴りをはやては自らの知識として知っていた。

Assiah、Yetzirah、Briah、Atziluth。

カバラにおけるセフィロトの樹の四層にして人が神の叡智へと至るための標。

なのはが聞いた彼の言ったワードはその内の二つ目。

 

(つまりAssiahには既になっていた……そしてYetzirah。恐らく、いや確実にあと二段階、あの聖遺物は進化する)

 

もし仮に自分の仮説通りだとしたら、最後に彼は……。

そこまで考えてはやては頭を振って不安感を払う。

 

「今から考えてもしゃあない、先の事よりまずは今や」

 

未だに謎の多い聖遺物とその持ち主たるクレン。

まずはその持ち主をどうにかしないといけない。主に経済面で。

 

「クロノ君に上げる資料もまとめんと。あー、忙し忙しい~」

 

気持ちを切り替えるように明るく独り言を少し大きく言って椅子から立ち上がると、はやては身体を伸ばして部屋から出ていった。

 

 

未来への微かな不安と、希望を抱いて。

 

 

 


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