魔弾ノ射手   作:幻在

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逃亡の相方が色々ヤバい奴な件についてどうすればいい?

鎌倉の街中を駆ける時雨、可奈美、蓮、姫和の四人。

蓮と姫和の後を追い続ける時雨と可奈美だが、その時可奈美が申し訳なさそうに時雨に謝罪する。

「ごめんなさい、勝手な事をしてしまって・・・」

「いんや、あのツンデレ女が何か起こしそうだなっていうのは薄々気付いてたんだ。それに、オタクの判断は間違いじゃねえ。だから謝んな」

しばし走る事数分。

四人は、鎌倉のとある神社に辿り着く。

「ハア・・・ハア・・・ひとまずは逃げ切れたか・・・・」

「そうだな」

蓮の言葉に、さほど息切れしてない様子の時雨が答える。

「・・・・ここで別れよう」

突然、姫和からそのような話が切り出される。

「え!?何言ってるの!?」

「あの弾丸迅移使っておいて、今にもふらふらじゃねえかオタク」

「それにお前、まだ写シすら張れねえだろ、無理すんな」

可奈美、時雨からそのような抗議が出て、さらに蓮からも言われる。

「決着をつけたいと言っていたな・・・」

だが、返答として姫和は御刀に手をかける。

「ならば今ここで相手をしてやる」

「そんな体で何言ってんだオタクは・・・」

「これ以上付きまとわれるのは迷惑だ。ここで斬りあうか、でなければ去れ」

姫和が威圧を放ってくる。それに一瞬可奈美は怖気づく。

「・・・・姫和ちゃんは、これからどうするの?」

その質問に、姫和は答える。

「・・・・私達にはやらなければならない事がある」

「掴まっちゃうのはまずいって事だよね・・・・?」

「まあな」

可奈美の聞き返しに、蓮が答える。

「だったらやっぱり逃げるしかないよ!私も一緒に行く」

すると可奈美はそんな風に言い出す。

「ほら、さっきみたく四人で協力すれば、どうにかなるよ」

「自分が何を言ってるのか分かってるのか?」

その姫和の問いに、可奈美は俯き気味に答える。

「・・・分かってる」

拳を握りしめる可奈美。

「きっと、大変な事になるかもしれないけど、沢山の人に迷惑かけちゃうかもしれないけど・・・・それでも、姫和ちゃんや・・・えっと・・・名前なんだっけ?」

思わずずっこけそうになる。

「あー、鈴鉄蓮だ」

「蓮君か。それで、姫和ちゃんと蓮君にはそうまでしてやりとげなくちゃいけないって事もあるんだよね。だったら私たちも一緒に行く。ですよね?先輩!」

「ま、そうだな」

「おい待て、お前はともかく、そっちの男は刀使でも陰陽師でもないだろう?お前がいると足手纏いになる」

「ふーむ」

しばし考えるそぶりを見せる時雨だが。

「対人戦闘なら、こいつよりは頼りになると思うぜ?」

そう言って、ぽんと可奈美の頭の上に手を置く。

「姫和、とりあえずコイツもかなり強い。さっき親衛隊の一人と互角に渡り合ってた」

「・・・・」

蓮の言葉に、言い淀む姫和。

「・・・目的はなんだ?」

「え?」

「そりゃぁ、安全な所まで一緒に逃げて・・・」

「なんのために?」

時雨の言葉を遮って、姫和がなおも聞いてくる。

「そこまでする目的はなんだ?」

なおも、睨みつけてくる姫和。

「・・・だから、力が戻ったあとに、ちゃんと試合してもらおうって・・・」

しばし睨み合う双方。

だが、やがて姫和が折れるように御刀から手を離す。

「・・・何が目的かはしらないが、邪魔になるなら見捨てる」

「おい」

「それって・・・・」

「・・・・好きにしろ」

その姫和の言葉に、可奈美は嬉しそうになる。

「うん!好きにする!」

そんな訳で。

「どーして神社の床下で見張りを・・・」

「文句言わない」

神社の床下で愚痴る時雨を叱責する可奈美。

その一方で姫和は神社の床下に隠していた巾着を取り出した。

「あったか?」

「ああ」

蓮へ返事を返し、姫和は巾着を開ける。その中には、封筒が二枚入っており、その片方には『十条篝様』と書かれていた。

(こうなって以上、これも早々に処分すべきか・・・)

「それ、前もって隠してたの?」

「ああ、お前達と門前で会う前にな」

簡潔に答えつつ、床下から出る四人。

「折神紫と刃を交えて逃げおおせるとは思っていなかったがな」

「へえ・・」

そう感嘆していたら、可奈美はある重要な事を思い出した。

「ああ!?私、荷物もサイフも宿舎に置きっぱなしだ!?」

「諦めろ」

「どうせ刀剣類管理局から支給された携帯も、GPSとかで追跡されて終わりだろ」

「そうか、GPS・・・・」

時雨は自分の携帯を取り出してしばし見つめた後。

「ふんッ!」

呆気なくぶっ壊した。

「ああ!?勿体ない!?」

「俺の携帯もGPSがある。だからぶっ壊しておいて問題ないだろ。それに、あとで新しいのを買うさ」

そう言って、時雨はポケットから財布を取り出す。

「うう、舞衣ちゃんのクッキー、昨日のうちに食べとけばよかった・・・」

一方の可奈美は涙目で嘆いていた。

 

 

 

 

 

 

 

柳瀬舞衣は、逃亡犯である可奈美と同じ美濃関代表、ついで時雨も同じ美濃関という事で、尋問を受けていた。

「・・・理由は、分かりません・・・十条さんとも面識はほとんどありませんでした」

親衛隊第一席獅童真希を前にして、舞衣は、怯えながら答える。

「前日、衛藤可奈美や九条時雨に何か目立った行動は?」

「特にはありませんでした。本当に、いつも通りで・・・」

「では、九条時雨のあと戦闘力はなんだ?」

「それは・・・・その、先輩・・・九条さんは、対人戦に長けてて・・・その、信じられないかもしれませんけど、刀使とも互角以上に渡り合えるんです」

怯えつつ、答える舞衣の様子から、真希は嘘ではないと判断し、さらに質問を重ねる。

(確かに結芽を退ける程だ。防刃素材の手袋あってのものだろうが、それにしては・・・)

真希には、とある懸念があった。

時雨が包囲された時、時雨は何かしらの構えを取り、()()()()()()()()()()()()()()()()

その時、何か奥の手があるのではないか、と真希はその懸念は拭う事は出来なかった。

「最後に、九条時雨に何か、奥の手があるんじゃないのか?」

「ッ・・・」

その言葉に、舞衣は一瞬体を強張らせる。

「・・・・あるんだな」

その確認、あるいは脅すかのような質問に、舞衣は、答えざるを得なかった。

「・・・『魔弾』」

「まだん?」

「どんな態勢からでも、威力を出せる・・・・先輩自身、流派は言いませんでしたが、何かの剣術流派の奥義の技術の応用と、聞いてます・・・」

直に受けた可奈美と舞衣は知っている。

あの技は、()()()()()()()()()()()()()()()()()

「魔弾・・・他には?」

「すみません・・・あとは、何も・・・・」

その尋問は、そこで終わった。

 

 

 

尋問室から出た真希を待っていたのは、此花寿々花と黒鞘の御刀を携えた男だった。

「・・・柳瀬舞衣は、おそらく何も知らない」

「こちらも同じだ。岩倉早苗も、何も知らないようだ」

答えたのは黒鞘の刀を持った男。

名を、『(つばくろ)健治(けんじ)』。折神紫()親衛隊第一席にして、燕結芽の兄。その実力は、裏表ともに親衛隊随一だ。結芽よりも実力は上だ。

「紫様に御刀を抜かせるとは・・・親衛隊として恥ずべき失態だ」

真希が拳を手にあて、そう悔しそうにつぶやく。

「しかし、解せんな」

そこへ、大きなケースを携えた男がやってくる。

「改さん、追跡はどうですの?」

「だめだ。逃げられた」

男の名前は裏親衛隊第三席『(すめらぎ)(あらた)』。

親衛隊の中で唯一陰陽師である。

「改の追跡まで逃れるとはな」

「それで?何が解せないんだ?」

「何故あの時、紫様は俺たちを止めたんだ?」

その疑問は最もだ。しかし、それに答えたのは寿々花だった。

「お考えがあっての事でしょう?紫様のする事は、後になれば必ず理由が分かりますわ」

「それよりも今回の件は()()()()の組織と何か関係があるのか?」

改の言葉に、真希はしばし考え。

「まだ分からないな」

「とにかく、両校の学長が到着してからにするぞ」

健治の提案に、頷く親衛隊であった。

 

 

 

 

 

 

とあるトラックが、警備員によって通行の為の審査を受けていた。

その中には、様々な種類の野菜の入った段ボールしか入っておらず、特に怪しいものは見つからず。警備員の許可を貰って、トラックは走り出す。

しばし、検問から遠ざかった所で、突然、トラックの中の風景が歪み、その歪みが収まるのと同時に、可奈美、時雨、姫和、蓮の四人がその姿を現す。

「おお、陰陽師ってすげえんだな」

「こんな事も出来るんだ」

時雨と可奈美が感心する。

「へ、別にそれほどでも・・・」

「その通りだ。蓮さんの陰陽師としての腕は、そこらの奴らとは格が違うんだ」

何故か蓮の言葉を遮って姫和がまるで自分の事のように自慢しだす。

が、すぐに自分が言った事に気付き、すぐさまその顔を真っ赤にする。

「あ、えと・・・」

「ほうほう、なるほどそういう事か」

「仲良いんだね」

「お、お前な・・・」

時雨と可奈美がその顔をニヤつかせ、蓮がその顔を赤くする。

「~~~!!」

顔を真っ赤にして、その場に座る姫和。

それに苦笑しつつ、他の者たちもその場に座った。

それからしばらく揺られて、トラックの幕から高速に入った事を確認して、皆一息つく。

「これからどうするの?」

「美濃関や平城のある奈良や岐阜へのルートは警戒されてるだろうから、東に行こうと思ってる」

「あー、だから東京に向かってるのかオタクら。考えてるなー」

一方の姫和は、封筒の中から数枚の札束を取り出して金額を数えていた。

「金額的には心もとないか・・・」

「それ、さっきの神社でとってきた荷物?」

「む、ああ、そうだ」

「あ、これ、アナログのスペクトラム計だ!」

ふと可奈美は、姫和が巾着から出したものの中から方位磁針のようなスペクトラム計を取り出した。

スペクトラム計とは、荒魂の位置を探る為のもので、現在は刀剣管理局から支給された端末に搭載されている『スペクトラムファインダー』なるもので代用されている。

アナログのスペクトラム計は、中にノロを入れており、ノロの集合して荒魂になる習性を利用して荒魂を探るように出来ているのだ。

「これ誰の?もしかして姫和ちゃんのお母さんも刀使だったの?」

「ん?も、とは一体・・・・?」

「可奈美のおふくろも刀使だったんだよ。すごく強かったって聞いてるぜ」

「そうなのか、姫和の母ちゃんとどっちが強いんだろうな?」

「私に聞くな」

さきほどよりも冷たい態度な姫和はそうあしらい、ふと、ある事を思い出した。

「名前・・・」

「え?お母さんの?」

「・・・お前達の」

瞬間、沈黙。後、可奈美が爆発。

「酷い!?先輩はともかく私の名前は知らなかったの!?」

「折神紫に集中しすぎて・・・・名前を聞いていなかった・・・」

「そんなぁ!?可奈美だよ!衛藤可奈美!」

「声が大きい!!」

「オタクも大概だがな」

それだけで、トラックの中は賑やかになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

御前試合決勝戦会場にて―――

「あの四人、まだ捕まっていないみたいデスネー」

「そうだねエレンちゃん。だけどこんな時までべったりしなくてもいいんだよ!?」

長船女学院の制服を着こんだ、巨乳ナイスバディの少女の『古波藏エレン』は、隣の黒い制服に身を包んだ若干赤みがかった黒髪の少年、『信坂(しんざか)春香(はるか)』の腕にべったりとくっついていた。

「オー、こういう時こそ、ワタシはダーリンとイチャイチャしたいんデース!」

「分かった!分かったけど周囲の視線が怖いからやめてくれ!」

「心配御無用デース!私が()()()()()()()()

瞬間、エレンの目から光が消える。そのまま周囲を睨みつけると、さきほどまで春香を嫉むような視線を向けていた者たちが一瞬にしてその視線を逸らした。主に恐怖で。

「これで安心デース!」

「アハ、アハハ・・・」

すぐさま人懐っこく幼い笑顔に戻ったエレンに、春香は引き攣った笑みを浮かべる他なかった。

 

一歩間違えたら確実に死ぬ。

 

毎度の如く、そう思ってしまう春香。

「おい、そこでイチャイチャを見せつけるな。砂糖吐きそうだ」

「全くだぜ。他所でやってくれよ他所で」

「ねねー」

そのすぐ傍で愚痴を零す様にげんなりとするのは『益子薫』だ。その隣でけらけらしているのはやや伸びた髪の毛を頭の後ろで結っている髪型の通称『ロクでなし男』『神馬(じんま)零士(れいじ)』だ。

さらに、その薫の上にいる謎の生物『ネネ』も同意するように鳴いた。

「そう思うならエレンちゃんを引き離してくれよ」

「断る。お前の事になると人殺しまでしそうなソイツに手を出したくない。命が惜しい」

「そんな殺生な・・・」

「諦めろよ春香」

「普段はろくでもない事考えてるくせに・・・」

春香は恨めしそうに零士を睨む。

「ダーリンダァリーン♪」

「うう・・・・」

「ああ、早く帰ってシャワー浴びたい・・・」

春香の事を何度も呼んでうっとりしてるエレンを他所にそう愚痴を零す薫であった。

その上を、ヘリが飛んでいくのを眺めながら。

 

 

 

 

 

 

 

一方、別の場所で。

「時雨たちは無事に逃げ切れただろうか?」

そう呟いて、心月は寄りかかっている木の上にいる志炉に声をかける。

「高速に乗ったから問題ないだろ」

志炉は目を閉じて、そう答える。

「ふむ、流石お前の『千里眼』と言った所だなシロ」

「でももうすぐ範囲外だ。これ以上の追跡は無理、以上!」

「いや、無事に逃げ切れた事が分かっただけでもありがたい。ご苦労だった」

「へっへ」

志炉は得意げに笑って木から降りる。

「さっき美濃関と平城の学長が来た。ついでに柳瀬舞衣ともう一人の取り調べも終わってるみたいだから、会いに行ったらどうだ?」

「ふむ、そうか、舞衣の取り調べが終わったか・・・」

しばし考え込む素振りを見せ、やがて心月は志炉に言う。

「して、どうしてお前は俺が舞衣に会いたがってると?」

「おや?違うんで?」

「まあ、違わなくはない。だが今はこの場で待機中と言われている故、会いにはいけんだろうな」

「そっかぁ。ま、俺には関係ないがな」

「うむ、内情の捜索は任せたぞ」

「任せなさんな!」

志炉は、塀を飛び越え、去っていく。

それを見届けた心月は、その視線をエレン、春香、薫、零士の方へ向ける。

「・・・さて、お前達はどう動く?」

訳ありな笑みを浮かべて、心月は視線を外して空を見上げた――――

 

 

 

 

 

 

 

 

車に揺らされる事数時間、空が夕焼けに染まり、時雨、可奈美、蓮、姫和の四人は、東京の安い宿に泊まっていた。

ここに来るまで、トラックが東京の公衆トイレの前で止まったので降り、雑貨店で変装用のジャケットと御刀を隠すためのギターケースを買い、宿にはバンドチームという事で誤魔化して泊まっているのだ。

「なんとかなったねー」

「時雨の機転でどうにかなったな」

「たまにはおしゃべりスキルも役に立つだろ」

「先輩の場合はセクハラ発言が多いですけどねー」

「ここぞとばかりにディスるなオタクは・・・てかそんなに言っとらんだろ?」

「そうですかねー?」

にやにやと言い返す可奈美に対して、時雨は引き攣った笑みを浮かべる。

一方の姫和は、カーテンの隙間から外の様子を見ていた。

「どうだ・・・?」

「・・・今の所大丈夫だ」

蓮の質問に答えつつ、カーテンの隙間を閉じる姫和。

「あ、私御夕飯買ってくるよ」

「呑気だなお前は。こんな時に食欲なんて」

「腹が減っては戦は出来ぬ、っていうでしょ?」

皮肉に意気揚々と可奈美は答えるので、姫和はそれ以上何も言えなくなる。

「大丈夫か?見つかったりしたらどうする?」

「あ、それならちょいと待ってくれ」

蓮が、持っていたボディバックから札を一枚取り出すと、詠唱を始めた。

「思業招来 救急如律令」

すると、その札が形を変え、小さな人型の人形のようなものが現れた。

「わぁ」

「なんだこりゃあ?ひょっとして式神か?」

それに可奈美と時雨が興味を持つ。

「ひょっとしなくても、そうだぜ」

「すごーい!時雨君ってこんな事も出来るんだね!」

「まあ、あんま得意じゃねえから、自立させられねえし、遠隔操作も出来ないんだ。視線の届く範囲ならどうにかなるんだが、流石に折紙家に置いてくる事は出来なかった」

「そうか、式神使えりゃたしかに折紙家の動向も探れるが、それが出来ねえのか・・・」

その瞬間、姫和がぎろりと時雨を睨む。

「貴様、今、落胆したか?」

「へ?」

心なしか、姫和の目からハイライトが消えている様にも見える。というか、深淵の闇の如き暗さだ。その奥で、何か、良からぬ感情の炎が揺らめている様にも見える。

「ここまでこれたのは蓮さんのお陰だというのに・・・・それに蓮さんの凄さが分からないとは・・・・万死に値するぞ・・・貴様・・・・」

「ちょーい待て待て待て!!おまッ、御刀に手かけんな!?ていうか俺何!?地雷ふんじゃった!?」

「わぁあ!?姫和ちゃん落ち着いて落ち着いて!!」

「私はすこぶる冷静だ・・・」

「冷静ならなんか意味の分からねえ笑顔で御刀を振り回そうとしねえよ!?」

ちょっとした、いやかなりの騒ぎになりかけてるこの状況。

それにちょっとした危機感を感じた蓮は慌ててもう一枚の札を取り出し、姫和に叩きつける。

「止縛法 救急如律令!!!」

「あうん!?」

姫和の足元から光のロープのようなものが無数に出現して、姫和を縛り上げる。

「あう・・・な、何するんだ蓮さん・・・・?」

「いやそれは俺の科白だ!?あと一歩遅かったらここは一面血の海になってたぞ!?ここで殺人してさらに罪重ねる気か!?」

「何を言うんだ?私たちはもう立派なお尋ねものじゃないか?」

「なんでそんな平気そうな顔で言うの!?どこかおかしくなっちゃったのお前!?」

「私は蓮さんとならどこへでも行く覚悟だ!」

「あらやだどうにも場違いな告白を受けた気がする」

何故かおかしなテンションになってる姫和に、若干引いている蓮。

その様子を苦笑しながら見ているのは時雨と可奈美。

「あー、私、そろそろ行きますね」

「お、おう、気を付けてな」

こっそりと外へ出る可奈美。

「しかしこの縛り方・・・蓮さんはそっちの方にそんな趣味が・・・」

「ちょおい!?なんか変な事考えてないかお前!?俺にそんな趣味はないぞ!?」

「違うのか?ならばこの状態で服を脱がせて凌辱の限りを・・・」

「違うぞ!?ぜんっぜんそんな事考えてないからな!?」

「え、私にはそんなに魅力がないのか?確かに胸はないけど、もしかしてそれが理由なのか?ねえ、もしかして可奈美のような元気な子が好きなのか?私よりあっちの方がいいのか?私はもういらないのか?」

「なんでそうなる!?」

「・・・もう、勝手にしてくれ・・・・」

時雨は呆れ切って部屋を抜け出て、下にあるコインシャワーへ向かった。

そしてふと思った。

 

(逃亡の相方が色々ヤバい奴な件についてどうすればいい?・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

折紙紫の執務室にて。

そこには、折紙紫だけではなく、美濃関学長『羽島江麻』と、平城学長『五条いろは』がいた。

「あらまぁ~、いつ以来かしらねぇ」

五条いろはは、穏やかで貫禄のありそうな女性であり、その喋り方もゆったりとしている。

羽島江麻の方の説明は、必要ないだろう。

「江麻ちゃんも紫ちゃんもお久しぶりやね~」

「いろはさんも局長もお変わりないようで」

いろはの言葉に、江麻はしっかりとした受け答えで返す。

「いやぁ~、ほんまにお変わりないのは、紫ちゃんだけとちゃう?」

「同窓会で呼んだわけではない」

しかしいろはの抜けた言葉に紫は容赦なく一蹴。

「あらごめんなさいねぇ、ついつい」

しかしいろは気にした様子も無く、そう答えた。

「それで、四人の生徒の潜伏先に心当たりは?」

「ごめんなさい。特には・・・」

「同じく、どうしてこうなったのか・・・」

二人とも、当然四人の行き先はしらない。

「では質問を変えよう」

それを気にする事なく、紫は質問を変えた。

「平城学館学長、刀剣類管理局への届け出には、『小鴉丸』は平城学館預かり()()()()()となっているが、これについてはどう説明する?」

「報告が遅れまして申し訳ありません」

紫の質問に動じることなく、いろはは答える。

「小鴉丸があの子を選んだんです」

「そうか・・・」

紫は短く答え、すぐさま呟き出す。

「衛藤可奈美は『千鳥』、十条姫和は『小鴉丸』・・・逃亡中の二人は、それぞれの適合者だ」

「千鳥と小鴉丸・・・ですか・・・」

江麻はしばし考える素振りを見せる。

「・・・して、もう一つ、両学長に質問がある」

「はい?」

「なんでしょう?」

「鈴鉄蓮・・・・陰陽師までいたとは把握していたか?」

「ええ。十条さんと一緒に編入されまして。とても仲が良かったと聞いております」

「そうか・・・・ならば、九条時雨・・・奴の戦い方は、()()()によく似ていた。これはどういう事だ?」

その、何かを()()()()()()()()質問に、江麻は表情を険しくして、答える。

「局長の懸念通りです。彼は、『秋霖』さんの弟子です」

「シュウさんの・・・!?」

その江麻の答えに、何故かいろはが驚いていた。

「そう、か・・・」

紫の方は、その眼が僅かに見開かれ、やがて何かを押さえつけるかのように元に戻り、二人に背中を向ける。

「あの男の・・・・」

その左手は、自身の御刀の鞘を握りしめていた――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舞衣は、一人自販機と壁の隙間に座り込んで膝を抱えていた。

理由はいわずもがな、友人である可奈美と時雨の事。

先ほど、事件とは関係ないと判断されて解放はされた。しかし、可奈美たちは未だに見つかっていないと聞く。

今、どうしてるか。今、怪我をしてないか。今、大変な事になっていないか。

考えれば考える程、不安が募っていく。

「可奈美ちゃん・・・時雨先輩・・・」

どうか、無事でいて欲しい。

舞衣には、そう願う事しか出来なかった。

と、その時、舞衣の携帯が震えた。

それは着信を知らせるバイブレーション。

画面を見れば、そこには『公衆電話』と出ており、それに首をかしげつつも舞衣は繋げた。

「もしもし・・・・?」

『もしもし?舞衣ちゃん?』

「かなッ・・・!?」

なんと、相手はあの可奈美だった。

思わず名を叫びそうになったが、近くに人が居ない訳ではないので、その名前を出すのはまずいと思い、すぐさま口をつぐんで小声で答える。

「今どこ?」

『えーっと、どこだろここ?』

返ってくるのはなんとも可奈美らしい返事だった。

『と、とりあえず心配かけてごめんね?私、大丈夫だから。時雨先輩も無事だよ。だから、心配しないで』

「そんな事言われても・・・」

ふと、スピーカーから何かの放送が聞こえた。

(この放送・・・)

だが、そこで何かのブザーが鳴る。

『ああ!?そろそろ小銭が切れちゃうから、ええっと、私の荷物預かっといて。ついででもいいけど時雨先輩のも・・・それじゃ!』

「あ、ちょっと・・・」

舞衣が何かを言う前に、通話が切れる。

あまりにも短い通話。それに残念そうに思い、舞衣の表情は未だ暗いままだった。

「ふむ、今のは友達のものか?」

「へ、ひゃぁぁああ!?」

ふと、突然、後ろから声がかかり、舞衣は思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。

「え、えええ江戸川さん!?」

「はっはっは、心月で良い。ところで舞衣。先ほどのは・・・」

「あ、えっと・・・」

そこで舞衣は考えてしまう。

彼にこの事を話して良いのか、と。しかし考えてみると彼も部外者。可奈美と時雨とは関係なく、言えば刀剣類管理局に通報されるかもしれない。

故に。

「確かに友達のものです。ですが、逃亡中の衛藤さんとは、関係ありません」

「ふむ、そうか・・・」

「それより、どうしてここに?」

舞衣は、どうにか話しを逸らそうと努める。

「うむ。実は舞衣の事を心配してきてな」

「え?私を?」

思わぬ返しに、舞衣は思わず呆ける。

「まあな。でも、大丈夫そうで良かった」

「あ、ありがとうございます・・・」

どういう訳か顔が熱くなり、ついでに心月の顔を見られなくなり目を伏せる舞衣。

「む、どうかしたのか?」

「あ!いえ!大丈夫です!」

心月が心配そうに声をかけるものの、舞衣は目をぐるぐるさせて首を振る。ついでに手を大げさに振っている。

「そうか・・・」

「はい。本当に大丈夫ですので・・・」

「ならいいが、無理はするなよ」

「ありがとうございます」

やっと落ち着いてきたところで。

「それで、舞衣はこれからどうするつもりなんだ?」

「・・・」

その質問に、舞衣は俯き考え、やがて顔をあげて確かな決意を込めて答える。

「友達を・・・・可奈美ちゃんを探しに行きます」

「ふむ、探す、か」

「心月さんはどうするんですか?」

「俺は綾小路故、お前たちとはあまり関係はない。だからあまり首は突っ込まないようにしたいところだが・・・・こうして話し合っているのも何かの縁。困った事があったらいつでも頼ると良い」

「そ、そうですか、ありがとうございます」

「俺はしばらくここに残るつもりだ。他の者たちには悪いが、先に帰って貰う事になっている」

「そうなんですか」

その時、何故か心の奥でホッとした事は、その時、舞衣にも理解できていなかった。

「では、俺はそろそろお暇させてもらう。うちの学校の者たちが待っているのでな」

「あ・・・」

それで舞衣も気付く。

綾小路も刀使育成機関の一つ。だから、自分のような刀使、いや、もっと魅力的な女性がいてもおかしくない。

もしかしたら、彼女もいるかもしれない。

(やだな・・・)

それを思うと、どういう訳か心が痛くなる。

その感情を、舞衣はまだ知らない。

「では、これで、舞衣」

「あ、はい。心月さん」

去っていく心月の後ろ姿を見送り、舞衣は、先ほど浮かび上がった懸念を振り払う。

 

今は、可奈美と時雨の方が先だ。

 

(待っててね。可奈美ちゃん)

見つける為の手がかりは、手に入れた。ならば、あとはそれを使って探すだけだ。

 

 

一方の心月は。

「・・・さて時雨。お前は後輩相手に、どう動く?」

心月は、空を見上げてそう呟いた。




キャラ紹介

鈴鉄(すずがね)(れん)
平城学館高等部一年
流派 我流陰陽術

平城学館に所属する男子生徒。姫和とは幼馴染であり、子供の頃から仲良くやっている。が、最近、姫和が変な方向で暴走する事あり、それに振り回される事が多くなってきている。
主に戦闘系陰陽術が得意で、呪装と呼ばれる服装に何かしらの付与や強化を施し、肉弾戦を主に戦う。格闘術も我流。術については破壊力や一撃で仕留める為の術が多く、裂空魔弾は得意な術の一つ。
右腕に何かしら秘密を抱えている。

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