ルル・ルール・ルル -今日も私はゲームをする-   作:空の間

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9- fack you!

 

 

 

「クソプラナリアゴミムシ菌www」

 

 出会い頭にこれである。

 昔馴染みのとはいえ、腹を抱えて笑うのはマナー違反だろ。

 

「笑うな。というか、ガロは信じるのかこんな話」

 

 たった数時間ぶりにあっただけだと言うのに、このテレビ男との再開がすごくありがたく感じた。

 

「信じるもなにもねーよw 何年の付き合いだよw 俺からすりゃ、あの痛いルル様とかいうキャラ卒業したのかっつーくらいの感じだわw 腹痛いw」

 

「卒業なんてあるわけないだろ。何言ってんだ」

 

「さよけw」

 

 見慣れない港町のちいさな倉庫。

 ガロの所有するホームの一つだ。

 とはいえ、今日、ここに来るまでこのエリアの存在すら知りもしなかった。

 それなりに長い付き合いだが、相変わらずこいつの資金力は底がしれない。

 

「お前との付き合いもなんだかんだ……四、五年くらい……か」

 

「そんなもんだっけか? 思ってたより短いじゃないかw お前が引きこもり始めた中ニからの付き合いだ。まさか、アンノウンに永久就職するとはなwww」

 

 永久にするな。冗談じゃない。

 半眼で睨みつけると、テレビの底をさする仕草をする。本来、人間なら顎のある場所だ。

 

「ロゼッタに飛ばされたんだろ?」

 

「そうだよ。あの野郎……」

 

 次にあったら許さない。

 テトテトニャンの時と言い、過去様々な事柄において、あいつは一度きつい罰を受けるべきだ。

 

「まー、どう思うかは勝手だが、この件に関してはロゼッタに感謝しとくべきだと、俺は思うぞw」

 

 ガロの言葉に顔をしかめた私は悪くない。

 

「感謝ぁ? いや、私、あいつに飛ばされたんだけど、それにブロックもされた。これの何に感謝しろってんだ」

 

「そりゃ、あいつも決め兼ねてんだよ、どっちがモノホンかw あと、状況的にあっちのルル様に感づかせたくなかったのかもな」

 

「どういう事だよ……」

 

 首の上のテレビを傾けながらガロは物分かりの悪い生徒に教えるように考え込む。

 

「んー……お前、人狼ってやったことあるっけ?」

 

「V Rのやつなら……一、二度」

 

「占い師が初日に二人でてきたら情報だすために確保しとくタイプなんだよ、あいつw」

 

 こんな説明でわかれというのが難しいがなんとなくわかってしまう自分も病気だ。

 

「…………ああ、なんかわかりにくいが。わかる気がする。手元に置いておけば調べ放題だし、下手に姿を隠されるよりいいのか……」

 

「そそ、ま、俺なんかは即ロラして、グレラン大会、最終的に重箱の隅をつつきあう流れが好きなんだがw」

 

「いや、それ、私、死んでるんだが。お前とはやりたくないな……」

 

「ともかくだ。ロゼッタが俺にわざわざ仕事用の連絡手段で伝えてくれなきゃ、お前のフレンド申請もスルーしてたかんなwww 他にも裏で色々やってるみたいだし」

 

「マジかー……」

 

 めんどくさい拗らせ方したツンデレかよ。

 

「ただ、あいつルル様が好きだからな。案外、今のお前とだったら、そのルル様を選ぶかもw」

 

 なんかガロがすごく聞き捨てならない事をあっさりという。

 

「は? ……? ……!? あいつ私のこと好きだったん!?」

 

 わざとらしく大きくため息をつくガロ。

 

「お前…………そういうとこだぞ」

 

「どういうとこ!? つか、急にマジな顔になるのやめろよ!」

 

「いや、お前も無自覚で鈍感な難聴系主人公みたいなとこやめとけってw」

 

「そんなつもりは…………まさか、ガロ……お前も……」

 

「その発想はなかったw ま、ロゼッタのこと知ったからには気にしてやれよ。具体的にヒントを言うとだな、お前といると妙にテンション高かったり、物事を大袈裟にしようとする。後、お前以外に対して金関係にうるさくなる。これほんと止めとけって俺は思ってんだが、口に出すとそれはそれで面倒そうなんだよw」

 

「いや、それで分かれって方が無理だろ。というか、それって好かれてんのか?」

 

「ハハ、若い……と言うよりも、もっと幼いんだよ、好きっつー感情も自覚があるか怪しいところあるしな。いろいろとごっちゃになってるんだろうw と流石にこれは言い過ぎた。俺が言ったとか言うなよw」

 

「……いまいち、わからん。ぶっちゃけ、半々くらいの確率でネカマだと思ってた」

 

「自分がそうだったからって他人もそうだと思うなw 特にお前はバカなんだからwww とにかく、アレについて俺から言えるのはこんくらいだ。つーか……それより、お前の方よ」

 

 まま気になる部分はあるにしても、ガロに指をさされて話を本題に戻す。

 

「そうだよ。何か解決策みたいなのって……ないよな? いくらお前でも……」

 

「実は一つある」

 

「え?」

 

「……ネルドアリアのレジェンドアイテムに、チェンジリングってのがあった」

 

 ネルドアリアでレジェンドアイテムといえば、ゲーム内に一種類しかないレアアイテムだ。ただ、ネルドアリアの場合はその闇の深さを象徴する存在でもある。

 インフレにインフレを重ねたネルドアリアでは一つ何ランボルギーニという単位の金額で取り引きされる代物。

 値段相応に絶大な効果と唯一性を持つ。

 

 何せ、それ一つのためにネルドアリア内で戦争が一つ発生し、星系が一つ滅び、リアルで幾人かが灰になる。

 そんな物騒な代物なだけに有名どころは知れ渡っているはずだが。

 

「チェンジリング? ……聞いたことない」

 

「DDの奥の手の一つだったものだ。ネルドアリアには他人に言いふらさずに埋もれていったレジェンドアイテムが割とある。その内の一つだな」

 

 DDとは今のDD&DDの前身になったギルドだ。

 

「なんでガロがそんなの知ってんだ?」

 

「そりゃ、最終的に俺が奪ったからよw 世界の十分の一を手に入れた男だぜぃw」

 

 あのネルドアリアでそれだけの領土を手に入れれば血を見ないなんて事はない。

 

「よく袋叩きにされないよな」

 

「合法だからな。ま、そのチェンジリングの効果は対になっていて、つけた二人を入れ替えるって謎アイテムだw」

 

 当然ながら自分の腕を見るがそんなものはついていない。

 だが、あの時、指輪を拾った。

 もしかしたら、あれがそうだったのかもしれない。

 

「……」

 

「本来、発動して一定時間で元に戻るアイテムなんだが、その入れ替わってる間はログアウトできなくなる。……似てると思わないかw」

 

「確かに……今の状況に似てる」

 

「当然ながらアンノウンには実装されてなかった。……これまでは……」

 

「…………まさか……」

 

「そこには”実装されていなかった全て”がある。その謳い文句が事実なら……」

 

「……私より先にいた誰かがそれを手に入れていた」

 

「実際にはレイクラで作られたレプリカだとは思うがな。それなりに筋は通っているだろw」

 

 ドヤ顔っているガロ。

 レインクライシスでは様々な模倣データが拡散されている。これもその一つだろうと言う想定には納得がいく、だが状況的に疑念もある。

 

 このアカウントに入れ替わった時、アイテムや経験値をはじめ、それまでアンノウンをプレイしていたであろう痕跡がほぼなかった事。リアルの姿がアバターになった事。

 そして、入れ替わったルル、あの立ち振舞いが一朝一夕にできるなら、誰も苦労したりはしないだろう。

 

 元となったライムワールドがはっきりとプレイヤー間の実力差がでるタイプのゲームだ。それを元に作られたアンノウンもまた、高いプレイヤースキルを要求される。

 突き詰めれば突き詰めるほど、まぐれや運の要素が少なくなっていく。

 

 慣れないキャラクターや精神的な要素のハンデがあっても、一般のプレイヤーに私が負ける事はまずない。

 さらに実力を出し切った私が負けるとなると、アンノウンに両手の指で数えるくらいしかいないはずだ。はずなんだが。

 

「……なぁ、客観的にみて。ルル……私に勝てる奴ってどれくらいいる?」

 

「自慢がしたいのかw ま……今のお前ならそれなりにいそうだが。パッと思いつくのは、ダンダンにくくるちゃん……それとキチゥさんかな、後は状況によればって感じなのが数人。……お、そいつらに闇討ちさせて偽物認定でもするか?」

 

「……いや、そんなオールスターみたいな面子で来られたら誰だって勝てる訳ないだろ。というか、言いたくないし非常に不本意だが、いい加減に認めないの方が無様だから言う」

 大きく息をはく。

 それを認めなければ前に進めないから。

「負けたんだ……私は。そのニセモンにタイマンでな」

 

 肩肘をついて座っていたガロが僅かに姿勢を伸ばし、信じられないと言う表情で手を顎から浮かせていた。

 

「…………は? 負けた? ……お前が!?」

 

「流石に大げさだろ、そこまで驚く事かよ」

 

「馬鹿が! お前はちぃっとゲームの上手い近所の兄ちゃんって訳じゃないんだぞ! 多少コンディションが悪かろうが、陸上の世界チャンプが、そこらの足自慢に負けるなんてあると思うか!?」

 

「そうは言うが、実際、あの偽物は強かった。私の剣筋がそのまま返されたかのようだった」

 

「……次、今の状態で正面からやって勝つ自身……あるか?」

 

「8割負けるだろうな。けど、勝つ。私が……私だけがルルだ。他はない」

 

 唖然としたように立ち上がっていたガロがドスンと腰を下ろす。

 そして一服、タバコでも吸っているかのような仕草で考え込むように大きく息を吐いた。

 

「…………わからんね」

 

「何がだよ」

 

「偽物の目的がだよ。俺はてっきりお前のファンかなんかだと思っていたんだが……。そんな強いのに……なんで、ルルなんだ?」

 

「……なんでって」

 

「ぶっちゃけお前、今、落ち目じゃん」

 

「ッっおットォ!! ガロォ! ダチだからって言っていい事と悪い事があるだろ!」

 

「ホントの事だろ、認めろよ」

 

「いや……今は……ほら、ルル様の参加するに値する大会もないし……」

 

「……むしろそれか。情けない今の姿が許せない、自分の方が強いからルルになり代わって……と。うーん……ファン心理としては分からんでもないが、ピンと来ないな」

 

「そうは言ってくれやがるが、アンノウンでも常に五本の指には数えられるのが、このルル様だぞ」

 

 両手でどやって顔をしてみる。呆れたようなガロが頭をガクッとさせた。地味に傷つくからやめろ。

 

「そうだな。プレイ人口4億、サーバー2千の…………ライムの全盛期……その頂点は誰かと聞かれたら、普通は今みたいに何人もの候補があがるもんだ」

 

「……」

 

「けどな、ライムでは違った。誇りも、憎しみも、称賛も、様々な感情を合わせもって、尚、認めていた。……ライムの最強はルル、ランカーの中でも頭一つ抜けていたのは、間違いなくお前だってな」

 

 確かに実績的にはそう言われる事はした。大きな大会では常に勝ってきたし、全体の勝率を見ても9割に近かった。

 それでも、あの時は運が味方していた。

 ランカーの実力は伯仲しており、誰が勝ってもおかしくなかった。どれも、一瞬の判断で勝敗が入れ替わっていた場面ばかりだった。

 しかし、それは、あそこに立つ人間にしかわからない。

 

「どれも薄氷の上の勝利ばっかだった」

 

「それでも、いや、違うな。そんな中でこそ……お前は勝ってきた。だから価値があった。今のお前は負け続けて、よくわからん偽物にまで負けたんだ」

 

 いつになく厳しい表情を見せるガロ。

 草すら生えていない。

 

「そうだよ…………ルルじゃないからな。結局、私の中のルルはライムのルルで、アンノウンのルルとは別のものなのかも」

 

「…………別のもの……ね。それか。その線で一度、探ってみるか」

 

「探る?」

 

「ルル様だよw 中々に興味をそそられるじゃないかw 案外、お前の方がはじき出されたAIとかだったりしてなw」

 

「なんだそれ、ま、悪いな巻き込んじまって」

 

「ハハッ……殊勝な事を言いやがる。こりゃ相当きてたなw ま、俺にとってお前らが起こすごたごたも含めてゲームなんだ。気にすんなw」

 

「すまん。でも半分くらいのごたごたって、元を正せばお前がおこしてる事は忘れてないからな」

 

「知らんなw ……そういえば一つ思い出したんだが、レイクラには、効果中のアイテムを打ち消すカウンターアイテムがあったはずだw」

 

 確かに、今まで思いつく至らなかったが、レインクライシスにはそういうものがあった。

 毒に対する解毒薬のように、特定のスキルやアイテムによる干渉を無かった事にしたりするアイテム。

 それらを総称してカウンターアイテムなどと呼ばれていた。マイナーなシステムでレインクライシスでも、あまり見ない類のものだったので忘れていた。

 

「確かに……アイテムからの効果なら、それで戻る事ができる……か?」

 

「カウンターアイテム自体は割とメジャーなアイテムなんだが、かなり細かい効果の指定があったからお前に効くものとなると限られてくるかもな。それでも、チェンジリングを見つけるよりは簡単なはずだ」

 

 チェンジリングもカウンターアイテムも、これまでアンノウンには確認されていない。

 けれど、新しく開放されたライムワールドのテロップを信じるならば存在する可能性がある。

 

「ライムワールド……どっちみち攻略してみるしかないか」

 

「おw やる気になったか?」

 

 かつて、失った私の全て。

 もう一度。

 

「…………戻るなら、ルルで……やりたかったんだけどな」

 

「こだわるねぇw」

 

「当たり前だ……なにせ……私はルル様だからな」

 

「ハハッ……痛すぎワロタw」

 


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