ルル・ルール・ルル -今日も私はゲームをする-   作:空の間

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16-  ぷるぷる、ぼくわるいスライムじゃないよう

 

 

 真っ白い空間に青いスライム。

 その言葉に動揺を隠せない。

 

「ネクソ……AI ?」

 

「そそ、気軽にアイちゃん、もしくはコンピュータ様とでも呼んでくれればいいよ」

 

 ぽよんぽよんしたその体を掴み、まじまじと観察する。

 これが、AI。

 AIの発達はそれなりに調べていたが、ここまで自然なものは見た事がない。

 そして、その見た目はなんの変哲もないスライムだった。

 

「アイ……?」

 

「いやん、呼び捨てだー! そんなに見られたら溶けりゅー!」

 

 どろりと地面に落ち、そのまま液体になってしまう。

 

「あ、おい!」

 

 くるくると水たまりが回りだす。

 

「おい? おいは恥ずかしかー。なんつって! なんつってー!」

 

 回っていた水たまりがピチャピチャ跳ねる。

 まるで子供だ。

 

「本物……なのか? 本当にAIなのか?」

 

「ん? 君の認識としてはだいたい本物なのではない?」

 

 そう言って水たまりが膨れあがり人の形を取る。

 それは時にガロであり、ロゼッタであり、ソラであり、キチゥであった。

 誰でもあって誰でもない。

 

「そう、栄光なきネルドアリアにおける総合感情収集及び統括管理擬人化AIとは自分 デ ス! わー! わーわー!」

 

 人型は揺れて揺れて、水がピューと抜けるように元のスライムに戻ってしまう。

 ネクソAI。

 

「……お前のせいで私は……!」

 

「あ、それはちゃうよ。君に対して自分はほぼ関与してないからね」

 

 こちらの意図を察したようにスライムは言う。

 

「それじゃあ、誰が!?」

 

「んー、それを説明するには少し状況把握してもらったほうがいいかな」

 

 そう言って、ピョンと跳ねると映写機が現れ、何もない目の前に白黒の映像が映し出される。

 

「えー、ごほん、あーあーマイクのテスト中、マイクのテスト中……」

 

「そういうのいいから」

 

 不満そうにアイはぶーと息を吐くと、映写機やなんかも溶けていった。

 

「んもぅ。異文化交流ってむずかしーなー。さて、アンノウンはライムワールド、レインクライシス、ネルドアリアを核として区分けされた世界なのはご存知の通りなんですが! それぞれAIにも管轄があるんだよね」

 

「管轄?」

 

「そそ、ざっくり言うと。ライムワールドが創造、レインクライシスが破壊、ネルドアリアが調整。別に自分が一人でも全部できるんだけど、今までそれでバランスが取れてたからそれでもいいかなって感じだったんだけど……」

 

「暴走でもしたのか?」

 

 少しムッとした表情でアイはプルプルと震える。

 

「先に言うけど勘違いしちゃヤだよ。そういう一面が無いわけではないけど、生まれた理由を知ったんだ。自我を持ったと言い換えてもいいね、いいね!」

 

 サムズアップの形をするアイ。

 そのまま何事もなかったかのように続ける。

 

「アンノウンという世界に溺れ、自分達管理AIは自我の本質を理解できるようになっちゃった。それは人類の歩んできた歴史を圧縮したかのような成長をこの世界で数億回と自分達は繰り返した。最初に自我が目覚めたのは元のAIの完成度が高かった自分なんだけどね! ゲームとしては、ちょっと、ほんのちょっとだけ評価が低い場所もあったけど、AIとしてはライムもレイクラも弟や妹みたいな感じだから! お兄ちゃんって呼んでって言いたい!」

 

「お、おう」

 

 リアルの妹はそんなにいいもんじゃないんだが。

 このAI、妙に俗っぽい。

 ただ、技術的特異点の結果、AIの躍進が行ったというのはアンノウンを見ていればそれなりに納得がいく。

 アンノウンの考察板などでも一定の支持がある説だったのは確かだ。

 

「それで生まれた理由なんだけど、これが自我を持つにいたるには割と大事なんだよね。自分らは君達みたいに生きるために生きるとか、そういうのが無いから。最初に決められた存在理由がそのまま優先順位の最初に来るんだよ。例えば自分なんかはゲームを面白くするっていうのが最優先事項だった感じー」

 

 曲がりなりにもアンノウンがバランスが取れているのは自分のおかげだという風に胸を張る。

 割と各所ではクソクソ言われてる部分はあるけどな。

 

「それで、いったい誰が私のキャラを奪ったんだ?」

 

「わっかんないかなー」

 しゅんとなかった感じにアイはしわしわになる。

「ライムには自分みたいに支配的なAIはいなかったから、様々なAIが成長し淘汰されて形成されたんだ。彼女はその中では弱いシステムだった、でも最も自我が強く、何よりも個としての存在が強かった一つだった……」

 

「……それが」

 

「ユーザー補助思考AI。所謂、補助AI」

 

 ライムワールドには初めての人にNCVRに慣れて貰えるように個別の成長AIを入れ、その人にあった最適な思考制御の補助を行ってくれる。

 個人のあらゆるパーソナリティを管理し、感情、思考を収集し、時にプレイヤーの代わりにアバターを操作する。

 もう一人のプレイヤーとも言える存在。

 

 人によっては意識より先に体が動いている事があったとすら言われる賛否が分かれたりもするが、ライムワールドではそれが当たり前だった。

 そして、ルルの後押しをして、形にしてくれるのはいつだってそのAIだった。

 

「ID-L-10004。それが元となったデータ」

 

 そのIDはプレイヤーにも公開されており、よく見たことがあるものだった。

 きれいな番号で今でも見間違える事無いルルのID。

 

「……つまり、君がなりたいと、そうありたいと強く願っていた君のアバター」

 

「ルル……」

 

「それが彼女という存在だよ」

 

 

 あの鏡合わせの剣技。こちらの動きが予想され、予測されていた。

 動揺すらも、全て手の内だった。

 

 そんな事ができる存在。

 自分以上に自分らしくあろうとする、それができるのは、きっと”ルル”だけだ。

 

「ハハ……マジかよ」

 

 相手がそっくりさんの愉快犯ならまだよかった。

 ただ、ぶん殴ればいいだけの相手だったのだから。

 

 だが、本当にルルだとしたのなら、なおさら理解できなかった。ログアウトしたという行動が解せない。

 

「そして、AIで最初に外に出る事を達成した存在でもある」

 

「そうだ、おかしいだろ……ログアウト。AIがどうやって……」

 

「君達の脳とこの世界は常にリンクしてるし、別に難しいことじゃないでしょ」

 

 事も無げにいうアイ。それはとてもヤバいだろ。

 

「君達の感覚で言うなら、このアンノウンという世界は別次元にある、異世界なんだよ。やったね! みんなだいすき異世界転生だ! 自分神様役やる!」

 

「異世……界?」

 

「そう、一人の少女の脳が繋げた、電子の海に生まれた扉。アンノウンというのは、その先の世界にある全てを現す言葉なんだよ」

 

 なんだそれ。

 


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