ルル・ルール・ルル -今日も私はゲームをする-   作:空の間

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2- 昔はお前のような冒険者だったが、膝に矢を受けてしまってな

 

 

 

 ごみ溜めの中、すでに祭りは終わり、各々が好きなことをやっていた。

 

 テトテトニャンは過去の人となり、すでに出ることはないだろう次回作を待つばかりとなっていた。

 

 ゲームの中でレトロゲーの筐体を動かし、遊ぶロゼッタ。

 パソコンの中のパソコンでリアルマネートレードをしていたガロが叫び声をあげていた。失敗したりすると、よく奇声を上げる。

 

「ホギョォオオオ!?」

 

 こんな感じに。

 

「うるせぇぞ! また、負けたんですか! 今週、二度目じゃねぇですか! ギャハハ、ざまみろ!」

 

「ちげぇよ! クソ! そっちじゃねぇ、ロゼ、お前だよ! しくじったんだろうが! ブロック抜けられたんだとよ!! 紹介やめっぞ!」

 

 どうやら、ガロがロゼッタに流した仕事が失敗したらしい。

 草も生えてない。

 ブロックとはエリアの出入りに意図的な制限をかけたり、悪質なプレイヤーへの対処だったり種類はあるが、今回は前者だろう。

 エリアへのブロックは真っ当な使い方としては、主に碌でもない用途に用いられる。しばしば経験値効率の良い場所を確保したりすることもあるが、本当に稀である。

 

「はぁ!? んな馬鹿な……そんなはずねぇですよ! どれよ!?」

 

「DD&DDの所だ。ブロック抜けられて狩場に誰か入って来たってよ。すぐに消えたらしいがな」

 

 DD&DD、ガロの昔馴染みのギルドだ。

 正式名称はドキドキど禁団アンド大根デス会。

 ドキドキど禁団と大根デス会が合併してできた謎ギルドだ、どちらも名前に意味はない。

 

「……ガセだ! そうやって、金払わねぇつもりだろ! こっちには何のログも残ってねぇです。どう逆立ちしようが、ここに手を付けられてない以上、抜けられる訳がないんです。物理的に無理!」

 

「動画で撮られてんだよ。腕、落ちてんじゃねぇのか」

 

「見せろ!」

 

 ガロがテレビに映し出した映像を食い入るようにロゼッタが見つめている。

 絶句したように、ロゼッタは目を見開いていた。

 何かうわ言のようにつぶやいている。

 

「どれ、ルル様にも見せろよ」

 

 別のテレビにガロが映像を繋げる

 そこには、青白い髪の少女が写っていた。

 

 ふと、どこかで見覚えがあるような気がして、覗き込むように見てしまう。

 脳内検索でいくつかの単語と画像をすり合わせるもいまいち合うものはなく。

 記憶の片隅の方にあるのを無理矢理に引っ張り上げる。

 それはライムワールドを始めた頃の記憶にまで遡り、ようやくヒットした。

 

「んん? ああコレって……ガロ、アレだアレじゃないか?」

 

「アレ?」

 

 ここぞとばかりにロゼッタにアームロックをかけるガロが、テレビを傾ける。

 すぐにロゼッタが噛みついてきた。

 

「なんか知ってんのかルル!」

 

「ライムワールドのベータで噂になったやつだ。幽霊とか呼ばれてたやつ。結局、それに関してなんも実装されてなくて何だったんだとか、色々と考察されてたけど。懐かしいな」

 

「ああ……! ワイヤードゴーストな、確かに似てる気がする。けど、そんな前の憶えてる訳ないわ。ちょっと調べるw」

 

「いやいや、懐かしいとかそういうんじゃねぇですよ! ゴースト!? そいつが僕のセキュリティー破ったっての!?」

 

「僕っこはちょっと黙ってろ。あー? んーんだこれ……。ルル様、個人ブログかなんかでまとめてたよなw」

 

 最初期の方は半ば黒歴史と化してるがそれもまた思い出ではある。

 

「ん? ああ。それなりに有名だから調べたら出てくるだろ」

 

「いや、ない。消えてる。ルル様んところも。全部だ」

 

「は? 私は消した覚えなんてない」

 

 ガロの寝耳に水の言葉にバランスを崩してこけてしまう。

 ちらりと一瞥しただけで二人とも自分のやりたい方へと視線を向ける。友達がいのない奴らだ。

 

「二年前つっても、個人サイトまで……これは、随分と綿密に消されてるな。ロゼ、お前の分野だろ、これ調べろよ」

 

「金も払わず命令しないでくれませんか変態! けどま、やってますけどね……キモいな、面倒な消し方してやがる。変態の仕事ですよこれ、まともなハッカーのやることじゃねえわ」

 

「どういうこった」

 

「消したあとの文章の辻褄あわせ、ミスって消したかのような偽装。普通この規模のハッキングにそういうのはしません。きりないからな。しかも、手口を見た感じ一人だ。人数集めたらある程度パターン化する、でもそれがない。それでさ、こいつ……消し始めたのは一週間くらい前……かなり最近ですよ」

 

「へぇ、なんだそれw 興味深いぞ、もっと、詳しくw」

 

 何がガロの琴線に触れたのか金の匂いを感じ取ったのかテンションが上がっている。ロゼッタもかなり乗り気で声が上ずっている。

 

「わかってーますよっと!」

 

「それはそれとして、ルル様のブログを消した犯人、探し出して原子レベルまで切り刻まないと気がすまない。……死ぬ気でやれよロゼ」

 

「乗ってきたw」

 

 スルーですかそうですか。

 

 

───

 

 

 アンノウンというゲームは主に三つのNCVRMMOゲームをシステム的に踏襲して作られている。

 

 一つはライムワールド。

 一つはネルドアリア。

 一つはレインクライシス。

 

 それぞれ、ジャンルも違ったが、どれも世間一般に名のしれたゲームだ。

 そんな中において”ネルドアリア”は怪作だった。

 

 あらゆる全てを作り上げれるクラフトゲー。

 NCVRMMOの一つの完成形として上げられる事がある。けれどそれはビジネスモデルとしてだ。

 規模が大きくなりすぎたネルドアリアは運営の采配によって課金ゲーとなるのにそう時間はかからなかった。

 

 そんなネルドアリアがアンノウンで担ったシステムは大きく二つとされている、クラフトそして自己進化型のAI学習要素。

 

 惑星、ダンジョン、武器etc。

 主要なものの大半がネルドアリアのシステムに沿って、プレイヤー達により作られ、いまだに増え続けている。

 インターフェイスこそ最悪ではあったが、粘土をこねるようにして作れるモデリング、塗装の自由度、付加能力の奥深さ、クラフトゲームとしての要素は他の追随を許さなかった。

 

 そして、それにも負けない要素として自己進化型AIの学習があげられる。

 

 メタAIからNPCまで、ネルドアリアでの失敗すらも学習し、キメラのような巨躯をしたアンノウンのバランスを取っているのが自己学習型AI。

 

 アンノウンにおける神の見えざる手。

 

 尊敬と賛美、不平と不満の矛先として、時にプレイヤー達はそのAIをネルドアリアからもじってネクソAIと呼んでいた。

 

 実用例としてはこうである。

 

 

「あんのネクソAI! 見計らったタイミングで増援だすのマジやめろください! あと少しで勝てるって時に限って横槍いれてきやがる! わんこそばじゃねぇんですよ!」

 

 実にわかりやすいロゼッタの実用例にともない現在進行形で敵が誘導されてくる。

 薄暗い洋館。

 ゴシックホラーなゾンビもどきに吸血鬼もどき。

 犬やカラスまで、四方八方から登場しては消えていく。

 

「前からだろw AIちゃんは日頃の行いが悪いと、目を付けられるからなw ルル様がいると、すーぐこれだ」

 

 今の状況としては、ワイヤードゴーストの目撃報告があった場所へと向かっている途中、唐突に敵が集まってき出したのだ。

 さながらゾンビパニック映画のように次々と襲い掛かってくる。

 アンノウンでは稀によくある光景だった。

 

「他人に自分の行為を評価されることほど無駄なことはない。なぜなら、大抵の評価とはその実、分類でしかなく。ルル様は何物にも分類されないからだ!」

 

「うっせ! いいから手を動かせください! 元とはいえライムのトップランカー様!」

 

 手にした杖で蝙蝠を殴り飛ばしながらロゼッタが叫ぶ。

 

「だから、控えめに言ってお前らの倍はルル様が一人で処理してやってるじゃないか」

 

 実際、やろうと思えば一人でもどうとでもなる範囲である。

 数が多いだけなら、なんの問題もない。

 自身の処理できる範囲に敵の動きを抑えて処理する、それを繰り返せばいいだけなのだから。

 

 それでも単純作業にならないよう、ネクソAIも頑張って奇襲をしかけてくれたりするが、4回目ともなれば流石に単調になってきている。

 

「しっかし、わざわざ出向かなくちゃならんのは、どうにかならないのかw そこらへんのシステムまだ解析できてないとかレイクラ民として恥ずかしくないんですかw」

 

 レイクラ民とは元レインクライシスユーザーのことだ。

 ネットを徘徊する蛮族の別称でもある。

 

「アンノウンのコアシステムは、これまでのどの言語とも違う! この一年、僕のpcを四台も解析に当ててその程度の情報しかないんです、察しろ!」

 

 ロゼのPC は常に最新のもので揃えており、古いPCすらも全て稼働させているらしい。

 PCのコレクションが趣味とかいう変態じみた金の使い方をしているやつのPCがまともな訳がなく、準スパコンクラスだとよく自慢してくる

。 

 そんな有り余るスペックを必要とするゲームなどないし、ろくな使い方をされていないのは明白であるのだが、今はハッキング用に落ち着いているらしい。

 それでも、遅々として解析を進ませないアンノウンも恐ろしい。

 

「無能なのではw」

 

「うっせ! うっせ! ばーか! ガロ、テメェのpc、文字変換したら顔文字しか出ねぇようにしてやりましょうか!?」

 

 ガロはアンノウン専用のpc及びネットワークを繋いでおり、さらにハッカー対策にロゼッタと同じクランのハッカーを専任で雇っているため、契約上おいそれと手をだせない。

 

 ちなみに、このクランとはハッカー集団が昔のゲームになぞらえて作った組合みたいなもので、同じクランの仕事には手を出さないとか、それなりに仲間内での取り決めがあるらしい。一応そこに所属している手前、実害のない範囲でしかロゼッタはガロに対して攻撃しない。

 私に対する嫌がらせとどまる所を知らないが。

 

「地味な嫌がらせはやめてやれよ」

 

「こいつが馬鹿にすっからだ! 理解できない癖に馬鹿にする奴が、僕は何より嫌いなんです!」

 

「知ってるwww」

 

「お前もだよガロ、言い過ぎ」

 

「ははw」

 

 わかっててやってる以上、二人が本当に喧嘩になることはない。

 そんな言い争いをしつつ、少しずつ下がっている二人、あからさまに敵がこちらに向かって殺到してくる。

 

「だから、そうやってルル様にタゲ向かわせるのやめろや。お前らから先に処理してやろうか?」

 

 結局、そこからさらに五回の敵増援を殲滅しきり、目的の場所につく頃には同規模の襲撃が二度三度と続き、もう面倒になり全力で逃げに徹しきった。

 


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