ルル・ルール・ルル -今日も私はゲームをする-   作:空の間

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19- みんなで仲良くボコり合い

 

 

 

 その日、大会に朝から集まったのは5万人弱と推測され、観客はその数倍以上とされた。

 

 いくつもの予選が並行で行われ、昼までに十連勝したものが本戦に出場できる。

 ただし、温情なのか十連勝できるまで、いくらでもやり直しは可能というシステムだ。

 マッチングはほぼ一瞬で完了し、戦績が近いものと当たることもあり、生半可な実力ではなかなか抜けれられないらしい。

 らしい、というのも、すでにストレートで十連勝して遠巻きにこの喧騒を見ているからだ。

 

 ローマのコロッセオのように、円形になった観客席。ぶっちゃけここにいなくても大会の映像は見れるのだからいる意味はないんだが、やはり雰囲気は大事なのだろう。

 実際、観戦時には何処にいても最前列で見れるようになる機能とかもある。ただ、この雰囲気はここに来ないと味わえないものだ。

 それでも、この人の多さは予想外だった。

 

「当日まで受付けできるとはいえ、すごい人だな」

 

「ま、1日でこの規模の大会やろうとすりゃこうなるだろ」

 

 隣で座るガロが肩肘をついてコンソールを弄っている。

 ガロは大会自体には興味がないらしく、非公式な賭けの胴元として精を出している。

 その手元には幾つもの試合映像が映し出されていた。

 その一つを投げるようにこちらへと送ってくる。

 

「お、くくるちゃんw ついに十勝目w」

 

「やっとか」

 

 目の前に映し出された映像には、銀髪のツインテールにゴスロリ大鎌装備のサイコパスが笑いながら、相手の首をはねている所だった。

 

 そして切り取った相手の頭を愛おしそうに持ち上げ、その頬を舐めていた。

 普通にきもい。

 ライムワールドと共にレインクライシスのトップランカーの一人として君臨していながら、その性格故にプロにはなれなかった戦闘狂。

 首狩り狂のくくる。

 

「やっぱ、くくるのやつってリアルで何人かやってるわ……」

 

 これまで、様々な強敵と戦ってきたが、殺気というか見ているだけで身の毛がよだつのはくくるぐらいのものだ。

 戦い方も大鎌とか使っている割には理詰めで相手を封殺するスタイル。すぐに勝てる戦いでも相手の心を折るまで徹底的に遊び潰す。

 友達がいないタイプだ。

 

 今回の予選も時間切れ三度起こして負け扱いになり、一度やり直しをしている。

 そんな事をしてるからこんなに時間がかかるんだ。

 

「相変わらずキマってんなw」

 

「あいつとは当たりたくない……勝っても嬉しさより徒労感しか湧いてこない」

 

「あの大鎌を持たしたお前に言われると喜ぶだけだろうな」

 

「やめろよ」

 

 デバフ付与が大量にエンチャントされているのであろう大鎌はライムワールドで私を相手にメタってきた時に使っていたものだが、負けたけれど気に入ったのかずっと愛用しているらしい。

 

 見なかった事にして別の映像をみる。

 そこには最近、見知った顔がいた。

 

「ソラもこれで八連勝か、やっぱやるな」

 

「シンプルだけど、味のあるいい剣技だなw」

 

「そうなんだけど、なんとなく本調子っぽくないというか、そうじゃないっていう感じぎこちなさがあるんだよな」

 

 それでも本戦に残れる実力はある。 

 何より、ソラは吸収力がすごい。相手の技を受けて対処し模倣する。その精度が高いのだ。

 ソラは一度、運悪く十戦目にトップランカーとあたり負けている。

 それでもかなり僅差まで持ち込んだのは自力の高さ故だろう。

 

「今で本戦に抜けたのってどれくらいだ?」

 

「お前とくくるちゃん合わせて27人だな」

 

「思ったより少ないな」

 

 その中にルルの名前はない。

 

「まだまだ、これからだろw お前らみたいにストレート勝ちするのがおかしいんだよw」

 

 ちなみにストレートで十連勝すると早い順でシード権を貰える。

 貰えるものは貰うべきだ。

 そんな事を考えていると、またガロが映像を目の前に出してくる。

 

「キチゥさんもやっときたのかw 相変わらず朝が弱いのに無理しすぎだよなw」

 

 みると筋肉おばけが筋肉女に投げ飛ばされている所だった。

 どうせまた、深夜配信でもしていたのだろう。

 その体力に頼った過密スケジュールは狂気の一言だが、代償に今日の朝は起きられなかったみたいだ。

 動きのキレも一段と悪く、相手でウォーミングアップをしている最中なのだろう。

 それでも余裕で勝利を収めているのは流石としか言えない。

 逆に負けたら笑えるのだが。

 

 手持ち無沙汰になりコンソールを開いて大会の概要説明に再び目を通す。

 

「ベスト8までは全部並行で試合が進むのか」

 

「そうでもしなきゃ1日じゃ終わんねぇよw」

 

「それもそうか」

 

「ま、1日をフルに使うとか、イベント的にどうかと思っていたが、この人の集まり見てたらバカにできんのがな……」

 

「アンノウンでこう言うイベントは少ないからな。みんな飢えてるんだろ」

 

「それはあるなw」

 

 そんな風にダベっている内に試合は粛々と進んでいく。

 途中、ロゼッタが奇跡的に10連勝してたりしたが、珍しい事はそれくらいだった。

 

「こない……」

 

「後、一時間だなw」

 

 すでに本戦の参加者は142人も集まっていたが、その中にルルの名前はなかった。

 

「まさか来ないとかないよな……」

 

「ロゼッタは来るって言ってたんだろw そういうことで嘘はつかねぇのは知ってるだろw」

 

「そうなんだが……」

 

 かなり焦れていた。

 もし、あのAIがルルであることを投げ捨てていたら。そう考えるとゾッとする。

 そんな思考が脳裏によぎっていたせいだろうか。

 

「安心するといい。私は別に逃げたりはしないよ」

 

 その声に息が止まったのは。

 

「お前……ッ」

 

「久しぶり。……というほどでもないか」

 

 後ろに立っていたのはルルだった。

 ただ一人。

 まるで、何事もなかったかのように、そこにいて当然という風に立っていた。

 

「なんで……ここに!」

 

「お前を見かけたからな……一度、会っておきたかったんだ。……悪いな、ガロ、二人で話したいんだ外してくれないか?」

 

 目線をこちらに送りため息を一つつくと、コンソールを無造作に閉じ、ガロは立ち上がる。

 

「……なるほどな、ロゼッタがそっちにつくわけだw」

 

 そう言い残し、ガロは去っていく。

 ルルははにかむように笑いそれを見送っていた。

 向き直るとルルは何が面白いのか笑みを浮かべこう言った。

 

「……さて、少し話をしようじゃないか」

 

 

 

 


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