ルル・ルール・ルル -今日も私はゲームをする-   作:空の間

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23- こんなげーむにまじになっちゃってどうするの

 

 

 

 ベスト16に残った選手の控え室。

 そこには何人か見慣れた顔があった。

 中は張り詰めた空気が延々と続いている。慣れていなければ、いるだけで精神的に疲労するだろう。

 

 せめてもの救いは、小さい体育館くらいには広く、各々が散らばれるだけのスペースが存在する事だ。

 随所にあるモニターにはソラとルルが戦う光景が映されていた。

 

 それを遠巻きに長椅子に座り見ていると、誰かが歩いてくる。

 

 黒いゴシックドレスを身に纏い銀の髪を靡かせ、くくるはおもむろに近づいてきた。

 その銀髪が鼻をかすめるほどの近さまで、くくるは足を止めずに。

 傍から見れば恋人みたいな距離感。

 

 くくるの見た目は人形のような作り物めいた美しさがあるが、その本性を知っていれば不気味さしか感じない。

 頭を横にしてクスクスと口角を上げながら、その瞳孔の開いた瞳で観察するように見つめ続けてくる。

 

 

「…………あー確かに似てますね」

 

 耳元で妙に高く粘ついて甘い声色が響いた。

 吐息が肌に当たる。

 

「近づくな」

 

 くくるを無理やり手で押しのける。

 けれどくくるは気にした様子もなく、隣に腰をかけた。

 

「ゴミムシさーん、君……リアルのルルさんをアバターにするとか、さてはルルさんのファンかなんかなのかなー?」

 

 相手にするだけ面倒なので端的に、できるだけ興味を惹かせないように、情報を与えないような言葉を選ぶ。

 

「別に」

 

「べつにー? ヒャハハ…………うーそだ。あたし、ずーとみてたんですよ。キチゥさんへの対策の仕方とか、もうルルさん本人かと思いましたよ」

 

「……偶然だ」

 

「ふーん……偶然? ……そんなアバターを使っておいて、偶然なんて返し方するんだ」

 

 獲物を見つけがような眼光でくくるは目を細めた。

 引っかかるような物言いに自分の失言に気づく。

 

「何が言いたいんだ?」

 

「ファンでもなければ、ルルさんへの対策でもない…………そもそも、それだけの実力があるという時点でこの線は薄いと感じてましたが…………」

 

 小首を傾げ「んー」と小さく呟き、くくるは真っ直ぐにこちらを見据える。

 

「あぁ、君の方がルルさん、なんですかー?」

 

 くくるの言葉に驚愕し、心を乱される。十中八九かまかけだ。

 それでも表情には出すまいと無言を貫いた。

 

「……」

 

 無言を肯定と取ったのか、それとも一瞬の動揺を察知したのか、くくるは喜色を浮かべた。

 

「へー! へー! へーー! もしかしたらって思ってたけど! 面白い! 面白そうな事になってる!」

 

 目を爛々と輝かせ、くくるは笑う。

 最悪だった、対応の仕方を尽く失敗した。

 まるで猟犬のような嗅覚で厄介事へ近づき、さらに厄介で面倒にする、くくるとはそう言う類の災害だ。

 一番の対処法は関わらない、関わらせないだ。

 

「いいないいな! あたしも混ぜてよ!」

 

 そんな強請るような上目遣いも悪寒しかわかない。

 冗談ではなく本当にどうしようもなくなるから、やめろ。興味を持つな。

 そう言いたいが、言えばさらに興味を引くだけなので言えない。

 

「……断る」

 

「えー! そんなこと言わずにー! ね、お願い! 協力しますよ?」

 

 まるで慣れ親しんだ友達のように手を合わせてこちらをチラチラと見つめてくる。

 けれど、もう何も答えず無視していたら。

 諦めたのか大きくため息をつき、そして、くくるの唇が耳元に寄せられた。

 

「話してくれるなら……ここで戦わず棄権してあげてもいいですよー?」

 

 まるで悪魔のような囁き。

 それの意味を理解した所で、くくるを理解できずに呆けた声が漏れた。

 

「……は?」

 

「戦いたいんじゃないですかー? あっちのルルさんとー……」

 

 そう言ってモニターの方をへと目線を送る。吊られて見ると、そこでは勝ち残ったAIルルが立っていた。

 当然の帰結としてそこに行き着くのだろうが、よくもこの状況でそこまで頭が回るものだと関心してしまう。

 

「本気か?」

 

「勿論ですよー」

 

 思考回路が違いすぎる。

 トップランカーでありながら勝敗など歯牙にもかけない、くくるにはプライドと言ったものがまるで存在しないのだ。

 だから平気でこんな事を言える。

 

 絶対に戦いたくない相手だけにその提案は魅力的ではあった。

 けれど、私はルルだ。

 そんな無様な勝利など死んでも受け取らない。

 

「…………勝てる相手に譲ってもらう勝利などないな」

 

「ヒャハハ……やだ、カーッコイー。でも──迷ったでしょ。今、万が一の可能性を考えたでしょ?」

 

 万が一などではない。

 十に一つは負ける可能性がある。

 くくるはそれだけの実力を有している。

 それがわかっているからこそ、交渉を持ちかけてきているのだ。

 

「ヒヒャ……残念、もっと必死なのかと思ったのになー。かっこいい勝ち負けとか、そう言うの気にしちゃうんだ?」

 

「……悪いか」

 

「悪いなー悪いよー。もっと真面目に切り捨てなきゃ。誰の目とか関係なしに、必死こいて無様に本気で足掻き続ける、それだけが取り柄なのに……なにを余裕ぶっこいて上から見下してる気になってるの?」

 

「負け惜しみか? ……お前には負けた記憶がないがな」

 

 ただし、負けそうになった事は幾度となくある。

 

「ふーん……なんだか少し変わったね、つまんなくなったよ。でも、あたし、今の君に負ける気はしないかなー」

 

「…………少し露骨な挑発すぎないか」

 

 そうわかっているのに、心は乱れる。

 

「アハハ、そっか勘違いしてたよ! だってルルさんじゃないもんね、君はー……」

 

 ニタニタと全てをあざ笑うようにくくるは笑う。

 

「ただのゴミムシさんだったもんね」

 

 歯軋りが骨に響く。握りしめた拳から血が流れた。

 こいつにだけは絶対に、何があっても負けたくはない。

 

「じゃーねー、がんばろうね、お互い」

 

 そんな薄っぺらい言葉を残して去っていく。

 本戦第二試合が終わり、ステージへと飛ばされる。

 テトテトニャンが何かを言って会場が盛り上がっていた。大量の人間の声が地鳴りを起こす。

 

 ゆっくりと現れた、くくる。

 そのゴシックドレスが太陽の光さえ吸収し、大鎌が構えられていた。

 くくるが軽く手を上げるとさらに歓声が上がる。

 

 短い挨拶が終わり、テトテトニャンの合図で試合が始まった。

 

 剣を構え、走り出す。

 熱くなっているのは分かっている、それがくくるの術中だという事も。

 

 

 

 それでも──

 

 

 

 

「降参しまーす」

 

 

 

 

 その言葉に会場中から熱気が霧散した。

 ただ茫然と困惑の声が静かに響く。

 

「は?」

 

 足が止まり、地面に顔を向けたまま目の前に出る勝利したというテロップを何度も目で追ってしまう。

 そのまま、ゆっくりと顔を上げると、まるで勝利者のような満面の笑みを浮かべたくくると目があってしまう。

 

「アァ……その顔………君のその悔しそうな顔が見たかった……」

 

 ようやく理解する。

 

「この……ッドチクショウがァ!」

 

「ヒ……ヒャハハハハ!」

 

 敗者の笑い声が響き勝者が苦渋に満ちた表情を浮かべる試合会場。

 テトテトニャンの戸惑ったような勝利宣言により、大ブーイングと共に準々決勝は幕を閉じた。

 

 最初から分かっていた事だ。

 二度と関わりたくないと本気で思うのは、くくるだけだと。

 それでもこんな屈辱的な勝利は初めてだった。

 

 

 

 

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