ルル・ルール・ルル -今日も私はゲームをする-   作:空の間

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3- かゆい  うま

 

 

 洋館の応接間のような場所。狭苦しくない程度には広い。

 

「それで、わざわざこんな場所にまできた訳だが。どうずるんだ?」

 

「穴を探すんですよ。それがなんであれ、アンノウンのシステムである以上、エリアに入って出ていった場所が必ずあるはずなんで」

 

 ロゼ曰く、アンノウンはハッキング行為を容認しており、仕様に則っている範囲には手を出させてくれる。

 だが、それは末端の部分での話だ、アンノウンのコアシステムに近づけば近づくほど触らせる気がなく、プロテクトは厳重になっている。

 

「ここらへんのスキャンやってるんで、テメェら好きにやってろください」

 

「よし、肉焼くかw」

 

 そういって屋内一人キャンプファイヤーを始めるガロ。あほだ。

 

 手持無沙汰になり、適当なソファーに腰を落ち着ける。

 あたりを見回すと何の変哲もないエリアだ。上品なシャンデリアに、壁には誰だか知らない肖像画、蝋燭の灯がダクソな雰囲気を出している。

 

 近くの戸棚にある荘厳な装飾が施された本を手に取って中身を確認すると、買われてきたメイドが主人をいたぶる18禁官能小説だった。

 

「ぶち壊しだ」

 

 そのままキャンプファイヤーの焚火に投げ入れる。

 本は焼け焦げて色を変える。

 赤く燃えていくその姿にふと気になった。

 

「なぁ、この手の状態変化ってどこがやってたやつだ?」

 

「あん?」

 

「オブジェクトが燃えていくやつ」

 

「そこら辺はライムワールドだろw ネルドアリアはクラフトがあったから省略されてたしw 十秒で上手に焼けましたーだよ! ボケた? ボケにはカレーがいいぞ」

 

「勝手に食ってろ。ライムワールドの火はマップオブジェクトのギミックでしかないから、こんなもんまで燃やせない」

 

 燃えかかった本を手で持ち上げると、半分ほど灰になになり、手にダメージが入る。

 痛みはなく、燃えているという錯覚を感じる不思議な感触がある。

 

「じゃ、レイクラのどっかだろw あそこはごみ溜めだったからな」

 

「……それもそうか」

 

 ライムワールド、ネルドアリア両方のプレイヤーからも、レインクライシスの評価はそんなものだ。

 

「ごみ溜めとか言うんじゃねぇ! ネルドもライムもレイクラに比べたらクソゲーですから! wikiにも書いてある!」

 

 それまで集中してたロゼがいきなりキレだした。さもありなん。

 

 ライムは義務教育。

 ネルドは知育。

 レイクラは宗教だ。

 レイクラは宗教だ。

 大事なことなので二度いったが、レイクラは狂信者が本当に多い。ロゼもその一人だ。

 どのゲームもそれなりにやってはいたが、レイクラはまともな神経でプレイし続けることは難しい。

 精神崩壊するやつも少なくない闇のゲームだ。

 だから。

 

「レイクラ民に言われても、正直、哀れみしか感じない」

 

「俺はレイクラはもうゲームだと思ってねぇしw」

 

 ロゼによる無言の膝蹴りが、テレビにつき刺さる。

 妙な表現だが、頭にブラウン管つけてるやつが悪い。

 

「レイクラこそ最先端でしたから! アンノウンとか実質、レイクラ2だし、おすし!」

 

 一理はある。

 

「だったら、解析はよw」

 

「それ言います、また、それ言っちゃいますか!? みんな気にしてるそれ言っちゃうんだ! あーあ! 戦争だ戦争! その無駄にでかいブラウン管を液晶タブレットにスライスしてやリますよ! このクソテレビ野朗!」

 

 ロゼッタはダースベーダ風な装備に変更してライトセーバーをガロに向けている。

 最初から暗黒面に落ちてるだろ。

 

「ジョークだよ、ジョークw 謝るからライトセーバーで殴ろうとすんなw」

 

「レイクラもいいゲームだった、それなりに。……それより解析の方はどうなんだ。亡霊のやつ、もう、終わったのか?」

 

「取ってつけたような事いいやがって……ま……終わったよ。終わりました。結論から言う。穴は無かった。更にいうと何かが侵入した形跡はおろか、オブジェクトを表示したログすらねぇ….」

 

「なんだそれw 無駄足かよw」

 

「わからねぇよ。言葉通り亡霊だったのかもしれね」

 

「なにかしらのバグの可能性……いやアンノウンのバグって今まで聞いたことないな」

 

「それも異常だってわかってます? 当たり前になってるから感じないが、いくら管理ツールが発達したところで人間なにかしらのミスはするもんですよ。それを見つけるのは相応の時間がかかる。普通は……」

 

「AIちゃんがこのゲームの全部を作ってる説も、あながち的外れではないんではって思えるなw」

 

「あーあ、クソですわ……クソ。なんかここが本当に何か別の得体の知れない不気味な世界なんじゃないかって思っちまいますよ」

 

「リアルすぎるのも考えものだなw」

 

 ガロの言葉にロゼッタがため息をつく。

 

「それもあるが、そうじゃねぇですよ……。技術の道程が見えねぇ」

 

 そう言ってロゼッタがフォースを使って火の上の肉を持ち上げる。魔法の名前ももそのまんまフォース、ただ物体を持ち上げるスキル。

 

 そして、マスクの上から肉に齧り付いた。

 

「行き過ぎた科学は魔法と区別がつかないってやつかw 何をかっこつけて言うかと思えば……俺の肉を食ってんじゃねぇよw」

 

「僕たちは天下のライムワールドもネルドアリアも解析して、再現も可能にしました。その上で、こう思ってます、アンノウンは魔法でできてんじゃねぇかって」

 

 ロゼッタは珍しく真面目な声色をしていた。

 ベーダーっぽいマスクをつけているので、かなり真面目に見える。

 

「見た目のデータとかゲームシステムは確かに他のゲームと同じ、でもそれらを動かしてるプログラム言語が違う。技術的な仕組みはおろか、そもそも、アルゴリズムから違うと言ってもいい。ライムワールドとアンノウンじゃ、初代ドンキーコングとwiiu版くらいの格差があります」

 

 もはやハードが違うんですがそれは。

 

「ハードのスペックは一気に上がりきって、数年前のスパコンのスペックが最低になってるけど、そのスペックに人間がついていけないってのは雑誌の開発者コメントで読んだなw アンノウンはそのスペックをフルで使えてるってことかw」

 

「端的に言えば……実際はもっとエグいことしてるんですけど。専用のPCと回線が無けりゃ怖くて繋げねぇよ。こんなん」

 

 乾いた笑いを浮かべるロゼッタベーダー。

 

「とりあえず終わったのなら、これからどうする。モブ狩りでもしていくか?」

 

「悪いけどそういう気分じゃねぇ。もう今日は充分やったんで僕はストレス解消に酒場行ってオナって寝ます!」

 

「DD&DDとの話し合いがあっからw やつらのけつ掘るのに忙しい、すまんな」

 

「そうかわかった。気にするな」

 

 そう言って堂々とシモネタをかます二人とは別れた。

 思えば”もし”という言葉が現実となるのなら、ここが何かの分岐点だったのかもしれない。

 


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