ルル・ルール・ルル -今日も私はゲームをする-   作:空の間

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30- ここがあなたのデッドライン

 

 

 

 待ちのスタイルを主とする符術、その特性を無視した攻撃的な炎の球がこちらに向かって飛んでくる。

 それを後ろにいたモンスターを盾にして爆発させる。

 その爆発は馴染みのあるもので、自身の能力や技の威力は変わっていないのを確認する。

 

 さしものレイクラとはいえ、絶対に対策できないチートは暗黙の了解として控えられている。

 特に勝敗の変更、無敵化、盤外戦術などは嫌われており、楽しくルール破って遊ぶのがあそこの流儀だ。

 それこそ、生粋のレイクラ民たるロゼッタが本気で戦闘に勝利しようとすれば、文字通り勝負にもならず敗北するだろう。

 だからこそ、勝機はそこにある。

 

 ロゼッタにAIルルと攻撃を同時に仕掛ける。

 だが、ツールによって行動を予測されていたのか、モンスターが間に入るように飛びついてくる。

 それを切り払いさらに距離を詰める。

 

「えらくワンパターンじゃないですか!」

 

 ロゼッタが杖を地面につくと、炎が飛んでくる。

 急に曲がるそれを前に出て剣で軌道をそらし、そして一歩、踏みしめる。

 いつもならば絶対に相手を倒せる必殺の間合い。

 

「そうかもな……!」

 

 咄嗟の反応でロゼッタが杖を振りあげる。その瞬間、全身の筋肉を硬直させて全ての運動を静止させる。

 

「……ッ」

 

 ロゼッタも杖を振り下ろさず止まっていた。その隙にロゼッタの後ろにいたAIルルが動く。

 それに合わせてロゼッタも杖を振るう。

 

 けれど今度は何処にも当たらない。

 実際にはAIルルはその場から動いていなかった。

 

 先程の当たらない距離からの攻撃は、おそらく打撃の判定位置をずらしているのだ。

 行動予測のツールで場所を決めて、杖の振りに合わせて打撃位置を変更する。

 戦闘中に自動処理をさせたがるロゼッタらしい攻撃。

 

 だからこそ、行動予測を狂わせれば対処しやすい。

 そして、それに最も適した戦いを一度、見ている。

 ニュートがAIルルを追い詰めた戦い方。それを拙いながらも再現する。

 一度の行動にフェイントをいくつも混ぜ込む、ロゼッタは常にその取捨選択を問われ続ける。

 

「……この! この!」

 

 ロゼッタは何度も杖を振り回し、時に追尾する炎を出す。

 時々、かするように当たるが、元々、ロゼッタの呼吸は読み切っている。タイミングさえ間違わなければ回避はできる。

 けれど攻めきれない。

 

 ロゼッタの周囲に幾重にも張り巡らせている符術。そして周囲のモンスターがここぞと言うタイミングで邪魔をしてくる。

 そのせいで、どうしても最後に踏み込むことができないのだ。

 息を切らせながらロゼッタは笑う。

 

「……どっちにしろ、僕の勝ちだな!」

 

「どういう意味だよ」

 

「亜号がネクソAIを食った……直にライム以外のエリアも管理下に置かれる」

 

「アイが……食われた?」

 

 その言葉が現実味のあるものとして考えれなかったのは、未だにその姿を見ていないからか。

 あの変幻自在のスライムがそう簡単に負けるとは思わなかったからか。

 AIルルが空に目を向けて、ため息をつく。

 

「はぁ……どうやら、そのようだな」

 

 AIルルの視線の先を追えば、上空のヒビ割れから溢れ出てリークサンドロスへと到達していたモンスター達が、方向転換をしてこちらへ向けてやってきていた。

 数億匹にも感じるほどの軍勢。

 直にこのエリアにいる全てのモンスターがここに集まってくる。

 

「ルル……泣いて誤ったら許してやりますよ」

 

「ふざけんな……」

 

「だったらゲームオーバーだ、ルル。もう相方の姿すら見えねぇだろ」

 

 ロゼッタの言葉で先程までそこにいたAIルルの姿が忽然と消えている事に気づく。

 

「……おい、どこだよ。どこにやった!」

 

 その動揺を気取られたのか杖で殴り飛ばされてしまう。

 地面を転がりロゼッタを睨みつける。

 焦燥は絶望に変わる。

 勝てないかもしれない、ロゼッタ相手に初めてそう感じた。

 

「バーカ、テメェにだけ見えてないし、触れられないだけだ」

 

 冷静になってロゼッタの目線の動き、モンスターの位置から、確かにAIルルがそこにいる事を理解する。

 心なしか少し安心した。

 おそらくアイが食われた事で、会場に施していたブロック設定の無効化がなくなったのだろう。

 本当の意味でアイの干渉がなくなったのを理解する。

 

「ああ……クソ……そうかよ」

 

 それでも、遠くにいたモンスターが切り裂かれる。

 まだ、戦っているのだ。

 

「そうか……そこにいるのなら……お前が本当にルルだって言うのなら。合わせてみせろよ」

 

 願うように、呟くように言いながら、もう一度、攻撃を仕掛ける。

 ロゼッタは一瞬だけ訝しげな表情を浮かべるが、すぐに意味する所を察して舌打ちする。

 きっと、ロゼッタを通してAIルルにも伝わったはずだ。

 

──お前こそ

 

 そう聞こえた気がして。それを信じて突っ込む。

 

 ロゼッタが追尾用の炎を出す、その数は十を超える。

 それをなんとか捌き切り、真っ直ぐに目指す。

 もはやダメージなど気にしない後を顧みない突撃。これを凌ぎきられれば敗北は確定する。

 

 ロゼッタもそれを悟ったのかモンスターを総動員し、それまで動かなかった場所を捨て逃げに徹する。

 

 重なる。

 切り裂いたモンスターの感覚がやけに軽い。

 ロゼッタの視線が一点に集中していながら細かくブレる。そこからAIルルの動きを予測する。

 一つ一つの動きを変え、合わせて、一つになる。

 幾つモノ予測が目まぐるしく変わっているのだろう、ロゼッタの目線がどんどんと早く動く。

 

 すべて把握しようとする悪い癖。

 だからこそ、見えなくてもAIルルが何をやっているかわかる。

 

 前に進む、体が軽い。

 不思議と笑っていた。

 いつもそうだった。ライムワールドの頃はいつもギリギリで死にものぐるいで勝利を掴むのに必死だった。

 

 絶対に負ける。

 そう思ってからが本当の勝負だった。諦めそうになる私を無理矢理に顔をあげさせるのは、もう一人の私。

 いつも二人で一人だった。

 

 だから、叫ぶ。

 

「私が!」

 

 また重なったから。

 行動予測を捨てロゼッタが杖を振るうが、もはや当たる気もしない。

 あらゆる方向から放たれる符術も、弾ききれる。

 もうモンスターも追いつけない。

 

 ただ、剣を振るう。

 

「ルル様だ!」

 

 一閃。

 ロゼッタは最後の符術を放つ。

 目の前が弾け飛ぶ。

 

 そして、ただの一撃はロゼッタを切り裂いた。

 

「…………んだ……それ」

 

 そう呟き、ロゼッタがゆっくりと後ろに倒れていく。

 その顔は酷く苦々しくて、それでも少し笑っていた。

 

 モンスターが一斉に動揺したかのように動きを止める。

 

「……やった」

 

 叫ぼうとした瞬間、何かの咆哮が世界に響く。

 巨大な轟音と共に空のヒビ割れが、空から降り注ぐ大きな光によって崩れていく。

 その光に当てられた亜号が溶けていき、そして、大地が崩れていた。

 まるで、世界の崩壊。

 

 光の中、その翼膜を輝かせ、無空竜が空を滑空していた。

 

「彼女が来ましたか、それではここまでのようですね」

 

 呆然とその光景を見ていたら、後ろから声をかけられ、驚いて振り向く。

 

「お前……なんで」

 

 そこにいたのは、予想外の人物というか、まったくこの場所に似つかわしくない人間だった。

 緑の髪に猫耳を頭につけて、倒れたロゼッタを抱きかかえていた。

 

「どうも、レインクライシスのAI、破壊管理担当、亜号。改めましてテトテトニャンです」

 

「………………は?」

 

 

 

 

 


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