ルル・ルール・ルル -今日も私はゲームをする-   作:空の間

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7- サラマンダーより、ずっとはやい!!

 

 

 

 

 レインクライシスは正確にはゲームの商品名ではない。

 

 その当時、ゲームはグラフィック面での向上に限界を迎え、一つの娯楽として低迷期を迎えていた。

 そんなところに降って湧いたかのようなNCVR技術の革新と共にあらわれたライムワールド。その勝馬に乗ろうと、いくつものNCVRのゲームが開発された。

 

 中にはネルドアリアのような怪作もあったが、そのほとんどが短期間での制作を強いられたため、ゲームとして微妙なデキのものが乱雑に発売された。

 

 そして、そんな中において、ライムワールドのちょうど二ヶ月後、海外の弱小ブランドからグレイシスシミュレーターと呼ばれるクソゲーが発売された。

 

 内容は正直、本当に、どうしようもない。RPGっぽいなにかだった。

 ゲームとすら言えなかったグレイシスシミュレーターの話題は数月後にはクソゲーオブザイヤー版にその居場所を移した。

 

 しかし、そんなゲームにも一つ他と違い見るべきものがあった。

 

 MOD機能である。

 MODとはプレイヤーによるゲームの仕様の変更を始め、システムごと書き換えてしまうものまで、それこそ全てを自分好みのゲームにできるツールだ。

 

 グレイシスシミュレーターはこの機能が充実していた。というか、むしろそれが本体だった。

 とはいえ誰がそんなクソゲーのMODを好き好んで作るのか。そもそも、それでまともに作ってから出せと一笑に付されたのは当然だろう。

 

 そして、グレイシスシミュレーター発売から三ヶ月。

 MOD、レインクライシスが公開される。

 

 グレイシスシミュレーターの開発会社が倒産する四日前のことである。

 もし、あと数か月持ちこたえれるだけの体力があれば、また違った結果になったかもしれない。だが、現実のタイミングはいつだって少しだけ遅い。

 良くも悪くもレインクライシスはそうして生まれた。

 

 レインクライシスの本体は小さなメインクエストが一つと、そこに行くためのロビーだけの、三十分ほどで終わるものだった。

 

 クエスト自体は奇麗に纏まっており、十分楽しめるものではあった。

 だが、レインクライシスの本当の真価はそこではない。

 レインクライシスはMODであると共に、MOD管理ツールであり、開発ツールであり、共有ツールだった。

 何よりも、開発者ですら持て余し”一部の人間しか理解していなかった技術”を”勉強すれば理解できる技術”にまでローカライズしたのは、レインクライシスの功績である。

 少なくともそれ以降のNCVR技術の基盤にレインクライシスの影響は確かに存在する。

 

 とはいえ、ゲームとしてはまだまだ足りないものが多かった。それでも、エリアという区分けにすることで、様々な形態のゲームに適応する事によって少しずつジャンルから増えていく。

 FPS、RPG、エロ。そしてエロ。

 

 最初こそほそぼそとした口コミによるものだったが、エロプレイ動画が検索言語ランキングに上がった事によって一気に有名になる。

 さらに、NCVRにおける大手ゲームエンジンの対応が遅れたことも追い風となり、ある種の実験場として爆発的にMODが増殖した。

 ピンからキリまで、大小様々なカオスがレインクライシスでは生まれては消えていく。

 一日ごとに全てが変化し、変化させるゲーム。それを魅力的に感じる者たちはレインクライシスに集った。

 

 ちなみに、開発会社が倒産した後も契約済みの借りサーバーが一年近くは残っていた。

 その後は有志が立ち上げたサーバーに移行しており、その時にグレイシスシミュレーターの部分は完全に消えさり、レインクライシスとなった。

 

 とかく、そういう社会から外れた環境であったせいか、タガが外れていた感じがある。同時期にでたゲームのリソースが使われてたりは当たり前、他ゲームのサーバー乗っ取り事件など。今のアンノウンよりさらにモラルがカオスだったのがレインクライシスだ。

 

 とはいえ完全な無法地帯と言うわけではない、むしろゲーム内においては他よりも徹底した縦社会を作っていた。レインクライシスには階級があり、上位者による権限がMODの優先権を得る。

 

 上位者になるためには、MODを公開し評価してもらう必要がある。

 良い評価の数が多ければ上位者として上書きできる。

 無論、クリエイターなんて自分が一番いいものを作ってると思ってる人種が大半だ。

 

 誰もが最上位者になるため、しのぎを削った。

 そんな熱意と共に仲間意識がうまれ、どこでどうなったのか、他のゲームに対する敵対意識に変換され、無事にレインクライシスは宗教化していくわけである。

 

 NCVRの新作ゲームの発表後PVを見たと思ったら、レインクライシスに似たようなMODが公開されていた。

 そして、いざ発売するとレインクライシスの方が面白かった、なんてのは割と聞く話だった。

 レインクライシスのMODで新作NCVRの開発実験おこなってるうちに、会社をやめてMOD作っていたプログラマーの話とか、面白いブログが人気になったり、その熱量は決してライムワールドにも負けてはいなかった。

 

 MMOという多人数で遊ぶゲーム形態でありながらMODという改変を扱う、それがレインクライシスの異質さであり、受け皿の広さだった。

 

 システム面でもエリアという区切りがアンノウンに残っているのに加え、倫理感や複雑な導入を始めとした自由な文化を受け入れる土台となったのは間違いない。

 

 だから、起こるべくして起きた。

 素人が手を出してはいけない領域にまで手を出した、その結果は大きな傷跡を残すことになる。

 

 リアル未帰者。

 

 NCVRプレイ中の死亡事故。

 理由は様々なものがあげられたが、世間一般の認識では精神接続デバイスの改造による事故死として公表された。

 

 以後、レインクライシスはおろか、NCVRゲームは法規制を待たずして自粛の傾向となり、その勢いを急速に失っていく。

 

 ライムワールド、ネルドアリア、レインクライシス、全てが停止した。

 

 時代の終わり、停滞の中で誰もがそう感じていた。

 

 

 

 

 そして、それを打ち破るように──アンノウンが産声をあげる。

 

 

 

 今、世界は崩壊と再生の中にいた。

 

 

 

────

 

 

 

 

「こっちこっちー。ほら、はやくー!」

 

 何が面白いのかキャッキャウフフとソラが笑いながら手招きをする。

 

「……テンション高いなー……」

 

「アハハ、人生なんて短いんだから楽しんで! 楽しんで! 楽しまなきゃ!」

 

 そう言って手を伸ばしてくる。その手を取ることはなかったが、「恥ずかしがりやさんめ」とソラはそれでも微笑んでいた。なんかこわい。

 

 あの後、ライムワールドがエリアとして開放されたのなら、アンノウンの仕様により一番近くの街へと行けば、転送門が設置されているのではと考えて行ってみた。

 

 転送門とはアンノウンのロビーと各エリアを行き来できる石でできた円形の場所だ。ここで、そのエリアに応じた装備に変えたりできたりもする。

 実際、近くの街には転送門が設置されていた。

 けれどライムワールドの解放によって、現在大量のプレイヤーが流れ込んできており、とても逆走できる雰囲気ではなかった。

 寒村とした異国情緒の街並みが通勤ラッシュの満員電車へと変貌する様は心に来るものがある。

 それを避けるように戻る手段がないかと探しているとソラが知っているというから、後をついてきているのだが。

 

「ここだよ!」

 

「…………いやいや」

 

 ソラがじゃーんという感じに両手で指したのは街にある袋小路にある窓だった。

 そこに何かある訳ではなく、ただ、本当にただのアーチ状の窓なのだ。その先は民家なのか誰もいない。

 

「どうしろと?」

 

「突っ込むんだよ! ぐいっと!」

 

 身振り手振りが、もうなんかおっさん臭い。

 おとなしく人がはけるのを待って転送門を使おうかと考えてると後ろから背中を押される。

 

「おい……ちょっと、押すなよ」

 

「いいからいいから」

 

 壁に手を当てて体を支えようとするが、すり抜けていく。

 

「……は!?」

 

 気づけば体が半ばまで押し込まれ、なんとかバランスを取り戻すとすでに中へと入ってしまっていた。

 その先にあったのは白と黒のオブジェクトが並ぶ世界。ポリゴンが透けたかのような大量の線がまるで生きているかのように鼓動している。

 それが街だと気づくのに時間はかからなかった。

 まるで世界の裏側のようなSFチックな場所。

 

「なんだ……ここ?」

 

「ふっふっふっ……私はいつもここを通って来てたんだよね、どうよ、すごい? すごい?」

 

 自慢げに胸をはるソラ、その胸も盛ると割と見れる事に気づく。

 

「そっすね……すごい」

 

「……あんま見るのもマナー違反だかんね」

 

 笑顔で静止を受ける。そういう表情もできるのかと少し関心してしまう。

 

「ほら、こっちだよ。あんまり適当に行くと変な所に行くから気を付けてね」

 

 一瞬、目の前を誰かのポリゴンが通りすぎる。それを見て、なんとなくワイヤードゴーストの話を思い出す。

 ルンルンと歩いていくソラの後ろ姿を見て、もしかしたらこいつの仕業だったのではと疑ってしまう。

 

「私ねー昔から、こういう裏道的なの見つけるの得意だったんだよね。小学校の下校時とか──」

 

「まって、その話しって長くなるやつ?」

 

「5分コースくらい、ですかね……」

 

「……じゃ、続けて」

 

「っしゃー! それじゃ、それじゃね……」

 

 ちなみにソラはアンノウンの転送門へ案内してくれた後、ソラの語りは二転三転しニ十分は喋り続けた。

 結局、先ほどの場所について聞くより、いい加減に疲れが先にでたので解散を願い出る。

 

「また、何か困ったことがあったら、このソラさんを呼んでくれてもいいよ!」

 

 そう言って半ば無理やりフレンド申請を押し付けてきた。受け取らなかったら受け取らなかったで、付きまとわれそうな気配がして、しぶしぶ交換した。

 こちらから連絡を取ることはまずないだろう。

 

 そしていつものようにログアウトしようとして。

 コンソールにボタンが無いのを見て思い出す。

 

「…………ぁぁぁ」

 

 何も解決していない。

 

 

 とにかくアンノウンのロビーに戻れたのなら、ガロかロゼッタに会えれば何か情報を得られるかもしれない。

 だが、自らのホームを幾つも持ち、引きこもりの中で引きこもるガロを見つけるなんてのは天と地がひっくり返っても不可能だ。せめて自治会のルートの伝手でも作っておくべきだったと後悔する。

 ならばロゼッタはというと、こちらには少し心当たりがあった。

 酒場だ。

 

 アンノウンではモノを食べた時にきちんと味覚が反応し擬似的な満腹感も得られる。

 また、酒やたばこは擬似的にそれに近い感じを得ることができる。

 

 もちろん、薬物もあるが、効果は現実ほどではない。

 そもそも、アンノウンの原理的にはこれらは同じもので、脳に軽度の負荷をかけながらトランス状態にして行動を再現させることで、その体験を追体験させるものだ。

 

 だから、酒でも悪酔したイメージが強いと悪酔いするし、一度も薬物をした事がないのにやったところで、何か変な感じがすると言った具合にしかならないらしい。

 

 これらのアウトっぽい部分はライムワールドにもネルドアリアにもなかった。つまり、レインクライシスの産物だ。

 

 一つ良いものを生み出すために、十の罪を生み出すのがレイクラ民。そんな彼らが好むのは薄汚い酒場。

 飲んだこともない高級ワイン片手に優雅に屯っているのが格好いいとか思ってる連中だ。

 

 そんな例に漏れず、ロゼッタは酒場の奥の丸いテーブルの席でぐったりとしていた。三軒目で見つかったのは僥倖だった。それこそいるかどうかは半々くらいに考えていたので、いてくれて助かった。

 向かいに腰をおろすと、人でも殺しそうな目で睨んでくる。

 

「なんだぁ……テメェ……。見てわからない、ここ僕が座ってんですけど、空気読めないんですか、殺すぞ!」

 

 いつも以上に刺々しい。

 

「ロゼ、私だ、仕事を頼みたい」

 

「私さん……!? 誰だかしんねぇけど見てわかんねですか、死ぬほど忙しいんだけど……」

 

 そういって再び机に突っ伏そうとする。

 

「飲んだくれてないで話を聞け、アカウントを盗まれたログアウトもできないんだ。手を貸してほしい」

 

 訝しげにロゼッタは自らの指の上に出した透明なコンソールを動かし、そして眉をひそめる。

 

「ふーん……確かにテメェ、なんか面白い事になってますな。デバイスを追いかけられねぇし、ログも途切れ途切れ、アカウントに関しちゃ嘘八百。しかも傷まみれって何それ? 新しい演出ですか?」

 

「実際、その通りだ。ライムワールドができていた、私はそこに飛ばされたんだ、そこでは痛みを感じて、血が……流れた」

 

「ライム……ライムワールド……ね、はーん……聞いてますよ。僕はぁ、あんま興味はないけど、しっかし、痛覚って……アンノウンもそっちに手を出し始めたのか……」

 

「だいたい違法なんだ、痛覚ぐらい今更だろ」

 

 こちらを見て、軽く鼻で笑うロゼッタ。

 

「……危険信号は遊びで使うもんじゃねぇでしょ。でも、ま、僕の知ったこっちゃねーな、とりあえず、前金の話をしましょう。相場よりは高いが、こんくらいだ」

 

 紙を取り出してペンで数字を書き、こちらに見せる。

 勿論、今そんな持ち合わせはない。だが、ルルが預けている金額にすれば微々たるものだ。

 

「今は……ない。ログアウトできたか、アカウントを取り戻せたら払う」

 

「臓器でも売って金作れよって言いてぇが、払う気があるならまーいいです! ライムの情報……とりあえず知ってるだけ。そしたら報酬倍額で受けてやリますよ」

 

 ログを見てライムワールドのエリアから戻ってきたのを知ったのか。法外な値段を吹っかけてくる。

 

「……足元見過ぎだが……こっちは時間に余裕がない」

 

 ロゼッタにライムの情報を話す。

 ブラッドポイントとは違う、血が流れること。

 黒い化物。

 そして帰るときに通った謎の道。

 ロゼッタは胡散臭い笑みを浮かべていた。

 

「オーケーオーケー……ま、真偽はいずれわかる。まず何をして欲しいんで。勿論、報酬はそれぞれ別途相談ですがね」

 

「アカウント……アバター。なんと言えばいいかわからないが、奪われたものをを取り戻したい」

 

「アカウントを奪われたね……ぶっちゃけ、そんな事できねーつか、データを奪うこと事態はそんな難しくはねーけど。やったところで使えねーのがね……。アンノウンのアカウントは脳波で管理してるって知ってます? 脳波ってのは指紋みたいなもんで、個人個人で違う。現状じゃ他人の脳波を正確に偽造する技術はないんで、奪った所で使えねぇんですよ」

 

 言われてそうだったと思い出す。

 あまりに基本的な技術だから忘れていたが、だとしたら。

 

「相手のデータに対して不正な変更をかけるのってのはできるのか」

 

「……できます。できるが、アンノウンがそれを許していない。そういうデータ改竄は場所によっては可能、ま、一週間おきに行われる定期メンテでクリーニングされて元に戻されます。あと、当然と言えば当然だが……新しく作った改竄データはデリート。そん時、テメェどうなるんかね」

 

 今の状態が不正に作成されたデータとして、メンテが入ったらどうなるか、もしかしたら、そのまま消える事になるかもしれない。

 神経接続で正規の手順を踏まずにログアウトするというのは、相応のリスクのある行為だ。

 正規のゲームであれば目眩がする程度で収まるが、アンノウンはそうではない。

 なにせアンノウンにログインするために、一部、安全装置のプログラムを弄っているのだ。

 

「ッ……次の定期メンテっていつだ」

 

「四日後。ま、それより前にメンテ入ることがないわけじぇねぇですし……おすし」

 

「何か……方法って」

 

「気休めですが……アカウントに関する正常なデータがあれば、丸ごと消えるって事はねぇはず。テメェのソレ、変なデータが入ってるが、ネルドアリアとかの固有データの情報は入ってねぇ。そこら辺りを増やせば大丈夫なんじゃねーの? でも逆にメンテで元に戻れるかもしれねぇし、動かさねぇ方がいいかもってのはある。正直、調べてはやるが解決策はねぇかもしれねーよ」

 

「……そうか」

 

「それで……奪われたってのは、なんてユーザー名?」

 

「さっき言っただろ、ルルだ」

 

「………………ぁ?」

 

 ロゼッタの時が止まったかのように動かなくなり、顔が歪む。

 

「あれ、言ってなかったか? だから、ルルだ」

 

 それなりに長い付き合いだし、何処かで言っていたか、話し方でわかっているものだと勝手に思っていた。

 ロゼッタは手でこちらを制し「ちょっと待て」と何事か考えるように呟く。

 

「んー……ぁー……? ルル様的なアレですか? 周りに変な記号ついてるやつじゃなく?」

 

「名前は被らないんだ。そうに決まってるだろ」

 

「…………んー」

 鳩が豆鉄砲を食らったような表情をしていたロゼッタは頭をかいて「そうか」とロゼッタは短くつぶやく。

 

「…………こんな僕でも。三つほど、どうしても気に入らない仕事ってのがある」

 

 大概の仕事をガロに文句を言いつつ、片手間でしかやらないやつが何を大仰なをほざくのかと思うが、黙って聞く。

 

「一つは、金払いの悪い仕事。一つは、僕のやり方に文句つけてくる仕事。そして、最後の一つは仲間を傷つける仕事」

 

「………………いやいやいや、お前、エロ画像フォルダとか親の携帯に送ったり、割と私を傷つけてるんだけど!?」

 

「僕が傷つけるのはいい! 他のやつに傷つけられるのはダメ!」 

 

 何言ってんだこいつ。

 

「それで、もう一度だけ聞くけどお前がルル様だって?」

 

「そうだ、正真正銘、本物のルルだ」

 

 ロゼッタは机に突っ伏す。

 そして盛大に笑いだした。

 

「ギヤハハハハハ! ハハハ!」

 

「何がおかしい」

 

 腹を抱えて馬鹿笑いしてるロゼッタがヒーヒーと息を整える。

 

「……馬鹿にしてんのか知んないけど。テメェ何がしたいわけ?」

 

 そう言って、ロゼッタがテーブルをトントンと叩きながら後ろを振り向く。

「…………なぁ、ルル様」

 

 その言葉は自分に向けられたものではないのだと、頭では理解できた。

 

「どうした、ロゼ」

 

 耳に馴染む聞き覚えのある声。

 奥から現れたそいつ。

 ルル。私のアバター。

 

「は……!?」

 

「いや、割と面白い話だったんだがな。なんか知らねーけど、こいつ自分のことをルル様だと思ってるらしいぜ」

 

「な、なんで、お前……!!」

 

 突然の事に頭が真っ白になっていたが、ルルに切られた瞬間を思い出す。

 見間違うはずもなく、見ているだけで胸が引き裂かれそうになる。

 

 

「……返せよ! ッ……それは! 私のだ!!」

 

 椅子から立ち上がり、その無防備な胸に掴みかかろうとして、簡単にいなされる。

 無様に転がる私を見おろして、ルルは薄気味悪い笑みを浮かべていた。

 

 

「…………誰だか知らないが、このルル様に喧嘩を売って、勝てると思っているのか?」

 

 違う。違う。違う。

 私が、私以外が、そのキャラになるなんて。

 たとえそれが誰であろうと。

 絶対に許せない。

 

「ふっざけるなぁああ!!」

 

 勢いに任せて殴りつけようとした瞬間に、腹を足で蹴り上げられ、首筋を掴まれ投げ飛ばすように地面に叩きつけられる。

 

「ッ!!?」

 

 痛みが脳髄にまで響く。

 

「そんなものだよ。お前は……」

 

 耳元で囁く声は冷たく。どうしようもなく、心に刺さる続けて偽物はロゼッタに向けて口を開く。

 

「ロゼ、こいつ適当に飛ばして、私に対してブロックかけといてくれ」

 

 個人へのブロック、それを付けられると相手の認識すらできなくなる。

 

「待て! ロゼッタ! こいつは……! 私がルルだ!」

 

「…………あっさり負けてそれか……悪いね、さっきの話は無しで頼むわ……クソプラナリアゴミムシ菌。せいぜい、ライムで頑張りなよ」

 

「ロゼ──!」

 

 どこか寂し気な笑みを浮かべるロゼッタがパチンと指を鳴らす仕草をするのと、転送される感覚が来るのは同時だった。

 


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