今回の話では、ガンダムNTのネタバレが含まれています。
読まれる場合は、ご了承ください。
鬱展開や不快な表現あっても、ハッピーエンドが私のセオリーですので。
不遇なキャラを強化してみるのも、私の趣味です。
というわけで、シンには困難と活躍の場の拡大を。
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世界は綺麗事だけじゃない。
何時だって裏側には色々とドロドロとした、腹黒い感情や思惑が渦巻いているものだって知っている。
帝国だってそうだ。綺麗事を並べて日々の業務を行っていても、綺麗事だけで終わるはずがない。
きっと俺の知らないところで、何かやって毎日の平穏を作ってくれているんだろうな。
だよな、ティス。
おい、待て。なんだよその『あ、うん、そうだね』って呆れた目は。
まさか本当に綺麗事を現実にしているだけなのか?!
ジョーカー銀河帝国主星の政庁執務室は、小さな緊張感に包まれていた。
「作戦目標は、それでいいのね?」
「はい」
アイリスは、話された内容を頭の中で繰り返した後、大きく頷いてモニターを指で弾いた。
「悪人ね。こんなことを考えて、自分の部下を貶めるなんてね」
クスリと笑う彼女は、妖艶な魔女の雰囲気が出ていたが、相手―大柄の男は表情一つ変えずに頷く。
「すべては帝国のためならば」
「本当に面白い話ね、貴方の元主に聞かせたいわ」
「ご容赦を」
「ええ、止めておくわ。『ジンネマン』」
微笑みながら見つめるアイリスに対して、彼―ジンネマンと呼ばれた男は深々と頭を下げた。
「すべては帝国の繁栄のために」
一部の迷いもない宣言に、宰相は満足そうに手を叩いた。
報告が上がったのは、早朝といってもかなり早い時間。まだ朝日が昇ったばかりの政庁執務室には、通信モニターがいくつも開いて、軍上層部の総司令官や参謀、情報関係の主要メンバーなどが顔を見せていた。
「足りない?」
『はい。定期調査のためにハンガーを開けたところ、『RX-0』の数が合いません』
再度の報告に、モニターに映る全員の顔に緊張が走る。
『RX-0』。
元地球連邦から流れてきたデータを基に開発された、新型の技術をつぎ込んだ帝国軍の次世代試作機。という名目で開発されたのだが、一号機から三号機の基礎設計を終えた後に、技術局のロマンが大爆発。
開発ナンバーの変更やら設定を考えてナンバリングを、と上層部があれこれと考えている間に基礎設計を終えた技術局は、他の世界や異世界の技術とかを色々と盛り込んで再設計。
一号機ユニコーンが五機、二号機バンシィが五機、三号機フェネクスが六機の計十六機を開発完了。同じ名前を持っていても、外見だけでも違っているような機体が並んだ後、ようやく軍上層部は事態を把握。
一気に蒼白になってどうしようと考えていたら、天下の免罪符が一緒になって騒いでいたので政庁に丸投げした。
『皇帝陛下の許可はもらったし、途中から開発に加わっていたよ』と言われ、宰相と皇帝代理は盛大に怒声を上げたのでした。
その機体が、足りない。
すべて特殊機体のため専用ハンガーのロックは三重構造。魔法や魔術も使ったロック方式の解除キーを持っているのは、機体の専属パイロットとして登録されている三名と、宰相であるアイリス、皇帝代理のアセイラムの五名のみ。
ロックが解除されたなら記録が残るのだが、どういうわけか記録はない。
「すぐにパイロット達の所在確認を! バナージ・リンクス、リディ・マーセナス、リタ・ベルナルは?!」
『は! 全員の所在確認及び行動は把握しています。すでに政庁に三人とも呼び出しています』
「結構、ならばこの場で話を聞きます。それで、どれが足りないの?」
アイリスの問いに、報告を上げていた者は苦々しい顔で答えを口にした。
『はい、『フェネクス』の四機目です』
話された内容を最後に、通信モニターはすべて消えた。
数分後、執務室には三名のパイロットがイスに座らされ、戸惑いの表情を浮かべていた。
「実は、『RX-0』が一機、行方不明になったの」
アイリスは神妙な顔で告げながら、三人を見回す。
機体が複数あったとしても、パーソナル・データによるロックのため一種につきパイロットは一名のみ。
機密保持の側面からも、パイロットを複数にして盗難・あるいは強奪されないように考えていたのだが。
一号機ユニコーンのパイロットはバナージ。
「まさか、僕たちでさえ最近は触れていないんですよ?」
彼は戸惑いよりも強い反発を浮かべている。
二号機バンシィのパイロットはリディ。
「そもそも、ハンガーのロック解除は記録が残るはずでは?」
彼は戸惑いつつも、ありえないと否定を口にしている。
三号機フェネクスのパイロットはリタ。
彼女は何も話すことなく、俯いていた。
「ええ、そうね。でも、データログはなし。あそこはスタンド・アローンで他とネットワークは繋がっていないから、ネット側からのハッキングの可能性は低い」
「なら、直接のハッキングを? けど、ハンガーは政庁の敷地内、最も厳重な管理体制のある場所ですよね?」
バナージが思い出しつつハンガーの特徴を口にしてくる。それにリディが追加で情報を加える。
「その上、空中散布型のナノマシンセンサーの領域だ。生命体が侵入すれば警報が鳴る。事前に通達しなければならないが、それも政庁からのシグナルを送るしかない」
「そんなに厳重なんですか?」
バナージの驚きに、リディは大きく頷いた後に、『あそこは対軍警戒システム配置の最重要機密エリアだからな』と付け足す。
「そんなところに入れるのは、ハッカーかテレポーターか」
「機械的なシステムはそうでしょうけど、実はあそこには結界が張ってあるのよ。六重次元結晶結界、あれを破るとしたら『対界宝具』か、バスターランチャーを打ち込むしかない」
アイリスは真剣な眼差しを向けたまま、小さく機密情報を口にした。
「なら、なおさなら俺達に疑いが向くのはおかしい話じゃないですか?」
「そうです。俺達三人にはニュータイプ特性はあっても、魔法特性はありません」
バナージ、リディからの否定に、アイリスはそうねと口にしてから、視線を今も俯いて黙っているリタへ向けた。
「足りない、というより存在しないのはフェネクスよ、リタ?」
ギシリと、室内の空気が軋んだ音がした。
まさか、そんなことありえない。
二人の専属パイロットが見つめる先で、最後の一人は俯いたまま顔を上げようとしない。
「正しくは、『フェネクス』四番機」
出された名に、バナージとリディの中で情報が回る。
同じ計画の中だったので、どの機体のどれがどのような技術で設計・構築されているか細かく知っている。
フェネクス四番機、確か技術試験目的は『量子ジャンプ及び武装の遠隔転移実験機』。
三番機目から全機が核融合炉から別の機関へ設計変更、その中でも重力子エンジンへの変更をしたユニコーンとバンシィとは別に、フェネクスの四番機に搭載されたのは、『太陽炉』、あるいは『GNドライブ』と呼ばれるもの。
小型化・高出力化された『GNドライブ』は設計段階から、ツインドライブとして制作され、それを六つ同期させることで二乗ではなく共鳴現象による増大化を図った。
両足に二セットで四基、背中のランドセル部分に一セットの二基による出力は、機体と武装を瞬時に転移させることに成功。
ついでに搭載されたエネルギーフィールド・システムにより、一定範囲内ならば機体からのエネルギー送信が行えて、遠隔操作武装が母機にドッキングせずともエネルギーチャージが出来るようになった。
完成した当初、『おい、強すぎ』と言われたりしたが、パイロットがリタだったので、『女の子の機体か。なら仕方がない』となったが。
それが、存在しない。
使われたフレームも、サイコ・フレームをベースとしたもので、ナノマテリアルによるサイコ・フレームの再現という、凶悪な代物。
下手をすれば、機関が稼働しているかぎり増殖を続けて、機体の損傷も瞬時に再生させるだけではなく、周辺武装も内部データが残っていればその場で構築可能。
『マテリアル』以外の方法で、武装の再生、機体の自己修復できると大いに科学者達が歓喜したのだが。
「リタ、貴方、『フェネクス』四番機、どうにかしたの?」
「いえ、私は」
何とか絞り出した声は、戸惑いと悲しみを含んでおり、消えそうなほど小さかった。
「いいのよ、素直に答えれば罰則はしないわ。そうね、でも、一つだけ言わせてもらえれば・・・・・・・お小遣いが欲しかったなら私に最初に言いなさい、これでも貴方の姉のつもりなんだから」
「ちょっと待て宰相!」
身を乗り出して『どうして私に言わないの』と全身で語る宰相に、リディは思わず突っ込みを入れた。
「お小遣い?! お小遣い欲しさにやったと思っているんですか?!」
「当たり前じゃない! きっと欲しい服が買えなかったのね? あ、もしかして化粧品かしら? 男ができた場合は、私が最初に面接するから」
「止まって! お願いだからそこで止まってください!」
バナージも立ちあがって制止するのだが、アイリスは止まらないで彼らを睨みつける。
「何よ? 女は色々とお金がかかるのよ? ならMSの一機や二十機くらいは売るでしょう?」
「機密の塊を売る理由が小物のため?!」
「どんな理屈でそんなことを考えてるんですか?!」
呆れて嘆くリディに、頭を抱えるバナージ。二人はアイリスに涙目でチラリと目線を向けた後、『あ』と言葉を口にした。
それに対して、アイリスは鋭く刃のような目を一瞬だけ向けて、リタへ視線を投げた。
「さあ! リタ、お姉さんに言ってみなさい。私のポケットマネーで店ごと買ってあげるから!」
「あ、あの、そんなことないです。知らないです」
絞り出すように告げながら、リタは顔を一瞬だけ挙げて、すぐに俯いた。
「隠さなくていいのよ?」
「本当です」
「そう、答えてくれないのね。悲しいわ。私はそんな貴方にこう言うしかない」
最後の願いこめて慈愛の目線を向けるアイリスに、リタは答えずに顔をあげて首を振った。
「解ったわ、リタ・ベルナル。貴方を拘束し罰則します。罰則内容は後日に伝えるので、政庁内部で謹慎を」
アイリスの一言で、執務室のドアが開いて、女性士官が彼女に退席を促す。
「私は・・・・」
「これも必然よ、リタ」
悲しい顔を向けた彼女に、アイリスは小さく微笑んだ。
そこで彼女は、『あ』と小さく口にして、頭を下げた後に退室していった。
ドアが閉まり、少しだけ沈黙が下りてきた部屋の中、盛大に溜息が流れた。
「ああ、しんどい。やっぱり、妹分を騙すのは気が引けるわね」
机に突っ伏す勢いような勢いで、アイリスは椅子へと座りなおした。
「それで、何の茶番だったんですか?」
バナージも椅子へ座り、リディは大げさに両手を広げた。
「ニュータイプ三人を相手に詐欺ですか?」
「あのね、これでも『精神系防壁』は三重にかけて話をしていたのよ? それを目線の一瞬で察する?」
「長い付き合いですから」
軽やかに笑うリディに、アイリスは『そうね』とだけ答えて、合図を出す。
合図に促されるように、ドアがノックされてジンネマンが入ってきた。
「でどころは彼からよ」
「なんで、ジンネマンさんが?」
驚くバナージに対して、彼は重苦しい顔をしたまま、小さく事の顛末を話していく。
最初の件は、リタの人見知りだ。
彼女は転生者だ。帝国にもあまり多くないが、転生者はいる。それも神様がミスしました、あるいはあまりに酷い人生だったから神様がお詫びに転生させました系の。
前世の記憶は曖昧らしいが、覚えているのは人が怖くなったことと、最後の憎しみ、そして和解。
曖昧な記憶だがしっかりと残ってしまい、それから彼女は人が怖くなってしまって、あまり近寄ろうとしなくなっていった。
「そういや、最初の顔合わせから話すようになったのは一か月後くらいか」
思い出して納得したリディに、バナージも当時のことを口にした。
「毎日のように色々と感応したり、距離を測ったりしていましたから」
「苦労したんだよな」
しんみりと語る二人に、アイリスは『それが原因よ』と伝えた。
「彼女の容姿と、その態度で幼子を見守るようになってしまってな」
ジンネマンはそれはそれでいいのかもと告げた後、部隊の空気が一変したことを話し出した。
「幼子のオドオドした態度に過保護が増えて、その後に全員が変な気持になっていった」
「おいおい」
リディが呆れた顔をしたのだが、ジンネマンとしては死活問題だ。
特に彼が、中央四軍の内の一つ、第四軍を預かる身としては。
「で、ジンネマン第四軍司令官の話を受けて、今回の作戦となったわけ」
「具体的にはどういった?」
「リタに懲罰として、社交界とかに連れ回す。荒療治よ」
話された内容に、バナージとリディはどうしてそうなったと言いたくなった。
「だって、あの子のドレス姿、見たことないんだもの」
「完全に宰相の趣味全開ってわけですね」
「それに俺が乗っかった形だ」
「うわぁ」
呆れたような二人に対して、司令官と宰相は『いいじゃないか』と割り切っていた。
「あれ、ちなみに『フェネクス』は?」
「ああ、あれ。本当に飛ばしたわよ」
「は? いやいやあれ一機で艦艇五隻は建造できる資金が回りますよね?!」
意外な事実が発覚して、リディは驚愕して建造費用を口にしていた。
「リタの人見知りが治るなら五億とか十億なんて、安いものよ」
「宰相?!」
きっぱりと言い切るアイリスに対して、バナージとリディは盛大に悲嘆するように叫んだのでした。
ちなみに、何処へ飛ばしたかというと。
「デスティニーの信号をなぞるように、『ぶつかれ』って命令してオート」
「シン、大丈夫かな?」
「強く生きろよ、シン」
あまりにあまりな内容に、バナージとリディは『MIA』中の友人の身を案じたのでした。
ブルリと体中が震えてきた。
何がと思って振り返った先、鬼の形相の知り合いがいて。
「なんでいるのさ、シン!?」
「どうしてここに?!」
シャルロットとセシリアが迫ってくる中、シンは肩に担いだ脚立を持ち直し、両手を上げたのでした。
「あ、俺、ここで用務員やってるから」
「はい?! いや知らないけど!」
「もう一か月も経っていますのに?!」
「連絡しないってどういうこと?!」
「そんなに薄情な人とは思いませんでした!!」
矢継ぎ早に責め立てられ、シンはたまらずに謝るしかなく。
「悪かったよ。俺だってここの仕事を覚えるので忙しくてさ。規則もかなり厳しくて、立ち入り制限の場所も多くて」
「そんなのシンならすぐに覚えそうなのに?」
「あ、俺さ、方向音痴じゃないけど、そういったことにあまり機敏じゃないんだよ」
「意外だね」
シャルロットの言葉に、シンは仕方がないと答えるしかなかった。
元々、彼の立場で言えば立ち入り禁止の場所のほうが少なく、仕事場では入れない場所などなかった。
政庁の中でもフリーパス。時々、ハンガーとか危ないから立ち入り禁止というところはあったが、それでも大半の場所に入れた。
なので、今のように『ここはこの時間は駄目』、『ここは何曜日の何時から何時まで侵入禁止』といった内容は、覚えるのにかなり時間が必要だった。
今もティスが視界内に『ダメ』『そっちは無理』と表示してもらい、やっとIS学園内を歩けるほどだ。
『意外に、そういったところ不器用だよな、お前』とハイネによくからかわれたものだが。
「意外ですわね」
口に手を当てて驚いているセシリアに、『俺だって苦手なものはある』と口の中で言葉を回す。
「で、そっちで驚いているのは、友達?」
「あ、うん、あっちの女性が『篠ノ之・箒』さん」
丁寧に手を差しながら紹介してくれたのは、あの束の妹。
気の強そうなポニーテールの少女は、小さく会釈してくれた。
どうも、とシンも会釈を返した後、セシリアがもう一人の『男性』を紹介してくれた。
「こちらが織斑・一夏さんですわ」
「よろしく。へぇ~IS学園に男の用務員さんもいたんだ」
気安く手を差し伸べてくる彼に、シンも親しみやすい笑顔で答える。
「シン・アスカだ。よろしく。シンって呼んでくれよ」
「なら、俺も一夏って呼んでくれ。良かったよ、男は俺一人かなって思っていたんだ」
「女子高みたいな所だからな。ま、何かあったら言ってくれ、それなりに手伝ってやるよ」
「助かるよ」
二人はそういって手を握り合った。これが二人の最初の出会いであり、後に色々と厄介事が始まった瞬間でもあった。
特に朴念仁に振り回されるシンの苦難は、ここから始まったともいえる。
後にティスは語る。
『シンって安請け合いが多くなったよね』と。
世の中、理不尽なことは多い。
何がっていっても色々あるけど。
信頼とか信用が最も理不尽なことになることが多いんだが。
なんだろ、俺ってやっぱり呪われているのかな?
は? ティス、お前ね。
『あの神帝の弟子ならば当然』って、厭味だろうが。