クリスマスが終われば、すぐに正月。
世間一般的にはそれであっているんだよな。
けどさ、俺たちにとってクリスマスは休みだけど、正月は決戦って意味合いが強かったよな。
あ、うん、何時ものことさ、ティス。
俺の師匠ってなんであんな馬鹿なんだろうな。
泣いてないよ、ティス。俺はまだ泣いてない。
元旦。
一年の始まりの日、あるいは一年の計画を決める大切な日。
それはここ―ジョーカー銀河帝国にとっても、同じこと。
時間は12月31日の22時を回った頃、シン・アスカは今日の業務を終了させた後で、席を立ちあがった。
「あ、お疲れシン、今日はもう終わり?」
「スザクさん、お疲れ様・・・・・です?」
背後からかけられた声に振り返り、挨拶を告げようとしてシンは自身の視界が悪くなったのを感じた。
枢木・スザクといえば、真面目で実直で優しい好青年だったはずだ。任務にも忠実で、『ヴィルティラス』の二枚看板と呼ばれるほど強い。
射撃もできるのに、近接も無双できる特殊な人材でありながら、身体能力もかなり高い。
真面目なのだが、ユーモアには付き合ってくれるほどに優しい青年だったはずなのにだ。
「任務ですか?」
きっと目の錯覚か、あるいは特殊な任務でも請け負ったのだろう、と思い込むような、祈るような気持ちで質問をしてみた。
「あ、解る? なんだか、この『処刑人の格好』で明日の朝十時まで待機するんだって」
全身をすっぽりと覆った黒マントに、明かに模造ではない真剣な大鎌を持った彼は、ちょっと嬉しそうに全身を大きく見せた後に、クルリと一回りしてみた。
「なんだか、楽しくなってきたよ、シン」
「あ、はい」
ヤバいと感じる自分がいる。明らかに何時ものテンションではない彼は、かなり楽しそうな声をしていた。
自分も尊敬する人であり、近接技能の訓練もしてくれた相手が妙な性癖に目覚める前に、何かしらの忠告をするべきではないだろうか。
「ここにいたのか、スザク。シンも仕事が終わったのか?」
別の方向からの声に、シンは『救いが来た』と内心で喜んでいた。
声の主は刹那・F・セイエイ。『ヴィルティラス』の二枚看板のもう一人、近接特化、というよりは射撃戦の距離も、『近接だ』の一言で駆け抜ける騎士。
砲弾も空間も切れるのではと言われるほどの人物であり、真面目一辺倒で他人に対して苦言を容赦なく突きつけられる人でも有る。
この人ならばと振り返ったシンの視界に、やはり黒い物体が映った。
「待たせちゃったかな?」
「いや、俺も着替え終わったばかりだ。しかし、この格好は」
「そうなんだよね」
二人して声が沈んだ。やはり、無理やりにテンションを上げていただけか。あの二人のことだ。任務だからと自分を律して、あえて楽しいと装っていたのだろう。
自分も見習わなければとシンが、自らの未熟を痛感している時。
「なぜか心が躍るな。いや、高ぶると言った方がいいか」
「だよね! 刹那も解ってくれるよね!」
「ああ! スザク! 俺は何故かこの鎌を振り回したくなった!」
「僕もだよ! 刹那!!」
瞬間、シン・アスカは自分の中の理想が崩れ落ちるのを感じたという。
その後、全身を黒一色で覆った二人組が政庁をスキップして歩いている姿があったとか、なかったとか。
頭痛がしてくるような一夜が明けて、一月一日。
午前八時を回ったころ、すべての家庭が居間のテレビの前に集まっていた。
政務に無頓着な皇帝であっても、新年の挨拶は必ず行う。
というよりも、宰相のアイリスと皇帝代理のアセイラムが、『首に縄つけてでも引っ張ってくる』と言っていたので、新年の挨拶は今まで一度たりとも皇帝がやらなかった年はなかった。
しかし、だ。挨拶をするのと、『真面目に行う』のがイコールで結ばれないのがジョーカー銀河帝国の悲しいところ。
「・・・・・今年は真面目にやってくれると思う、お兄ちゃん?」
「あのテラさんが? 銀河が破裂してもない」
テレビの前のソファーに二人で並んで座ったシンとマユは、そこで深々と溜息をついた。
「確か、去年は『俺に挨拶させたいなら捕まえろ!』って逃亡したよね?」
「その前は、『銀河が俺を呼んでいるぜ!』とか言って、マイク片手に亜光速移動してたな」
「だね」
毎年毎年、彼は何かやらないと気がすまないらしく、馬鹿げたことをやって新年の挨拶を行っていた。
『じゃ、みんな、元気に楽しく自分らしく生きろ』、と挨拶は何時もと変わらないのだが、中身が毎年毎年と変わっているため、誰もが『あ、今回はこんな馬鹿げたことやったんだ』と新鮮な気持ちで見ていた。
しかし、だ。今回の放送は違っていた。
一定の警告音のようなものが流れ、『これは演習ではない』と何度も繰り返しての警告が流れた後、映像が帝国国民全員の視界に飛び込んできた。
「は?」
シン、無意識に『天壌無窮』を取り出してしまった。
隣ではマユが臨戦態勢で銃と剣を持っている。
さらに後ろでは両親までもが武器を持ち上げるくらいに、目の前の光景はあり得ないものだった。
漆黒の二人のカマを持った男、その中心にいるのは膝をついて縛られた皇帝陛下。さらに画面が後ろに下がっていき、そこが『断頭台』だと解ると、全員が殺気だった。
馬鹿でアホで、どうしょうもないほどの非常識だとはいえ、皇帝。信じられないかもしれないが、国民からの支持はかなり高い。
困った時は皇帝に丸投げすれば、何とかしてくれる。今まで彼がどうにかできない問題はないため、国民は誰もが『皇帝陛下がいれば、大丈夫』と思っている。
その彼が断頭台に上げられ、左右に処刑人がいる。
丁度、見上げるようなアングルで撮られた映像に、誰もが『誰だ、これを考えた奴は、殺してやる』と殺気を浮かべていた。
緊張度はピークを越えて、爆発してもおかしくないレベルまで上がった時、音声が流れた。
『くくくくく、俺を捕まえても海賊の時代は終わらねぇ』
「はい?」
全員、何を言っているだこいつという目線で画像の中の馬鹿を見つめる。
『俺の宝? そんなものが欲しいのか?』
いや、誰も何も言っていないのだが。
『そうかそうか、いいだろう、くれてやる』
何の話だかわからない、誰もが近場にいる人たちと目線を合わせている様子が、帝国のいたるところで見られた。
『探せ! この世のすべてをそこに置いてきた!!』
そして、最後にテラの高笑いで映像は終わった。
「・・・・・・・ぶっ飛んでんなぁ」
「え、え、えええ?! なにこの新年の挨拶!?」
呆れて剣をしまうシンと、未だに状況が把握できないマユ。帝国中で同じように様々な人が困惑している中で、映像は再び配信された。
『三が日の間に俺の宝を見つけられた奴に! 褒美をあげよう!』
何の話なんだか、と呆れている全員の耳に、信じられない言葉が飛び込むことになる。
『それは! 『俺ことテラ・エーテルへの絶対命令権』だ!!!』
「・・・・・・はぁぁぁぁぁぁ?!」
瞬間、帝国が揺れた、と後の歴史書に記されることになる事件は、こうして幕を上げたのでした。
『ちょ?! テラ! 僕らは聞いてないよ!』
『なんだその『クーデーター上等』という文字は?!』
『テラぁぁ!! この馬鹿夫ぉぉ!! 何をしてくれてるのよ!?』
『アイリス! 今は放送中です! ハンマーは不味いでしょう!』
慌てるスザクと刹那、飛びこんでハンマーを振りかざすアイリスに、止めようとするアセイラム。
画面の中は大混乱の様子を映し出したのち、『しばらくお待ち下さい』と文字が流れ、やがて『これにて新年の放送を終わります』と文字が躍った後に、通常の画面となった。
シンは、そのテレビを見た後にゆっくりと立ち上がり、通信機を持ち上げる。
「はい、部隊長」
『非常招集だ!』
「ええ、鎮圧ですよね?」
『違う! 宝を見つけ出せ!』
珍しく慌てているような焦っているようなエイルンに、シンは相手が何を言っているか理解できなかった。
『命令権があれば今後、俺たちに見合やら偽装デートや偽装恋人といった任務が来ないようにできる』
「すぐに全力で動きます!」
『頼むぞ! 『ヴィルティラス』の任務はすべて中止! 宝の捜索が第一だ!』
『了解!』
通信を閉じて、シンはすぐに全力で動きだした。
後の歴史家は語る。
『あの時の事件は、後の帝国史を紐解いたとしても、屈指の馬鹿騒ぎであったように見えるが、実は帝国においてはあのようなバカ騒ぎは日常茶飯事であり、特筆すべきものではない。しかし、後にも先にも軍や警察、情報局、政府はもちろん、騎士団さえも入り乱れた大乱闘は、この一件だけである。しかし、初代皇帝の聡明さを語る上では、今回の一件は決して外せないものだろう。彼の深淵のような知略と、狡猾なまでの思考の一端はここにある。自分を餌にすることで、帝国中の戦力を動かし、周辺国に無言の圧力を与えることで、後に銀河系すべてを支配下におく帝国に発展させたのだから』。
多くの歴史学者が同一の見解を示すのだが、当時の皇帝の巫女『ホシノ・ルリ』の私的な記録にはこう記されている。
『テラさんは、『ワ●ピース』を読んだ後に思いついて、『是非、『ル●ィ』か『ゴー●ド・ロ●ャー』に弟子入りしたい』と言っていました。だからやったんでしょうね。はぁ』。
歴史とは勝者が書き残すもの、敗者に都合のいいものが残るわけがないのだが、勝者だからといって真面目に残るものではないらしい。
とはいえ、今は現代の混乱を見てみよう。
「でぇぇぇ?! なんでレッド・ミラージュが総出でいるんですか?!」
「あそこに隠してあるのね! 『テンプル騎士団』! 総員突撃!」
「ちょ?! アイリスさん!」
「宝は私が貰います! 『遊星騎士団』! 突撃しなさい!」
「アセイラムさんまで!? こんな狭い惑星上に騎士団が勢ぞろいしたら、星が砕けますよ!」
必死に説得するシンに向けて、無慈悲な騎士団は次々に突撃してくる。
「あ・・・ああもう! ティス!!」
『御意! 我が主シン・アスカ! もうヤケクソだぁぁぁ!!』
瞬時にデスティニー出現。
背中の七色の翼を広げ、両手に特殊な剣を引き抜く。
高次元結晶を剣身に使用した対艦刀『ウロボロス』。世界さえ飲みつくし、焼き尽くし、運命のすべてを破壊する願いを込めた、最悪の剣。
使用された結晶の性質と、魔法的な刻印による相乗効果により、その剣は切った者を燃やし尽くすか、あるいは凍りつかせて砕く。
『そこをどけ! 『凍焔の鬼神』!!』
「どかして見せろよ!!」
砲弾を斬り捨て、銃弾の雨の中を光速で飛び回り、相手に接近。右手の剣を叩きつけて武装を灰へと変えた後、相手の下半身を凍結・粉砕。
『く! 『ヴィルティラス』が命令違反か!』
「うるさい! あれを手に入れたら命令違反もなにもないだろうが!」
遠距離からの攻撃、全十二機のGビットも合わせたツイン・サテライト・キャノンの一斉射。
ちょっとした要塞ならば塵も残らないほどの攻撃を、シン・アスカは両手の剣の一閃で消し去る。
『やはり厄介だな! デスティニーの名は伊達ではないか!』
『僕が行きます!』
『合わせるぞ! バナージ!』
『はい! リタも行けるな!』
『うん!』
亜光速で飛び込んでくる影は、『RX-0』が三機。すべて計画の最終機体は膨大なエネルギーを放出しながら変形。
「は! その程度の反応速度でよくも言えるな!」
三対一の光速戦闘、数の不利も物ともしない。相手の射撃武器を封じ、砲弾やエネルギー弾を叩き落とし、次々に武器だけを破壊していくシンの姿に、バナージ達は『凍焔の鬼神』の強さを実感した。
普段は優しくて温和な彼だが、一度でも戦場に立てば『一騎当千』。一兵士が『一騎当千』と呼ばれる帝国において、精鋭中の精鋭『ヴィルティラス』の『切り札』。
帝国内で唯一、理不尽の象徴の皇帝を止められる彼は、その後も次々に迫りくる敵を退け、誰一人たりとも通さなかった。
「どうした?! 俺を倒すんじゃなかったのかぁ?!」
全身が傷だらけになりながら、二つの剣にはヒビ一つ入っていないデスティニーは、かなりの凄味を持って周辺を凍りつかせていた。
物理的に凍結しているわけではない、魔法を使用したわけでもない。けれど誰もが動けずにデスティニーを前に固まっていた。
これが『凍焔の鬼神』の実力、間違いなくトップ・エースに君臨する彼に勝ちたいと誰もが考えている中、無情な一言が告げられた。
『はい、三が日終了』
「・・・・ああああ?!」
瞬間、シン・アスカは自分の愚かさを呪ったのでした。
こうして、帝国の新年早々の馬鹿騒ぎは幕を下ろした。
皇帝は帝国を混乱させた罪により、二日間ほど政庁の屋上から吊るされていたという。
一方、シン・アスカはというと。
三日ほど、『ヴィルティラス』全員から『生暖かい目』で見つめられ続けたのでした。
「うん、俺が悪いんですよね」
「おまえがまさか、バトルジャンキーだとは思わなかったよ。ま、その気はあったけどな」
ニコニコ笑顔のハイネに見つめられ、シンはさらに落ち込むのでした。
俺って何時から、あんなに一定以上の戦いになるとハイテンションになるようになったのかな?
最初の頃はそうでもなかったはずなんだが。
え、ティスは知っているのか?
教えてくれ。
あ、そうか、そうだよな。
テラさんも、そうだったから俺もそうなるってことか。
嘘だろ、おい。