昔、俺が最初に入ったのは帝国軍だったな。
師匠がテラさんだから、会った人達は全員が『よく耐えたな』って泣いていたけど。
そうだよなぁ、泣くよな。
ティス、大丈夫だって。
もういい思い出だから。
テラさんの帝国軍の訓練って、『エア』をぶっ放すか、眷獣十二体の総攻撃か、宝具の雨かって選択肢なんだよな。
震えてないぞ、ティス。俺も耐性ができた、みたいだな。
あれ、世界が揺れているけど、何だろう?
フェネクスの件が片付き、学園は一応の平穏を得た。
学生たちにしてみればフェネクスのことなど知らず、未知のISの襲撃を受けて一夏が見事に撃退した、という認識でしかないだろうが。
誰にも悟られず、人知れず問題を解決するのが『ヴィルティラス』だから、シンとしては当たり前のことなので、称賛なんてものに興味はない。
誰からも感謝されることもなく、影日向に活躍するのが騎士だとも教えられているから、今日も何時も通りに動いていた。
織斑・千冬から、『説明しろ』と色々といわれたが、機密情報が多いため話せないので素直に頭を下げておいた。
彼女も何かを察したらしく、『解った』と言ってくれたのだが。
代わりに何か頼まれないかビクビクしていたが、彼女は特に何を言うこともなく見逃してくれた。
「それが怖い」
『うん、怖い』
ティスと二人で軽く震えるシンだった。
唐突だが、軍人とはなんだろう。
軍人、軍隊に所属する人たち。武器を持つ者達。
色々な言われた方をするだろうが、シン・アスカにとって軍人とは帝国軍人たちを示す。
規律を重んじる、鍛え上げた肉体と技術を誇り、鋼鉄の意思で規範を示す者達。
職業軍人ではない、軍人という生き方を選んだ者達の集団。
命令を冷徹に遂行する、鋼の絆で結ばれた一つの集団は、全軍が動いた場合は集団ではなく『一つの生命体』のように淀みなく迷いなく作戦目標を達成していく。
その一方で、軍務でなければ気さくで陽気で、とても気のいい連中だったのを覚えている。
武力を持つからこそ、武器を持つからこそ、自らを律して過ごす。周りの恐怖が解るからこそ、普段は陽気に人間らしく過ごす。
ジョーカー銀河帝国軍の軍人とは、そういった人たちだったのだが。
「はぁ? 殴られた」
「で、投げ飛ばした」
「いや、それは正当防衛だろうが」
何時もと変わらない放課後―と思いたいが、そうでもないらしい夕方の時間に、シンは花壇の整備を終えたところで一夏に深々と頭を下げられた。
何がどうなってと理由を問いだたしても、『俺はやってはいけないことまたした』とだけしか言わない。
潔いと褒めるところなのだろうが、あまりに潔過ぎて何のことか解らないので困惑していると、シャルロットが説明してくれた。
転校生が来た、軍隊に所属している軍人らしく、織斑・千冬に尊敬を向けていた。あれは崇拝に近いらしい。受け答えが軍人そのもので、自己紹介が終わって席に着く途中で一夏のところで立ち止まり。
『私はおまえを認めない』と言われて頬に一発貰った。
「で、気がついたら投げ飛ばしていたってわけか」
「なんだか一夏って、そういうの多くない?」
リンが横から口を挟むが、当人としては困惑していた。
彼自身も、自分が意識が薄くなって体が勝手に動いている自覚はあるらしいが、どうやって止めていいか解らないらしい。
「ゴーレムの戦の時は特に顕著だったが」
箒の言葉に誰もがあの一戦を思い出した。まるで別人のようにISを操って、一刀で苦戦していた敵を倒したのは、幻を見ているようだった、と。
「俺、病気なのかな?」
「いや、それはないな。きっと特訓の成果が先に体に現れたんだろう。よくあることだ」
「あるのか?!」
驚いてシンを見てくる一夏に対して、彼は大きく頷いて手に持っていたスコップをバケツに入れた。
「徹底的に攻撃して覚えさせたろ? それが体に馴染んで、条件反射を上書きしたんだな。後は、毎日の訓練を続けていけば心のほうも付いてくるさ」
「本当なのか?」
少し疑いの目線を向ける一夏に、シンは自分を指差してこう答えた。
「見本がここにいる」
瞬間、誰もが眼を見開いて驚いた顔をしていたが。
「で、そいつはどうしたんだ?」
「保健室で寝ている」
「は?」
今度はシンが驚いた顔を向ける番だった。マジかと小さく呟いた彼は、片手で顔を覆った後に、一夏へ目線を向けた。
「やり過ぎだ、途中で手加減してやれよ」
「したんだよ」
「なるほどな」
手加減して保健室行き、これは本格的に『織斑・一夏』は覚醒に向かっているというわけか。
だとすると、その『転校生』は奇跡的に助かったわけか。もし本当に彼が覚醒していたなら、今頃は墓の中という可能性もある。
「よっし、一夏。これからは精神的な試練をやるからな」
「い?! い、今よりきつくなるのか?」
恐る恐ると問いかける彼に対して、シン・アスカはとてもいい笑顔で答えるのでした。
「え、まだ十分の一もやってないぞ」
「あれで?! ちょっと待ってくれシン! 俺はもういっぱいいっぱいで」
「恥じない人間になるんだよな? まさか、おまえの姉が『あの程度の強さで示せる人物』だなんて言わないよな?」
とても寒気のする目線が一夏を貫く。
周りのシャルロット、セシリア、箒、リンは気づかないのだが、織斑・一夏はこの『寒気』を深く理解してしまう。
これはシン・アスカの実力の一端だろう。実力が上がってきた今の一夏だからこそ、深く理解をして余計に寒く感じてしまう。
まるで魂さえ凍らせるような、『殺気』。裸で極寒の大地に放り出されたように、全身の感覚が無くなっていく。
「い、いや」
何とか絞り出して答える一夏に、周りは怪訝な顔を向ける。
「なら、もっと強くなれよ。まだまだ教えてやれることはあるんだからな。特にだ、ゴーレムの時、俺を『頼ろうとした』な?」
一夏は痛いところを突かれ、全身が余計に寒く感じてしまう。
「相手の実力を正確に把握して対処する。相手が格上だったとしても、いくらでもやりようはあるのに、他人に丸投げする。まったく、精神的に弱い証拠だ」
「けど、誰だってあるだろ?」
迂闊に反論してしまった。一夏はしまったと内心で思うのだが、次の瞬間には手足が『凍って砕け散った』ような錯覚を覚えた。
「誰だって? そんなのは言い訳でしかない。あの時、『少しでも下がろうと考えたおまえの弱さ』は、『おまえ自身の可能性を閉ざすだけ』だ。二度と思うな」
「解ったよ」
何とか絞り出すように、一夏は答えて息を吐く。
本当に息が白く見えるから、彼の『殺気』は極寒の冷気に等しいらしい。
「解ればいいさ。さてと、俺は次は整備室のほうを点検してくるから、先に訓練場に行っていてくれ」
シンは置いてあったバケツを持ち上げ、何事もなかったかのように歩いていく。
背中を見送った一夏は、ホッと息を吐いた。
「あいつって、あんなに怖い奴だったんだな」
「今頃になって気づいたの?」
「明らかに危機意識が足りませんわね」
呆れた顔のシャルロットと、ちょっとだけ肩をさすっているセシリア。
一方で、箒とリンは何の話ときょとんとした顔をしていた。
これが明確な実力の差、彼の気配の変化が解るかどうかが、そのまま各人の実力の差になっていた。
アリーナに併設されたように配置されている整備室は、様々なISが置かれている場所でもある。
専用機はさすがに厳重な監視体制と警戒システムの管理下におかれているが、他の一般生徒が使うISはハンガーに固定されたままだ。
放課後ともなればISを使った自主練習に使用されるため、空いているハンガーがほとんどで、機体が固定されているハンガーはほとんどない。
けれど、すべてが空いているわけではない。
一つのハンガーは、ずっと機体が固定されたままだ。
『む、前に見た時より進んでいる。関心感心』
隣でティスが大きく頷いているので、なんで上から目線なのだろうと呆れてしまう。
装甲を外され、ハンガーに固定された機体は、まだまだ未完成品。整備されているわけでもなく、未完成の機体を引き取って組み上げている途中のようだ。
前に見たとき、『学生が作るのか、凄いな』と眺めていたのだが。
今日はその凄い学生がいるみたいだ。
モニターを見つめている少女が、小さく頭を振った。丁度、シンが見つめていたところだったので、目線が彼女と合う。
「何?」
「あ、いや、凄いなって。一人で組んでいるのか?」
「そう」
言葉は少ない、眼鏡をかけた少女に対して、シンはどう言葉を返そうかと考えて、機体へと視線を向ける。
「ISって作るの難しいんだろ? それを一人で組み上げるなんてすごいって思うよ。本当に」
「別に。前にやった人がいる」
そっけない言葉の中に、冷たく黒い感情が乗る。嫉妬か嫌悪の類か、組み上げた人物は彼女にとって、『嫌いになる』存在らしい。
「へぇ、凄い人がいたんだな・・・・・って束もそうか」
「篠ノ之博士じゃない」
即答で否定された。では、誰なのだろう。確か束も一人で組み上げたのではなかっただろうか。
最初のISは彼女が学生の時に組み上げ、発表会で笑い物にされたのでお蔵入りにしようとしたら、『ミサイルが偶然に降り注いで大騒ぎになった』ので織斑・千冬が使用して迎撃したらしいのだが。
どうにも裏がありそうな話だが、今は関係ない。
「他って、誰かいたのか?」
「更識・楯無生徒会長」
ギュッと、彼女が何かを堪えて言葉を紡いだ。
彼女のことが嫌いなのか。どういう理由で、何が原因でと考えるシンの脳裏に彼女の顔が浮かんで、目の前の少女と重なる。
「ひょっとして、妹か?」
キッと睨みつけられた。図星か。ということは、姉が優秀すぎて比べられたので、それが次第に負担から嫌悪になって憎しみになった、と。
なんだこの複雑怪奇な話は。いくら姉妹とはいえ、姉は姉、妹は妹だろうに。
「貴方は、シン・アスカ?」
「あ、ああ。そうだよ。よく知っているな」
「有名だから。生徒会長を倒した、ISに乗らない最強の用務員」
話の内容がガラリと変わって、次に出てきた話題にシンは頭を抱えたくなった。なんだその痛い言葉は、最強の用務員ってどういうことだ。
弱いつもりはないが、最強なんて名乗れるほどに自分は強くない。仲間内での勝率だってやっと七割に届くかどうかなのに。
「貴方はどうしてそんなに強いの?」
「俺は強くないよ。そんなに強いつもりもない」
「嘘つき、貴方は生徒会長を破った。なら、学園で最強は貴方。それは十分に強い」
「状況が良かったから、勝てただけさ。次にやったら、簡単にはいかないだろうな」
楯無だって対策くらいは建ててくるだろう。次に同じ条件でやったら、簡単には勝たせてくれるわけがない。
「どうしてそんなに強くなったの?」
真っ直ぐに見詰めてくる瞳は、嘘は許さないと言っていた。
だから、シン・アスカは真面目に答える。
「昔さ、俺は目の前で家族を失いかけた。本当に、あっさりと手から零れ落ちるように」
紛争の最中に飛び込んでしまったこと。逃げ遅れたのは、戦争の怖さで動けなかった自分の所為で、家族はそれに巻き込まれて爆撃の被害にあった。
偶然、自分だけが範囲外に飛ばされて助かった。全身が痛くて泣いて起き上がって、そこで家族が血だらけで転がっているのを見てしまって。
「悔しかった。自分が臆病で弱かったから、家族を殺してしまった。そう思った。情けなくて苦しくて、でもどうにもできない時に師匠に会った」
「貴方の師匠?」
「ああ、凄い人だよ」
偶然に通りかかったあの人が助けてくれたから、今も家族は笑顔で過ごしている。当時のことは、全員から『気にするな。助かったことだから、大丈夫だ』と言われているが、今も心の何処かに残っている。
「その恐怖が、今の俺の背中にある」
「背中に恐怖が?」
「俺が足を止めたら、あの苦しさを誰かが味わうかもしれない。俺が止まったら、助けられる命が失われるかもしれない。だから、その恐怖が俺を前に押し出す」
進め、止まるな、前に出ろ。あの時の悔しさと怖さが、シン・アスカを前に前にと押し続ける。
無力で泣いていた自分の姿が、『もう二度と嫌だ』と語り続けるから、止まらずに前に突き進む。
「そんなことがあるのに、貴方は笑っていられるの?」
「笑っているさ。これは俺だけの悔しさで、他人に見せつけるものじゃない。それにさ、俺は騎士になれと言われた。騎士って言うのはさ」
晴れやかに笑う、何も心配ないと、自分がいるから大丈夫だと全身で語るように。
「誰かの重荷になるものじゃない。誰かの勇気になるものだから。俺はそう教えられたから、そういって頼もしい背中を見続けてきたから、だから俺もそうありたい」
砕け散るその瞬間まで、死んだあとでも誰かの勇気になれるように。誰かを支えられるように。
「強いね」
「誰だって強くなれるさ。過去は絶対に変えられない、ならそれをどうやって自分の『糧』にするかは、その人次第だからな。現在と未来はどうとでもなる。そうだ、名前、教えてくれよ」
「更識・簪」
小さく名乗る少女に、シンは相手の名前を呼ぼうとして、言葉を止めた。
彼女は楯無の影に怯えている。姉と比べられて怖がっている。ならば『楯無』と呼ばない方がいいか。
「ありがと、よろしくな、簪」
「あ・・・・名前で呼んでくれたの」
「俺は知り合いに二人にいるからな、どっちも『更識』じゃ混乱するだろ。だからさ、簪は簪、楯無は楯無だ」
姉妹とはいえ、別々の人間なのだから、違っていていい。優劣なんて決めるべきじゃない。人間は一人一人が違っているからこそ、社会を形成して相手を尊重して生きているのだから。
小さな言葉に込めた思いは、彼女に届くか解らない。でも込めることは大切だと教えられたから。
「ありがと、シン」
「どういたしまして・・・・つ」
笑顔を浮かべる彼女に笑いかけたシンは、唐突に顔を訓練場に、アリーナへと向けた。
次の瞬間、轟音が響いた。
「悪い簪! 話はまた後で!」
「うん!」
いい置いて、彼はすぐさま走りだした。
殺気に敏感になるのは、いいことなのか、悪いことなのか。
一夏は『雪片』を振り抜いた姿勢のまま、静かに顔を向けた。
「何のつもりだ?」
視線は鋭く相手を睨みながら、全身の力を抜いていく。余分な力は反射神経を鈍らせる、余計な体力を消費して持久戦になった時に自分の首を絞めるだけだ。
全身に力を巡らせて、緊張を適度に保ったまま、自然体で動く。
「ほう、斬ったか。さすが、私を投げ飛ばしただけはある」
上から見下したような目線。ニヤニヤと気持ち悪い笑み。まるで子供をいたぶるような態度に、一夏の精神が波立つ。
「何のつもりだって聞いているんだ」
「訓練さ。お前達は訓練をしているのだろう? なら私が教えてやろうと思ってな」
「何をだ?」
質問しながら、視線を僅かに動かす。視界の中に相手を収めたまま、視界の隅を使って周辺を探る。
セシリアとリンはアリーナの隅にいる。それぞれのISの武装について話をしていたから、距離が開いている。こちらに近づいてくる途中だから、片手を振って止める。
箒とシャルロットはハンガーだ。ISのエネルギーチャージに戻ったところだったから、巻き込むことはない。
ならば、目の前の相手に集中するか。
「本当の戦場というものを、だ!!」
レールガンが来る。そう思った瞬間に右手をはね上げた。大口径のレールガンは衝撃音だけ残して、アリーナの上空へ。爆発が空を染め上げ、衝撃波が地上へと叩きつけられる。
「面白い! ならば次はどうだ!」
続いてワイヤーか。ご丁寧にワイヤーの先に刃までついている。思考制御かもしれないが、これだけの数を同時操作できるものなのか。
セシリアでさえ、ビットの六つ同時操作は大変だと言っていたのに。大変だが、『できないかどうかは別』らしいので回避を。
「避けるか! しかし避けてばかりでは私を倒せないぞ!」
興奮しているのか。先ほどから叫んでばかりの相手-ラウラを一瞥した一夏は、低く身を落として地面を蹴った。
「は?」
「遅い」
一閃、ワイヤーとレールガンすべてを切断。返す刃で相手の首を、と考えている途中で体を止める。
「貴様ぁ!!」
相手の手刀が来る。エネルギー反応あり、特殊な攻撃か。僅かに半身を引いてギリギリで回避した後、柄尻を相手の鳩尾へ。
命中。ラウラの体が折れるところへ、首筋に一撃を入れて気絶させれば。
「舐めるな!!」
彼女の上半身が上がる。瞬間、一夏は背筋がゾクリとしたのを感じた。
退避、全力で。地面を蹴とばすと同時に瞬時加速開始、左右別々の同時作動で二倍。さらに全身の筋肉も使った作用で、距離を稼ぐ。
「避けただと? 貴様、私の『停止結界』を知っているのか?」
「何となく嫌な予感がしただけだ。ISの機能に対しての能力だな?」
「どうして知っている?」
「さてな」
ラウラの鋭い視線に対して、一夏はとぼけているのだが。
言えない。ハイパーセンサーの隅に『ISの機能に対して作用を施すから注意。バイ、ティスだよ~~』とか表示さているなんて。
誰だ、ティスとは。いや知っているような気がするが、自己紹介されたことなんてない。
気配は知っているような、シンと一緒にいた『ふわふわ』はこの子のことか。
そもそも、何故こっちの機体にアクセスできる。どうやって通信コードを入手したのか。
「貴様、私を馬鹿にするのか」
「してないけど、先に手を出したのはそっちだろ?」
「ふん、弱い連中が群れをなして吼えているから、教えてやろうと思ったまでだ」
「戦場を、か? ここは平和な学園だ。戦場じゃない」
「ISを使っているのにか?」
「ISは兵器じゃない」
これは元々、一人の少女が宇宙を目指すために作ったものだ。純粋に、あの空の向こうに。無限の宇宙に行くために。
だから兵器ではない。
「いいや、これは兵器だ。それをファッションか何かと勘違いしているような、この学園の生徒には反吐が出る」
「ファッションで言いじゃないか。平和な証拠だ。誰もが傷つかない、平穏な世界の証明だ」
「ふざけるな。この世界は、平穏ではない。そんなものは幻だ」
「違う。世界は、色々な人が話し合って平穏を続けようとしている。おまえこそ、何を他人に強要しているんだ?」
「ふざけるな。そんな幻想なんて意味がない。私が教えてやる」
くる。停止結界か。厄介だ。作用範囲は、これも解る。『ティアが教えるよ』と表示されるが、正直に言えば怪しい気もするが今は信じよう。
「お前達は堕落した馬鹿どもだということを!」
「自分達は不幸だと自己陶酔している奴に言われたくない」
「言ったな!!」
両手にエネルギー反応増大、続いて停止結界も全力で来るか。
ならばと一夏も『零落白夜』を発動する。相手を斬りつける瞬間に叩きつけて、相手のISのエネルギーをゼロにしてやる。
二機は一直線に相手を叩き潰すために突き進み、叩き伏せられた。
「な?!」
ラウラ、地面にめり込んで身動きを封じられる。
「う?!」
地面にぶつかる寸前で雪片を離して、両手を叩きつけて体制を戻す。
「お、訓練の成果が出てるな、一夏。いい反応だ」
「シン?」
「随分と派手な花火があったみたいで、思わず駆け付けた。で、どういう状況だこれは?」
散歩に来ました、といった様子で彼はアリーナの地面に立っていた。
「貴様! 用務員が何の用だ?!」
「何の用って、アリーナであれだけ派手な攻撃したら、気になって見に来るだろうが。その前に、だ」
地面に埋まったまま顔だけ上げたラウラに向けて、シンは視線を向けて微笑む。
「おまえ軍人なんだって?」
「そうだ。私は軍人だ。ここにいる連中とは違う、プロだ」
「へぇ~~~嘘つくなよ」
轟音が、周囲を揺らした。
シンの右拳がラウラの顔面の寸前を通って、地面に大きな穴を開けていた。アリーナの地面も盛大に揺れて、大きなクレーターになっていたりするが、誰もがそれを気にしていられない。
「嘘つくな、おまえが軍人? プロ? 個人の感情で暴力を振るって個人的事情で武器を使ったおまえが、軍人?」
拳をゆっくりと地面から引き抜いたシンは、とても冷たい笑顔でラウラを見下ろしていた。
「謝れよ。世界中の軍人たちに、謝れ。『嘘ついてすみません、私は軍人達の矜持に泥を塗りました』って」
ゆっくりとシンは拳を開いていく。一本一本を開いた指は、再び折られていく。まるで力を込めるように握り締めた拳は、彼の怒りを語っているようで。
「どうした? 謝れよ。謝れって言って・・・・」
「シン・アスカ、そこまでだ」
不意な声がして、アリーナにもう一人の乱入者が足を踏む入れた。
「織斑先生」
「すまないが、この場は私に預けてくれないか?」
スーツ姿で武器を持っていないが、腕を組まずに両手を握っている姿から、『もし続けるなら私が相手になる』と語っていた。
「・・・・解りました。預けます。でも、次にこいつが軍人を名乗ったら容赦しません」
「解っている」
溜息交じりに告げる千冬に、シンは一礼してアリーナから去っていく。
「まったく、お前達は。『あいつを本気で怒らせたらどうなるか、よく理解しているんじゃないのか』?」
全身から力を抜いた彼女の言葉に、誰もが小さく首を振ったのでした。
ただ一人、ラウラ以外は、だが。
彼女は悔しそうに、まるで憎しみすべてをぶつけるように、シンが出て行った扉を睨んでいた。
なんであんなことになったのやら。
軍人ってもっと立派な人たちのことだぞ、それをあんなガキがいいように行って。
本当、ブライトさんとか、アムロさんとかの爪の垢でも煎じて飲ませてやろうかな。
いや待った。軍人の模範っていえば、ヤンさんかな。
シャアさんも軍人としては立派だし。ジェレミアさんも立派だったなぁ。
どうした、ティス。なんだよ?
は? 『知らぬが仏』?