シン・アスカの異世界渡航記『完結』   作:サルスベリ

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 昔、師匠の『サイレント』騎士団の団長をしている人に、こう言われたことがある。

 『馬鹿は許しますよ。馬鹿なりに頑張りますので。ですが、無知は許しません。知らないからと勝手にしていい理由にはなりませんから。いいですね、シン?』って。

 知らないことは、免罪符じゃない。

 知識を集めて、知らないことを少なくして、よく考えろって言われたよな。

 だからな、ティス。

 毎日のようにテストを持ってくるのは止めてくれ。

 え? 『ルリ様のお手製』? あ、うん、やるよ。

 一つでも拒否したら、俺は殺されそうだからな。





力の意味

 

 翌日早々に、シン・アスカは織斑・千冬から呼び出しを受けた。

 

 生活指導室なんてものに入るのは初めてなので、指定場所がそこであっても廊下の前で立ち尽くす。

 

 『生活指導室って、実は体罰室なんだぜ』とか、脳裏でよからぬことを言う友人の姿が浮かぶ。

 

 キラが酔っぱらった時に不意に口にした言葉だったはずだが、何故か妙にかっこいい姿で、親指を立ててウィンクしながら歯がキラリと光る、とかよく解らない現象が出ていたが。

 

 ドアに手をかけて、シンはそんなことないと頭を振った。

 

 グッと力を入れかけて、『え、簀巻きにされて逆さ吊りじゃないの?』と言っている、同じく酔っている師匠の姿が浮かぶ。

 

 珍しく、本当に珍しいくらいに酔っていた時の話だった。久しぶりに幼馴染とか昔からの親友が集まった会合に参加させてもらい、色々な人に会えた時だったのに、何故かそんなバカな話しか浮かばない。

 

 違う、絶対にそんなことない。

 

 気合を入れて扉にかけた手に力を入れようとして、『うん、いい思い出ないよね』と遠い眼をしている野比・のび太の顔が浮かんだ。

 

 普段から真面目で優しい人が、哀愁を浮かべている姿に心の底から恐怖を感じたものだ。

 

 間違いだ。そんなことないと否定する最中、脳裏に別の人の言葉が浮かぶ。

 

 『呼ばれたことないな』と、真っ赤な顔で遠い眼をしている『最悪の軍師』と名高いルルーシュ・ブリタニアが浮かぶ。

 

 本当に珍しいメンツが揃ったものだ。この四人が揃っていると、下手な国家なら十分で壊滅できるのではないか、と思えるくらいに。

 

 冷や汗が止まらない。

 

 もしかして、本当に『拷問関係の部屋』なのではないか。いや学生のいる場所で、そんな非論理的な場所があるわけがない。

 

 頭で否定しても、四人の顔が次々に浮かんでは余計な考えを置いていく。

 

「何をしているんだ?」

 

 ドアは相手が開けてくれて、中の様子はシンの視界に入ってきた。

 

 何の変哲もない、普通の部屋。

 

「あ、いえ。ちょっと師匠達の友人たちの戯言が、脳裏から離れなくて」

 

「意味が解らないぞ。どうしたんだ?」

 

「拷問部屋だって言われてました」

 

 素直に告げてみると、相手―織斑・千冬は本当に呆れた顔を片手で覆ったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初の微妙な空気は、まだ室内に漂っていた。

 

 なんとも気まずい空気というのは、恐らくこんな雰囲気を言うのだろうか。シンは妙なことを考えている自分に、冷静じゃないなと思えた。

 

「話は、ラウラのことだ」

 

 意を決したように告げた千冬の一言で、シンの思考は途端に冷静になって次第に怒りが浮かんできた。

 

「あいつのこと、ですか?」

 

「そうだ。彼女について詳しい話をしておこうと思ってな」

 

「詳しい話って」

 

 十分だ。あいつの行動を見ていれば、彼女がどんな育ち方をしたかなんて、簡単に予想が出来る。

 

 今更、聞くことはないとシンは考えかけた。

 

「彼女は軍が生み出した、デザイン・チャイルドだ」

 

「は?」

 

 次に彼女が言ったことに、シンの頭は空っぽになった。

 

 誰が何を作りだした、と。護るための力を持つものが、護るべき者に何をしたと彼女は言った。

 

 作ったと言ったのか。

 

「織斑先生、もう一度、お願いします。ラウラが何ですか?」

 

「デザイン・チャイルドだ。軍が作りだした」

 

 ギュッとシンは拳を握り、奥歯を噛みしめた。

 

 聞き間違えではなかった。

 

 軍が、軍のために命を生み出す。そんなこと許されるものじゃない。

 

 確かに遺伝子疾患などで遺伝子をいじることはある。帝国でも遺伝子操作されて生み出される命はある、確かに世界にはそんな技術が存在している。 

 

 けれど、だ。軍がやっていいことじゃない。軍事技術のために命をもてあそぶなんて、そんなことは許されない。人間の社会性として、そのルールを守るためにも、尊厳のためにも。 

 

 何より、軍が存在する理由に背いている。彼らは国家の安全のために、命を守るためにあるのに。

 

「彼女は軍施設から外に出たことがない。今回もIS関連の特例としてこの学園に来ている」

 

「そう、ですか」

 

「ラウラは出来そこないの烙印を押された。当時の新技術への適合が低かったためにな」

 

 その後も千冬は色々なことを教えてくれた。

 

 ラウラのこと、彼女の眼のこと。ISを扱えるようになったこと、操縦技術を教えたこと。

 

 シンはジッと聞きながら、色々な感情が自分の中に渦巻いていくのを感じていた。

 

 周りの理不尽、大人たちの身勝手、馬鹿馬鹿しいまでの要求、勝手な言い分。彼女一人に背負わせていいものじゃない、軍人が持つべきものを教えようとせずに、一方的な言い分で押しつけられたものが、彼女の思考を偏ったものへと変えてしまったのか。

 

「シン・アスカ、おまえならラウラをどうする? 怒るか? 嫌悪するか?」

 

 真っ直ぐに見詰めてくる彼女に、答えを口にしかけて、口を閉ざす。

 

 怒鳴りつけたくなって、けれど前の時の自分も彼らと変わらないことを思い出す。一方的な価値観で彼女に対して、理不尽な暴力を振るってしまった。

 

 騎士として、一人の人間として、あまりに身勝手な考えと行動だ。

 

「千冬さんは、俺にどうして欲しいんですか?」

 

 質問に対して質問を返す。自分はあの時、一方的だった。今の自分ではまた偏った考え方で動いてしまいそうだから、話を持ってきた彼女の意見を聞いてみた。

 

「そうだな。私は、おまえにゆだねようと考えた。ラウラのあの考えの一因が、私にはある。だから、シン・アスカ、おまえに託したい」

 

「なんで俺に?」

 

「一夏をあそこまで鍛えてくれたからな。それに、おまえは『騎士』なのだろう?」

 

 誰かを導くのも、騎士の役目ではないか。口外の意味に、シンは彼女を見つめた後に、小さく息を吐いた。

 

「俺はそんなにうまくやれる自信はないですよ」

 

 師匠達とは違う、自分にできるのは叩きつけて教え込むだけなのだろう。

 

「やれるさ。おまえはきちんと師の教えを行っている。それをラウラにも教えてやってほしい」

 

 師の教えといわれて、最初に思い出すのは師匠達がよく言っていたこと。

 

「解りました。なら、ラウラと俺に外出許可をください」

 

「何か思いついたのか?」

 

「ええ」

 

 一礼し、シンは立ち上がった。

 

 退出しようとして一度、足を止めて振り返る。

 

 室内を改めて見回すと、フッと苦笑を浮かべた。

 

「どうした?」

 

「やっぱりここは拷問部屋ですよ。入った人に現実を叩きつける、そういった場所です」

 

「そういう見方もあるかもしれないな」

 

 千冬も室内を見回した後、何処か遠い場所を見つめるように眼を細めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ついてこい』

 

 いきなり教室から連れ出されたラウラは、目の前の背中を睨みつけていた。

 

 理由も話されず、許可があるからと彼女は、有無を言わさずにシンに連れ出されて、電車に揺られている。

 

「何処へ行くつもりだ? 私に仕返しをするつもりなのか?」

 

「別に、おまえに見せたいものがあるだけだ」

 

 のんびりと揺れる車内。平日の昼間ということもあって、乗っている人は数えるほどしかいない。

 

 何が目的だ、とラウラは横に並ぶシンの顔を見つめるも、表情からは伺い知れない。

 

 一瞬、脳裏に前の時の拳がよぎる。『死ぬ』と確実に思える威力を持った、情け容赦ない一撃。回避も抵抗も無意味に感じる拳に対して、怖いと思ってしまったことを情けないと感じる。

 

 復讐を、軍人の自分に情けない姿をさらす真似をした原因に対して、仕返しをしないと。

 

 ラウラが色々と考え、睨みつける先のシンは、のんびりと窓から外を見ていた。まるで気負うことなく、隙だらけの姿で。

 

 自分は脅威ではないということか。悔しさに顔を歪めるラウラの前に、言葉がポツリと落ちてきた。

 

「海が見えてきたな」

 

「何の話だ?」

 

「世界の生命は海から生まれたって話、聞いたことあるか?」

 

「馬鹿にするな。そのくらいの知識はある」

 

「そっか。なら、降りるぞ」

 

 言うが速いか、シンは空いたドアへと体を向けた。

 

 慌てて追うラウラは、車内から出た瞬間に目を細めた。日差しが視界いっぱいに広がり、眩しさが瞳を埋める。塞がれた視界の代わりに、入ってきたのは潮風。

 

 冷たくもない、痛くもない、何処か懐かしい暖かい潮騒の温もり。

 

 眩しさになれた視界が開けると、一面の蒼が出迎えてくれた。

 

「海、か」

 

「生命の始まり、偉大なる母だ。こっちだ」

 

 一言だけおいて、シンは別の方向へと足を向けた。

 

 駅から通りを歩き、交差点を何度か通り過ぎたところに、小さな商店街があった。

 

 無言のままシンは商店街に入り、店先へと視線を投げる。自然と後を追うラウラも、それに習うように周りを見回した。

 

 あいつが見てるものならば、あいつの興味を引くものがある。ならば次の戦う時に隙を作れるのではないか、と。

 

「坊主たち、デートか? 新鮮な魚はどうだ?」

 

「こっちのお菓子は新製品なんで、よかったら味見していくかい?」

 

「果物は甘いものばかりだよ。買っていかないか?」

 

 通り過ぎる店先で、次々に話しかけられては、シンは丁寧に対応していった。一人一人の言葉に耳を傾け、話に対して穏やかに返す。

 

 前の時とまるで違う姿に、ラウラは怪訝な顔で見つめていた。

 

「そっちのお嬢ちゃん、一つどうだい?」

 

「いや、私は」

 

「いいって、遠慮するなって」

 

 無理やりに渡されたのは、タイ焼きだった。出来たての熱いタイ焼きに困っていると、シンは微笑しながら自分の手を口に持って行く仕草を見せる。

 

「食べてみれば? 美味しいぞ」

 

「こんなもの、食べなくても解る。成分は・・」

 

「食べてみろって」

 

 どうやって作るかの知識を言い掛けたラウラに、シンはいいからと念を押してきた。

 

 仕方なく口に運ぶと、暖かい甘みが口に広がる。

 

 美味しい、と小さくラウラは口にした。思わず夢中で食べて、気がついたら手の中のタイ焼きはなくなっていた。

 

「ほら、次だぞ」

 

 食べ終わったのを見届けたように、シンはラウラを促す。しばらく二人は歩いていき、次に辿り着いたのは普通の公園だった。

 

 小さな子供たちが笑いながら遊び、近所の奥様方が談話している場所。日当たりもよくて木々もそれなりにある、誰もが想像できる公園の風景。

 

「ここがどうしたんだ?」

 

「彼らは毎日をどう過ごしていると思う?」

 

「何を言っている? 普通に過ごしている」

 

 馬鹿なことを聞くなと返すラウラに、シンは『そうか』とだけ答えて再び歩き出す。

 

 意味が解らないとラウラは内心で思いながらも、シンの後を付いていく。

 

 住宅街を通り抜け、他の学校の通りを横切って、ビジネス街で立ち止まって空を見上げて。

 

 言葉も少なく、説明もないまま、シンは前を歩いていく。

 

 『どう見える?』、『何がある?』彼が発する言葉は、決まってそういった質問ばかり。普通のこと、当たり前の景色、そんな返答をするラウラに対して『そうか』とだけ答えて、次の場所へ。

 

 街の中を行ったり来たり、けれど決して同じ場所へ行くことなく巡り巡っていく。

 

 子供が通り過ぎた。学生が忙しそうに歩いていく。商店街では景気のいい掛け声がして。ビジネス街では色々な人が難しそうな顔で通りを歩いていた。

 

 公園ではどこも笑顔があふれ、時々は泣き声もして。大型のデパートにはもっと大きな喜怒哀楽が溢れていて、一口に『人』と言っても色々な動きがあるものだと見えた。

 

 けれど、だ。ラウラには意味が解らない。街を歩いて何がしたいのか、彼が何を言いたいのか、深い言葉は言ってくれずに小さな言葉だけが、何度も何度もラウラに投げかけられる。

 

「ここが最後だ」

 

「街を見下ろす丘か」

 

 先ほどまで歩いていた街が、とても小さく見える丘の上。先ほどまで歩いていた場所が遠くに見えて、一人一人の顔も見えない。

 

「軍人は、武器を持っている。それは解るな?」

 

「当たり前だ。我々は国家の安全を守るために武器を持っている」

 

「国家ってなんだろうな?」

 

「ふざけているのか?」

 

「国家ってさ。あの人達の集まりなんだ。それを護るために軍人がいる」

 

「馬鹿にしているのか? そのくらいは・・・」

 

「俺達の武器は、彼らを容易く消せる」

 

 ストンと、冷たい何かが落ちた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何を?」

 

 思考が追い付かない、当たり前のことを言われたはずなのに、何故か理解できない自分をラウラは感じていた。

 

「彼らは毎日を普通に過ごしている。怒ったり笑ったり、泣いたり、そんな普通の毎日を過ごしている彼らは明日は来るって信じている」

 

 シンは穏やかに語りながらも、右手は街へと向けていた。

 

「でも、普通っていうのはさ、『いつか終わる』」

 

 ギュッと彼が拳を握った。瞬間、ラウラは幻視してしまう。先ほどまで歩いていた道が消え、出会った人々が粉々に砕かれる様を。

 

「おまえ!!!」

 

「それが、軍人だ。ラウラ、俺達の手にあるものは彼らから『明日』を奪える、彼らが笑顔で過ごす毎日に絶望を叩きつけられる」

 

「何を言っている? そんなこと、軍人がそんなことをするわけが」

 

「ないっているのか?」

 

 鋭く睨みつけてくるシンに、ラウラは先日までの自分の行動を思い出してしまった。自分の身勝手に振るった力、あの時は些細なことだと思っていたことが、どういう意味を持つのか。

 

 ISがあったから、何事もなかった。織斑・一夏が対応したから問題はなかった。けれど、彼が対処できなかったら。

 

 もしかしたら、誰かを負傷させていたかもしれない。いや、もっと言えば誰かを『殺していた』かもしれない。

 

「ラウラ、俺達は存在してはいけない存在なんだ。命を奪う武器を持つ者は、こういった社会には存在するべきじゃない」

 

「では、私達は消えるしかないのか? 武器を持つ者は、いらないというのか?」

 

「それが一番いいのかもしれない。でも、実際に脅威はある。彼らの日常を脅かす存在はある、だからこそ俺達は、軍人や騎士は存在するしかない」

 

「馬鹿な、それでは矛盾している」

 

 ギュッと体を抱きしめる。怖くて苦しくて悲しくて、感情が上手く操作できずに体の中を跳ねまわる。

 

「矛盾しているさ。俺達は矛盾している。だからこそだ、ラウラ。俺達は自分の感情で力を振ることは許されない。矛盾した存在だからこそ、最後の最後まで自衛のため以外で『暴力』を使うべきじゃない」

 

 なんだそれは、とラウラは叫びそうになった。力を持ちながら、それを使うことが許されないなんて、どうしょうもない話ではないか。

 

「昔、師匠達に言われたことがある。『命を奪う武器を持つ者は、命を護る、その一点においてのみ存在が許される』。俺達は命を護るために、許されない武器を持つことを認められた。忘れるなよ、ラウラ」

 

 シンが穏やかに微笑みながら、街へと顔を向けた。

 

 ラウラも街へと顔を向けた。

 

「俺達は、あの人達を護るために。普通に生きる人たちに、『明日も普通に過ごせるように』力を持っている。絶対に忘れるなよ」

 

「あ、ああ」

 

「それが昔から続く、軍人達の矜持だ」

 

 念を押すように、シンは真っ直ぐにラウラを指差す。

 

「平穏であれ、穏やかであれ、日常であれ。戦場の中の軍人たちが、必死に護ってきた平和な毎日、戦争の中にあった軍人たちが、決死の覚悟で築き上げた普通の毎日、それを今の世代を生きる俺達が崩すわけにいかない。護れよ、ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

 おまえが軍人を名乗るならば、先人たちの意地と矜持を踏みにじることなく、胸を張って日蔭者であれ。

 

 冷飯食らいであれ。無駄な者と呼ばれることを誇れ。必要とされないことを喜べ。自分達のような暴力が必要とされない、そのことを良かったと思えるようになれ。

 

 なれば、世の中はこともなし。日々、平穏なり。

 

「俺の言いたいことはこれだけだ。悪かったな、ラウラ。一日中、付き合わせて」

 

 小さく頭を下げるシンに対して、ラウラはもう一度と街を眺めた後、深々と頭を下げた。

 

「ありがとう、シン・アスカ。私は今、ようやく軍人になれた気がする。初めましてと挨拶をしてもいいだろうか?」

 

「もちろんだ。シン・アスカだ」

 

 彼は自らを名乗りながら、右手を差し出してくる。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 差し出された手を握り返し、彼女は名乗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、ラウラは一夏達に謝罪をしたらしい。

 

 らしいというのは人伝にシンが聞いた話であり、彼女から報告があったわけではないためだ。

 

「何をどう教えたんだ?」

 

 グランドを整備している時、千冬が問い掛けてきた。

 

「俺が昔、師匠達に教えられたことを、そのまま伝えただけですよ」

 

「『命を奪う武器を持つ者は、命を護る、その一点においてのみ存在が許される』か?」

 

「はい、よく聞かされたました。後は、『護るべき者達をよく見ておけ。迷った時にその顔を思い出せば、自然とやるべきことができる』と」

 

 汗を拭って顔を向けると、彼女は微笑んでいた。

 

「おまえはやはりいい師に巡り合えたらしいな。私も一度、会ってみたいが」

 

 言われてシンは、『え、会うの』という驚愕の顔を向けたのでした。

 

 いい師匠だと思う。いい人でもあるかもしれないが、それを覆すほどに馬鹿で常識知らずで、色々なものを破壊する人外なのだが。

 

 彼の顔を見た千冬は、『師匠のことを考えて、あんな顔をする弟子か』とまた謎が増えたと感じたという。

 

 

 

 

 




 

 街の人たちを見ると、昔の自分を思い出す。まだ日常の中にいた、優しい人たちに囲まれていた頃の自分。

 あの頃は、苦しいとか辛いって口にしていたけど、もっと怖くて悲しいことがあるって知らなかったな。

 今はどうかって?

 そうだな、俺ができることが増えたことが嬉しいよ。

 だろ、ティス?





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