シン・アスカの異世界渡航記『完結』   作:サルスベリ

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 困難なことって世の中に多い。

 どうしても譲れないのに、絶対に退けないのに、どうしょうもできないことって結構あるんだよな。

 諦めきれないって思って立ち向かっても、壊せない壁ってあるもので。

 俺の周りはそんなもの突き破って進む人ばかりだけど。

 世界ってさ、どうしても『こんなはずじゃなかった』ことがあるんだよな。

 なんだよ、ティス?

 『これ、なぁんだ?』って、おまえそれどっから持ってきた?!

 聖杯じゃないよな?!

 ドラゴン・●ールって何処から奪ってきた?!

 ティス?!





願いのために・1

 

 限界とは自分が決めるものだと、昔に教えられた。ここまでだと自分が錯覚してしまい、自分の先を決めて可能性を閉ざすのが、『限界』なのだと。

 

 だからこそ突き破れと教えられた。不可能を蹴とばし、出来ないと囁く声を薙ぎ払い、ただ『出来る』と思って突き進め、と。

 

 進んで突破して突き破った果てが自分の今なのだから、それは自己責任で誰が原因でもない。

 

 しかし、何事にも終わりはある。限界を自分で決めるように、『終わり』も自分で決める。

 

 特に騎士であるならば、『ここで終わろう』と思うことは、ここが自分の最後だと知ることは。

 

「そのまま、手を置いてください」

 

 背後からの声に、彼は小さく白い手袋をした両手を上げた。

 

「まさか、と思いました。ですが、貴方だったならばすべてが納得いきます」

 

「流石だ。君ならば、辿り着くと思っていたよ」

 

 相手の素早い対応に、少しだけ安堵する自分がいる。もう彼らは自分がいなくとも立派に進んでいける。

 

「何故と問いかけても、答えてはくれないのでしょう?」

 

 どうするべきか、と少しだけ迷っていると、他の声が思考を遮った。

 

「答えることはないでしょう、バザット部隊長」

 

「ほう。まさか、『黄昏の流星』まで辿り着くとは。私もまだまだ『詰め』が甘いな」

 

 彼は答えず、手に持った銃口をこちらに向けている。

 

 ゆっくりと振り返る。二人は銃口を向けながら、表情に迷いが浮かんでいる。しかし、だ。きっと自分が攻撃に転じる瞬間に、躊躇いなく撃つだろう。

 

 エイルン・バザットも、ハイネ・ヴェステンフルスも、どちらも素晴らしい騎士だ。自分の感情よりも、周りの『被害』を考えてしまう。

 

「どうして貴方が、こんなことを? 無断出撃、無許可の『マテリアル』の使用。いいえ、その前に、『技術漏えい』などするわけがない」

 

 エイルンの瞳が揺れ動く。撃ちたくはないと目線が語り、真実を話してくださいと切実に願っているらしい。

 

 相変わらず優しい男だ。

 

「第二級技術と『相転移エンジン』及び『太陽炉』の設計データ、現物も何基か持ち出しているようですが、何故ですか?」

 

 ハイネが僅かに体を動かしながら、言葉を紡いでいる。エイルンから視線を反らすつもりか。短距離移動ならば、エイルンのほうが速い。ならば、という考えはとても素晴らしい。

 

「先ほど君は答えるはずがない、と言ったようだが?」

 

「質問しても構わないでしょう、『ラウ・ル・クルーゼ』。帝国を最初から支えた騎士であり、『絢爛なる守護者』と呼ばれた貴方が、こんなことをするなんて」

 

 懐かしい字を出され、クルーゼは微笑した。

 

 仮面に隠されているとはいえ、その口元の頬笑みは二人が見たことがあるものだった。

 

 どのような状況でも、彼は穏やかに自然体で、『そろそろ行こうか』と散歩に行くように動きだしていた。

 

 帝国をテラが作った時から、テラに従って動き続けた騎士。帝国軍の基礎を作り、ヴィルティラスの結成にも働きかけた、帝国の最古参の一人。

 

 偉大なる先駆者とまで呼ばれた男が、ここに来て裏切りなんて。

 

 誰もが否定してほしかったことは、彼によって切り捨てられた。

 

「なぜか。そうだな。私の望みのためだ」

 

 クルーゼの両手が下がる。

 

 撃つしかないと引き金に指をかけた二人が動く前に、彼の背後に影が出現した。

 

「プロヴィデンス・オーバーワールド」

 

 誰かが機体の名を呼ぶ。

 

 クルーゼに与えられたマテリアル。他の騎士達とは違い、『第三世代』のフレームを使った、特殊な機体。

 

「いいのかよ! 『フォリアナ』!!」

 

 ハイネの叫びに、プロヴィデンスの顔のところに浮かぶ女性が小さく首を振った。

 

 金色の瞳を持ち、ウェーブのかかった藤色の髪を真ん中で分けた女性は、ゆっくりとクルーゼの背後へと近付き浮かぶ。

 

「すまない」

 

 男の言葉に彼女は『貴方の願いですから』と答えた。

 

 エイルンとハイネが見上げてくる。二人の背後にはそれぞれの『マテリアルの自意識』がいた。どちらも悲しい顔で見てくる。

 

 止められるものならば、止めるつもりなのだろうか。いや止められるわけがない。もはや、心は決まっているのだから。

 

「さらばだ。我が最愛の『故郷』よ」

 

 盛大に言い放ち、ラウ・ル・クルーゼは姿を消した。

 

 その日、ジョーカー銀河帝国をある情報が駆け巡った。

 

 『ラウ・ル・クルーゼ元帥を反逆罪とする』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前略、最近になって思い知ったことですが、意外に恥ずかしいことって身近にあることを感じました。

 

 例えば、学校で不意に『先生』を『お母さん』と呼んでしまったり。

 

 別人の名前を呼ばれて『はい』と答えてしまったり。

 

 あるいは、明かに年下の女性に『上官殿』と呼ばれることとか。

 

「おはようございます! アスカ上官殿!!」

 

「ラウラ」

 

 早朝の登校時に、校門のところでそんなことを言われたら、誰もが立ち止まって見てくるのは当たり前なのだが。

 

 彼女は無関心なようで、敬礼をしたまま微動だにしない。

 

「止めろって。俺は上官じゃないだろうが」

 

「しかし、私に軍人のなんたるかを教えてくれた方を呼び捨てはできません。ならば上官殿と御呼びすべきでは?」

 

 純粋に、『どうしていけないのだろうか』と思っている少女の目線に、シンは否定の言葉を口にできずに固まる。

 

 同じ軍じゃない。そもそも自分は『ヴィルティラス』所属で、軍属ではない。確かに准将の階級は持っているが、それも帝国軍との共同作戦のための肩書でしかない。

 

 グルグルと思考が回る中、余計なことまで考えていたシンは、どうにか思考のループから抜け出して、ラウラに告げる。

 

「俺はおまえと同じ軍属じゃない」

 

「では、師匠と呼ばせてください」

 

 即答で戻ってきた言葉に、シン・アスカの中で何かがブツリと切れる音がした。

 

「俺はそんなに偉い奴じゃない。誰かに教えるなんてできないから、それは止めてくれ」

 

「しかし!」

 

「いいから、シンでいいからさ。お互い、色々と教え合う同僚でいいじゃないか」

 

 気楽な笑顔で手を差し伸べると、ラウラは渋々といった様子で手を握り返した。

 

「クラリッサにはそう呼べば喜ばれると言われたのだが」

 

 元凶はそいつか。シンは心の中で、『クラリッサ』に会ったら色々と問いただしてやると決めた。

 

「しかし、シン様と呼んでもいいだろうか?」

 

「止めろって。シンって呼び捨てでいいから」

 

「それでは私の気が済まない。頼む」

 

 律儀に頭を下げる彼女に、シンはなんでそこまでこだわるのだろうと不思議に思ってしまう。

 

 教えたことは師匠から教えられたことであって、自分が考えたことではない。感謝する言われはないし、もしも感謝を伝えるならば師匠達にではないだろうか。

 

 そこまで考えたシンは、ふと嫌な予感がした。

 

 ラウラがあの『常識外で非常識の塊で、チートのバグの人外に会う』と。

 

 瞬間、全身を寒気が包んだ。

 

 人間として尊敬はできる。彼が人間かどうかは大いに疑問があるのだが、とにかく人間としては素晴らしい人物であることは間違いない。

 

 面倒見がいいことも確かにある。彼が誰かの助けてを見捨てたことなど、一度もないのだから。

 

 世界の危機だろうが、命の危機だろうが、颯爽と現れて助けるのは彼だけ。

 

 しかし、だ。人間性としては壊滅的に悪い。純真無垢な人物が会ったとき、価値観が総崩れを起こすのは目に見えている。

 

「ラウラ! 頼むから、シンと呼んでくれ」

 

「しかし」

 

「頼むから、じゃないと俺が死ぬ」

 

 結論として、自分は彼女に何も教えてない、と貫くことにした。

 

 万が一、師匠の耳に入ってしまったら、『会いたいな』ということは間違いない。だから自分は、シン・アスカはラウラに何も教えてない。

 

「解った」

 

 どうにか納得してくれたようだ。

 

 これで師匠が関わってくることはない。一安心したシンは、用務員の仕事を再開するかなと動き出しかけて、周りの目線にようやく気付いた。

 

「シン、ラウラを口説いているの?」

 

「はぁ?! シャルロット、何でそうなるんだよ?」

 

「いや見ているとそうかなぁって」

 

 何処をどう見ればそうなるのだろうか。ちょっと怒っている彼女に説明を求めようとして、セシリアがとてもいい笑顔を浮かべているのを知る。

 

「へぇ、シンってそういう趣味なんだ」

 

 面白そうな顔をしているリンまでいる。

 

 遠くでは一夏が『あ、おまえも大変だな』と苦笑していたり、箒が『そうかそうか』と頷いていたり。

 

 どういうことだろうか。

 

「俺はラウラの呼び方を止めようとしただけだよ」

 

「そうなんだぁ。それにしては必至だったようだけど?」

 

 笑いながら、目が笑っていないシャルロットが迫る。何故だろう、今の彼女には近づいたら危険な気がする。

 

 ティーラやシェリルと同じ気配がする。とても理不尽な理由で怒りの矛先が向いたときと同じな。

 

「必至にもなるだろうが。上官殿とか、師匠とか呼ばれたら」

 

「そうかなぁ? 男だったら、偉く見られると嬉しいんじゃないの。特にラウラは可愛いし」

 

「可愛いっては関係ないだろうが。偉く見られて嬉しいって、どんな偏見だよ」

 

 まったくもって理解できない。偉く見られると嬉しいなど、そんなバカな考えがあるわけがない。

 

 偉くなればなるほど、仕事量が増える。自分が受け持つ仕事の他に部下の仕事の監督とか、勤務査定とか、評価や研修スケジュールとか、色々とやるべきことが増えていく。

 

 そもそも、だ。一般的な業務と上司としての業務は、決して結びつくものではなく、求められるスキルも違ってくる。

 

 いい社員が、上司になった途端に使えなくなるなんて、世間ではよくある話ではないだろうか。

 

 絶対に偉くなって得することなんてない。面倒が増えるだけ。

 

「メンドクサイだけだろ」

 

「シン、それ本気で言っているの?」

 

「本気さ。誰もがそうじゃないのか?」

 

 心の底からの返答に、シャルロットはしばらく見つめてきたのだが、大きくため息をついて呆れた顔を向けてきた。

 

「出世欲ってないの、シンって?」

 

「ない」

 

 迷いなく即答してみると、シャルロットは小さく息を吐いて小さく言葉を告げた。

 

「馬鹿」

 

「最高の褒め言葉だよ、シャルロット」

 

 ニッコリではなくニヤリと悪戯っ子のように笑ってやると、彼女もお日様のように晴れやかに笑った。『褒めてないからね』と言いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前中の授業中に学園のすべてを回って清掃を行ったシンは、最後にアリーナの整備室に足を運んでいた。

 

「よ、簪」

 

「シン」

 

 授業中なのに、彼女はやはり『愛機』のところにいた。

 

『む、進んでない。行き詰ったかな?』

 

 隣のティスがISを見つめ、ペタペタを触っているのを軽く手を振るような動作で止めながら、彼女の横へと進んでいく。

 

「調子はどうだ?」

 

「まあまあ」

 

「そっか」

 

 言葉少なく答えた彼女は、再びモニターに顔を向けてしまう。

 

 工学的知識はあまり多くないシンには、彼女がどんな作業をしているか見当もつかない。難しいことをしているのだろう、ということは解るのだが。

 

 しばらく簪がパソコンを操作する音だけが整備室に響く。小さな音なのだが、妙に耳に残る音色だった。

 

 それと、遠くから様子を見ている気配が二つ。

 

 一つは楯無だろう。妹のことが心配で、作業は進んでいるか不安になってきているのならば、顔を出して話をするべきではないだろうか。

 

 一定距離から近づいてこないで、行ったり来たりしている姿は、とても学園最強の生徒会長とは思えなかった。

 

 不器用過ぎるだろう、と呆れてシンは僅かに視線を投げた。

 

 驚く気配が伝わってきて、その後は立ち去ったが。

 

 もう一つは、束だろう。定期的に学園に潜り込んでは、こうして遠くから見てくる。こっちもこっちで理解不能な行動だ。毎回、飽きもせず学園に来ては遠くから眺めて、しばらくしてから帰る。

 

 あるいは織斑・千冬に見つかって怒られて帰るか。

 

 どっちも不器用な人間だよな、とシンは自分のことを棚に上げて考えていた。

 

『あ、そこ違う。そっちじゃない』

 

「簪、そこは違うらしいぞ」

 

 

「え?」

 

 他のことを考えていたためか、ティスの言葉をそのまま伝えてしまい、彼女が鋭く顔を上げてきた。

 

「シン、何?」

 

「あ、すまない。ちょっと見えたから、アドバイスを・・・・というか。俺の相棒が違うってさ」

 

「相棒? 貴方もISを持っているの?」

 

 嫉妬、あるいは妬み、少しの憎しみ。瞳に映る感情が混ざりあい、鋭くなって見つめてくる。

 

「いや、俺にはISはない。他のならあるけど」

 

「他の? 見せてくれる?」

 

 反射的に答えたような簪の言葉に、シンは『いいか』と簡単に考えて、ティスに合図を出す。

 

 サイズはISに準じた形で。

 

『はい、我が主。よいしょ』

 

 パンと手を叩いたティスが消えて、デスティニーが姿を現す。

 

 二十メートルの機体が二メートルへとダウンサイジングして、ISの隣へと降り立つ。

 

「綺麗」

 

 無意識に簪はそう呟いていた。

 

 真紅の翼はまるで水晶のような輝きを放つ。白と青の装甲は空のように海のように澄み渡る。肩アーマーを飾るのは白い羽の装飾、今にも飛んでいきそうなほどだ。

 

 左右の腰のライフルは無骨な武器というよりは、まるで一つの工芸品として生み出されたような輝きを放つ。

 

 兵器として建造されたのではない、まるで芸術品のように生み出された機体を前に、簪は圧倒されていた。

 

「俺の相棒のデスティニー・イレイザーさ。愛称はティス」

 

『はろー』

 

「え?! その子、何処から出てきたの?!」

 

 ポンという音と共にでてきた女の子は、簪の前でスカートの裾を持ち上げて一礼。社交界の淑女のような挨拶に、簪も慌てて頭を下げた。

 

『初めまして、ティスだよ。貴方のことはよく知っているよ。この子がね、何時も『私の主は努力家で優しくて、でも寂しがり屋』って言ってるから』

 

「この子? 打鉄弐式のこと?」

 

『そうそう、色々とお話してくれるから。私もちょっと口出ししたくなったの』

 

 ペタペタとまだ触っているティスに、簪は微妙な顔を向けていた。

 

「この子、自意識って言ったの?」

 

「まあ、デスティニーのAIとか考えてくれればいいよ」

 

 本当は違うのだが。と内心でシンは付け足すのだが、知らない人への説明は大抵がこれで済むので使っている。

 

「私は誰の手も借りたくない」

 

『うん、知っている。簪が一人で組み上げたいって思っているのは知っているから。だからティスがいるの』

 

「だから」

 

『ティス、人間じゃないから手伝っても大丈夫』

 

 いや、その理屈はおかしい。簪が決めていることは、『自分だけで』ということで人間以外なら手を貸してもいいとか、論点がすり替わってないか。

 

『後ね、打鉄弐式がね、『主のために』頑張りたいんだって。クラス対抗マッチに簪と一緒に出たいって』

 

 真っ直ぐにティスは彼女を見つめた。

 

 簪は視線を打鉄に向けて、そのボディに触れる。

 

「私のために? 貴方は私と一緒に戦ってくれるの?」

 

 小さく呟く彼女の言葉に、ISのボディは僅かに震えたように見えた。

 

「願いします」

 

『任せて! このティス様がいれば泥船だよ!』

 

「いや、沈むから」

 

「沈まない方向でお願いします」

 

 即答のように言われたティスは、きょとんした顔の後に唸りだして、ポンっと手を打った。

 

『あ! そっかそっか、泥船のように敵対者を沈めてやろうだ』

 

「誰が言った、そんな物騒な言葉」

 

 相棒の過激発言に、シンは片手で顔を覆ったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ティスを簪のところにおいたまま、シンは整備室の外に出た。

 

 二人だけにしたほうが作業が捗るだろうと考えたのだが。

 

 外に出てすぐに、良く知った気配が屋根の上にあることを感じた。

 

「意外に鈍っているのかな?」

 

「あれだけの距離で感知できるなら、上出来じゃないか?」

 

 声はすぐ後ろから。溜息交じりに振り返った視線の先で、彼は人懐っこい笑顔を浮かべていた。

 

「俺の行方不明が、そんなに大事になりましたか、ハイネ?」

 

「いやいや、大事にはなってないが。そうだ、『MIA』認定はされたぞ」

 

 衝撃の事実に、シンはグッと胸を抑えて蹲る。

 

「つ、ついに俺も。師匠みたいになりたくなかったのに」

 

「まあ、おまえだから、いずれってみんな思っていたから、大丈夫だ」

 

「大丈夫って、そんなの。からかって楽しんでませんか?」

 

「百パーセントな」

 

 親指を立てて笑顔で歯を光らせたハイネに、『この人を殴ったらダメだろうか』とシンは思ってしまった。

 

「という、笑い話をしに探したわけじゃないんだ」

 

「ええ、『フェネクス』の一件なら撃破しましたけど。アイリスさんの指示ですよね?」

 

「はい?」

 

 ハイネがきょとんとした顔を向けてくるので、シンは『違うんですか?』と目線で返した。

 

「『フェネクス』の四番機は行方不明で自壊したんじゃなかったのか?」

 

「いや、アイリスさんから『俺の射撃能力向上のためと、こっちの都合で撃破しなさいって』。あれ、ヴィルティラスを通してないんですか?」

 

「あの人は。きっと『私用よ。悪い?』って伝えなかったな。まあ、それもいいさ」

 

 違う用件で来たらしい。他となると何があったか、とシンが色々と考えているとハイネが妙に思いつめた表情を浮かべた。

 

「実はな、シン」

 

「はい」

 

 先ほどまでのおちゃらけた雰囲気を消した彼に対して、シンも自然と身構えてしまう。

 

「ラウ・ル・クルーゼが反逆罪になった」

 

 瞬間、シン・アスカは足元が崩れるような錯覚を感じた。

 

 

 

 

 

 




 
 白い仮面に白い軍服。白い手袋に七色の輝きを持つ剣を持った彼のことを、よく知っている。

 ジョーカー銀河帝国を創立から支えた騎士。

 『神帝』の双翼。『サイレント騎士団』以外で、テラが最も信頼する騎士のうちの一人。

 帝国の中で数名しかいない、翼を紋章として使用することを許された者。

 『絢爛なる守護者』、『真白の鉄壁』、『汚されぬ騎士』。

 『帝国の支柱』とまで呼ばれた人物。

 誰もが尊敬し、目指していた騎士だったのにな。

 ティス、寂しいかって?

 そうだな。もっと色々なことを教えてほしかったな。


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