シン・アスカの異世界渡航記『完結』   作:サルスベリ

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 国を作ったらついてくるのが、王位あるいは帝位、皇位とかってのもあるけど、つまりはトップの地位。

 人間は何時どうなるか解らないから、その時に慌てても仕方がないので、大抵の国家は決めているもの。

 つまり、ジョーカー銀河帝国にもあるんだよね。

 じゃ、シン、喜劇で踊ろうぜ。






継承権

 

 

「貴方、休んでないでしょう?」

 

「え?」

 

「うちはブラック企業じゃないから休みなさい」

 

「え?」

 

 それはある日の午後、やっとできた報告書を持っていった時に、シン・アスカは何故かそんなことを言われた。

 

 珍しく部隊長の部屋にいた宰相に告げられ、シンは最後に休んだ日のことを思い出す。訓練していた、違うこれは業務。皇帝を追いかけていた、これも業務。仲間うちからの襲撃を受けた、これも業務。

 

 熟睡していたら、妹の襲撃を受けた(物理的に殺されるくらいの)。

 

 これが休み。何故だろう、シンは何故か目から汗が出てしまう。

 

「泣くくらいなら定期的に休みをとりなさい。潜入任務中でなければ、ある程度は融通がきくでしょう?」

 

 優しく穏やかに語りかけてくれる宰相に、シンは『ありがとうございます』と告げながら理由を説明した。

 

「家にいると、妹が殺しに来るので」

 

「・・・・・・あの子の向上心は後でどうにかしてあげます。自宅がダメなら宿泊施設か、あるいはシャルロットのところに泊めてもらいなさい。あの子の家、部屋数は余っているでしょう?」

 

 好意で提案してくる宰相だったが、シンは小さく首を振った。

 

「シャルロットのところに泊まると、ティーラとシェリルが俺を殺そうとするので」

 

 あまりの内容に、宰相は眩暈を感じて倒れそうになったという。

 

「ヤンデレは死ぬわよ、シン」

 

「お、俺が悪いんですか?」

 

「もういっそのこと、『全員、俺が嫁にしてやる』って言ってみればいいじゃない」

 

「いや、それもどうかと。って、なんで俺が結婚する前提なんですか?」

 

 納得しかけて慌てて否定してみれば、宰相は意外そうな顔をしているから不思議だ。

 

「結婚するしかないじゃないの。違うかしら?」

 

 否定したかった。拒絶したかった。けれど、現状を考えると他に手段がないように思えるから、かなり追いつめられているのかもしれない。

 

「俺はまだ・・・・」

 

「そうそう、シン。貴方、リタに何かした?」

 

 グサリと見えない何かがシンの胸を貫いた。

 

「ど・う・い・う・こ・と・か・し・ら?」

 

 目が笑っていない宰相がいて、呆れている部隊長がいて。その間にいるシンは自分の不幸を呪ったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は、はは、シンってたらしだったんだ」

 

「あのな」

 

 苦笑しつつもちょっと怒っているシャルロットに反論しながら、シンはゲートを潜り抜ける。

 

 あの後、たっぷりと三時間ほどことの詳細を説明させられ、ならば『嫁にするしかない』と結論を出され、それに対しての説明を三時間ほどさせられたシンは、ぐったりして実家へ戻り。

 

 予定通りに妹に襲撃されて、疲れた顔でシャルロットと合流を果たした。

 

 日用雑貨を買い物に行きたいから付き合ってといわれ、『解った』と答えていたのだが、今日は何処か安全な場所で休みたい気分になってきた。

 

「妹さんって過激なんだ」

 

「今日はまだマシだったかな。対人地雷だけだったし」

 

「え?」

 

 物騒な代物の名前を聞き固まっているシャルロットの正面で、受付をしている男性が『え、それだけですか』という顔で固まっている。

 

「え? え?」

 

「ええ、あの『戦華』が対人地雷のみですか?」

 

「嘘でしょう、シンさん。対戦車地雷とか対人型兵器地雷じゃないんですか?」

 

「まさかぁ、あの『戦華』がそんな優しいことするわけないじゃないですか」

 

「夢でも見たんじゃないの」

 

「いや、マジで」

 

 シンが本当だと告げると、周り中が騒がしくなってくる。

 

「明日、世界が終わるかな?」

 

「俺もそう思う」

 

「待って待って! そのレベルでの話なの?!」

 

 慌てたシャルロットの叫びに、誰もが頷いているから、普段のマユの攻撃がいかに酷いか解る。しかも、自宅で熟睡しているシンに対しての攻撃だ。

 

「兄妹仲って悪いの?」

 

「普通だと思うけど」

 

「あ、そう。そっかぁ」

 

 普通ってなんだろう。そうか、帝国では兄妹の間で武器を使うのが普通なのかとシャルロットはちょっとだけ項垂れていたという。

 

「ところで、このゲートって何用なの?」

 

「帝都の中でも政庁は特別地区だからな。出入りの時は認証が必要なんだよ」

 

「へぇ~~シンは?」

 

「俺は『ヴィルティラス』だから顔パス」

 

 エリートだから特別扱いか。シャルロットはそう思っていたが、真実は違う。彼らが出入りの度に止められていては、緊急時に致命的な遅れになってしまうことがあるため、こういったゲートでの認証は行われていない。

 

 ただ、対外的に実行していませんでは防犯上の観点から、とても不味い話になるので『顔パス』になっているとしているだけだ。

 

 シャルロットの認証が終わると、二人は電車に乗った。

 

「で、何が買いたいんだ?」

 

「色々だよ、女の子は色々と必要だから」

 

「じゃ、大型モールでいいか。あそこなら大抵のものは手に入るから」

 

「そんなところがあるの?」

 

「ああ」

 

 あれができた時は大変だったと、シンは昔を懐かしむ。

 

 帝都なんて国家運営のための設備があれば十分。他なんて必要ないとか最初はテラが言い出して、アセイラムとアイリスも否定はしなかった。

 

 しかし、だ。人は増えて、国家の規模が大きくなれば運営に携わる人も増えてくる。次第に帝都が大きくなり、色々な公共設備が増えてくれば、当然ように家族も増えてくる。

 

 そんな中でも、帝都の政庁周辺は誰も住まわせないと言っていたが、これだけ規模の大きくなった帝国だ。帝都に住みたいと思う国民も多くなってきて、やがて一般人たちからも『帝都周辺に企業の本社とか置きたい』、『帝国の中心ならば色々と便利そう』という意見が出てきて、最終的に宰相であるアイリスが折れる形で住民を受け入れ。

 

 人が増えれば当然、商業施設も設置しなければいけなくなり、大型モールを整備するしかなくなり。

 

 結果、帝国中の企業から応募が殺到。

 

 信じられないかもしれないが、テラの皇帝としての支持率はとても高い。危機に対して隣にいます状態のテラは、素で帝国中を回って問題解決しているように誰もが思えるほど、色々な場所に出現する。

 

 その気質は帝国政府関係者にも伝染して、問題や危機に対しての迅速な対応に繋がっていく。

 

 同時に政庁で帝国を回している皇妃達の人気も高い。福祉事業や議会などにいる皇妃達の人柄や、その仕事っぷりを見ている人たちからの噂が民間にも流れている。

 

 そんな中で、今まで帝都になかった商業施設の建設の話。誰もが食いつくのは目に見ていたのだが、意外にも宰相のアイリスと皇帝代理のアセイラムは欠片も考えていなかった。

 

 二三件くらい集まればいいか、と考えていたところ帝国中の企業が参加を表明して、大抽選会に発展。個人経営から大企業までの、とても醜くて滑稽な争奪戦となった。

 

「本当、大変だったな」

 

「え、え? 何が?」

 

 困惑しているシャルロットに、シンは改めて警告を送る。

 

「いいか、帝国は『ノリで行こうぜ』とか、『ギャグのためなら命がけ』なんてことがあるから、気をつけろよ」

 

「え、あ、うん、たぶん、解った」

 

 初日のことで気づいてくれたか、とシンが安堵してシャルロットが見ている窓の外に視線を投げる。

 

「・・・・・・」

 

「・・・うん、いいところだよね。シン」

 

「・・・・」

 

「シン! しっかりして!!」

 

 胃のあたりを抑えて蹲るシンを、シャルロットは必至に慰めたのでした。

 

 窓の外から見えた景色、そこには馬鹿が立体映像で『へいらっしゃい! 今日は野菜がお買い得だよ!』とかやっていたりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 平日の午後、人ばかりいる大型モールなんて、来るものじゃない。

 

「あれってシン・アスカよね?」

 

「え?! 『凍焔の鬼神』が来ているの?!」

 

「誰かペンを持ってない?!」

 

「きゃぁぁぁぁ!! シン・アスカ様よ!!」

 

 その日、大型モールに近場の警察機構が動員されたのでした。

 

『馬鹿もの』

 

「はい、すみません」

 

 状況鎮圧の後に警察機構の偉い人から、ありがたいお説教を貰ったシンは、その後にまた部隊長から通信越しにお説教を貰うことになった。

 

『まったく、これでは次期皇帝など任せられんな』

 

「え? 部隊長、今なんていいました?」

 

 初めて聞く話に、エイルンに疑問をぶつけると、彼はしばらく黙った後で呆れた顔をした。

 

『聞いていないのか?』

 

「はい、いや待ってください」

 

『本当に知らないのか?』

 

「ちょっと待ってください!」

 

『・・・・・次期皇位継承権の第一位はお前だぞ』

 

 驚愕の事実が、シン・アスカを襲ったのでした。

 

 隣で聞いていたシャルロットも驚いてシンを見ているが、彼本人としてはそれどころではない。

 

「何時の話ですか?!」

 

『かなり前だな。おまえが『ヴィルティラス』に入って一年が過ぎたころに、皇帝陛下から発表があったが。知らないのか?』

 

「知りません」

 

 本当にかなり前の話だ。何故、自分だけが知らないのか。そもそも皇位とはテラの血筋が受け継ぐものではないのか。世襲制が当たり前の話が、何故に弟子である自分のところに回ってきたのか。

 

 シンの頭の中で疑問が色々と渦巻いているが、答えを知っている人物は生憎と近くにいない。

 

『宰相、シンは知らなかったようですよ』

 

 気の効く男、エイルンの計らいで宰相のアイリスに通信が繋がる。

 

『本当に知らないの、シン? テラがかなり前から言っていることよ?』

 

「知りませんでした」

 

『はぁ。まったく、あの馬鹿は。そもそも、テラに子供が出来なかったらという前提条件だから、安心していいわよ』

 

「あ、それなら」

 

『飽きたから押しつけるって言う可能性もあるけど』

 

 彼女の言葉に、シンは否定しかけて否定できずに言葉を飲み込んだ。あり得るだろうか。あのテラに限って、飽きたといって自分に押しつけることが。

 

 人の不幸を喜ぶことはなく、責任感は人一倍はあると考えてはいるが、責任感があるならばこうやって毎日のように帝国を飛び回るのは、責任感がある人間のすることか。

 

 いや、そもそも、だ。テラが皇帝として執務をしている姿を見たことがない。執務室もない、そんな彼が皇帝という権力に固執するだろうか。

 

 間違いなくしない。『なにそれ、おいしいの』程度の認識しかしてない可能性の方が高い。国を作った理由は知らないが、投げだしてもおかしくない。

 

『テラとしては、どうしても帝国が必要だったわけじゃないでしょうけど』

 

『当時の状況で言えば国が欲しかった。けれど、今はどちらでもでしょうね』

 

 話の途中にアセイラムも加わったことで、現実味が出てきた。

 

 面倒くさくなったらシンに丸投げ。いや、師匠は、テラ・エーテルという人物はそんなに短絡的な存在ではないはずだ。

 

 『いいや、あいつは短絡的なところがある』。脳裏で死んだはずのクルーゼが項垂れていたが、無視しよう。シン・アスカの精神的な安定のためにも。

 

「お、俺には無理ですから」

 

 震える声で否定すると、アイリスとアセイラムから頷かれてしまう。

 

『議会の方から『継承権に名前がないのはおかしい』と言われたから、適当に名前を上げただけだから、安心しなさい』

 

『無理やりに押しつけませんよ』

 

『そもそも、私たちが実際に帝国を動かしている状態で、貴方に丸投げすると思うの?』

 

 なるほど、それはない。と、シンは少しだけ安堵した。

 

『子供ができたら丸投げでしょうけど』

 

『アイリス、私が先です』

 

 一瞬だった。何故か目の前で宰相と皇帝代理の間で火花が散っていた。

 

『とにかく名前だけ借りているだけよ』

 

 最後に念を押して、宰相は通信を閉じた。

 

「・・・・・本当ですか?」

 

『俺に聞くな。帝国はこう、規格外や常識知らずが多すぎる』

 

 頭痛を抑えるように顔を手を置いた部隊長の姿に、シンは『そうですね』と苦笑したという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実際に買い物に行くのは駄目なので、ネット注文を試すことにしたのだが。

 

『ふぇ、バッタに頼めば?』

 

「あ」

 

 ティスからの提案を受けて、非常に残念ながら、誠に遺憾であるが、とても頼りたくはないが、師匠に連絡を入れることにした。

 

『いいよ~~』

 

「ありがとうございます。ところで、師匠、俺の皇位継承権について話が」

 

『ん、任せるつもりはないけど、名前は貸せ』

 

「何処の高利貸しですか?」

 

『どちらかといえば、悪徳業者かな?』

 

「いやいや、師匠。そこは否定していくださいよ」

 

 慌てたように告げると、彼はちょっと考えこむような仕草の後に、ニヤリと笑う。

 

 瞬間、シンは嫌な予感がしてきた。

 

『世の中は無情なものさ、シン』

 

「なに、悟ったような顔で言ってるんですか」

 

『さて問題です、今俺は何処にいるでしょう?』

 

「はぁ?」

 

 唐突だなぁと思いつつ、ヒントを探そうと師匠の画面を見ていると、ふとおかしい点に気づいた。

 

 何故、ビルが『逆さま』に映っているのか。ビルに張り付いているのか、それとも、何処かでループでもしているのか。

 

 シンはそこで気づく。師匠が逆さになる状況は、一つしかない、と。

 

「政庁ですか?」

 

『あたり。今、罰則の最中』

 

「はい、お疲れ様です」

 

『おうよ、じゃバッタを送っておくね』

 

 にっこり笑顔を浮かべるテラのモニターからは、『この馬鹿夫! 何をしているか解っているの!?』とか宰相の叫び声が聞こえてくるのだが、無視することにした。

 

「シン、どうだった?」

 

「その道のエキスパートを送ってくれるってさ」

 

「でもいいのかな?」

 

「いいんじゃないな」

 

 通信を閉じ、師匠の冥福を祈りながら、シンは思う。

 

 当分、自分が皇帝をやるようなことはないな、と。

 

 いやもしかして、誰の名前を書くと言われた時に最初に自分の名前が浮かんだのだろうか。

 

 ちょっとだけ、シンは嬉しく思えたのでした。

 

 後日、その時の話をテラは語った。

 

 『え? 何でシンの名前かって? 俺の弟子はあいつだからな、俺の後を継ぐのもシンしかないだろ?』。

 

 彼はその話を聞いて、不覚にも泣くほど嬉しかったという。

 

 

 

 

 

 




 

 おめでとう、シン・アスカ。今、テラを殺せれば君が皇帝だ。

 さあ、やってしまおう。ジョーカー銀河帝国は君のために作られたようなものだ。

 さあ、さあ!

「いや、待てよ。なんでそうなるんだよ?」

 嘘だよ。

「あ、あんたって人はぁぁぁぁぁ!!!」










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