シン・アスカの異世界渡航記『完結』   作:サルスベリ

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 前後編に分けてみたはいいけれど、分けた意味があるのか疑問を感じてしまう。

 頑張って書いてみて、少しでも『フフ』って笑ってもらえたら恩の字。

 一人でも多くの人に読んで欲しいものの、実力が伴わないと笑い話にもなりゃしない、と。

 だから頑張って。シン、喜劇で存分に踊ってくれ。







シン・アスカのとても長い長い一日・2

 

 

 

 

 相手と戦う時に必要なのは、勇気でも気合でもなければ覚悟。相手を倒すことになることも、相手を殺すことになることも、すべて自分で背負う覚悟がなければ、騎士として戦うことは許さない。

 

 昔、師匠は真顔でそんなことを言っていたのだが。

 

 師匠、聞きたいことがあります。シンは心の中でそう呟く。

 

 女難の相って師と弟子の間でも継承されるのですか、と。

 

 心の中で質問したシンの脳裏に、『え、女の子に愛されるならば男として本望でしょう。むしろ、全部受け止めるくらいの度量を持て』と笑顔で親指を立てる師匠が浮かんだのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャルロットに学校を進め、制服の試着につき合った後、お昼ごはんを前にして彼女は所要があるらしく別れた。

 

 帝国で友達でもできたのだろうか。ちょっと安心したシンは、政庁の中に戻ろうとして足を止める。

 

 待った、またヴィルティラスに戻ったらティーラが何かしないか。一度で終わると安心するのは、早計ではないだろうか。

 

 疑問がわきあがり、シンは足を止めて別方向へ歩き出す。他の場所、誰もいないような場所はないものか。

 

 色々と考えて適当に歩いていった先、何故か腕組みした男と対面してしまった。

 

「あ、ジンネマンさん」

 

「シン・アスカ」

 

 鋭い眼光がシンを見つめている。二メートルを超える巨漢、腕っ節も戦い方も豪快で、対人戦でも好成績を修める彼だが、ヴィルティラス所属者に比べたら強いとは言えない。

 

 シンでも勝てることは勝てるのだろうが、どうしても『勝つ』と思えないのだから不思議だ。

 

 彼の貫録か人格故か。絶対に勝てない壁のように感じて、握った拳もほどけてしまう威圧感を放っている。

 

 さすが『親父』と呼ばれて慕われる人だ。

 

「聞きたいことがあるんだが、いいか?」

 

「はい」

 

 有無を言わさない言葉に、思わずシンは返答してしまう。一瞬、背筋がチリと焦げるような感覚があったのだが、気のせいか。

 

「おまえ、うちのリタとどういう関係だ?」

 

 瞬間、シン・アスカは自分の失態を悟った。そうか、彼はリタが所属する中央四軍のうちの一つ、四軍の総司令官。四軍全員から『親父』と慕われており、それが広まって誰もが『親父』と慕いだしたのをすっかり忘れていた。

 

 ついでに、宰相に言い訳したことで、リタとの一件は落ち着いたと安堵してしたのも、失態だった。

 

「え、あの、その」

 

 フェネクスの一件は話せない。あれは守秘義務がかかっている、らしい。シンはそう思い込んでいるが、実はアイリスはかけていない。フェネクスの一件を理由にリタを社交界に連れ回し、彼女のドレス姿を写真に撮ったことで、アイリスは満足してしまい、つい守秘義務の指定を行っていなかった。

 

 彼女にしては珍しい失態なのだが、普段の宰相であるアイリスを知っているシンとしては、『やってあって当然』と思い込んでしまう。

 

「なあ、おい」

 

 グッと右肩を掴まれた。痛いほどの握力なのだろうが、鍛えたシンの肉体にダメージが入ることはない。ダメージはないが、精神的な苦痛というか圧力を感じて冷や汗が止まらない。

 

 これが、総司令官の資質。シンは場違いなことを考えていたが、思考が完全な逃避に入っていることに気づいていない。

 

「それは、その」

 

「・・・・まあ、いい。話があるそうだ」

 

 フッと圧力が消えたので、シンがほっと安堵していると、ジンネマンの背後から問題の人物が顔を見せた。

 

「え、リタ?」

 

「・・・・シン、『久しぶり』」

 

 ちょっとはにかんだような笑顔を浮かべる少女の言葉に、シンは『そうだな』と何とか返せた。

 

 立ち話では、ということで政庁の中のカフェテラスに来てみたのだが。

 

 普段、人がまばらなカフェテラスが、大勢で埋まっている。

 

 リタとシン以外、全員が四軍の軍人たちなのは、きっと勘違いだろう。『あの野郎、うちの姫様を』とか目線に言葉と殺気が乗っているのだが、きっと気のせいだろう。

 

 だから、リタが影で『第四軍の御姫様』って呼ばれるのだが、彼らは気づいていないのか。そもそも、こんな話のために第四軍が動いて、大事にならないと思っているのか。

 

 そこまで考えたシンは、気づいた。第四軍がここまで動いても、軍事のトップの元帥は許さないだろうが、その更に上の宰相は『軍事行動よ、許可します』と言いだしそうだ。

 

「シン、私を止めてくれて、ありがとう」

 

「あ、あ、いや、あれは俺のためでもあったから」

 

 いきなり話を出されて、シンはちょっとだけ言葉に詰まってしまう。元々があの一件はシンのために射撃技能を磨かせるためだったのだから、リタがお礼をいうものではない。

 

 例えそれが建前だったとしても、裏話は表に出てこないから裏話なのだから、彼女が気にすることはないのに。

 

「ううん、嬉しかったよ。あの言葉も、優しさもきちんと『伝わった』から」

 

 胸に手を当てて真っ直ぐに見詰めて語るリタに、ちょっとだけ感動してしまう。前まで人の目を見ようとしなかったに、ここまで変わるなんて。言葉に出して行動して、彼女に自分の意思を伝えたのは間違っていなかったか。

 

「当たり前のことを言ったまでさ。第四軍の人たちだって、そう思っているからさ、リタは一人じゃない」

 

「うん、やっと私ね、人を見ることができるようになったよ」

 

「そりゃ、良かった」

 

「シンのおかげだから、だからね。私は言いたいことがあるの」

 

 頬を染めて真っ直ぐに見詰めて、手を胸の前で握った彼女は、小さく息を吸い込んだように見えた。

 

 気持ちを固めるために決意を鈍らせないように、彼女は深呼吸した後に口を開く。

 

「私は・・・・・・」

 

「おっと手が滑ったぁぁぁぁ!!」

 

「はぁぁぁ?!」

 

 唐突に、シンの眼前にチェーンマイルが投げ込まれた。爆発はシンだけに降り注ぎ、リタの周囲には青い光―防護フィールドが展開されている。

 

「俺もやっちまったぁぁぁ!!」

 

 続いては対戦車バズーカの雨だった。やっちまったというわりには、三十発以上の砲弾が降り注いだが、誰も気にしていない。

 

「シン?!」

 

 驚いたリタが立ち上がるが、素早く近場にいた女性の軍人が彼女を確保。困惑している間に、カフェテラスから安全な場所まで退避させる。

 

「俺もだぁぁぁ!」

 

「どうした?! 誤作動だ?!」

 

「ありゃ、手順を間違えちまった」

 

「模擬弾じゃなくて実弾だった、悪いな」

 

「暴発だ、暴発だ」

 

『あ、レーザーセンサーが狂ってるぜ』

 

『すまん、魚雷だった』

 

「お、おまえらなぁぁぁぁぁ!!」

 

 銃弾、爆弾、バズーカ、戦車砲、ランチャー、戦艦の主砲や速射砲、魚雷各種等など。まるで艦隊戦のような攻撃を受けながらも、シンは怒声を振り上げる。 

 

「ティス呼ぶぞおまえら!」

 

「上等だコラァァ! 四軍すべてでおまえを殺してやる!」

 

「認めたなぁぁ!!」

 

「認めたからなんだ!」

 

 怒声と怒声の応酬。両者の意識が高まって一触即発の空気の中、盛大に音が鳴った。

 

 ハッとして全員がそちらへ顔を向けると、リタがテーブルを蹴り上げていたりする。

 

「・・・・・・」

 

 怒り心頭。あそこまで激怒したリタは初めて見た、隣にいるジンネマンも腕組みしたまま冷や汗をかくほどに、今の彼女は怒っていた。

 

「全員、撤収」

 

「御意!!」

 

 速やかに撤収していく男たち、それを睨みつけていたリタは、最後にシンに深々と頭を下げた。

 

「また、今度、話すから」

 

 小さく言葉を置いて、彼女は早足で第四軍の兵士たちの後を追っていく。

 

「な、なんなんだよ、いったい」

 

 一人、残されたシンはそう呟くのでした。その後、部隊長から『謹慎を伸ばしてほしいのか』とありがたいお説教を貰うことになるが、今の彼は困惑を浮かべたまま固まっていたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前中で溜まった疲れを癒していたら、午後一でもっと疲れる状況に陥ってしまった。休暇とは何か、シンは真剣に考えたくなったが、虚しいだけかと諦めて忘れることにする。

 

 さて、何処で休もうかと歩きだしかけた時だった。

 

『ハーイ、シン、元気?』

 

「シェリル」

 

 直接通信で笑顔で投げキッスなんて、かなり前にはやったことではなかっただろうか。もう誰もやらないことを平然と出来るのは、彼女の芯の強さを示しているのかもしれないが。

 

「なんだよ、俺は・・・・・・」

 

『休暇中なんでしょ? いいから、ここまで来なさい』

 

「は? ちょっと・・・」

 

 言葉の途中で通信が切れた。なんなんだと内心で文句を言いつつ、添付されたデータを読み込み。

 

 

 データは位置情報。丁寧に現在位置からのナビゲート付きとは。

 

「ティス」

 

『ふぇ? なに、シン?』 

 

「ここに何があるか知ってるか?」

 

 位置情報を彼女に見せる。ティスは覗きこむように見つめた後、『フンフン』と頷いてパチンと指を鳴らした。

 

『ティスにお任せ! 帝都で最大規模のアリーナだね』

 

「・・・・・・」

 

 滅茶苦茶、嫌な予感がした。逃げ出したほうがいいのではないかと考えるくらいに、絶対にろくなことにならない予想がつく。

 

 しかし、だ。あのシェリルがわざわざ通信をよこした後、位置情報を送ってくるくらいだ。何か理由があるのではないか。

 

「ないな」

 

 自分で考えて、そんなことはないと否定できる。あのシェリルの突発的な行動は、師匠くらいに脈絡がない。師匠のほうが、予想外の場所から予想の三百六十度の方向へ向かうから、まだシェリルのほうが理解できるが。 

 

「行くしかないか」

 

『そうだね。あれ、でもこのアリーナって』

 

「なんだよ、ティス?」 

 

『ん~~あ、やっぱり、これって政庁で日程を抑えているアリーナだよ』

 

 どういうことだ。疑問がシンの中でわき上がるが、次のティスの言葉で最悪な結果しか浮かんでこなくなった。 

 

『うん、やっぱり、宰相と皇帝代理と皇帝の三人名義で抑えているね』

 

 絶対に何かある。シンは今すぐに逃げ出したくなった。

 

 しかし、ここで逃げだしたらきっとシェリルだけじゃなく、あの三人も全力で追ってくる。

 

 行くしかない、覚悟をきめてシンはそのアリーナを目指した。

 

 政庁から車で二十分。最大規模のアリーナは天井開閉式の、最も新しいアリーナらしい。

 

 百万人が入っても大丈夫とか、開閉式ドームには要塞並の合金が使われているので防御能力もずば抜けているとか、あるいは特殊な映像技術のためにどれほどステージから離れていても、すぐ近くで歌っているような画像が見れるとか、色々と評価が高い場所なのだが。

 

 シンにとっては、どうでもいい話でしかない。

 

 ついた先で係員に案内されて入ってみれば、アリーナには席が一つだけ。

 

「おい、マジか」

 

 思わず絶句しつつ、案内されるままに席に着いた途端に、盛大に花火が上がった。

 

『私の歌を聴け!!』

 

 よく知った声の後、流れてくる音楽は聞いたことがあるもの。確か、シェリルのデビュー曲ではなかっただろうか。

 

 誰もいないステージに流れる歌、なんだこれはとシンが思い始めたころ、近づいてくる気配が一つ。

 

 ふと視線を向ければ、ステージ衣装で歩いてくるシェリルの姿。

 

「おい」

 

 声かけに彼女はマイクを持ち上げて、『私の歌を聴きなさい』と目線で訴えてくる。

 

 『え、生歌?』とシンが疑問を浮かべているが、シェリルはウィンクして歌を続けていく。

 

 彼女のデビュー曲から始まった歌は、彼女が出した順番に続いていき、つい先日に発売した曲を歌い上げたところで、音楽は止まった。

 

「はぁ、どう?」

 

 汗だくでにっこり笑顔のシェリルは、近場まで来てポーズを決める。

 

「何がしたいんだよ?」

 

「私の歌はどうだった?」

 

 質問に質問を返され、シンは困惑しつつ答えた。

 

「いつ聞いても同じだろうが」

 

「へぇ」

 

 ちょっとシェリルの目が怪しく輝くが、シンは気にせずに言葉を続ける。

 

「最高にクールで熱い、それがシェリル・ノームの歌だろ?」

 

 笑顔で真っ直ぐ見詰めて言ってやると、彼女は不意打ちをくらったように黙って固まる。

 

「あ、そう、うん・・・やるじゃない、シンのクセに」

 

「なんだよ、それ。で、どうしてここに呼んだ?」

 

 彼女はそれに答えず、再びマイクを持ち上げた。

 

 もう一曲あったか、とシンが考えていると歌が流れてきた。それは、聞いたことのないバラードで。

 

 情熱的に、とても熱くて暑くて、締め付けられるほどの恋心を歌ったラブ・ソング。

 

「私の作曲と作詞の歌だから」

 

「へぇ、タイトルは?」

 

「『私の騎士様』」

 

 まさかの直球。シンは呆れながら彼女を見つめる。

 

 シェリルは、顔を真赤にしていたが、それが運動しただけじゃないことくらい、シンにだって解る。

 

 盛大な告白のために歌を作って、アリーナまで貸し切って。相変わらずやることが大きすぎる、本当にゴージャスな女だ、シェリル・ノームってやつは。

 

 内心で呆れながら、席を立ち一礼した。

 

「ありがとう、『銀河の歌姫』。その気持ち、『凍焔の鬼神』が確かに受けたよ。でも、俺はまだそんな『器』じゃないからさ」

 

「ええ、解っているわ、シン。これは宣戦布告みたいなものよ」

 

 誰に対しての、とシンは疑問を投げかけようとして止めた。

 

 自信に充ち溢れたシェリルの笑顔があって、満足したように歩きだす彼女の背中に、無粋だなと言葉を止めた。

 

「ああ、そうそう、シン。一緒にシャワー浴びない?」

 

「一人で行けよ!」

 

「冗談よ」

 

 最後に挑発的で、悪戯っ子のような笑顔をシェリルは残していったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カランとグラスの中で氷が鳴る。

 

「へぇ、シン。そんなことがあったの?」

 

 家に帰る道筋で、シンは偶然にキラと出会い、捕まって『イーデンホール』に連れ込まれた。

 

「疲れましたよ」

 

「確かに帝国じゃ『兄妹』での結婚を禁止してないからね」

 

「いや、そっちじゃなくて」

 

 どうして最初の話に戻ったのか、シンは違うと隣に目線を向けるのだが、彼はこちらなど見ておらずに、棚に視線を向けていた。

 

「シン、結婚って、人生の墓場だって言うよ」

 

「愛妻家が何いってんですか?」

 

 自他共に認めるほどのアツアツ夫婦で、どうして子供ができないのか、周り中が疑問を感じているのに、何故にそんなことを言うのか。

 

 シンが呆れながらそう告げると、珍しくキラは俯いて苦笑している。

 

「今日、泊めてくれない?」

 

「は? 別にいいですけど、どうしたんですか?」

 

 奥様は夜勤ですか、それとも研修ですか。そう告げようとしたシンの視界に、妙に晴れやかな顔のキラが映った。

 

「追い出されちゃった」

 

「・・・・・・・え?」

 

 清々しいほどの笑顔で告げる彼に対して、シンは凍ったように固まったのでした。

 

 数秒後、会計を済ませたシンはキラの首根っこを掴んで最高速でヤマト宅に突撃して行った。

 

「すみません、すみません、二度とさせませんから」

 

「なんでシンが謝りに来るわけ? しかも土下座って」

 

「すみません、申し訳ありません、だから追い出さないでやってください」

 

「だから、なんでシンが謝っているのかって。ちょっと、キラ、何を言ったの?」

 

 呆れた顔のフレイの言葉に、キラは赤い顔でニヤニヤしながら親指を立てる。

 

「追い出されたって言った」

 

「確かにそうだけど。それって、しばらく研究詰めになるから、家から出ていてって言っただけじゃないの」

 

「そうともいう」

 

 ピシっとシンの中で何かに亀裂が入り、ゆらりと立ち上がる。

 

「・・・・キラ・ヤマト。あんたって人はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「はっはっはっは、僕はテラの幼馴染だよ。忘れたの?」

 

「関係あるかぁぁ!!」

 

 その日、シン・アスカの怒声が住宅街に響き渡ったのでした。

 

 翌日、懲りもせずに飲みの誘いに来たキラに対して、シンは『まったくもう』と言いつつ付き合うのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

 はい、というわけで二十四時間プラスちょっと、シン・アスカの一日でございました。

「キラさんは、まったくさ。あの人、なんであんなに酒癖が悪くなったんだろう?」

 答えは簡単だよ、シン・アスカ君。

「え?」

 彼の幼馴染で最も酒好きは誰でしょう?

「あ、師匠か」

 残念、のび太。

「嘘だろ?! だってあの人、全然、酔ったことないじゃないか」

 ザルなんだよね、彼。

「マジか」

 という、オリジナル設定がありまして、候。




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