たまの日常、あるいは非日常。銀河帝国にはよくあることらしいので、そこら辺は『ああ、馬鹿がまたやった』と思っていただければ。
重要なお知らせは一つ、時系列すっ飛ばし!
というわけで、シン、喜劇で踊ってくれ。
長いような短いような時間が流れた、らしい今日この頃。皆さまはいかがお過ごしでしょうかとシン・アスカは空に問いかけていた。
「・・・・俺って、もうすぐ二十歳なんだよな」
『なっがい青春時代だったね』
「ああ、そうだな」
隣にいるティスが、十三歳くらいに成長していたりするのだが、シンは特に深く突っ込みは入れない。
腰まで伸びた藤色の髪が風になびいて、本人が必死に三つ編みにしようとして失敗して、さらに御団子に挑戦して挫けたらしい髪型は、見た目が『爆発』しているように見えるが、突っ込まない。
『・・・・・切る』
「ちょっと待てティス! なんで斬艦刀を出した?!」
『斬る』
「言いなおすなよ! ただでさえ最近は俺の周りは常識がないんだから!!」
必死に相棒を宥めるシンの前で、その当人は可愛らしく首をかしげた。
『え? 元々ないよ』
あまりに酷い言葉に、シン・アスカは小さく崩れ落ちた。
セシリアが来ました、チェルシーって女の人も一緒に来ました。
「な、なんですのこの世界?!」
来て早々にそう叫んだ彼女は悪くない。
「シャルロットさん! 説明を求めますわ!!」
「あ、うん、そうだよね」
二年も経ってかなりジョーカー銀河帝国に染まったシャルロットは、遠い眼をしながら抱きついてきたセシリアの頭を撫でてあげた。
「本当に説明してください! どうして!」
半分くらい泣いている彼女は、真っ直ぐに手を伸ばして指を向けた。
「どうしてあんなところで逆さ釣りにされている人が皇帝陛下なんですか?!」
「あ、うん、そうだね」
信じられないという顔をしているセシリアに、シャルロットは思う。
自分も最初はそうだった、と。なんであんなに、ほぼ毎日のように政庁の屋上から吊るされているのか、毎日やっているのに反省はしないのか、どうして彼は笑顔で逆さ釣りにされているのか。
それなのに、毎日のように帝国各地で『皇帝陛下発見』なんて話が流れているのか。色々と疑問を感じるのだが。
「あれは前に来たテラさんですわよね?! シンさんの師匠の?!」
「あ、そうだね」
最大の疑問は、一つだろうか。
「あ、今日は正午か」
「おい、誰か配当表を持ってこい」
「お昼の時間だな。昼休みにしようか」
「あ、馬鹿が帰ってるよ」
「本当ね」
などと、帝国国民が吊るされている陛下を見て、『ほのぼの』としているのは、毎日のことなのでシャルロットは疑問には感じない。
最大の疑問は、吊るされているはずの彼が数秒後には隣に立っていることか。
「ようこそ、セシリア! チェルシー! 我が帝国へ!!」
「へ?」
間抜けな顔して止まるセシリアとチェルシーに対して、テラは高笑いを上げてマントを大きく広げた。
「存分に楽しむがいい! この深淵の宇宙に広がる我が領土を!」
「あ、はい」
素直に頷く彼女に満足したのか、テラは大きく頷いた後に、再び元の位置へ戻った。
「・・・・シャルロットさん」
「セシリア、いいことを教えておくよ。ジョーカー銀河帝国皇帝は、『馬鹿』だから。それだけ覚えておけばいいよ」
「解りましたわ」
楽しそうに揺られているテラを見上げた二人は、同じタイミングで溜息をついたのでした。
「師匠!! また何やったんですか?!」
そしてシンが突撃するのも何時も通り。
「なんだよ?」
「なんだよ・・・じゃないでしょうが! ヴィルティラスに査察命令が入ってるんですけど! しかも星間同盟の支配地域だった星系に!」
「あ、そこ制圧してきた」
「は?」
「うむ、あいつらこっちの宙域にちょっかいかけておいて、『自分達の領域だ、さっさと立ち去れ』とかいうから、ブチっと」
親指と人差し指をつけるテラは、何処までも楽しそうに笑っているのだが、シンには解った。
『あ、本気で怒っている』と。
理由は深く聞くのは止めよう、シンがそう判断している最中、原因となった人物が暴露してしまう。
「俺の国民に手を出しておいて、『おまえらが悪い』なんて言われたら、『悪魔でいいよ、悪魔らしい手段使うから』ってなるじゃん」
「・・・・・なるわけないだろうが馬鹿師匠がぁぁぁ!!!」
人の気遣いをなんだと思っているんだとシンは叫んだという。
同じ頃、空を見上げていたシャルロットとセシリアは。
「これも普通のこと、ですか?」
セシリアの問いかけに対して、シャルロットは笑顔を浮かべて小さく首を振るしかなかった。
その日、ジョーカー銀河帝国は領土が増えた。丁度、一年の締めくくりの瞬間に増えた領土に、政府関係者全員は死ぬ思いをしたという。
査察任務は専門家に任せる、というエイルンの言葉に何人かがホッと安堵を浮かべたのは、当然のことかもしれない。
どちらかといえば、ヴィルティラスの大半が事務処理や査察が苦手で、できれば武力制圧とか、戦場への乱入、あるいは突撃、突入任務を好む。
査察なんてめんどくさいことを任せられるくらいならば、敵陣中央に強制転移させられたほうがマシ。誰もが言わない本音を、部隊長は正確に見抜いていた。
いたのだが、専門家というのがヴィルティラス内部のことなのは、彼は言わないでいた。
「というわけだ、ハイネ」
「俺ですか?」
「査察できる、弁護士資格持ち、外交官の知識もある、いざという時は裁判官の資格も持っているハイネが適任だろう」
結局、頼りになる兄貴分が貧乏くじを引くことになったわけだが、彼は小さく肩を竦めて『了解』と答えた。
「後でシンにも取らせる」
「お願いします、あいつはなんだかんだでやれるやつですから」
そんな会話が目の前で行われていることに、シンは疑問を感じているのだが口を挟むことはしない。
それよりも、ハイネの資格のほうが気になったともいえるが。
「ハイネってそんなに資格をもっていたんですか?」
「ま、器用貧乏なくらいにはな」
ニヒルな笑みを浮かべた彼ははぐらかして答えず、エイルンも何も言わないでいる。
後日、ハイネの資格について宰相に聞いたところ、『ジョーカー銀河帝国内の資格で彼が取得してないものはないはずよ』と答えを貰い、改めて彼のスーパーチートぶりを知ったのでした。
ともかく、だ。
任務が通達されなかったシンは、めんどくさいことから逃れたのだが。
「どうしてこうなった?」
政庁の近場のカフェテラスにおいて、シンはコーヒーカップを持ちながら、目の前の光景から必死に意識を反らしていた。
「へぇ、そうなんだ」
にこやかに笑うシャルロットは、目が笑っていないで周り中を見回している。
「本当、おかしい話じゃない?」
妙な色気を振りまきながら、シェリルは優雅に微笑んでいる。
「おかしい話ではないはずでは?」
真顔で無表情、というわけではなく今日は微笑を浮かべるティーラは、目の前のカップを握りつぶしかけている。
「あ、あの、皆、仲良く、ね」
そんな雰囲気の中で唯一の癒しになりそうなリタは、周りの圧力に屈しそうになっていた。
「なるほど、シンさん、どういうことでしょうか?」
淑女の頬笑みを浮かべながら、目の殺気を浮かべたセシリアが問いかける。
「どうしてこうなった?」
再度、シンは目の前にいる女性たちを視界に入れないように、小さく呟いていた。
セシリアが来たから街を案内したいとシャルロットがいい、付き合うことはできないがマップデータくらいはとシンが提案して、二人とカフェテラスで待ち合わせしていた。
そこへ丁度、任務が終わって戻ったティーラが遭遇。当り前のようにシンと同じテーブルにつき、さらに政庁に用事があって終わった後のシェリルが合流してきて。
現在の状況が完成した。
『だから、さっさと結婚しろって言ったんだよ』と脳裏で師匠が馬鹿笑いしているが、今のシンは突っ込む気力はない。
にこやかに穏やかにカフェテラスでお茶でも、という雰囲気でいたいのに、殺伐とした圧力と、喉元に刃を突きつけられたような冷たさが漂う。
『これが修羅場! シン、成長したね』
テーブルの下、足元のところでティスがハンカチで目元の涙を拭っているのだが、そんなことをしている余裕があるのなら助けてほしい。
相棒の心の声を察知したティスは、ハンカチをしまって親指を立てる。
『名案がある、シン』
さすがだ、相棒、頼りになる。内心で感謝を述べたシンに対して、ティスはそのまま親指で首をかっ切る仕草をした。
『全員、嫁にすれば解決。ようこそ、地獄の一丁目に』
こいつは誰の相棒だったのだろう。二年前は本当に頼りになる相手だったのに、今はポンコツでしかないらしい。
「つまり、全員がシンを狙っている、と?」
シェリルが牽制した。目線で見つめつつ、指先がテーブルを叩く。
「ええ、当たり前でしょう?」
牽制を払いのけるティーラ。恥じらいなく真っ直ぐに好意を向ける彼女に、残り三人が『恐ろしい子』と思ったとか、思わなかったとか。
「わ、私もシンが好きだから譲らない」
ここで予想外の伏兵、リタが突撃。まさかの攻撃に他の四人にクリティカルダメージ。
「・・・・シンはどう思っているの?」
シャルロットの危機回避実行。問題の彼に丸投げのトラップカード発動。シン・アスカに大ダメージ発生。
「お、俺?」
「はい、シンさんのお気持ちはどうなのですか?」
さらにセシリアの追撃発生。シンに追加ダメージ。
「お、俺は」
「あら、私は告白して『受け取ってくれた』わよね?」
シェリルの伏せカード発動、『過去の約束』によりシンの胃に大ダメージ。こんなダメージは師匠以来だ。
瞬間、フィールド魔法発動。『どういうこと』の四枚同時発動により、ダメージが倍加。シンのライフが削られる。
「答えてくれるかしら、『凍焔の鬼神』様?」
さらに追撃発生。しかし、そのカードはカウンターによって阻まれる。
「皆の気持ちは嬉しい」
カウンターカード、『字を持つ騎士の矜持』発動。これよりシンの精神が豆腐から鉄鋼へと変化。感情抑制も発揮して、冷静さが戻った。
「けど、俺にはまだ皆の気持ちに応えるだけの強さがない。だから、待っていてくれ」
真顔で語る彼は、とても『ヘタレ』なことを言っているのだが、惚れた弱みかそれとも精神的な魅了かは解らないが、彼女達はただ一言『はい』とだけ答えたという。
後日、シンは妹にこう言われた。『最低のスケコマシ』と。
嵐のような一日の後、シンは今日もヴィルティラスの執務をしていた。最近、どうしてこう心労ばかりがたまるのか。休日でも任務中でも心労がたまるなんて、普通ならば倒れていてもおかしくないのに。
自分がヘタレだからだろうか。そもそも、どうして自分なんかに好意を向けてくれるのか、カッコイイなんて言えないのに強くもないのに、好かれるなんて理解できない。
「なんて顔して仕事している、シン?」
「あ、ガイさん。俺ってなんで人に好かれるんでしょうか?」
「はぁ?」
声をかけてきた彼に、思わず素で質問してしまった。
「なんでって、そりゃ。何でだろうな」
ガイも返答に困る。彼も人の好意には疎いタイプだ。敵意や殺気には鋭く反応できるが、自分に向けられた好意にはとても鈍い。
「ガイさんは既婚者じゃないですか、ならそういったことは解るかなって」
「俺はあいつ一筋だからな。あいつのことならいくらでも解る。それ以外って言われてもピンっとこないんだよ」
「そんなもんですか」
「そんなもんだ。人が人を好きになるのに理由が必要ってやつもいれば、理由なんていらないってやつもいる。大切なのは、その人に対して自分が『どういう想いを抱いているか』じゃないのか?」
迷いながらじゃない、真っ直ぐに自信にあふれて答える彼に、やはり彼は『勇者王』だなとシンは思った。
迷っている人の背中を押してくれる、勇気を与えてくれる。彼に『大丈夫』といわれると、何とかなりそうな気がするのは、彼が自分自身に迷いを抱えずに真っ直ぐ生きているから、だろうか。
「それにな、そういったことは俺じゃなくて師匠を頼るべきじゃないか?」
「師匠、ですか?」
「ああ。あの人も伊達に十三人も奥様を抱えてるわけじゃないだろ?」
「そりゃ、そうかもしれませんけど」
少しだけシンは、だからといってあの人が答えをくれるなんて思えなかった。毎日、何処かへ飛びまわっては政庁から吊るされて怒られて。あれでよく奥さんたちが愛想を尽かさないな、と疑問に感じるのに。
「十年以上、誰も離婚してないのがいい証拠じゃないか?」
「それは、まあ」
確かにそうかもしれない、とシンは思った。ならば相談してみるのもいいかもしれない。
ガイのアドバイスに頷き、シンは仕事を片付けた後に師匠であるテラに連絡を入れた。
相手は、『じゃ、カフェテラスで』と答えてすぐに来てくれた。
「師匠、俺ってどうして好かれているんですか?」
「俺に聞くなよ。そんなの彼女たちに聞けよ」
「いや、そりゃそうなんですけど」
ニヤニヤと笑っているテラに、軽く怒りを感じてしまうのだが、今回は自分が呼び出したからとシンはグッと我慢した。
「なら、師匠と奥さん達って、どういう経緯で結婚したんですか?」
「ん? もらえるものは貰う主義だ」
あっさりと最低なことを答える彼に、溜息が出てしまう。まったくもうと内心で悪態をつくシンに対して、テラは穏やかに微笑む。
「『例え、地獄の底であっても貴方と一緒なら納得できる』」
「え?」
「何にもないさ。理由とか資格とか、そんなの俺は知らない。でもな、俺はそういうもんだと思う。幸せにしてみせるなんてさ、本当にできるどうかはわからないし、幸せの定義は人それぞれ違うものだ。だから俺は彼女たちに、『納得』はできるようにしているつもりだ」
いきなり深い話を持ってきた師匠は、まるでバーにいる時のように大人の顔をしていた。
おちゃらけてふざけていて、馬鹿のような行動をする人。子供のように、悪戯っ子のように動き回る彼は、それでも真面目に向かってきた人に不真面目に答えることはない。
「頭で考えずに、お前のそこはさ」
テラは真っ直ぐにシンの胸を指差す。
「彼女達のことをなんて言っている?」
「俺は・・・・・」
「ま、悩んだら悩めるだけ悩め。悩んだことは決しておまえを裏切らないし、未来とかでおまえを助けてくれる」
「はい」
大きく頷くシンに、テラは立ち上がる。
「悩んで迷って答えが出ないなら、彼女達一人一人と向き合ってみろ。案外、それで答えが出るかもしれないぞ」
「え、でも、どうやって」
問いかけるシンに対して、彼は立ち上がり背を向けながら、顔だけ振り返りこう告げた。
「簡単だろ、『午後にはカフェテラスでお茶でもいかが?』って言えばいい」
彼はそう告げて、姿を消した。
残されたシンは『そう言う簡単な話なんだろか』と疑問を落としたが、師匠が真面目に答えたことだからと考え直す。
後日、その言葉に『皇妃達』全員が過剰反応したとかしなかったとか。
そして、シン・アスカはそれを実行しようとして『初めての羞恥心』を味わうことになる。
「これってデートの誘いじゃ」
『え? シン、今になって? 今になって気づいたの?』
「ティス、知っていたならもっと速く言ってくれ」
呆れた顔をする相棒に対して、シンは両手で顔を覆って机に突っ伏すのでした。
日常、のはず。日常だよね、たぶんこれ日常のはずだ。
「ジョーカー銀河帝国じゃ、日常だな」
だよね、シン。そうだよね。
「ああ、それにしてもなんで皇妃様全員があんなに過剰反応したんだ?」
それはテラがあの言葉でカフェテラスに誘ってデートしたからじゃないの。
「はぁ?! だってアイリスさんとアセイラムさんは」
結婚してもデートはするらしいよ。
「あ、ああ。そうなのか」
がんばれ、シン。目指せ、ハーレム。
「・・・・・・」
いや、そこで停止されるとタグ回収が。