シン・アスカの異世界渡航記『完結』   作:サルスベリ

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 最近、色々と暴走している気がする。

 もう一作、やらかしたかなって思って息抜きにこちらを、というわけじゃないのですが、思いついたことあったのでどうか一つ。

 シン、頑張って喜劇で踊ってくれ。






常勝不敗とか、最強無敗とかって

 

 

 最近、シン・アスカは気になることができた。

 

 実は師匠って、弱いのでは、と。

 

「ということなんですが、ルルーシュさん」

 

「おまえはいきなり何を言っているんだ?」

 

 唐突にそんなことを打ち明けると、目の前で資料を読んでいた男は、かなりきつい目線を向けてくる。

 

 ルルーシュ・ブリタニア。かの有名な銀河最硬『ブリタニア』家の男にして、体育会系及び肉体言語こそすべてのブリタニア家の、頭脳労働担当その二。

 

 弱い、非力、軟弱、女以下なんて言われている彼なのだが、それはブリタニア家が比較対象だっただけで、一般人と比べたら高い運動能力を誇る。誇るのだが、彼の周囲の幼馴染も人外オブ人外だらけなので、一般人と比べて高くても『弱い』イメージがあるのが彼。

 

 生まれる世界とか生まれる家を間違えた彼、世が世なら皇帝になれたとか最強の騎士であってもおかしくないらしい。

 

「いえ、師匠って弱いんじゃないかと思って」

 

「・・・・・熱でもあるのか、シン? 今ならフレイとブラック・ジャック先生も医療室にいるから、行ってこい」

 

 厳しい目線は何処かへ行ったのか、明かに慈愛に満ちた心配そうな顔をする彼に、シンは首を振って否定した。

 

「体調は大丈夫です。そうじゃなくて、前にあった『皇帝甘味ご乱心事件』のことです」

 

 すでに帝国中で知れ渡った、とても馬鹿げた理由で始まった皇帝の全力戦闘と、それを防ぐべく立ち向かった『凍焔の鬼神』の一大乱闘を、後日になって政庁はそう名付けた。

 

 かなり不本意な宰相と、もう机に突っ伏す勢いで嘆いた皇帝代理の姿は、しばらく主星で話題になったのだが。

 

 一方、事件名を聞いたルルーシュは、海よりも深いような長い溜息をついた後、軽く首を振っていた。

 

「あいつの馬鹿な行動にも慣れたと思っていたが、まさかそんなことで戦闘をするとはな。嘆かわしい」

 

「やっぱり、ルルーシュさんもそう思いますか? 甘味程度って」

 

「いや」

 

 呆れた顔をしていたルルーシュは、すぐに真顔になってシンに向かい合う。

 

「甘味は人類の宝に匹敵する。一流のパティシエが手がけたものは、宝石に勝る価値があるだろう。その上に、カロリーを完璧に抑えた上に甘みは損なわない絶妙なさじ加減は、まさに一流の策士に勝る」

 

 真顔で甘味の素晴らしさを語る彼は、見た目は完全に女性を虜にするような『イケメン』なのだが、語っている内容がとても微妙なものでしかなく、壮大な知識と、膨大な情報を持って語る内容が甘味なんてと呆れたくなるのだが。

 

「その中でも、翠屋の甘味は素晴らしいの一言では収めきれないほど、至高の価値があるものだ。シン、テラが怒ったのも無理はない」

 

「あ、はい」

 

 妙な説得力、整った美貌のスマイル、その上で人を熱くさせる何かを持った彼の一言は、絶大な信頼を聞く者に与える。

 

 もし彼が違う世界に生まれたならば、世界の一つや二つはその話術で壊せるんじゃないか、なんて言われているだけはある。

 

 そう考えれば、師匠の幼馴染の中でまともな人はいないのだろう。あの酒癖が悪くて、時にどうしょうもない失敗をするキラがとてもいい好青年に思えるくらいに、テラ・エーテルの周りの人達は『規格外』過ぎる。

 

「だが、皇帝だぞ、あいつは」

 

 しかし、その表情はすぐに呆れに染まる。いくら彼が甘味に対して信仰に似たような感情を持っていても、同じくらいテラに対して呆れを含んだ『馬鹿もの』的な気持ちを持っているらしい。

 

「あいつ自身が迂闊に店に入るわけにいかないことは理解しているが、だからといってお土産がないくらいで戦闘するなど」

 

「ええ、戦闘・・・・・あれ?」

 

 溜息交じりのルルーシュの言葉の中で、シンは気になることができた。先ほどから彼は、『戦闘』と言っているが、『全力』とか『全開』とはつけていない。あの激怒状態の師匠が、あの表情が死んだ真顔のテラが、戦闘を開始して手加減したなんてこと、あり得るのだろうか。

 

「ルルーシュさん、あの時の師匠の戦闘って見たんですか?」

 

「ああ、見たが。それがどうした?」

 

「全力でしたよね?」

 

 恐る恐る、シンは問いかける。まさか、そんなことはない。あの時の師匠の殺気は本物だった。迫ってくる圧力も、向かってくる武器の威力も、滅多に出さない眷獣も、すべて本気だったはずだ。

 

「シン・・・・・」

 

 嘘だと言ってほしい、シンはそう願っていたが、現実はとても非情だった。

 

 妙に優しくルルーシュは穏やかに笑いながら、軽くシンの右肩に手を置く。何処か哀愁さえも漂っているような、儚げな青年はゆっくりと口を開いた。

 

「・・・・・あれはあいつにとって十パーセントにも満たない戦闘だった」

 

「?!」

 

 瞬間、シン・アスカは声にならない叫び声をあげて、膝をついたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、どうしてそう思った?」

 

 少ししてどうにか復活したシンに対して、ルルーシュは資料を読みながら問いかける。

 

「その、あの時の戦闘って宰相が師匠を沈めたので」

 

「ああ、そのことか」

 

 資料の最後のページを読み終えた彼は、真っ直ぐにシンを見つめた後、右手を上に向ける。

 

「あいつは基本的に、『奥様の攻撃を回避しない』」

 

「え?」

 

「妻の攻撃を受けて耐えてこそ夫、と思っている節があるからな」

 

「え、ええ?」

 

「あるいは妻の攻撃は夫への愛情だろうか。とにかく、あいつが妻からの攻撃を回避したところを、俺は見たことがない。話でも聞いたことがないからな」

 

 なんだ、そのノロケ話は。ようするに師匠は徹底的に奥様達に甘いということではないか。

 

「あ、そうですか」

 

「ああ。だから、あいつの勝敗に奥様達との戦闘は含まれていない。理解したか?」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 礼を言って頭を下げると、『そんなことはいい』と彼は告げた後、手もとの資料を差し出した。

 

「今回、俺がここにいる理由、知っているな?」

 

 質問の形をとっているが、それは答えを知っていることを理解したうえでの発言だった。

 

 確か、今回ルルーシュが呼ばれた理由は銀河帝国法の見直し。十年を超えた銀河帝国は現在まで設立当初の法律を使っており、その内部は『あ、単一惑星ならこれで十分』的なものが多い。

 

 現在、ジョーカー銀河帝国が保有している領域は五つの太陽系プラスいくつかの惑星国家といったところ。日々、近隣の惑星国家がケンカをしかけてきて皇帝陛下が突撃して終わったとか、あるいは経済的打撃とか、宇宙規模の自然現象により滅亡の危機に陥ったとかで、帝国に保護を求めてそのまま隷属したといったことで、勢力図は拡大している。

 

 太陽系だけを支配下においているのに、銀河帝国とか名乗っているのはどうか、なんて言葉は昔はよく聞いたのだが、最近は聞かなくなった。

 

 我らが馬鹿皇帝が、『じゃがんばる』とか言い出して色々とやらかしてそうなので、誰もが怖くて言えなくなった、という建前の話だが。

 

「ああ、そろそろ法律の見直しも必要だろうというので呼ばれたのだが、兄上のほうが良かったのではないか」

 

「シュナイゼルさんって、今は何をしているんですか?」

 

 ルルーシュ以上に頭の回る、ブリタニア家の頭脳労働担当その一は、少し人とズレた感覚とセンスを持っているらしい。

 

「小学校の先生だ」

 

「・・・・・・」

 

 シン、どういって対応すればいいか解らずに、言葉に詰まってしまう。

 

 銀河帝国でも上から数えた方がいい頭脳が、小学校の先生をしているとか、本当にそこでいいのか、才能を無駄遣いしていないかと色々と考えてしまう。

 

「将来、アインシュタインを超える天才を育てると言っていた」

 

 壮大過ぎる計画が、実は裏側でこっそりと進行中だったらしい。

 

「昼間は小学校で、夜は個人塾の講師をしている。『いつか、ルルーシュや私を簡単に論破できる軍師を育て見せる』と、とてもいい笑顔で語っていたが」

 

「シュナイゼルさんって、最近は休んでいるんですか?」

 

 知っている限り、その前は外交官とかやっていた気がするのだが。

 

「ああ、一日三時間は眠れるようになったと、嬉しそうに話していた」

 

「止めてあげてください」

 

 あんまりな内容に、シンは思わずルルーシュにしがみついていた。

 

「俺の言葉を兄上がきくと? もしダメならナナリーが『殴って眠らせる』ことになっている」

 

「あ、そうですか」

 

 幼くて可憐な少女で、バルコニーで本を読みながら紅茶を飲んでいそうな深窓の令嬢、といった雰囲気の彼女が拳一本で戦車を破壊可能なんて、誰が信じれるだろうか。

 

「シン、最近のナナリーは戦艦に穴を穿つ」

 

「強く生きてください、ルルーシュさん」

 

「ああ、ありがとう。シンところで、おまえがここにいる理由を思い出せるか?」

 

「はい。法律関係の勉強ですよね?」

 

「そうだ。では、この法律に対して、改定案を考えろ」

 

 唐突に言われたことに、シンは一瞬だけ呆けそうになったが、何とか気持ちを持ち直して真顔を向ける。

 

「無理です」

 

「やれ」

 

 即答で返すルルーシュに、さすが師匠の幼馴染かとシンは諦めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 右手に現行の法律データ、左手にそれに対しての改定案のデータ。

 

『うむ、シン、さすが』

 

「うるさい、ティス、邪魔するな」

 

『応援しているのだ』

 

 妙な言葉に顔を上げて見ると、目の前に女学生のような服装のティスがいて、その後ろにいるルルーシュは十二の画面を一斉に操作している。

 

「質問か、シン? それともティスの服装でも気になったか?」

 

 こちらに顔を向けることなく答えるルルーシュに、『何でも有りません』と答えながら、シンは再び顔をデータへと戻した。

 

「これって、俺やルルーシュさんがやることなんですか?」

 

 不意に思いついたことを口にすると、彼は操作を続けながらも答えを返す。

 

「俺以外が関わると色々と厄介でな。皇妃様達が関わると、必ずテラが出てくる」

 

「あ、察しました」

 

 師匠が関われば、問答無用で改変できるだろうが、それでは万人のためにならない気がする。一人ですべてが終わるならば、その人にすべてを任せて他の人の経験にならならない。

 

 けれど、今の状況も同じではないだろうか。

 

「現在、俺以外にも十三人ほど法律の見直しを行っている。現在の法律を拡大できるかどうか、あるいは根本から見直したほうがいいか、そういった両極端な方面では三十人以上が動いている」 

 

「多人数で別々にやるんですか?」 

 

 時間がかかって、返って収集がつかないのではないか。シンは疑問を感じて言葉を投げると、相手は小さく苦笑したようだった。

 

「急ぎではないから、多角的な意見を求めたのだろう。アイリスのことだ、その点は考えているさ。今回は時間より深く広くを求めた結果だ。急いで改編した結果、数年後に不備が見つかってさらに改編とするよりは、深く考え様々な意見を取り入れて堅実な法律改編を行いたいのだろうな」

 

「そうですか。で、俺もですか?」

 

「次期皇帝陛下もかかわるべき、と考えたのだろう。あるいは、ヴィルティラスでの三人目の『万能職』を生み出したいのか」

 

 ちょっとだけ期待の込められた瞳を向けられ、シンは自分はそんなに万能な存在じゃないと反論したかった。

 

「え、あれ? 三人目って?」

 

 口から出たのは別の言葉。ハイネの万能さは知っていたが、他の人って誰がいただろうか。

 

「なんだ、知らないのか?」

 

「え、他にいましたっけ?」

 

「ガイも資格はすべて持っているが?」

 

「ええ!?」

 

 あの勇者王も、そんなに万能だったのか。シンが初めて知った事実に驚愕を浮かべていると、ルルーシュは呆れたように溜息をついた。

 

「あいつは普段の言動が熱血だから、そう思えるだけで博士号も持っている、本当の意味で万能・万全の勇者王だ。医学関係の資格まで持っているからな」

 

「あ、ああ、そうですか」

 

 意外に自分は周りで働いている人たちのことを知らないのか、シンは自分が周りに無頓着な冷たい人間に思えてきた。周りの人達は、自分のことを色々と気にかけていてくれるのに。

 

「そう気にするな。おまえは良くやっている方だ」

 

「慰めてもらわなくても自分のふがいなさはよく解っていますよ」

 

「いや、本当のことだ。あの師匠の元で育ったのに、よく事務関係の技量を伸ばしたと俺達は尊敬している」

 

「あ、いや、その」

 

 雲の上のような人から真っ直ぐに向けられた敬意に、シンは少しだけ恥ずかしくてどう答えていいか解らずに言葉に詰まってしまう。

 

「本当にな」

 

 一方、ルルーシュは深く項垂れていた。

 

 テラ・エーテルは絶対無敵、常勝不敗、何が相手でも恐らく危機的状況に陥ることなく潜り抜ける。命の危険にさらされるなど、世界が終ろうともあり得ないだろう。

 

 しかし、だ。その強さは戦闘面でしか発揮されない。彼の私兵扱いの『サイレント騎士団』は、彼の戦闘能力に対して凄味にはなれないが、それ以外の面では彼を支え続けている。

 

 その事実を伝えるべきかどうか、ルルーシュは僅かに悩んだのだが、真剣な顔でデータを見ているシンを見た後で、首を振った。

 

 教えない方がいいだろう、あの向かうところ敵なしのテラ・エーテルが真面目に取り組めば取り組むほど、書類に誤字脱字を多くする事務関係無能だなんて、とてもじゃないが言えない。

 

 本当に呆れるくらいに、真顔で『あ、マジだ』と幼馴染達全員が感じるほどに真面目に取り組んでいるのに、出来た書類は誤字脱字だらけで、下手をすると文章になっていないときさえあった。

 

 それに、テーブルマナーとかいったものも教えても身につかなかった。ナイフやフォークを内側から使ったり、左右別々の場所からとったり。『え、手づかみダメなの、何で?』と真顔で返されたときは、もうどう答えていいか解らずに全員が顔を見合わせたものだ。

 

 それを考えれば、シン・アスカは良くやっている。書類は教えれば教えるほど上手くなっていく。事務関係は一度でも指摘すれば、多岐に渡って活用してくる。

 

 本当にこのまま彼が二代目皇帝になってもいいのでは、と考える政府関係者は多いのだが、誰もが彼を面と向かって褒めることはしないので、彼自身は知らないことだ。

 

「本当にもったいない」

 

「え、何ですか?」

 

 つい言葉に出してしまい、シンが不意に顔を上げた。

 

「何でもない。続けていけるか?」

 

「はい、もう少しで何とか」

 

「解った」

 

 さすが、普通の政治家や事務官にさせたら、五時間はかかる分が一時間未満で終わるとは。

 

 ルルーシュは内心で思う、『兄上、天才を育てる心地よさ、解った気がします』と。目線をシンに向けながら、彼はフッと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しっかり仕事して政庁から戻るシンは、入口から出たところで軽く背伸びした。久しぶりに事務仕事漬けだったから、体中が痛い。戦闘訓練とはまったく違う疲労に、たまにはこんなものもいいかな、と思ってしまう。

 

「・・・・ああ、また何やったんですか?」

 

 無意識に振り返った先、政庁の屋上から皇帝陛下が吊るされていた。

 

 今日は珍しく張り紙付きで。

 

 『馬鹿が、皆が頑張った書類を改悪した』と。あの字はルルーシュのものだ。まさか、今日にやった分を師匠が何かしたのか。またかと思う彼だったが、改悪とはなんだろう、と疑問を感じた。

 

 師匠が関わって悪くなったことなど、今まで一度もないのに、と。

 

 数年後、シンはテラ・エーテルが事務関係無能、生活関係全滅のダメ夫だと知ることになるのだが、今の彼はそれに気づかずに帰宅していく。

 

 翌朝、妹に重力子爆弾で襲撃されて、この時のことを忘れたのだが。

 

 

 

 

 

 




 
 書類なんて嫌いです。事務仕事なんて、なくなればいいのに。

「なんだか、今日は悪意を感じるな」

 ちょっと色々とあったのを八つ当たりのように書いてみました。

「何があったか深く聞かないでやるよ」

 というわけで、ルルーシュ登場でございます。

「あの人、頭の回転が速くてついていくのがやっとなんだよな」

 ルルーシュについていけるって時点で、シンも随分とたくましくなったなぁ。

「何でだよ?」

 自分の魔改造具合に気づかない、シン君、とても素敵ですよ。

「はぁ?」




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