気づけば一周年とか、色々とやったなぁと思います。
というわけで今回は、過去のお話。
上手く伝わればいいのですが、文才って何処かに落ちてないかと考える日々です。
では、悲劇を喜劇で塗り替える馬鹿のお話をどうぞ。
久しぶりに、あの頃を夢に見た。
膝をついて、歪んだ視界で見つめながら、一歩も動けないでいた自分がいて。悔しくて叫びたくても声が出ない、やるべきこををしないままただ嘆いていた情けない自分。
あの頃に戻れたら、間違いなく殴っていた。激情に身を任せて殴った後で走り出すのに、今の自分は動けないまま目の前のことを見つめるしかなくて。
嫌だ、こんなのは間違っている、夢でしかない、心で否定しても頭が現実だと伝える光景を前に、八歳のシン・アスカは泣いていた。
「お兄ちゃん?!」
「え、あ?」
珍しいくらいに焦った妹の声に瞳を開けば、そこには見慣れた天井と、見慣れたマユの顔があって。
思わずシンはギュッと彼女を抱きしめた。
「え、えっと、昔の夢?」
問いかけに答えずに、シン・アスカは泣きながら妹を抱きしめていた。
今は現実だと解る、あのことは過去のことで今のことじゃないと理解しているのに、心は拒絶と慟哭を叫び続けていた。
もう絶対に、繰り返さないと誓いながら。
シン・アスカの両親は、当時は普通の会社員だった。特別な技能を持っていたとか、特殊な地域に派遣されるといったことはない、ごく普通の家庭。
一般的、特筆するべきものはない、特徴といえば両親が技術士であり、時々は家を留守にするくらいだろうか。
母親も同じ会社に勤めている、両親共働き。幼い頃からあまり家にいない両親の代わりに、シンはそれなりに妹の面倒を見るいいお兄ちゃんだった。
毎朝、妹と一緒に学校に登校して、帰りは妹一緒に帰る。時々、近所の友達と一緒に登下校したり、あるいは妹ともども遊びに行くなど、両親がいない間は常に妹を気にかけたりしていたのが、当時のシン・アスカだった。
けれど、八歳のシンにとって思いっきり遊べないのは、ストレスとになっていたのかもしれない。時々は妹を放り出して遊びに行きたいと考えるのは、仕方のないことだ。
「お兄ちゃん」
マユがいなければと考えたこともあるが、必死に後をついてくる妹の姿に『自分がしっかりしないと』と思い直して、彼女の手を引いて遊びに行くくらいは真面目だったらしい。
遊びに行って夢中になって妹ともども帰りが遅くなって、帰宅してから両親に怒られることもあるのは、八歳の子供にしてみれば仕方ないといえるのかもしれない。
そんなシンでも、妹のことを忘れて夢中になることがあった。
テレビのニュースに時々は映る、『人型兵器』の数々。五メートルクラスから二十メートル、五十メートルや百メートルクラスの人型兵器が動きまわる戦場の様子。
人と人が争い、血が流れる野蛮なニュースに対して、シンは夢中になって見ていた。
裏側とか大人の事情なんて関係ない。カッコイイロボットが動きまわるのに夢中になるのは、男の子としては当たり前のことだろう。
「かっこいいな。俺も将来は乗りたいな」
「お兄ちゃんも。マユも」
常にシンと一緒に遊びまわり、シンと同い年の子たちと混ざって遊んでいたマユも、いつしかロボットに夢中になっていった。
二人してニュースを見たり、あるいは画像を検索、動画を眺めたりしていた。時には友人たちとロボットについて語り合ったりもしていた。
どの機体が一番カッコイイか。どの組織の機体に乗りたい、あるいは未来の自分がどの機体に乗って活躍したいとか、色々な話をしながら友達と時間を忘れて楽しんだ。
「でもさ、最近できた国の機体はカッコ良かったよ」
「国ってできたっけ?」
友達の一人が言ったことに、シンは首をかしげた。銀河に広がった人類の組織や国家は多種多様。毎日のように小さな組織は生まれては消えていく中、国家が生まれたなんて話は聞いたことはないのに。
「シンはロボットだけだからな。大人なら組織とか国家を知らないと」
友人の一人は自慢げに語るのだが、彼も当時はニュースで流れた程度であまり詳しくはなかったらしい。
「どんな国なんだよ?」
「えっと確か、『ジョーカー帝国』だってさ」
「へぇ」
「なんでも皇帝が私兵で連邦と帝国を攻め滅ぼしたんだって」
シンはその時、『そんな国があるんだ』程度にしか考えていなかった。自分には関係ないことで、どんな国があってどのような人がトップにいても関心などなかった。
それよりもその国が採用しているロボットのほうが興味があって、友達が見せてくれた画像を強請って自分の端末に貰ったくらいだ。
毎日、変わらない日々が続いていく。朝に起きてご飯を食べて、学校に行って勉強しながら友達と夢中になった話をして、学校から帰って宿題した後に友達と遊びまわって。
常に妹と一緒にいながら、自分が楽しいといえることをしていた。
そんなシンの日常が変わったのは、両親が転勤することになった時だった。
場所は惑星間、国境に近い惑星の一つの環境維持システムの不具合。会社からは誰を派遣するかでもめた、というのは両親が後に教えてくれたこと。安全かどうかはまだ分からず、紛争地帯のギリギリ外側というグレーゾーン。近場で国境を巡っての戦争も起きていた場所だった。
どうしてそんなところにと、誰もが拒否する中で、シンの両親の上司は二人を推薦した。技術的な問題をハード面とソフト面から解決できるのは、シンの両親だけであり、他となると確認後に戻らないと解決できない可能性があると判断された。
きな臭い感じがしたから、一度の来訪で解決できる能力値の高い二人を送ったらしい。グレーゾーンだったが、砲弾や銃弾が飛んでこないから安全だろうと。
両親は話を受けて随分と悩んだ。確かに内容には納得できる。技術的な問題や人員の問題も理解はできるのだが。
問題は幼い二人。シンとマユを置いていくか、連れていくかだ。話を聞いてから会社側からは『すぐに』とは言われずに時間をもらえた二人は、正直にシン達に話すことにした。
「危険なところじゃないんだろ?」
父親から言われて、シンは最初にそう答えた。話を受け止めて自分なりに考えて答えたと当時は思っていたが。
「そうは言われている」
対して父親は少しだけ影のある顔で答えた。かなりの危険地帯に二人を連れていくことを考えれば、心配の種は尽きない。
「なら大丈夫だって。マユは俺が見ているから、二人は仕事をしてくれよな」
生意気にもそう告げるシンは、それなりに自信があった。普段から家にいない二人に代わって妹を見ていること、家を護っていること。八歳の少年がそう思い込み自信を持ってしまうくらい、その場所は平和だった。
だから間違える。世間の広さも世の中の冷たさも知らない彼は、何事もない毎日を過ごしていたことで、『自分は大丈夫』といえるくらいに思い込んでしまっていた。
シンの発言に両親は『それなら』と決断をした。二人を連れていく、と。この家に残して知り合いに様子を見てもらう、あるいは親族に頼るという手段もあったのだが、二人がついていくと決めたならばと幼子の判断に甘えてしまった。
こうしてシン・アスカの一家は、目的地へと旅立つ。お互いがお互いに思い込んでいること、何の根拠もない自信に縋るようにして、見たくない現実から目を背けていることに気づかずに。
目的地での生活は、それなりに楽しめるものだった、とシンは回想する。
今までの生活が一変したとか、色々と不自由があったとかもなく、何時もと変わらない生活が送れていた。
両親は少しでも速く終わらせて戻るために、毎日を遅くまで仕事しており、社宅にいるシンとマユは近所で遊んだり、課題の勉強を行いながら、何一つ変化のない毎日を過ごしていた。
ただ、近場に紛争地帯があるため、生活区画の一角には軍事基地があった。
シンはそのことを知って、目を輝かせた。普段はテレビ画面越しに見ているロボットが目の前にあって、毎日のように動いている姿を見ることができた。格闘戦や射撃戦、飛行時の乱戦とかシンにとってはお宝の山を前にしたように時間があればマユを連れたって眺めていた。
その日も、勉強を終えた後にマユと一緒に訓練を見ていると、一機だけ見たことない機体がいるのを発見した。
形は二十メートル級、目の覚めるような白銀の鎧に金色の翼を纏った機体。他のロボットに比べて装飾の多い機体は、戦うためというよりは飾っておくための芸術品に見えた。
「あんなんで大丈夫なのかよ」
思わずシンは口をついて言葉が出てしまう。重厚な作りの機体ばかり見てきたシンの目には、この機体が細見の上に重武装を纏わせたような、チグハグで頼りない機体に見えたからだ。
「まあ、それなりに戦えるからな」
声に返答が来た。まさか聞かれているとは思わなったシンは、ハッとして振り返る。
背後に立っていたのは、私服姿の青年だった。黒いズボンに青い上着、黒髪に紫色の瞳の青年は、にっこりと笑ってシンの隣に立った。
「あんたの機体?」
「ん、一応、俺の専用機。どうだ、いいだろ?」
ニヤリと笑う青年に、シンはもう一度と機体を見つめた。
本当にチグハグな機体だ。左右の腰アーマーは立位状態なのに足首まで届くほど細く、その外側には筒みたいなパーツがついている。型アーマーも上部は外側に、その下には小型の楯のような曲線の装甲がついていて、腕の自由度とか無視しているようだ。
胸部には竜のような獅子のような飾りと、その額から一本角が前に突き出して、あれでは腕を前に回したらぶつかるだろう。
背中の翼も大きく巨大で、あんなので飛んだら空中戦時に邪魔にならないだろうか。しかも細かい装飾まで見える。
全体的に重装甲に見えるのに、全体像としてはスマートなような曖昧な印象を受ける。
「あれって、武装とか装甲つけ過ぎじゃないか?」
「へぇ、そう見えるんだ。おまえ、いい感してるよ」
文句を告げると、青年はシンの頭をグリグリと撫でつける。
「止めろって! まったく、あんたもパイロットなら出撃前に準備があるんじゃないか?」
「ま、俺は特殊でね。傭兵みたいなもんだから、自由行動。いいだろ?」
青年は首からかけている『認識票』みたいなものをシンに見せる。
シンはチラリとそれを見た後、興味なさそうに顔を反らした。国家名とか組織名とか書かれていない、名前だけしかない認識票に対して『偽造じゃん』と口に出しそうになって押し止める。
「あんたもさ、そんなことで子供からかってないでちゃんとしたら?」
「ん~俺は俺だからな。子供だからとか大人だからとか関係ないし」
「だったら、なんでここにいるんだよ?」
「ちょっと知り合いがいてさ。その人に頼られたから」
誰のことだとシンは問いかけそうになったが、その声は彼に向けられなかった。
「じゃあな、坊主」
「坊主じゃない」
彼は一言だけおいて、真っ直ぐに歩いていく。
フェンスがあるからぶつかると思っていたシンの目の前で、何事もなかったかのようにすり抜けていく彼に、ちょっとだけカッコイイと思ってしまった。
「テラ・エーテル」
名をシンが呟くと、彼は振り返って手を振って去って行った。
毎日、そんな日々だった。あれからテラ・エーテルとは会わないし、機体も見かけなくなった。何処かへ行ったのだろうと、シンはそう思って彼のことを忘れていた。
そして、あの日が来た。
朝から何故か、周囲がピリピリしていた。子供でも解るくらいに基地の中に緊張感が漂っていて、街を行く人々の姿もない。
両親も何処か怖いくらいに緊張していて、朝の見送りには定例的な挨拶のみだった。
午前中は何事もなかった。緊張感と妙な気配はあったが、それ以外は普段通りで変化などなく、シンはマユと一緒に基地へと見学に向かった。
「あれ?」
午前中に来た時は機体があった場所は、何故か一機もなくて。基地の中を軍人たちが慌ただしく動き回っている。何がと顔を上げたシンの視界に、黒煙が入りこんだ。
続いて衝撃音と爆発。何のと視線を動かせば、基地の一角が燃えており、その中に機体の残骸が何機も折り重なっていた。
戦争が始まった、不意に流れた言葉は誰のものだっただろうか。基地の軍人たちか、それとも偶然に通りかかった一般人のものだったか、シン・アスカは今になっても思い出せない。
とにかく、シンはマユの手を引いて走り出した。家に戻る途中、帰宅してきた両親と会い『戦争が始まった』ことを改めて知った。
「二人とも、そのまま来なさい」
父親の切羽詰まった様子に促されるように、シンとマユは走り出す。父親を先頭に二人が間で、最後尾に母親が走る。
何処に逃げるのか、どうすれいいのか。問いかけることはなく、時々に響き渡る轟音に戦争を実感する。
テレビ越しに見た時は、ロボットがカッコイイと思っていた。あんな風に動かしたいと思っていた光景が、いざ近場に来ると怖いとしか思えなかった。
怒声と轟音、逃げる人々の流れを横目にシン達も必死に走っていく。
不意に、だった。いきなり視界が暗転したかと思ったら、体中が痛くなった。痛いと口に出そうとして立ち上がり、視界を埋める何かで気付いた。
通りかかろうとしたビルがなぎ倒されている。砲弾かミサイルが突き刺さったようで、爆風に飛ばされたのだろうか。
「シン! 立ちなさい! 逃げるぞ!」
「シン!」
父と母の声がした。顔を向ければ、遠くない場所に二人がいる。妹はと探せば、両親から少し離れた場所にいて大きく手を振っていた。
急がないと、と動き出しかけたシンの視界に、『それ』が入ってしまった。
「あ・・・・・」
赤い物体、だった。黒い何かがいる。点々と、まるで出鱈目な点線を見ているように、何かが広がっていた。
「た・・す・・・・・」
言葉が小さく聞こえてくる。半分に千切れた何かが、折れた『細い何か』を必死にこちらに向けてきた。
あれが何かをシンは思い出しかけて、口を抑えた。
人間だ。破裂した破片に飛ばされて、負傷した人間の山。自分が生きていたのが不思議なくらいに、周囲にはけが人だけがいる。
両親のところへ行かないと。
必死に足を動かそうとしても、自分は一歩も進めない。動かない足と混乱する思考の中、両親が呼ぶ声がする。
這うように引きずるように必死に動く。けがは擦り傷だけで五体満足なのに、自分の体じゃないようにひどく重い。
理解していなかった。戦争がどういったものか、ここに来ることがどういったことなのか。まったく理解はしていなかったと後悔していた。
大丈夫なんて言えることはない、自分だけは安全と信じ込んでいたことを、シンは幼いながらも痛感していた。
両親が呼ぶ、妹も叫んでいる。もう少しだ、というところで。
すべてが消えた。
「え?」
今までそこにいたのに、今はいない。どうして、何が、なんでと定まらない思考の中、シンはゆっくりと立ち上がり、見降ろした。
吹き飛んだ両親と、その先にいる妹。血だらけになった彼らを見て、シンは崩れ落ちる。
逃げられるはずだった。自分がもっとしっかりしていれば、全員で逃げられるはずだったに。
「誰か」
小さく呟く。声を出しているのか、それとも自分がそう思い込んでいるだけなのか解らないが、彼は何とか呟く。
「助けてください」
吐き捨てるように、絞り出すように。
何とか出た声に答えるのは轟音のみ。周囲を蹂躙するように降りてくる人型兵器達は、無情にも死神の鎌を振りおろし。
「任せろ」
気楽な声とと同時に薙ぎ払われた。
「え?」
「助けに来たぞ、起きろ坊主」
そこにいたのはあの日の青年、テラ・エーテル。二メートルは超える剣を片手に、もう一方の手でシンの頭を撫でていた。
「よく頑張った。後は任せろ・・・・・・」
笑顔で語っていた彼は、そのまま歩いていく。両親と妹を場所まで行くと、何事もなかったかのように通り抜けて。
両親と妹が立ち上がった。怪我ひとつなく、傷もない無傷なままで。
「シン!」
三人がこちらに走ってくる。自分はと体を触れば違和感がない、えっと疑問を感じている間に、周囲から歓声が上がった。
誰も傷を負っていない、先ほどまで死にかけていた人たちすべてが、無傷でいる現実を前に、シンは夢を見ているような感覚でテラを見つめた。
「非戦闘員への攻撃は厳禁。それを破った以上は、降伏できるなんて考えるなよ。全員、残らず地獄行きだ」
彼は剣を突き付ける。真っ直ぐに向かってくる集団に突きつけ、その言葉を叫んだ。
「さあ、おまえらの運命を決めろ」
蹂躙が始まった。たった一人、たった一機が一万以上の軍隊を薙ぎ払う光景はシンの心に深く刻まれた。
あんな風になりたい。絶望を前にしても一歩も退かず、誰かの悲劇に颯爽と現れる人になりたい。
その背中を見つめ、シン・アスカはそう思っていた。
戦争は速やかに終結した。テラ・エーテルが介入した後、『血の十字架』を纏った集団が降下してきて、全く間に戦争を『消滅』させてしまった。
「あ、あの!」
戦闘後、帰ろうとしたテラと偶然に会ったシンは、彼を呼びとめて土下座したという。
「な、なんだ坊主?」
「俺はあなたみたいになりたいんです! 貴方みたいな強い人になりたい! だから俺を弟子にしてください!」
「はぁ? やめとけやめとけ、俺はな破壊神なんだよ。最強最悪の破壊神。俺みたいになりたいなんて思うなって」
呆れて顔の前で手を振るテラに、シンはそんなことはないと言おうとして彼の瞳に止められる。
「おまえさんはおまえさんなりに強くなれよ。俺を見本にしないでな」
何処か悲しそうな、けれど気楽さを装う彼は、そのまま背を向けて歩きだす。
シンは何故か体中が縛られたように動けなかった。声をかけて頼みこみたいのに、動けずに口が開けられない。
行ってしまう、彼が行ってしまったら、自分はまた『とりこぼしてしまう』気がして、必死に体を動かそうとした。
なんとか、少しでもいいから。あんな理不尽はもう嫌だから。
心が怒りに燃える、もう二度と嫌だと頭が冷たくなっていく。
「でも!」
「おい」
声が出た、それに対してテラは振り返って驚いた顔をしていた。
「でもそれでも! 俺はあなたみたいになりたい! 強くなりたいんです!」
「だからな」
「だったら!」
立ち上がる。燃えるような瞳を向けて、妙に寒くなった空気を震わせるように叫ぶ。
「あんたを止めるくらいに強くなってやる!」
「へぇ、言うね」
「破壊神だろうがなんだろうが! 俺が止めてやる! 絶望も悲劇も全部、俺が消してやる! だから俺を強くしてくれ!!」
力の限り叫ぶと、テラは大声で笑った。
「いいだろう、強くしてやる。絶望とか悲劇とか、そんなの砕けるくらいに強くしてやるよ。いいな」
「はい!」
「名前を名乗れよ、坊主」
「シン・アスカです」
真っ直ぐに見つめ答えると、テラはそうかと深く頷いた。
「シン、おまえはこれから騎士になる。騎士に育ててやるよ」
「お願いします!」
深々と頭を下げると、テラは穏やかに微笑んだ。
その時、シンは気づかなかった。彼の口元を見ていなかったから。テラ・エーテルが呟いた言葉は聞こえなかった。
『ようやく見つけた。俺を殺せる奴を』と。
それが『凍焔の鬼神』の始まりの日。決意だけで、『神帝』の拘束を砕いた騎士の始まりだった。
そして、現在。
「ブハハハハハハハハハ!!」
「師匠! 笑い過ぎですって!」
「だ、だっておまえ! 過去を夢見て妹に抱きついたって! どんだけだよ!」
「しかたなでしようが! 目覚めた直後だったんですから!」
「無様すぎだ、おまえ!」
「この馬鹿師匠!!」
ジョーカー銀河帝国政庁の屋上にてテラは、シンから話を聞いて大笑いしていた。
「・・・・で、どうだ?」
真顔になって語る彼に、シンは視線を周囲に投げる。政庁から見える景色は帝都のもので、何時もと変わらない風景が広がっている。
味気ない、平穏で、変化のない。でも、この景色が何時までも続けばいいと思えるくらいに、とても大切には感じている。
「俺はまだまだ弱いままですよ。でも、あの時の自分に胸を張れるくらいにはなりました」
景色から視線をテラへと戻し、シンは拳を握って胸の前に持ってくる。
「俺は『あの悲劇と絶望を砕けるくらいに強くなった』って」
答えを受けて、『凍焔の鬼神』の師『神帝』は微笑む。
『そうか』と告げながら。
一周年記念として、シン・アスカの過去の話です。
彼はその後、地獄が楽園に見えるくらいの修行と重ねて、『凍焔の鬼神』と呼ばれるようになりました。
「俺、よく生きてたよな」
ええ、まあ。蘇生に関してはテラの一族は一級品ですから。
「そうだよな。閻魔大王とかと知り合いなだけはある」
死んで終わりなんて、楽なことさせないって意味ですが。
「あの師匠の一族だからな」
ええそうですね。