ダンジョン暮らしのパート2やろうと考えていたら、不意に思いついたネタがあったのでつっこんでみる。
そろそろ、原作のところで警告とかこないか、ちょっと不安を感じる今日この頃。
だから色々と絡めてみた。
さあ、シン、喜劇で踊る時間だ。
薄暗い室内、誰の気配のない場所で、彼は一人パソコンに向かい合う。空中に展開されたモニターは最小限、しかし使っている機械は六つ以上。複数のキーボードを打つ指に淀みなく、もしかして光速を超えているのではと思えるほどに、彼の指は分裂していた。
残像を残すほどに素早く、けれど正確に。速く速くと焦る心を必死に押し込めながら、彼は次々に『セキュリティ』を突破していく。
もう少し、後少しと焦燥感に駆られる彼は、不意に指を止めた。やっと辿り着いた、これを解除すれば後は望むものが手に入る。
最後と動かしかけた指が固まる。
もし、これを解除してしまったら、自分はもう戻れない場所に行ってしまうのではないか、僅かに彼の残された良心が指を固めてしまう。
望むことが背中を押し、今までの思い出の人たちが腕を絡め捕る。
どっちだ、どっちがいいのか。そんなことを考えていた彼は、小さく息を吐いて力なく笑った。
もうどうでもいいことだ。最後の防壁を突破し、彼はゆっくりと歩き出す。望むものはすぐ目の前に、ゆっくりと手を伸ばした彼は急激に明るくなった室内にハッと振り返る。
「・・・・・何でだよ」
入口のところで、彼は俯いて声を絞り出していた。
握り締めた拳が壁に亀裂を走らせていた、全身を覆う冷気が彼の感情の高ぶりを教えてくるが、それ以上に顔を上げた彼の瞳の『焔』が怒気を伝えてきた。
「何でだよ。どうしてこんなことをした?」
問いかけに答える言葉を持っていない。どうしてと言われたら、願いがあったと答えるしかない。
「答えろよ!」
彼の怒りに力なく首を振る。
「答えろよ! キラ・ヤマト!!!」
シン・アスカの絶叫に、キラ・ヤマトは力なく見つめただけだった。
その日、シン・アスカはデートらしきものをすることになった。
「お酒が飲めると聞いて」
「魂を救う一杯に興味がありますわ」
シャルロットとセシリアに言われ、『え、誰から聞いたの』と返さなかったのは、それがごく当たり前にジョーカー銀河帝国に流れている噂だったからだ。
誰もが救いを求めて、擦り切れた魂の癒し方を探して、ようやく辿り着いた場所で与えられる最上の一杯。
大げさでもなんでもなく、あの一杯に勝るカクテルを、シンは飲んだことはない。バーテンダーそれぞれに特色があり、同じカクテルでも微妙に違っている味わいを楽しめることは理解しているが、最後の最後に飲めるカクテルを選べと言われたら、彼のカクテルを間違いなく選ぶ。
リュウ・ササクラの一杯は、誇張でもなんでもなく魂を救ってくれると思えるほどに美味い。
「あ、解った。じゃ、行くか」
二人にそう告げて、シンは時計を確認した。時刻的にはもう少し後がいいか、まだ開店してないだろうと予想して、食事をした後と告げたシンの視界に珍しい人物が映った。
キラ・ヤマトだ。
こんな時間に歩いているとは珍しい。何時もなら、何処かの居酒屋で飲んでいるか、帰宅して奥さんと食事しているはずなのに。
せっかくだから、あの人も誘うか。
「もう一人、いてもいいかな?」
「いいよ。誰を誘うの?」
「構いませんわ。どなたを誘うおつもりですか?」
二人から了承を得たシンは、遠くを歩くキラに手を振って声をかけた。
「キラさん、これから食事してイーデンホールに向かうんですけど、一緒に行きませんか?」
「え? あ、ごめん」
彼の言葉を聞いたシンは、思わず彼が『スパイではないか』と疑ってしまった。変装している別人、身体データごと改竄できる凄腕が、とうとう本腰を入れて主星に乗り込んできたか。
まずい、キラ・ヤマトに変装したということは、目的は技術局か。あそこのデータ・バンクは経由すれば、帝国中のデータ・バンクにアクセスできる。師匠の秘匿している『知識の図書館』さえも、簡単に入り込めるラインがあるはずだ。
迷わずにシンはキラ『らしい』人物の近場まで接近して、右手を相手の首に添えた。
ティスに確認させる。接触してしまえば、いくら身体データを改ざんしたとしても、マテリアルの能力の前には無意味だ。
同時にシン自身もキラを観察して、化けの皮を剥がしてやる。
「シン? どうしたの?」
「・・・・・・・あれ?」
『え、本物だよ、変装してないよ』
「はい?!」
結果、彼は間違いなくキラ・ヤマトだった。何処からどう探査しても、情報を洗い出しても、ご本人。
「キラさん、体調でも悪いんですか?」
「別にそんなことないけど。どうしたの?」
「いやだって」
シンはその先の言葉を飲み込んだ。彼は何時もと変わらない笑顔を浮かべて、そこに立っていた。
だって、貴方はお酒の誘いは断ったことがないでしょう、とシンは心の中で呟く。キラ・ヤマトにとって、お酒は第二の奥様といえるくらいに、断った姿を見たことがない。
次の日が早朝からの勤務だろうと、新型技術や機体の納期が今日だろうと、政庁からの直接命令があったとしても、飲むといえば飲むのがキラ・ヤマトだ。
『始末書が怖くて酒が飲めるか!!』なんて言葉を、宰相と皇帝代理に叩きつけたのは、キラ・ヤマトを語る上で外せないエピソードとして、多くの人が知っている。
そんな彼が、酒を断るなんて。
「ごめん、シン、じゃあまた後で」
「あ、はい」
そう告げて立ち去る彼を、シンは呆けた顔で見送ったのでした。
ちょっと気不味くなりながらも、シャルロットとセシリアとの食事を終えたシンは、迷わずにイーデンホールに直行した。
「これが」
「なるほど」
カウンターに座った二人はしきりに店内を見ている。昔を懐かしむ店内とは、こういったものを言うのだろうか。ノスタルジックな雰囲気に誰もが昔を思い出して、もう二度と戻れない場所を懐かしむ。
悲しい気持ちになるが、それは決して落ち込むものではない。昔を思い出し、今の大切さを実感させ、未来に向う気力を与えてくれる。
シンはこの店をそんな風に感じていた。二人はどうだろうと、チラリと視線を向けると店内を見回した二人は、きちんとイスに座ってお酒の並ぶ棚を見つめていた。
「ご注文はお決まりですか?」
ササクラの声が、静かにゆっくりと響く。決して大きくない声なのに、今まで一度たりとも聞きとれなかったことはない。
彼が魔法使いとか魔導士であっても驚かない。魔法とか使って声を届けているのではと誰もが疑うのだが、彼は正真正銘の一般人。魔法適正もないらしい、素人さんだ。
磨き上げた技術が、きちんと話す相手に自分の声を届けている。その努力と経験の多さに、シンはもちろん、テラでさえ敬意を示しこの店の中で無茶なことはしたことがない。
二人はササクラの声をかけられ、慌てたように言葉を探していた。
「無理に探さなくとも大丈夫ですよ。どうぞ、『気持ちで答えてください』。後は私がその気持にあったものをお出しします」
「は、はい」
「すみません」
ちょっと緊張している二人に、穏やかに微笑んだササクラは、ゆっくりとした動作で棚のお酒を一つ一つと手に取っていく。
「普段、お酒は飲み慣れてないご様子なので、ごあいさつの変わりに一杯、お作りしますね」
流石といえる所作。二人の言葉や行動から、慣れていないと察して彼から動いてくれたか。この場合、二人に助け船を出すのはシンの役目だったのに。
ちょっと失敗したと感じていると、カクテルを作っているササクラと目があった。
『ここはバーですから。バーテンダーにお任せを。ですが、外ではエスコートはしっかりしてくださいね』。
無言で語る彼の目線に、シンは小さく頭を下げた。
最初のササクラの気遣いでシャルロットとセシリアは、すっかり緊張感がほぐされたようだ。お酒の話に耳を傾けながら、ゆっくりとカクテルを飲んでいく。
人それぞれお酒に対しての向き方は違うが、初めて飲む人にはそれを教えるのは大切なこと。
会話の合間にシンが小さく忠告を入れたり、ササクラが気を利かせてアルコール度数を下げてくれたりしたので、二人は上機嫌で初めてのカクテルを飲んでいく。
「あ、そうだ。ササクラさん、キラさんって最近は来てますか?」
バーの約束事を破ることになるのだが、シンは思わず聞いてしまった。どうしても先ほどの彼の様子が気になったから。
「いいえ。最近は見てませんね」
察してくれたのだろう、ササクラも答えてくれた。
他の店に行っているのか。それもあるかもしれないが、イーデンホールにまったく来ないなんて、あり得ないだろう。
「二週間くらいですか?」
「一か月ほどです」
「え?」
まさか、とシンは思わず場の雰囲気も忘れて、顔を覆ってしまった。
あの酒好きが、イーデンホールには毎日のように通っていた彼が、一か月も来ていない。
「マジか」
「マジですよ」
思わず呟いた言葉にササクラも答えてくれたのは、彼が『おちゃめ』でシャレの解る大人だからだろう。
小さく礼を言った後、シンは二人が楽しそうにお酒を飲む姿を見つめながら、脳裏で嘆息した。
これは間違いなく、異常事態だ、と。
翌日、シンは業務を終えた後、真っ直ぐにヤマト宅を訪ねた。すでにキラが帰宅していることは知っている。フレイも今日は戻っているらしい。
何度目かのチャイムの後、聞きなれた女性の声と同時に扉が開く。
「あれ、シン、どうしたの?」
出てきたのはフレイだ。意外だ、最初に出てくるのはキラだと思っていたのに、何時だって彼が最初に玄関のドアを開けていた記憶があるシンが言葉に詰まっていると、彼女は何かを察したように声をかけた。
「キラならまだ戻ってないわよ。なんだか研究が大詰めだとか、技術検証が手間取ったって」
「え?」
まさか、そんなわけがない。何度も技術局に確認をとったことだ。すでにキラ・ヤマトは帰宅しているはずだ。
「どうしたの?」
「いえ、その」
まさか、あのキラが『最愛の人』と公言しているフレイに嘘をついてまで、何処かに行くなんてことありえるのか。
絶対にない。お酒で馬鹿やってフレイを怒らせることはあっても、嘘だけはつかないのがキラだ。
異常事態だ、間違いなくキラ・ヤマトは何かに巻き込まれている。あるいは『何かをやろうとしている』か。
「その、あ・・・・昨日、キラさんを飲みに誘ったら断られたので」
「へぇそうなんだ。ごめん、それ私が原因」
「はい?」
片手を上げてウィンクしてくるフレイに、シンは呆けてしまった。
「キラの健康データが色々と不味いから禁酒を言い渡したの」
あっさりと出てきた言葉に、『え、またですか』とシンは出かかった言葉を飲み込む。
何度目だろうか。あの酒好きキラの禁酒宣告を聞くのは。もう十回は数えたはずなのに、またやったのか。
「今回は本気で言ったから大丈夫。もうね、肝臓のデータが凄くて」
「え、あ、そうなんですか」
本気とは、どのくらいだろうか。まさか、破ったら折檻とか拷問が待っているとか。もしかして最悪の事態を宣言したのか。
「大丈夫よ、離婚とかそういったことじゃないから」
「へぇ~~」
よっし、大丈夫。シンは内心でガッツポーズした。もしフレイがキラに離婚なんて切り出したら、あのぞっこん一直線のことだ、間違いなく自殺する。
しかも新型機を自爆させて。そんなことになったら、帝国中が揺れる事件に発展するだろう。
「私が一か月、行方をくらますって言ったの」
可愛く肩を竦めて告げたフレイに、シンは内心で盛大に絶叫していた。
死刑宣告と同じくらい重たい発言じゃないですか。
「ま、まあキラのことだから、一か月くらい我慢したから、そろそろ解禁してあげようかなって思っているから」
こちらの表情から察してくれたのか、ちょっと苦笑しながらフレイが告げたことに、シンはホッと安堵した。
これ以上の禁酒は、あのキラが壊れてもおかしくない。酒好きで酒のために生きていると言ってしまえる彼が、一か月も我慢したのだから大したものだ。
「だからね、今日はテラに無理いって貰って来たの」
「へぇ~~~・・・え」
嬉しそうにフレイがとり出したウィスキーに、シンは世界中が止まった気がした。
今までヴィンテージとか、希少なとかいうウィスキーは、師匠のテラのおかげでかなり味わっていた。現存するもので飲んでいないものは、ほぼないくらいに味わっているが、そんなシンでも飲んでいないものがある。
『スピリッツ・オブ・エデン』。テラの一族が生み出した、希少品の中でも最上級の希少品。彼の一族が秘匿している異世界『エデン』において、バッタ達が魂をかけて生み出したウィスキー。
滅多に出回らない、どころではなく市場に卸すことはもちろん、テラ自身でさえ手出しができないウィスキーが、フレイの手の中にあった。
「キラも頑張ったから、私もね、頑張ってみたの」
「は、はい」
つまり、バカップルが平常運転だということか。馬鹿馬鹿しくなってシンは、もうどうでもいいやと帰ろうとしたのだが。
「でも、キラ、遅いわね」
問題は解決していない。あの人が何処に行ったか、何処で何をしているかはまだ不透明なままだ。
「お酒を飲んでいるとか?」
「そんなわけないわよ。私との約束を破るような・・・・・ところまで来ているかな」
ちょっとフレイが蒼い顔になる。自分でもいい過ぎたと自覚してきたのか、それとも別の理由でもあるのか。
「昨日ね、キラね、『あ、お酒だ。今日は水がお酒だ』なんて言っていたの」
「禁断症状じゃないですか?!」
「で、でもすぐに『冗談だよ、フレイ』って笑っていたから、そんなことないって」
「いやいや、ほぼ間違いなく禁断症状でしょうが!」
「い、依存症じゃないから大丈夫よ。ね、ね!!」
「フレイさんは医者でしょうが! まったくもう! ティス!」
もう何処かで何かやらかしている気がしてきた。第六感が凄い勢いで警鐘を鳴らしている。
迷わずシンがティスに探知を命じると、彼女はきょとんとした顔のまま、フレイのほうを指差した。
『家の中にいるよ』
「え?」
呆けた顔でシンがフレイを見ると、彼女は引きつった笑みを浮かべて、家の中を振り返った。
そして、物語は最初に戻る。
「答えろよ!! キラ・ヤマト!!」
彼は力なく笑っていた。もう何処からどう見ても病人っぽいのだが、その瞳は濁っていない。
濁っていないし、精神的に正常なのだが、やっていることはもうどういっていかわらかないくらいに、異常だった。
床一面に散乱したパソコン、技術局で使っている特別製のパソコンを十二台使って、彼の頭脳と能力をフル回転して、何をしていたかというと。
家の金庫を開けていた。
「キラ、そんな、そこまでだったの?」
シンの後ろでフレイが涙を拭っていた。とても見ていられない、こんなのはキラじゃないと思いつつ。
こんな『ギャグ要員』じゃなかったはずなのに、と。
「ごめん、シン。僕はもう耐えられないんだ。僕はもう飲みたいんだ」
「あんた、そんなこと言って。健康を崩さないようにって、フレイさんが配慮した結果じゃないのかよ」
「それは解っているんだ。フレイの優しさは知っている。僕を気遣ってくれているのも解っているんだ」
「ならなんでだよ? なんで?!」
「でも僕は、僕なんだ! 解っているだろうシン! 僕じゃ僕に勝てないって」」
「いやいや、何言ってんだよ、あんたは!」
「健康でいることが大切だって。フレイを悲しませないって。
「お~~い」
「だから僕は護りたいんだ!
バッと振り返ったキラは、壁一面覆うほど巨大な金庫の扉が開いた先、山積みの酒を求めて手を伸ばした。
そして、その途中で電池が切れたように、倒れたのでした。
「・・・・・・・フレイさん、どうぞ」
呆れたシンは、ゆっくりと道を譲った。
「は~い、キラ」
「ふ、フレイ。ぼ、僕は頑張った。頑張ったんだ」
「ええ、そうね。だから、今度は私が護るわ」
「そんな僕が、僕が」
「私の
にっこり笑うフレイに、キラは力なく笑った。
「
そして彼の絶叫と彼女のお説教が響いたのでした。
後日、キラ・ヤマトはスキップ気分で居酒屋を廻ったのでした。
「え、大丈夫なんですか?」
「うん、ギャグ要員になるくらいなら、お酒は許すって」
凄い決め顔で言い放つキラと、その背後で溜息をついているフレイを交互に見た後、シンは『ああ、そうですか』と答えた。
そしてその後、あの希少品のウィスキーはキラの目の前で、フレイとアイリスとアセイラムが楽しく飲んだことを知ったのでした。
というわけで、キラ・ヤマトの反乱でした。
「あの人って本当に酒が絡むとロクなことしないよな」
酒好きですから。
「まあ、今回は身内だけで済んでよかったよ」
本当に身内だけで終わったと思いますか?
「は? 止めろよな、これ以上は傷口じゃ済まないからな」
シン君、笑いましょう。笑えば何とかなります。
「何があったんだよ?!」