シン・アスカの異世界渡航記『完結』   作:サルスベリ

5 / 50
 
 シン・アスカの物語です。

 逆境にあったキャラを強化して、他を圧倒させるって割と好きなのです。

 ほぼオリジナルキャラとなり下がった、あるいは成り上がった。そんな彼の物語です。

 嫌いじゃないという人は、どうぞこのままで。

 皆さまの日常の小さな楽しみの一つになれば、幸いです。






第一章 願いと共に
彼はそこにあり、そして運命が翼を広げる


 その名前を多くの者が知っている。

 

 悲劇の主人公、いいや彼の両親も妹も健在だ。

 

 特に妹は、ジョーカー帝国の中央四軍のうちの一つ、第二軍でエースを張っている。

 

 十四歳のエース、怖いな。

 

 あいつは十七になったのか。

 

 時が立つのは早いというが、あの戦争からもう四年も経ったのか。

 

 知らないのか。おまえさん、転生者か何かか。

 

 そうか、知らないか。

 

 なら自分の幸運に感謝することだ。

 

 ジョーカー帝国皇帝、『神帝』テラ・エーテルの一番弟子。

 

 政庁直属即応鎮圧抹消部隊『ヴィルティラス』所属。

 

 いや、そんなものじゃないあいつの怖さはな。

 

 そう、あいつは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼の朝は、比較的のんびり。

 

 枕元の目覚ましが鳴る前に目を開いて、ベッドから素早く飛び起きる。

 

「ちぇ」

 

「マユ、何時も言ってるだろ、止めろって」

 

「は~~い」

 

 部屋の入口、片手に光剣を持った妹の姿に、彼は片手で顔を抑えた。

 

「今日こそは一撃が入れられると思ったのに」

 

「はいはい、『戦華』の一撃は怖いから止めてくれ」

 

 溜息交じりに妹の『字』を口にすると、切っ先が振られた。

 

 僅かに身を沈めて刃を避けた先に、右足が叩きこまれる。

 

「あのな」

 

 マユの右足は、見事にベッドサイドのテーブルを蹴とばしていた。

 

「片付けるのは俺なんだから、できれば止めてくれよ」

 

 妹の背中を見ながら声をかけると、相手はゆっくりと振り返って疑問を浮かべていた。

 

「え? 今までここにいたよね、お兄ちゃん?」

 

「いたよ」

 

 欠伸を噛みしめ、彼は歩き出す。

 

「え? えええ?! 何時の間に?!」

 

「何時って、右足が動いた時だよ。見えなかったのか?」

 

 彼の言葉に、マユは大きく頷いた。

 

 なんだよ、それと彼は口の中で言葉を転がす。

 

「ビームよりは遅いんだから、反応しろって。そんなんじゃ、パイロットなんてやれないだろうが」

 

「いやいや生身でビームと同速度ってなに?!」

 

 驚いている妹に、彼は呆れた顔を向けた。

 

 この馬鹿は何を言っているのやら。帝国を見渡せば、ビーム程度の速度で動けるパイロットは五万といる。

 

 もっと怖い化け物とか、時間停止しかけてくる魔王みたいな骸骨とか。

 

 ブルッと体が震えてしまう。

 

「とにかく、止めろよな。無意識に反応して、また『家を半壊させたくない』からな」

 

「あ、うん、そうだね。でもお兄ちゃん、私も訓練しないと」

 

「後で付き合ってやるよ。今日、ティスが戻ってくる予定だから」

 

 彼の言葉の中の単語に、マユは悲鳴を上げるのでした。

 

「えええ?! ティスちゃん戻ってくるの?! その前にお兄ちゃん私と機動兵器で模擬戦を!!」

 

「何でだよ? おまえが専用機で俺が量産機って、何のハンデなんだか」

 

 階段を下りて居間に辿り着き、そのまま通り抜けて台所へ。

 

 冷蔵庫の扉を開けて、牛乳を取り出す。

 

「お兄ちゃんは、『准将』。私は少尉。ハンデは必要だと思うけど?」

 

「それ、部隊所属だからだろうが。現場について指揮権で揉めないように、仮で貰っているだけだって」

 

 仮だ。それに決まっている。

 

 ルルーシュとか、ヤン・ウェンリーとか。提督で名高い戦略家に色々と叩きこまれたり、スザクとか刹那とかに機動兵器戦をもまれたり。

 

 部隊の運用や艦隊運用まで叩きこまれたが、絶対に仮の階級だ。

 

「でも、『神帝』の一番弟子だよね?」

 

 思わず口に含んだ牛乳を吐きだしそうになった。

 

 一番の原因があったか。

 

 思い返せば、あの頃の自分は何故にあの人に弟子入りしたのか。

 

 後悔はしてない。悔やんでもいない。ただ、もう少し言い方があったのではないだろうか。

 

「俺は一番弟子って名乗れるほど、強くないよ」

 

「お兄ちゃんは強いよ。だって・・・・・」

 

 その時、マユに言われた一言で、彼―シン・アスカはさらに落ち込むことになる。

 

 決してなりたくてなったわけじゃない、字だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 政庁の地下二階にあるのは、『ヴィルティラス』専用の格納庫。

 

 バッタ達が飛び交い、研修に来ている整備員が走りまわり、二十メートルの人型の巨人が並ぶ中を、少女が歩く。

 

 金色の瞳、藤色の髪は肩口より少しだけ長く、毛先に軽くウェーブがかかっている。

 

 服装は淡い蒼色のワンピースに、大きな赤いリボン。

 

 年の頃、八歳くらいの女の子が、特殊部隊の格納庫を歩いているのを、誰も咎めようとしない。 

 

 一歩一歩と歩き、少しだけ行ってはまた戻ってくる。

 

 少女が歩いている場所の後ろには、一機の兵器が立っていた。

 

 赤い翼を持つ、白と青の装飾の機体。

 

 帝国の中でも特殊な方法で製造され、厳選されたパイロットのみに与えられる特殊機体。

 

 『マテリアル』の内の一機、『デスティニー・イレイザー』。

 

 名前は意味を持ち、そのものを示すと信じている帝国において、その機体はこう訳されている。

 

 『運命を選びとるもの』と。

 

「ティス!」

 

 名前を呼ばれ、少女は足を止めて、華のような笑顔を浮かべて振り返る。

 

「シン!! 戻ったよ!」

 

 パッと走り出し、彼に飛びついた彼女は、ギュッと抱きついた後に首をかしげた。

 

「あれ、ちょっとメンタルが落ちてる?」

 

「妹に襲撃された」

 

「おお、さすがシンの妹。猪突猛進だ」

 

「止めてくれ」

 

 ティスを床におろし、機体を見上げる。

 

「状況は?」

 

「問題なし。バッタ達もルリ様も『異常なし』って。バビロン様とオラクル様には『いい感じに使っているね』って褒められた」

 

 エッヘンと胸を張る少女の頭を撫でてやりながら、シンは愛機を見つめていた。

 

 青と白、まるで光と海、あるいは氷。

 

 カメラアイのところに赤い装飾があるので、まるで燃えるように見える。

 

 だからこその自分の字か。

 

「哀愁?」

 

「あ、ごめん。とりあえず、試運転の許可は貰ったから」

 

「了解♪」

 

 クルリと一回転したティスが、幻のように消える。

 

 同時にデスティニーの瞳に光が灯り、右手がゆっくりと降りてくる。

 

「じゃ、行くぞ。ティス」

 

『はい、我が主シン・アスカ』

 

 巨大な人型兵器から、少女の声が響き渡る。

 

 『マテリアル』は、兵器として致命的な欠点を抱える、戦略級兵器。

 

 彼女達はパイロットの『魂』に従う。

 

 心でも倫理でもなく、魂に。周りのルールも、パイロットの状況も関係ない。従うべき主が、本当に望んだことを叶えようとする。

 

 決して裏切ることなく、ただそれだけを追い求める。

 

 嘘や偽りで誤魔化しても、『マテリアル』は誤魔化されず。

 

 そして、その結論として『マテリアル』は自意識を持ち、それが外側へと具現化してパイロットの傍に寄り添う。

 

 テラの『スノーホワイト』も、『マリア』と呼ばれる自意識が存在するらしいが、シンは会ったことはない。

 

 けれど、時々、とても暖かい視線を感じることはある。

 

「さっさと済ませるか。マユの奴、専用機と専用武器を持ち出したらしいけど」

 

『うわぉ、本気だ。じゃ、私も頑張るよ』

 

「ほどほどにな」

 

 帝国の専用機と『マテリアル』がぶつかったら、半径二十キロは消えるのではないだろうか。

 

 シンは少しだけ予想して、怖くなって忘れることにした。

 

 その後、訓練後にアスカ兄妹は始末書の提出と、宰相によるありがたいお説教を受けることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あいつの話だったな。

 

 あいつは有名だろう。

 

 『帝国の切り札(ジョーカーオブジョーカー)』、『皇帝への最終防壁』、『撃墜不可能な強襲者』。

 

 色々な言われ方をしている。

 

 最も、有名な奴はこうだろうな。

 

 シン・アスカの本気を前にした奴は、その燃えるような瞳で睨みつけられ、凍ったように止められて、砕かれる。

 

 だからあいつは、『凍焔の鬼神』と呼ばれている。

 

 ほら、知っていたじゃないか。

 

 なら迂闊に触れるなよ。

 

 じゃないと、おまえの魂ごと『凍らされて燃やされる』ぞ。

 




 テラさんと一緒に色々なところを廻ったことがある。

 銀河の果て、地面の最奥。

 ドラゴンの巣の中を単独で踏破ってのもあったな。

 けど、異世界ってなんだよ。

 俺が何をしたって言うんだよ。

 あ、でもこの世界にテラさんがいないなら、俺の苦労はないか。

 よし、ティス、休暇だ。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。