シン・アスカの物語です。
逆境にあったキャラを強化して、他を圧倒させるって割と好きなのです。
ほぼオリジナルキャラとなり下がった、あるいは成り上がった。そんな彼の物語です。
嫌いじゃないという人は、どうぞこのままで。
皆さまの日常の小さな楽しみの一つになれば、幸いです。
彼はそこにあり、そして運命が翼を広げる
その名前を多くの者が知っている。
悲劇の主人公、いいや彼の両親も妹も健在だ。
特に妹は、ジョーカー帝国の中央四軍のうちの一つ、第二軍でエースを張っている。
十四歳のエース、怖いな。
あいつは十七になったのか。
時が立つのは早いというが、あの戦争からもう四年も経ったのか。
知らないのか。おまえさん、転生者か何かか。
そうか、知らないか。
なら自分の幸運に感謝することだ。
ジョーカー帝国皇帝、『神帝』テラ・エーテルの一番弟子。
政庁直属即応鎮圧抹消部隊『ヴィルティラス』所属。
いや、そんなものじゃないあいつの怖さはな。
そう、あいつは。
彼の朝は、比較的のんびり。
枕元の目覚ましが鳴る前に目を開いて、ベッドから素早く飛び起きる。
「ちぇ」
「マユ、何時も言ってるだろ、止めろって」
「は~~い」
部屋の入口、片手に光剣を持った妹の姿に、彼は片手で顔を抑えた。
「今日こそは一撃が入れられると思ったのに」
「はいはい、『戦華』の一撃は怖いから止めてくれ」
溜息交じりに妹の『字』を口にすると、切っ先が振られた。
僅かに身を沈めて刃を避けた先に、右足が叩きこまれる。
「あのな」
マユの右足は、見事にベッドサイドのテーブルを蹴とばしていた。
「片付けるのは俺なんだから、できれば止めてくれよ」
妹の背中を見ながら声をかけると、相手はゆっくりと振り返って疑問を浮かべていた。
「え? 今までここにいたよね、お兄ちゃん?」
「いたよ」
欠伸を噛みしめ、彼は歩き出す。
「え? えええ?! 何時の間に?!」
「何時って、右足が動いた時だよ。見えなかったのか?」
彼の言葉に、マユは大きく頷いた。
なんだよ、それと彼は口の中で言葉を転がす。
「ビームよりは遅いんだから、反応しろって。そんなんじゃ、パイロットなんてやれないだろうが」
「いやいや生身でビームと同速度ってなに?!」
驚いている妹に、彼は呆れた顔を向けた。
この馬鹿は何を言っているのやら。帝国を見渡せば、ビーム程度の速度で動けるパイロットは五万といる。
もっと怖い化け物とか、時間停止しかけてくる魔王みたいな骸骨とか。
ブルッと体が震えてしまう。
「とにかく、止めろよな。無意識に反応して、また『家を半壊させたくない』からな」
「あ、うん、そうだね。でもお兄ちゃん、私も訓練しないと」
「後で付き合ってやるよ。今日、ティスが戻ってくる予定だから」
彼の言葉の中の単語に、マユは悲鳴を上げるのでした。
「えええ?! ティスちゃん戻ってくるの?! その前にお兄ちゃん私と機動兵器で模擬戦を!!」
「何でだよ? おまえが専用機で俺が量産機って、何のハンデなんだか」
階段を下りて居間に辿り着き、そのまま通り抜けて台所へ。
冷蔵庫の扉を開けて、牛乳を取り出す。
「お兄ちゃんは、『准将』。私は少尉。ハンデは必要だと思うけど?」
「それ、部隊所属だからだろうが。現場について指揮権で揉めないように、仮で貰っているだけだって」
仮だ。それに決まっている。
ルルーシュとか、ヤン・ウェンリーとか。提督で名高い戦略家に色々と叩きこまれたり、スザクとか刹那とかに機動兵器戦をもまれたり。
部隊の運用や艦隊運用まで叩きこまれたが、絶対に仮の階級だ。
「でも、『神帝』の一番弟子だよね?」
思わず口に含んだ牛乳を吐きだしそうになった。
一番の原因があったか。
思い返せば、あの頃の自分は何故にあの人に弟子入りしたのか。
後悔はしてない。悔やんでもいない。ただ、もう少し言い方があったのではないだろうか。
「俺は一番弟子って名乗れるほど、強くないよ」
「お兄ちゃんは強いよ。だって・・・・・」
その時、マユに言われた一言で、彼―シン・アスカはさらに落ち込むことになる。
決してなりたくてなったわけじゃない、字だから。
政庁の地下二階にあるのは、『ヴィルティラス』専用の格納庫。
バッタ達が飛び交い、研修に来ている整備員が走りまわり、二十メートルの人型の巨人が並ぶ中を、少女が歩く。
金色の瞳、藤色の髪は肩口より少しだけ長く、毛先に軽くウェーブがかかっている。
服装は淡い蒼色のワンピースに、大きな赤いリボン。
年の頃、八歳くらいの女の子が、特殊部隊の格納庫を歩いているのを、誰も咎めようとしない。
一歩一歩と歩き、少しだけ行ってはまた戻ってくる。
少女が歩いている場所の後ろには、一機の兵器が立っていた。
赤い翼を持つ、白と青の装飾の機体。
帝国の中でも特殊な方法で製造され、厳選されたパイロットのみに与えられる特殊機体。
『マテリアル』の内の一機、『デスティニー・イレイザー』。
名前は意味を持ち、そのものを示すと信じている帝国において、その機体はこう訳されている。
『運命を選びとるもの』と。
「ティス!」
名前を呼ばれ、少女は足を止めて、華のような笑顔を浮かべて振り返る。
「シン!! 戻ったよ!」
パッと走り出し、彼に飛びついた彼女は、ギュッと抱きついた後に首をかしげた。
「あれ、ちょっとメンタルが落ちてる?」
「妹に襲撃された」
「おお、さすがシンの妹。猪突猛進だ」
「止めてくれ」
ティスを床におろし、機体を見上げる。
「状況は?」
「問題なし。バッタ達もルリ様も『異常なし』って。バビロン様とオラクル様には『いい感じに使っているね』って褒められた」
エッヘンと胸を張る少女の頭を撫でてやりながら、シンは愛機を見つめていた。
青と白、まるで光と海、あるいは氷。
カメラアイのところに赤い装飾があるので、まるで燃えるように見える。
だからこその自分の字か。
「哀愁?」
「あ、ごめん。とりあえず、試運転の許可は貰ったから」
「了解♪」
クルリと一回転したティスが、幻のように消える。
同時にデスティニーの瞳に光が灯り、右手がゆっくりと降りてくる。
「じゃ、行くぞ。ティス」
『はい、我が主シン・アスカ』
巨大な人型兵器から、少女の声が響き渡る。
『マテリアル』は、兵器として致命的な欠点を抱える、戦略級兵器。
彼女達はパイロットの『魂』に従う。
心でも倫理でもなく、魂に。周りのルールも、パイロットの状況も関係ない。従うべき主が、本当に望んだことを叶えようとする。
決して裏切ることなく、ただそれだけを追い求める。
嘘や偽りで誤魔化しても、『マテリアル』は誤魔化されず。
そして、その結論として『マテリアル』は自意識を持ち、それが外側へと具現化してパイロットの傍に寄り添う。
テラの『スノーホワイト』も、『マリア』と呼ばれる自意識が存在するらしいが、シンは会ったことはない。
けれど、時々、とても暖かい視線を感じることはある。
「さっさと済ませるか。マユの奴、専用機と専用武器を持ち出したらしいけど」
『うわぉ、本気だ。じゃ、私も頑張るよ』
「ほどほどにな」
帝国の専用機と『マテリアル』がぶつかったら、半径二十キロは消えるのではないだろうか。
シンは少しだけ予想して、怖くなって忘れることにした。
その後、訓練後にアスカ兄妹は始末書の提出と、宰相によるありがたいお説教を受けることになった。
あいつの話だったな。
あいつは有名だろう。
『
色々な言われ方をしている。
最も、有名な奴はこうだろうな。
シン・アスカの本気を前にした奴は、その燃えるような瞳で睨みつけられ、凍ったように止められて、砕かれる。
だからあいつは、『凍焔の鬼神』と呼ばれている。
ほら、知っていたじゃないか。
なら迂闊に触れるなよ。
じゃないと、おまえの魂ごと『凍らされて燃やされる』ぞ。
テラさんと一緒に色々なところを廻ったことがある。
銀河の果て、地面の最奥。
ドラゴンの巣の中を単独で踏破ってのもあったな。
けど、異世界ってなんだよ。
俺が何をしたって言うんだよ。
あ、でもこの世界にテラさんがいないなら、俺の苦労はないか。
よし、ティス、休暇だ。