始めたものは終わらせないと。
そんな喜劇の蛇足の終わりになります。
思い返すことがあれば、それは昔のことかもしれない。
あの時、初めてテラ・エーテルに会った時のこと。
自分の運命を決めた瞬間のこと。
今更になるかもしれないが、シン・アスカは思い出していた。
一夏が追い付いてきた。ようやくこの世界に来た、あの時はまだまだ弱かった相手は予想外に強くなっていた。
「一撃、貰ったなぁ」
左手に視線を向けると、あの時の感触が思い出される。
全身全霊を一刀に込めた一撃。回避も防御も貫いて届けられた刃に、思わず息をのんだ。
一夏はここまで強くなった。
あの頃と比べたら遥かに次元が違うほど、強くなっていた。
自分も強くなったと思う。前に比べたら出来ることも、決意も、その能力も高くなっていたのに。
どうしても、『強くなった』と思えない自分に、シンは苦笑してしまう。結果を求めること、結論が出ることではないのに、答えを知りたく足掻くのは昔から変わっていない。
だから、試したくなった。自分がいま、何処にいるのかを確認したくて。
「どうした、シン?」
「師匠、ちょっと俺と『殺し合い』しませんか?」
気楽な何時もと変わらない顔をしたテラは、その言葉に驚いたように目を開いて、そして小さく笑った。
「そっかそっか、ようやくか、『凍焔の鬼神』?」
「ええ、今から俺はあんたを倒す、『神帝』」
剣を手に取る。決意を前に、意思を胸に、そして目指すべき理想を見据えて。
シン・アスカは真っ直ぐに歩きだした。
「師匠、俺と初めて会った時のこと、覚えてますか?」
「当たり前だろ。おまえに会った時さ、思ったんだよ」
「何をですか?」
「ようやく俺を殺せる騎士が見つかったってな」
世間話をするような雰囲気で、彼は自分を『殺せ』と告げた。自殺願望かと顔を見れば、穏やかに笑っている。
ああ、そうかとシンは思った。殺せとか倒せといっていた彼は、自殺願望があったわけでもなく、死にたいと叫んでいたわけでもない。
ただ、自分と並べる誰かを見つけたかっただけだ。孤高の存在、最強であり絶対。それは誰もが思い描くもので、理想の姿かもしれない。
けれど、とても退屈で虚しいものでしかない。
死力を尽くして競える相手がいる、歯をくいしばってでも勝ちたいと思える存在がいる。壁があって、それを越えようとするから、人は前に進める。誰も勝てない世界で一人だけ強者でいるなんて、それは生きているとは言わない。それはただ、夢を見ているような停滞でしかないから。
「クルーゼさんや、色々な人が願ったことを『今から果たします』よ」
「やれるのか、お前に?」
「もちろん、俺は貴方の一番弟子であり、『神帝殺し』の『凍焔の鬼神』ですから」
はっきりと告げ、シンは剣を振り上げた。
「なら、来いよ。俺に『初めての敗北』を味あわせろ!」
「ああ!!」
そして、周囲を轟音が蹂躙した。
時が流れる。日々が変わることなく流れ、年が明けて、新しい年がきて、やがてまた年が明ける。
誰もが穏やかに暮らし、日々の苦悩を噛みしめながらも、前に進む。
多数が未来を選ぶ国家、民主主義の国が消えて、そんな長い時間が流れた。
『ジョーカー銀河帝国』、宇宙のすべてを支配するに至った巨大な国は、今やその年数は三世紀を数える。
帝国主義、皇帝至上主義、けれど誰もが自分の意見を言える国。自分らしくありたい、泣いている人を助けたい、そんなお人よしばかりが集まってつくられた国は、その理念を損なうことなく、今も宇宙に君臨している。
歴代の皇帝は、誰もが素晴らしいくらいの『馬鹿』であった。
中でも、初代の皇帝は『愛される暴君』と呼ばれている。
困った時には必ず隣にいる、何かトラブルにはそこにいて解決してくれる。何処にでもいて、何処にでもいない、嘘のような話だが、初代の皇帝はそんな人だったらしい。
二代目は、『暗君』と呼ばれている。
彼は初代のように何処にでも行くことはなく、帝都にいて多くのことを語ったという。弱かったという話はない、彼は初代のような巨大な力を持ちながらも、理想を語り、夢を描き、明日を願っていた。
何度も、何万回でも目指すべき自分の理想を語る。綺麗で美しい夢物語のようなものを、何度も何千回でも。人々の記憶に残るくらいに。
だからこそ、『暗君』。彼は周りを見ていなかったわけでもない、彼は周りを見ながらも理想を語り続けた。
自分が思い描くものを、誰もが身近に感じられるように。
『我らの誇りの暗君』。いつしか彼はそう呼ばれるようになった。誰もが眼を閉じても思い出せる、何度も語られた理想が常に自分の心にある。それは彼が初代とは違う結果を残した証。
常に見守ってくれる初代ではない、常に心の中で支えてくれる二代目として人々の心にあり続けた。
そしてどちらも、人々が迷った時に、道しるべを示した。道に迷い嘆いた時には、常にその視線の先にいて、背中を見せてくれていた。
ここにいるから、おまえも来い。その背中はそう語っていた、だからこそ誰もが迷わずに真っ直ぐに自分の道を歩けた。
だからこそ、彼は多くの人に愛され、我らの誇りを呼ばれている。
『俺はここにいる、どんな時でもここにいる。だから迷うな、真っ直ぐに歩けばいいんだ』
二代目皇帝陛下は、そう言ってほほ笑んでいたという。
そう、かつて『凍焔の鬼神』と呼ばれたシン・アスカ皇帝陛下は、人々の心の中で今も語り続けている。
おまえの理想を忘れず、おまえの夢を描いて、そして自分の道を歩け、と。
書きたい話は多いけれど、書けるような技量がない。
シン・アスカに対しての思い入れも、彼が主人公として活躍するのに楽しんでいる自分がいますが、けれど始まった物語は、何処かで終わりを迎えるものだから。
だから、ありがとう、シン・アスカ。
おかげで久しぶりに楽しい時間でした。
「そっか、頑張ったな」
ですから次は別の世界ね!
「またかよ、もう止めろよな」
さあ、次は何処で何をしてもらおうかな。
ということで、終幕とさせていただきます。
読んでいただき、ありがとうございました。おかげさまで、サルスベリは楽しい時間を過ごせました。
もし皆様が、この作品を読んだことによって、少しでも楽しめたなら、これはサルスベリにとって幸いでございます。
では、いずれの舞台でお会いしましょう。